#4.
⼤動脈瘤の定義 ⼤動脈瘤とはなんぞや︖ 「大動脈の壁の一部が、全周性、また は局所性に(径)拡大または突出した 状態」を大動脈瘤といいます 動脈瘤は動脈の正常径の1.5倍と定義されている 胸部大動脈 30mm、腹部大動脈 20mmが概ね正常径 →胸部大動脈瘤 45mm〜、腹部大動脈瘤 30mm〜 それ未満は瘤状拡張と呼ぶ
#5.
瘤壁構造による分類 真性動脈瘤 仮性動脈瘤 解離性動脈瘤 動脈壁の構造そのまま に拡大 血管に穴が空いて、周囲組織 に押さえ込まれている状態 慢性期なら、真性動脈瘤と 同様に扱う 注意!「仮性動脈瘤」は、「動脈瘤」の名前に引っ張られたらいけません! 破れてます!出血してます!!
#6.
瘤の形態による分類 紡錘状瘤 大動脈壁が全周性に拡張 (ぼうすいじょうりゅう) 嚢状瘤 (のうじょうりゅう) 大動脈壁の一部が拡張 →破裂の危険高い 大きさによらず手術適応となることが多い 実は厳密な紡錘状と嚢状の線引きは決まっていません 読影した医者の判断で決まります
#7.
瘤の位置による分類 まずは横隔膜の上下で胸部と腹部、 横隔膜を跨ぐ胸腹部に分類されます 大動脈からの分枝を、中枢から書くと 胸部 横隔膜 腹部 胸腹部 冠動脈→腕頭動脈→左総頚動脈→左鎖骨 下動脈→(気管支動脈・食道動脈・肋間動 脈)→腹腔動脈→上腸間膜動脈→左右腎 動脈→(精巣・卵巣動脈)→下腸間膜動脈 →総腸骨動脈となります ※()内に囲われた動脈は図には書き込んでいません
#8.
CTにおける⼤動脈瘤の計測⽅法 最大短径法 矢状断で大動脈の短径を計測し、短径の 最大の数値を大動脈径として用いる center line法 画像を3D構築して、大動脈の中心線に 直交する断面での瘤径を計測する center line法がより正確 可能な限り3D画像で計測することが大事
#9.
瘤径から見た大動脈瘤の手術適応 上行〜弓部大動脈 最大短径55mm以上 腹部大動脈瘤 男性55mm以上 女性50mm以上 胸部下行大動脈 胸腹部大動脈瘤 60mm以上
#10.
瘤径以外の手術適応 嚢状瘤 急速拡大 先天的疾患 どのくらい突出した瘤が危険なのか、正確な知見はない 紡錘状と比較し、早期の手術が望ましい 5mm/半年以上のスピードで拡大 マルファン症候群、ロイス・ディーツ症候群などの合併例は より小さな大動脈径での手術を検討しなくてはならない 切迫破裂 痛みを伴う 血管周囲の毛羽立ちなど 診断は極めて困難! その他、有症状の大動脈瘤 瘤により腸管が押されてイレウス症状 反回神経が引き伸ばされて嗄声など
#11.
大動脈瘤の手術について 大動脈瘤はほとんどの場合、無症状です つまり大動脈瘤の手術は「予防の手術」なのです しかし一方で手術のリスクは非常に高い 外科医のジレンマがここにあります 診断は気合い入れてやらないと、ですね!
#12.
内科フォロー 禁煙指導 脂質管理 血圧管理 手術適応まで到達しな い程度の大動脈瘤は外 来でフォローしてください 内科的フォローは図の示 す三本柱がメインとなり ます
#13.
禁煙指導 最優先事項! 喫煙量に依存して大動脈瘤の発生率が上昇することが知られて いる (胸部・腹部のいずれも!) 特に男性では腹部大動脈瘤と喫煙に強い相関があるとされている 加えて、喫煙することで周術期合併症のリスクも上がる 大動脈瘤患者を見つけたら、まずは禁煙させること!
#14.
血圧管理 降圧目標は収縮期血圧で105〜120mmHgとされてきたが、低血圧のリスクを考慮すると 130/80mmHg未満が妥当なラインと考えられている 胸部大動脈瘤 βblockerが第一選択 ACE阻害薬、ARBも瘤の拡大速度を遅くする可能性がある 腹部大動脈瘤 βblockerは瘤拡大速度を下げないだけでなく、患者のQOLを下げるとされている 併存疾患がないのであれば、他の降圧剤(筆者の第一選択はCa blocker)から開始
#15.
脂質管理 スタチンは瘤拡大を抑制する可能性があるとされている スタチンは、死亡率や合併症発症率が低下させ、手術回避率を向上させる 管理目標は年齢によって違う 〜75歳 強化スタチン療法 LDL-C値を50%以下まで下げる 75歳〜 強化/中強度スタチン療法 LDL-C値を30以下まで下げる
#16.
