#4.
⼤動脈解離の病態 ⼤動脈は3層構造で、内膜に⻲裂が⼊り、中膜が裂けていく 2. 正常の⼤動脈に起きるのではなく、⻑い時間かけて中膜が変性を起 こしていて「⼤動脈解離の準備」をしていると⾔われている 1. 3. そこに「⾎⾏⼒学的ストレス」が発⽣し、⼤動脈解離を引き起こす 【ちょっとマニアックな話】 ⼤動脈壁を栄養するVasa vasorumという⼤動脈壁内⾎管から出⾎し、entryがないのに偽腔のような所⾒が確認されるこ とがある。 壁内⾎腫(intramural hematoma; IMH)と呼ばれていて、偽腔閉塞している⼤動脈解離との判別は困難である。 →近年、欧⽶では偽腔閉塞型解離のことをIMHと表現することが多くなり、⾔葉の定義が変わってきている
#5.
⼤動脈解離の疫学 u ⼈⼝10万⼈あたり年間10⼈ u 発症年齢は60〜70歳にピーク u u 発症時期は気温と反⽐例 圧倒的に冬季に多い 発⽣時間は6〜12時が最多 男性は⼥性の2倍の発⽣率 u 男性は50歳から発⽣頻度増加 ⼥性は60歳から増加 u u A型急性⼤動脈解離は1時間に1%死亡率上昇(48時間で約50%) u B型急性⼤動脈解離の保存療法による死亡率は10%未満
#6.
⼤動脈解離になりやすい併存疾患 1. 先天性疾患(Marfan症候群、⼆尖弁など) 2. ⾼⾎圧 3. 閉塞型睡眠時無呼吸症候群 4. 真性⼤動脈瘤 5. 炎症性⼤動脈疾患 6. ステロイド内服 7. 動脈硬化 8. 妊娠 9. 多発性腎嚢胞 (⼤動脈解離の70〜80%) (近年注⽬ ⼤動脈解離の13%に併存) (⼤動脈解離の24%に併存) など
#7.
急性⼤動脈解離の診断 ガイドラインにみる急性⼤動脈解離の症状 ガイドラインにみる急性⼤動脈解離の検査所⾒ 1. 突然発症の激烈な胸背部痛、胸内苦悶 1. 胸部Xp 縦隔の拡⼤ 2. ショックバイタル 2. 胸⽔ 3. 異常⾼⾎圧 3. ⼼電図異常 4. 意識障害・下肢⿇痺 4. WBC/CRPの上昇 5. 腹痛 5. 貧⾎ 6. 腰痛 6. Dダイマー上昇 7. 移動性疼痛 8. ⾎圧の左右差、上下肢の⾎圧差 9. 脈拍の⽋損 など… など… いっぱいありますね… 特異所⾒に乏しい疾患です。迷ったら早くCT撮って︕
#8.
急性⼤動脈解離の診断 内科レジデントの皆様が⼤好きな「⾎圧の左右差」、「レントゲンで縦隔拡⼤」ですが… ⾎圧の左右差 ⾎圧の左右差は⼤動脈解離の半分以下 脈の⽋損は10⼈に1⼈程度 ⼤動脈解離の20%は胸部レントゲン異常がない いずれも感度が⾼いとは⾔いにくい… ⾝体所⾒や⼀般検査で急性⼤動脈解離の診断は難しいのです(ご存知だとは思いますが…) だからこそ︕⼤事なことなので何度でも⾔います 迷ったら早くCT撮って︕︕
#9.
急性⼤動脈解離の分類 ①時間による分類 〜48h 〜2 week 超急性期 急性期 2 week〜3 month 亜急性期 3 month 慢性期 急性期の中で、特に48時間以内は特に「超急性期」と定義されている 急性期が終わる2週間が過ぎれば、解離を起こした⾎管がある程度安 定すると考えられている
#10.
急性⼤動脈解離の分類 ②解離形態による分類 Stanford分類︔基本︕でも、定義が曖昧になっているDrも珍しくない ⼀番多いのは「B型解離は下⾏⼤動脈以下に限局している」という勘違い︕ A型解離 entryの位置に関わらず、上⾏⼤動脈が解離 B型解離 A型以外の⼤動脈解離 A B ⼸部に解離があっても上⾏になかったら、B型解離です︕
#11.
