テキスト全文
非運動症状マネジメントの重要性と対象者
#1. 非運動症状マネジメントで パーキンソン病を 総合的に治療しよう ばりすた☕脳神経内科医
#2. このスライドを作った人 ばりすた☕脳神経内科医 脳神経内科専門医 総合病院勤務 Twitter:@bar1star 分かりやすい医療情報発信 フォロワー3万7000人↑ コーヒーインストラクター検定2級(そんなに凄くない)
#3. このスライドの対象 01 03 初期研修医 積極的に病棟管理をしたい、 神経に興味のある研修医に 神経が専門じゃない内科医 神経は専門じゃない でも常勤に脳神経内科医は居ない そう、私がやるしかない! な人に 02 内科専攻医 神経が得意でも苦手でも、 専攻医としてパーキンソン病の マネジメントを学びたい人に
非運動症状の背景と治療法
#4. このスライドで伝えたいこと 01 03 背景 なぜ非運動症状マネジメントが 大切なのか 便秘 食物繊維・水分・運動を軸に 刺激性下剤の使い過ぎに注意 RLS:むずむず脚症候群 RBD:REM睡眠行動障害 02 04 睡眠障害 不眠症、RLS、RBD、うつ 病態に適した治療を 排尿症状 過活動膀胱には抗コリン薬、 β3刺激薬を考慮
#6. パーキンソン病は 全身病 振戦、固縮、運動緩慢、 姿勢保持障害などの 運動症状だけに困っているわけではない うつや便秘などの非運動症状は、 全身・多岐にわたる 運動症状より先に生じていることがある 非運動症状をいかに改善できるかが、 パーキンソン病診療の鍵!
睡眠障害の種類と治療アプローチ
#7. 多彩な非運動症状 今回はココのお話 睡眠障害 排尿・排便障害 うつ 性機能障害 認知機能障害 起立性低血圧 など・・・
#8. 非運動症状はずっと前からある 前駆期 進行期 早期 精神異常 障害の程度 症状の日内変動 ジスキネジア 運動緩慢 筋強剛 振戦 便秘 REM睡眠行動障害 -20 -10 日中過眠 嗅覚障害 うつ 0 期間(年) 嚥下障害 姿勢保持障害 すくみ足 転倒 運動症状 非運動症状 疼痛 疲労 軽度認知障害 10 合併症 20
#10. 睡眠障害にも色々ある • 一般的な「不眠」 • 背景にうつ • 日中過眠 • むずむず脚症候群(RLS) • REM睡眠行動障害(RBD)
パーキンソン病特有のうつ症状と治療
#11. 不眠の一般的な注意点 • 入眠障害?中途覚醒? • 日中の活動量アップ、日中の日光、 夜の消灯で概日リズム形成を • うつの背景は? • SASの確認 → 適応あればCPAP • 睡眠薬のエビデンスは乏しいが、 非BZDの使用が無難 SAS:睡眠時無呼吸症候群 BZD:ベンゾジアゼピン系薬剤
#12. 運動症状もチェック • 日中の活動量低下・抑うつ → Undertreatment? • 寝返り困難・夜間の手足の痛み → Wearing off? 抗パーキンソン病薬の調整が必要! Undertreatment:病状に対して抗パーキンソン病薬が不十分なこと Wearing off:進行期に複数回のL-dopaを服用しても効果の切れ目が出現すること
#13. PD特有のうつの特徴がある • 疾患受容や、病勢進行に対する反応性うつ → 丁寧な説明による病状理解が重要 • アンへドニア、不安、アパシーが多い • 罪業感、自己非難、自殺念慮は少ない PD:パーキンソン病 アンへドニア:ポジティブな感情・快楽の消失 アパシー:無気力・無関心
#14. うつには抗うつ薬を考慮 • 活動量低下、Undertreatment 、Wearing off なら、 抗パーキンソン病薬の調整 • 抗うつ薬はTCA、SSRI、SNRIを考慮 患者さんの特徴に合わせて漢方を 使うこともありますが、テーラーメイド的 (悪く言うと汎用性が極めて低い)です。 TCA:三環系抗うつ薬 SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
REM睡眠行動障害(RBD)の理解と対策
#15. 日中過眠はアゴニスト減量を • ドパミンアゴニスト(レキップ®、ミラペックス®、 ニュープロパッチ®など)が日中過眠を引き起こすことがある • アゴニスト使用中の日中過眠では減量を考慮 • モダフィニル(保険適用外)も有効とされる • DLBは意識の変動が大きいので、 日中寝ているように見えることもある (劇的な改善は難しい) DLB:Lewy小体型認知症 減量後の運動症状悪化に注意!