外来フォローのインターバル 45mm未満 1年後にCT 胸部大動脈瘤 45-55mm 3-6ヶ月ごとにCT 55mm-手術を検討 30-40mm 1-2年ごとのCT 腹部大動脈瘤 40-50mm 6-12ヶ月ごとのCT 50-55mm 3-6ヶ月ごとのCT
#17.
⼤動脈瘤の薬剤治療 外科的治療が大原則であった大動脈治療でしたが、2024年、ついに内科的治 療の臨床研究が始まりました 『トリカプリン』 ラットの実験では腹部大動脈瘤を縮小させたとの報告があります この臨床研究が、どういう結果になるのか現時点ではまだ分かりませんが… もし本当に有効であれば、歴史的快挙であると共に外科医淘汰の可能性も…
#18.
外科的治療 従来から行われている手法 人工血管置換術 侵襲が大きい反面、遠隔期の効果 も確認されている 血管内治療 ステントグラフト内挿術 侵襲が小さい反面、エンドリークなどの 原因で瘤系拡大が止まらないことも・・・
#19.
人工血管置換術 「血管の壊れている部分を取り替える」ただそれだけの手術です 壊れた土管を入れ替える工事と同じです。 つまり大動脈外科医とは、あの国民的スーパースターである、🍄が好きな 赤と緑の双子と同じ、配管工な訳です!
#20.
大動脈手術の歴史 血管手術の幕開けはフランスの天才外科医Alexis Carrelによってなされました Carrelの3点固定法 血管の3ヵ所に糸をかけ引っ張ることで、円 形を三角形にする 三角形の辺同士を合わせると、直線同士を 縫い合わせる形で吻合できる 血管を吻合することができる様になり、臓器移植が可能となりました 3点固定法を開発したことでCarrelは1912年、ノーベル医学賞を受賞しています
#21.
大動脈手術がなぜ難しいのか 「太い血管を縫うだけ」のはずの大動脈手術 がなぜ難しいのか?理由はちゃんとあります ①大動脈は身体の深い位置にあるから視野出しが大変 ②血管を取り外す際に血流を止める必要がある 特にこの②「血流を止める」に関して、大動脈外科医の苦悩と挑戦の歴 史があります
#22.
弓部大動脈瘤 弓部大動脈瘤を切開し、人工血管置 換術を行う際には、どうしても脳血流 を停止させる必要が出てくる どうやって脳を虚血から守るのか 実は…日本は脳保護について世界 をリードしていました
#23.
超低体温循環停止 超低体温循環停止 体温を18℃まで下げると脳は 30分くらいの虚血に耐えれるようになります。 人工心肺を用いて体温を下げ、「えいや!」で大動 脈に切り込み、大急ぎで血管吻合を行います。 シビアな時間制限に加え、低体温にすると人間は感 染に弱くなるわ、凝固狂って血が止まらなくなるわ… 術中も術後も、かなり大変になってしまいます…
#24.
逆行性脳灌流 後に名古屋大学の教授になられる、上田裕一先 生は、若かりし日に「上大静脈に入っている脱血 管から逆に送血すれば、ある程度脳の灌流がで きるのでは?」とコペルニクス的発想を持って、逆 行性脳灌流を開発しました。(1990年) それにより、50%の死亡率であった弓部大動脈の 手術は、実に10%程度まで改善されることになり ます。今でも世界的に使用されている脳保護法と なっています。
#25.
選択的脳灌流 近年は、弓部三分枝に直接突っ込めるカニューレを 用い、順行性に脳血流を維持する「選択的脳灌流」 が主流となっています。 こちらは浜松医大教授であられた数井暉久先生が 臨床レベルに確立させたことで知られています。 カニューレを挿入する際の空気混入を防ぐため、一 時的に逆行性脳灌流を併用するなど、さらなる安全 を求め、各施設で様々な工夫がなされています。
#26.
ステントグラフト内挿術 ステントグラフト内挿術の第一例目はウクライナ人医 師であるNicolai L. Volodos医師が1988年に報告 しています。 デカい創を必要とするopen surgeryと比較し、極め て低侵襲に手術を完遂することができます。 一方で、解剖学的適応に制限が強いこと、遠隔期 に瘤拡大することも結構あったりすることなどがあり、 適応をしっかりと見極める必要があります。
#27.
ステントグラフトの工夫 例えば、ステントグラフトを留置することで左鎖骨下動 脈が閉塞してしまうとしましょう チムニー法:煙突の様に細いステントグラフトをメイン のステントグラフトの脇から挿入する デブランチ法:閉塞する動脈にバイパスすることで血 流を維持する などがあります ステントグラフト手術は、創意工夫に溢れています!
#28.
最後に u 無症状ゆえに、CTなどの画像検査の際に、いき なり遭遇することの多い大動脈瘤ですが、ガイド ラインもしっかりしていて、実は治療方針は立て やすいです u 一方で手術は決して簡単ではなく、外科医がど ういうことに悩みながら治療を行っているのか? 少しでも伝われば幸いです…