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健康診断で要精査 尿潜血の対応方法

投稿者プロフィール
湯浅駿

順天堂大学医学部附属順天堂医院

75,567

624

概要

新規に指摘された尿潜血に対しての対応方法をまとめました。

フローチャートに沿って対応することで

尿潜血で悩みがちな「泌尿器科と腎臓内科のどちらに紹介すればいいのか問題」を解決できます。

尿潜血診療の入り口としてぜひこのスライドを活用ください。

本スライドの対象者

研修医/専攻医

参考文献

  • 血尿診断ガイドライン2013

  • 「型」が身につく蛋白尿・血尿の診かた・考えかた

  • 誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活用術

  • ジェネラリストのための内科診断リファレンス

  • 考える技術 第3版

  • 米国家庭医療学会アルゴリズム

  • UpToDate:Etiology and evaluation of hematuria in adults (閲覧日:2022/05/22)

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テキスト全文

健康診断後の尿潜血の対応方法

#1.

健康診断で要精査 尿潜⾎の対応⽅法

#2.

はじめに 2 健康診断後の「尿潜⾎」を診察した際に、 ⽬標 専⾨科への紹介、適切な経過観察を ⾃信をもって⾏えるようになる

尿沈渣による血尿の精査フローチャート

#3.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

#4.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

#5.

初回検査 5 尿沈渣で⾎尿かどうかを判断する 健康診断で尿潜⾎陽性となり受診した場合、まず⾏う検査は尿沈渣である 「⾎尿」とは尿沈渣で⾚⾎球5個/HPF以上の状態と定義される *HPF (high power field)︓⾼倍率視野(400倍視野) なお本スライドでは健康診断で要精査となった場合を想定しており 顕微鏡的⾎尿かつ無症状であることを前提に解説を進める ⾁眼的⾎尿の対応は後述する

#6.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

尿沈渣陰性時の再検査とフォローアップ

#7.

尿沈渣陰性(⾚⾎球<5HPF)の場合 7 6週間後に尿沈渣を再検する 以下に健康診断で尿潜⾎陽性→尿沈渣陰性となる主な原因を⽰す ⼀時的に⾎液が混⼊した場合 偽陽性の場合 ・尿路感染症 ・ヘモグロビン尿 (⾎管内溶⾎など) ・⽉経 ・ミオグロビン尿 (横紋筋融解など) ・直前の運動 ・直前の泌尿器科的処置 など など

#8.

検査回数とフォロー間隔に関して ⽇ 本 腎 臓 学 会 1)、 ⽶ 国 家 庭 医 療 学 会 2)は 「尿沈渣は合計3回の陰性を確認すること」を推奨している 初回検査時と再検査時で合計2回は⾏うが、 無症状の患者にこれ以上検査を⾏うのは実際の現場では困難なことが多い しかしながら⼀部には尿路系悪性腫瘍や急速進⾏性⽷球体腎炎などの 重篤な疾患が含まれていることもある 後述の尿路系悪性腫瘍のリスクも踏まえた上で、 個々の患者に応じて検査回数やフォロー間隔を決定することが多い 1) ⼀般臨床医(プライマリケア)のための検尿の考え⽅・進め⽅. 飯野靖彦, 監. ⽇本腎臓学会「検尿の勧め」啓発委員会, 2003. 2) Sharp VJ, et al:Assessment of asymptomatic microscopic hematuria in adults. Am Fam Physician. 2013;88(11):747-54. 8

血尿精査フローチャートと腎臓内科への紹介

#9.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

#10.

尿沈渣陽性(⾚⾎球≧5HPF)の場合 10 ⽷球体性⾎尿の可能性を評価する 以下の⽷球体性⾎尿を⽰唆する所⾒があれば腎臓内科に紹介する ⽷球体性 ⾮⽷球体性 尿蛋⽩定性≧1+ 59% 27.6% 変形⾚⾎球(特に有棘⾚⾎球)>3% 83.3% 24.8% ⾚⾎球円柱 48.9% 0% 尿アルブミン/蛋⽩⽐(mg/mg) 0.73 0.41 Am J Kidney Dis. 2008 Aug;52(2):235-41. ・腎機能低下(eGFR<50)を伴う場合も⽷球体性⾎尿を考慮する ・尿アルブミン/蛋⽩⽐のカットオフを0.59mg/mgとすると感度97.3%、特異度100%となり鑑別に有⽤ *尿アルブミンは糖尿病性腎症以外は保険適⽤外であることに注意

尿路系悪性腫瘍のリスク因子と確認方法

#11.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

#12.