急性⼤動脈解離の分類〜DeBakey分類について DeBakey分類 決して煩雑ではないが、Stanford分類に⽐べると若⼲ややこしい それに加えて、⼸部⼤動脈以降から逆⾏性に拡がってきた解離が 分類不能になっている I II IIIa IIIb Stanford分類だけでいいんじゃないの…︖覚える意味あんの︖ 〜⼼臓⾎管外科専⾨医のつぶやき 古典的分類ではありますが、術式決定や予後判定に有⽤なのです。論⽂書く時とか、⼼臓⾎管外科医同 ⼠の会話では前提知識として必須です。 そして…かなり個⼈的な意⾒になりますが…「ドベーキ」の名前を⼤動脈分野から消すわけにはいかな い。このスライドを読んでいただいてる皆様には、⼀⼿間いただいて、是⾮とも覚えて欲しい。
#12.
Michael DeBakey(1909-2008) 「⼤動脈外科の⽗」 ⼈⼯⾎管の開発、上⾏⼸部置換術などの術式開発、 ⼤動脈解離の分類 etc… Cooley, Crawford, Coseli, Safiら「great surgeon」を多 数育て上げた教育者でもある ⾃⾝も⼤動脈解離に倒れるが、弟⼦の⼿術により助けられる 回診で「この患者はA型急性⼤動脈解離で緊急⼿術を⾏なった」と プレゼンした研修医に対し、「DeBakey分類で⾔い直せ︕」と ベッドから起き上がったとの伝説も… 筆者が最も尊敬している外科医の1⼈なのです…
#13.
急性⼤動脈解離の分類 ③偽腔の状態による分類 偽腔開存型 偽腔への⾎流の⼊り⼝であるentryの他に、真腔へ の⾎流の出⼝となるre-entryが⼀つもしくは複数あ るタイプ 外周がほぼ外膜(薄いです︕)のみとなり、破裂・ 出⾎のリスクが⾼く、予後不良とされる
#14.
急性⼤動脈解離の分類 ③偽腔の状態による分類 偽腔閉塞型 偽腔への⾎流の⼊り⼝であるentryのみで、出⼝がな いため偽腔内で⾎栓化が進んでいる 偽腔内圧が中枢側に向かうことから、⼼タンポナー デが多いとされている
#15.
急性⼤動脈解離の分類 ③偽腔の状態による分類 ULP型 (Ulcer Like Projection) 造影剤が偽腔内にちょっとだけ⼊り込んでいて、 「まるで潰瘍のよう」に⾒える ULPは偽腔開存型なのか︖偽腔閉塞型なのか︖いろ いろ議論がなされたが、偽腔開存型に近いとして 取り扱われている 発症2週間以内に⼀度でもULPの画像が確認された ら、ULP型に分類される
#16.
急性⼤動脈解離の分類 ④分枝灌流異常(malperfusion)の観点から⾒た重症度分類 ペンシルベニア分類(Penn Classfication) Aa Ab Ac Abc Malperfusionなし Malperfusionあり 血行動態破綻(shock, CPA etc.)による全般性虚血 Ab+Ac 結局のところ「malperfusionがあると予後が悪い」ことを説明するための分類です 臨床で実際に使ってる⼈は少ないです…
#17.
Malperfusionについて 上︓dynamic obstruction ⼤動脈レベルの真腔圧排が原因 下︓static obstruction 分枝レベルの真腔圧排が原因 A型急性⼤動脈解離の30%はMalperfusionを合併 Malperfusion合併すると⼿術死亡は倍になる
#18.
急性⼤動脈解離の初期対応(A型B型問わず) 緊急⼿術が必要とされるA型急性⼤動脈解離は1時間に1%死亡率上昇(48時間で約50%) →急性⼤動脈解離は⼀刻を争う疾患だが、1秒を争うわけではない。まずは落ち着く (ただし、これはタンポナーデ、malperfusion、破裂を合併ていない場合です) ⾎⾏動態は安定している︖意識は正常︖痛みは続いている︖ ⽬標収縮期 ⾎圧100~120mmHg とにかく降圧︕降圧︕降圧︕ 疼痛コントロールは必須︕ HRのコントロール 60/min以下を⽬標に (B型⼤動脈解離ガイドラインより参照 A型の術前管理も同様に⾏うことが多い)
#19.