#16. むずむず脚症候群(RLS) • 夕方~夜の脚の不快感、動かさないと気がおさまらない • アゴニスト、ガバペンチン、プレガバリン(保険適用外) の効果が証明されている • ただし「PDに合併したRLS」の治療のエビデンスは乏しい • クロナゼパムも有効 PD:パーキンソン病 特発性RBDに比べて、 必要なクロナゼパムの量が 多いかもという話があります。
#17. REM睡眠行動障害(RBD) • REM睡眠中の夢内容に一致した行動をとってしまう (強盗から逃げる夢を見て実際に走り出してしまう etc.) • 特発性RBDから神経変性疾患への移行リスクは、 5年で17.7%、10年で40.6%、12年で52.4% • RBDを有するPDは認知症発症リスクが高い PD:パーキンソン病
#18. RBDの治療 • クロナゼパム0.5mg~2.0mgが経験的に有効(保険適用外) • リバスチグミン・メマンチンも有効の報告(保険適用外) • ただし「PDに合併したRBD」の治療のエビデンスは乏しい 仮にRBDが起きてしまっても ケガに繋がらないように、 寝具周りの整頓やクッションの 整備をするのも良いでしょう。 PD:パーキンソン病 RBD:REM睡眠行動障害
便秘の病理と治療法の考察
#19. 不眠の対処のまとめ • うつ、日中過眠、RLS、RBDなどの有無を確認する • 患者の「不眠」の解像度を高く理解し、適切な薬剤を • Undertreatmentなら抗パーキンソン病薬の調整 • 日中の活動による概日リズム形成を促す • 睡眠薬は非BZDが無難 RLS:むずむず脚症候群 RBD:REM睡眠行動障害 BZD:ベンゾジアゼピン系薬剤
#21. 腸の病理が先行している • 便秘はPDの約7割に見られる • PDの運動症状発症の10-20年前から便秘が先行する • 腸のLewy小体病理は脳に先行するという報告も 神経筋疾患に伴う便秘から、 イレウスや直腸潰瘍を起こすことがあります。 脳神経内科医は排便コントロールの大切さを 身をもって知っています。
#22. 便秘の治療は緩下剤を軸に • 十分な運動、水分と食物繊維の摂取を促す • それでもだめなら酸化Mgなどの緩下剤 • 次にモサプリド、六君子湯、大建中湯などで蠕動を促進 • センノサイドなどの刺激性下剤は使い過ぎに注意 • 新規便秘薬は、エビデンス少ないが刺激性下剤よりは良さそう
排尿症状の特徴と治療戦略
#24. PDでは過活動膀胱が多い • PDの排尿症状は27-64% • 夜間頻尿60%以上、尿意切迫感33-54%、日中頻尿16-36% • 膀胱抑制的に働く基底核の機能低下、前頭葉機能低下が原因? • 男性は前立腺肥大症の合併の確認が必要 睡眠障害が主体で、トイレはついでに 行くだけというパターンもあるので注意! PD:パーキンソン病
#25. PDの排尿症状の治療 • 骨盤底筋群の筋力増強 • OABにはバップフォー®・ウリトス®(抗コリン薬の中でも認知 機能障害の懸念が少ない)、ベタニス®を考慮 • 次点でSSRI、SNRIを検討 • 中途覚醒が主な場合は睡眠障害の治療 • 尿閉になるような排尿障害はMSAの鑑別を PD:パーキンソン病 OAB:過活動膀胱 SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬 SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 MSA:多系統萎縮症
#26. 全体のまとめ • 非運動症状は多彩で、長期にわたり、QOLの低下をきたす • 睡眠障害の解像度を高め、病態に合わせた治療を • 下剤は緩下剤を中心にして、刺激性下剤は極力控える • 過活動膀胱に対しては抗コリン薬やβ3刺激薬を考慮
参考文献と今後の展望
#27. 参考文献 • パーキンソン病診療ガイドライン2018 • Lorraine V Kalia, et al. Parkinson’s disease. Lancet 2015; 386: 896-912 • Postuma RB, et al. Qualifying the risk of neurodegenerative disease in idiopathic REM sleep behavior disorder. Neurology 2009; 72: 1296-1300 • 北村ら. パーキンソン病と抑うつ. 精神経誌 2013; 115: 1135-1141 • 村田ら. パーキンソン病とうつ. 日老医誌 2013; 50: 752-754 • 榊原隆次. レヴィー小体型便秘とパーキンソン病. 自律神経 2020; 57: 176-180 • 榊原隆次. 夜間頻尿:Parkinson病を中心に. 神経治療 2017; 34: 412-417