尿路系悪性腫瘍のリスク確認 12 1つ以上に当てはまれば泌尿器科紹介 尿路上⽪癌のリスク因⼦ [1つ以上に当てはまる→⾼リスク、当てはまらない→低リスク] □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □尿路感染の既往 □ シクロホスファミド治療歴 *⾎尿診断ガイドライン2013. ライフサイエンス出版, 2013. 「化学薬品暴露」の中でも芳⾹族アミン(ベンジンやβ-ナフタレンなど)が重要である 染料・顔料・ペンキ類を扱う職業のリスクが⾼いため、 職業歴(ペンキ、⾰、⾦属、製紙、ゴム⼯場など)を確認する *膀胱癌:患者さんの⼿引き、ESMO 診療ガイドラインに基づいた患者さん向け情報、⽇本癌治療学会

腎膀胱エコーと尿細胞診の検査特性

#13.

⾎尿精査フローチャート 健康診断で尿潜⾎ 尿沈渣 ⾚⾎球<5HPF 6週間後に尿沈渣再検 陽性 ⾚⾎球≧5HPF ⽷球体性⾎尿の可能性を評価 □ 尿蛋⽩定性≧1+ □ 変形⾚⾎球>3% □ ⾚⾎球円柱 陰性 □ 尿アルブミン/蛋⽩⽐>0.59 該当なし 尿路系悪性腫瘍のリスク確認 □ 男性 □ 40歳以上 □ 泌尿器科系疾患 □ 化学薬品暴露 □ 喫煙歴 □ ⾁眼的⾎尿 □ 排尿刺激症状 □尿路感染の既往 □ 鎮痛薬多⽤ □ ⾻盤放射線照射既往 □ シクロホスファミド治療歴 陰性 該当なし[低リスク] 腎膀胱エコー、尿細胞診 1つ以上該当 [⾼リスク] 陽性 1年以内に健康診断でフォロー 泌尿器科へ紹介 腎臓内科へ紹介 1つ以上該当

#14.

尿路系悪性腫瘍の低リスクの場合 14 腎膀胱エコー、尿細胞診を⾏う 腎膀胱エコー(腹部超⾳波検査) 尿細胞診 <メリット> <メリット> ・⾮侵襲的 ・⾮侵襲的 ・蓄尿時の検査で膀胱内の確認可能 ・特異度⾼い(98%) 膀胱癌の感度72%、特異度91%1) ・腫瘤性病変の有無、結⽯の有無、 ⾎管病変の有無などを評価可能 <デメリット> ・⼩さな尿路上⽪癌は診断困難 1)Clin Radiol. 2008 Dec;63(12):1317-25. 2)J Urol. 2008 Mar;179(3):862-7; discussion 867. 2) <デメリット> ・感度低い(38% ) 2) 膀胱癌以外の感度は更に低い ・⽇本と⽶国で推奨が異なる (次スライドで解説)

#15.

尿細胞診に関して 15 検査の特性を踏まえて使⽤する ⽇本︓推奨する ・尿路系悪性腫瘍が疑われたときは ⽶国︓推奨しない ・感度が低いため 初期から使⽤を推奨 ・顕微鏡的⾎尿で悪性腫瘍のリスク因⼦に 初期からのルーチンでの使⽤は推奨なし ・先にCT尿路造影検査など画像検査を⾏い 該当しない場合、腹部エコーと併せて 陰性であった場合に考慮 尿路系悪性腫瘍の除外にも使える ・検出率を上げるため複数回の実施を推奨 内科医が外来で⾮侵襲的に⾏える検査であるため、 筆者は特性(感度が低いなど)を踏まえつつ必要な症例に対して使⽤している

肉眼的血尿の重要性と疾患の見逃し

#16.