急性⼤動脈解離の初期対応の実際 極めて個⼈的なやり⽅です あくまで⼀つの参考として読んでください ⾎圧コントロールについて ⾎圧のコントロールはペルジピンをメインに⾏う(β遮断薬だけで下げるのは基本的に無理です) たくさん使うことが多いので、最初から5Aくらい吸って、原液のままシリンジポンプに繋いでおく 最初に2-3ccフラッシュし、2-5cc/hくらいで始める事が多い(⾎圧や体型、C T上の動脈硬化の程度、 飲んでいる降圧剤の種類などを⾒⽐べながら⼤雑把に決めています。⾎圧安定するまでベッドサイド で⾎圧計と睨めっこしてください︕) ペルジピンはMax 10cc/hくらいを⽬処とし、それ以上必要ならニトロプルシドの併⽤を検討する (静脈拡げて前負荷を取るニトロプルシドと、動脈拡げて後負荷を取るニカルジピンを併⽤すると、 ストンと⾎圧が下がることがあります。投与直後は特に注意︕) ニトロプルシドが必要なくらい⾎圧コントロール不良なら、早めのCV確保をした⽅がいいかも
#20.
急性⼤動脈解離の初期対応の実際 脈拍のコントロールについて 脈拍のコントロールはβ遮断薬、特にオノアクトが便利だが、⾼⾎圧緊急症に適応がない →ジルチアゼムを使う(⼼機能に注意してください︕) 実際のところ、HR<60まで⼀気に下げるのは難しい事が多い まずはHR<80程度を⽬安にして、⾎圧・疼痛コントロールを優先させてからゆっくり下げる 疼痛コントロールについて アセトアミノフェン、NSAIDs、ペンタゾシンを併⽤しながらしっかり疼痛を取る (ガイドライン上で推奨されているモルヒネは、気分不良→嘔吐→⾎圧上昇となることがちょ くちょくあったので、筆者は最近あまり使っていません)
#21.
⼼臓外科医へのコンサルトのコツ 「⾼⾎圧と⾼脂⾎症に対して内服加療を⾏っておられる、70代男性の⽅です。胸背部を主訴に救急要請をされました。来院 時意識レベルは清明で、⾎圧は右上肢は150で左上肢は160と左右差はありません。⼼電図で明らかなST変化は認めませんで した。採⾎でWBCの上昇はありましたが、⼼筋酵素の逸脱なく、Dダイマーは経度上昇を認めるのみです。尿検査では尿潜 ⾎陰性でした。⾎胸部レントゲンで縦隔の拡⼤は認めておりません。単純CTを施⾏したところ、⼤動脈内膜⽯灰化の内⽅偏 位を認めたため、造影CTを追加で⾏なったところ、上⾏⼤動脈から腎動脈分岐部に渡る偽腔開存型⼤動脈解離を認め、A型 ⼤動脈解離の診断となりました…」 と⾔ったプレゼン、好まない外科医が多いと思います(※個⼈の感想です) ⼤事なのは、 ①オペが要るのか要らないのか ②どのくらいの緊急性なのか(タンポナーデ、破裂の有無など超緊急か否か) です 遠慮は要りません︕「A型解離です︕⾎圧は安定していますが、⼼嚢液貯留してて、 緊急⼿術が必要だと思います︕」と、要件から先に⾔っちゃってください︕
#22.
緊急オペが要るのか要らないのか u 原則として Stanford A型; 緊急⼿術 Stanford B型; 保存的加療 A型で保存療法を⾏う場合 B型で緊急⼿術が必要な場合 があります なのですが…
#23.
保存的に⾒てもいいA型解離 Stanford A型⾎栓閉塞型急性⼤動脈解離 ①⼤動脈閉鎖不全症がない ②⼼タンポナーデがない ③上⾏⼤動脈にULPがない ④上⾏⼤動脈径が50mm未満 ⑤偽腔径が11mm未満 の場合、 初期の内科的治療が可能 ※決して「⼿術をしてはいけない」というわけではないことに注意︕ 実際に保存療法を選択したとしても、かなりストレスな管理になります。 ⼿術の⽅が安⼼できる、と⾔う⼼臓外科医も少なくありません。
#24.
緊急⼿術が必要なB型解離 B型解離はなんでも保存療法、ではありません ①破裂 切迫破裂 ②Malperfusion(分枝灌流異常) を合併している場合は緊急⼿術が原則必要です いずれの場合も、近年は⾎管内治療にて対応することが多くなっています。
#25.
最後に ⽇本の⼤動脈解離の死亡率は、実は欧⽶の半分くらいです 我々⼼臓⾎管外科医が毎⽇体張って頑張っている結果です︕ …と⾔いたいのですが… 実際は、救急現場で闘っているDrが的確・迅速に診断してくれることが 最⼤の原因だと思っています ⼈⼝あたりのCT普及率は、2位のオーストラリアの倍あるとされている ⽇本だからこそ、早期発⾒→救命につながっていると思われます 何が⾔いたいかと申しますと しつこいですが 迷ったらCT撮れ︕︕︕ってことです