おまけ ・⾁眼的⾎尿 ・押さえておくべき疾患 IgA腎症 ⽷球体基底膜菲薄症候群 ナットクラッカー症候群 16

#17.

⾁眼的⾎尿 17 悪性腫瘍を⾒逃さないことが重要 ⾁眼的⾎尿では顕微鏡的⾎尿(5.4%)に⽐べて 悪性腫瘍のリスクが⾮常に⾼く(20.9%)、 中でも膀胱癌が圧倒的に多い リスクがある患者は積極的に泌尿器科へ紹介して 悪性腫瘍を⾒逃さないように意識する また⼀通り検査が正常でも3年に1%の割合で ⽷球体性⾎尿 10.3% 尿路感染 13.0% 尿管結⽯ 3.2% ⾁眼的⾎尿の 原因疾患 原因不明 52.5% 尿路系悪性腫瘍 20.9% 悪性疾患が⾒つかるとの報告があるため 3年間のフォローアップを⾏う *J rol. 1991 Feb;145(2):335-6. *J Urol. 2000 Feb;163(2):524-7.

IgA腎症と糸球体基底膜菲薄症候群の解説

#18.

Ig A 腎 症 18 透析患者の原疾患(2019年) ⽷球体にIgA優位の沈着がみられる腎炎 糖尿病性腎症 41.6% 腎硬化症 16.4% 慢性⽷球体腎炎は透析新規導⼊疾患の第3位であるが、 慢性⽷球体腎炎 14.9% IgA腎症は慢性⽷球体腎炎の中で約1/3を占め最も多い 予後 ︓不良、約20年で40%程度の症例が末期腎不全に進⾏ 有病率︓3.9-4.5⼈/10万⼈ *遠藤正之:IgA腎症の疫学・症候・予後. ⽇腎会誌2008;50(4):442-7. 症状 ︓無症状で健康診断で指摘(約70%) 上気道感染後の⾁眼的⾎尿で発⾒(約10%) *疾患活動性により⼀時的に⾎尿・蛋⽩尿が陰性化することがある →3回以上の検査が推奨されている理由 診断 ︓腎⽣検

#19.

⽷球体基底膜菲薄症候群 19 ・常染⾊体優性遺伝の予後良好な疾患、有病率5-9% ・⼀般的に顕微鏡的⾎尿(+)、⾁眼的⾎尿(­)、蛋⽩尿(­)、腎障害(­) ・IgA腎症が鑑別となるため家族歴のみで安易に診断するのではなく、 専⾨科の受診を得ての診断が望ましい ナットクラッカー症候群 ・左腎静脈が⼤動脈と上腸間膜動脈に圧迫されて圧が上昇 →⾎尿、蛋⽩尿、側腹部痛、精索静脈瘤などを⽣じる 上腸間膜動脈 ・診断︓早朝尿で尿潜⾎陰性、造影CT検査、腹部エコー ・治療︓⾃然治癒が多いため経過観察、稀に外科的治療 左腎静脈 ⼤動脈

血尿診断ガイドラインの概要と参考文献

#20.

『⾎尿診断ガイドライン2013』の記載を中⼼に 健康診断後の尿潜⾎の対応をまとめました。 ⽶国泌尿器科学会が2020年に公表した ⾎尿ガイドラインとの相違点もいくつか存在しますが、 混乱を避けるために今回は最⼩限を記載しました。 興味のある⽅は2つのガイドラインを読み⽐べてみて、 より学びを深めていただければと思います。 それぞれのセッティングで尿潜⾎の診療を⾏なうにあたり、 本スライドが参考になれば幸いです。

#21.

参考⽂献 21 ・⾎尿診断ガイドライン2013 ・「型」が⾝につく蛋⽩尿・⾎尿の診かた・考えかた ・誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活⽤術 ・ジェネラリストのための内科診断リファレンス ・考える技術 第3版 ・⽶国家庭医療学会アルゴリズム (Sharp VJ, et al:Assessment of asymptomatic microscopic hematuria in adults. Am Fam Physician. 2013;88(11):747-54. ) ・UpToDate︓Etiology and evaluation of hematuria in adults (閲覧⽇︓2022/05/22)

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