テキスト全文
#1. CPKが⾼い症例がきたら︖ MajorTY@膠原病内科(@Dr_MajorTY) ⽇本リウマチ学会専⾨医・指導医
#2. Take Home Message ü①CPK⾼値(>1000IU/L)は筋炎だけではないこともある︕ ü②甲状腺機能低下でも上がることがあるので注意しよう︕ (割とよくある紹介)
#3. CPKとは︖ üCPK(クレアチンホスホキナーゼ)は、⼼筋・⾻格筋などに分布する酵素で、 これらの筋の細胞障害を反映します. ü正常なCPKの基準範囲は、男性で40〜320IU/L、⼥性で25〜200IU/Lですが、 これは測定⽅法で異なることがあります. üCPK値は年齢、性別、筋⾁量に影響を受けます. 正常上限値(ULN) 男性 > ⼥性. 加齢で筋⾁量は減少するので、⾼齢者でCPK軽度上昇も筋⾁損傷を⽰唆. [George MD, et al. Medicine. 2016;95:e4344. ]
#4. CPKが上昇する原因は︖ 分類 運動, 損傷, ⾷事 薬剤 内分泌系 ⾃⼰免疫疾患 遺伝性筋疾患 原因 運動関連︓レジスタンス運動, 激しい運動 筋損傷︓痙攣, ⼿術, 挫滅症候群など含む外傷 アルコール過剰摂取 チアミン⽋乏 アドレナリン作動性刺激薬︓MDMA, コカイン, アンフェタミン 脂質低下薬︓スタチン (フィブラート製剤, CYP3A4阻害作⽤のある薬剤との相互作⽤) ⽪膚科領域︓レチノイド全⾝投与 抗がん剤︓BRAF阻害薬, PD-L1アンタゴニスト HIVの治療薬︓ヌクレオシドアナログ, リトナビルとの併⽤ 膠原病領域︓ヒドロキシクロロキン, コルヒチン 精神科領域(悪性⾼熱に関連するもの)︓クロザピン, オランザピンな ど抗精神病薬 重度の甲状腺機能低下(TSH > 100mIU/L) クッシング病 末端肥⼤症 副甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症(稀) 全⾝性エリテマトーデス 関節リウマチ リウマチ性多発筋痛症 セリアック病 ⽪膚筋炎 多発筋炎 その他筋炎(免疫介在性壊死性筋炎) ⾮代謝性筋障害(筋ジストロフィー) 代謝性筋障害(糖原病) ü左図のように, CPK上昇に 関連する状況・原因は多岐 にわたります. まずは以下の3つはチェック︕ ü① 運動負荷 ü② 薬剤の変化・追加 ü③ 甲状腺機能 [Kim EJ, et al. Bmj. 2021;373:n1486. を引⽤改変]
#5. CPK上昇を分類してみる ü1. CPK <500 IU/L (<4×ULN) ⇨ほとんどが運動やその他⼀過性の原因によるもの. ⾃然に消失することが多い. 無症候性なら経過観察. 運動歴・内服歴の病歴聴取. ü2. CPK 500-1000 IU/L (4-10×ULN) [Brancaccio P, et al. Brit Med Bull. 2007;81–82:209–30.] ⇨CPK上昇の⼆次的原因を検索(前スライド参照). 甲状腺機能低下症やスタチンなどの薬物療法が最も頻度は⾼い. [Baird MF, et al. J Nutrition Metabolism. 2012;2012:960363.] ü3. CPK >1000 IU/L (>10×ULN) 2と同様にCPK上昇の⼆次的原因を検索︕ ⇨腎障害(乏尿および/または急性腎障害)がある場合は、横紋筋融解症をチェック. CPK>5000IU/Lで腎機能正常なら、代謝性または遺伝性の可能性を検討することも. [Kim EJ, et al. Bmj. 2021;373:n1486.]
#6. ここで、事例紹介︕ 甲状腺評価は⾒逃しがち︕ ü[症例] 65歳 男性 ü[紹介理由] 2ヶ⽉前からCPK 1500 IU/Lの上昇(Max 2232 IU/L) ü[現病歴] 近医で⾼⾎圧、脂質異常症で通院していた. 2ヶ⽉前に近医採⾎でCPK 1563 IU/L指摘. 再検でも1822 IU/L、左股関節痛出現し近医整形外科に紹介. 股関 節MRIでは異常所⾒認めず、精査⽬的で当院リウマチ科に紹介. 薬剤の追加・変更は これまでなかった. ü[所⾒] 筋把握痛なし、MMT低下なし. ⽪膚筋炎を⽰唆する⽪疹なし. その他膠原病の 症状・所⾒認めず. 抗核抗体・筋炎関連抗体陰性. TSH 295mIU/L、F-T4< 0.04ng/dL. ü[経過] 内分泌科に紹介. 甲状腺機能ホルモン補充後、CPKは正常化した.
#7. ⽪膚筋炎・多発筋炎のCPK値は︖ üたいてい1000 IU/L以上、時には5000 IU/Lまで上昇することも. ü5-10%の症例では、正常であることがある. ①筋⾁が萎縮し破壊されて⼤量のCPKが放出されない. ②もしくは、筋膜に限局している場合. [Nozaki K, et al. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2009;80:904–8.] üCPK > 1000 IU/Lの症例の約半数が⽪膚・多発筋炎と診断. [Leverenz D, et al. Clinical Rheumatology. 2016;35:1541–1547]
#8. ⾮薬剤性・甲状腺機能低下のないCPK>1000IU/Lはどうする︖ 対称性に近位筋の筋⼒低下はある? ↓なし ⽪膚筋炎で⾒られる⽪疹は? ↓なし ü CPK > 1000 IU/Lのフローチャートを左図に SLEやSScや他の膠原病の症状や所⾒はある? (抗核抗体関連症状*) ↓なし 筋炎の可能性あり 乾性咳嗽, 呼吸困難は? 筋炎関連⾃⼰抗体測定 画像で間質性肺炎は? 筋電図・MRI・筋⽣検 ↓なし ⽰します. ü 無症状でもなかなかCPKが改善しない場合や、 "機械⼯の⼿"所⾒はある? ↓なし ⾮対称性の筋⼒低下, ⼤腿四頭筋優位に筋⼒低下, ⼿⾸・指の屈筋筋⼒低下は? (封⼊体性筋炎を⽰唆) ↓なし 筋炎の可能性はほぼなし *レイノー症状、関節炎、発熱、⽪疹など [Leverenz D, et al. Clinical Rheumatology. 2016;35:1541–1547を引⽤改変] CPKは軽度上昇でも筋症状が強い場合もリウ マチ専⾨医に紹介してもよいでしょう.
#9. ちなみにスタチンのCPK上昇について スタチン関連筋障害重症度 Grade 0 Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 フェノタイプ CPK軽度上昇 軽度の筋痛 重度の筋痛 軽度の筋障害 重度の筋障害 発⽣率 1-26% 0.20% 0.10% 0.05% 0.05% 症状 無症状 筋⾁痛 筋⾁痛 筋⾁痛 重度の筋⾁痛 CPK値 <500 <500 <500 500-1000 1000-5000 薬剤中⽌の経過 改善 改善 改善 改善 改善 Grade 5 横紋筋融解症 0.001-0.002% 5-10万⼈に1⼈ 重度の筋⾁痛 >5000 >1000+AKI 時に持続 ⾃⼰免疫性スタチン関連 100万⼈に1-2⼈ 壊死性筋炎 重度の持続性 筋⾁痛 >1000+HMGCR 抗体陽性 改善しない Grade 6 [Alfirevic A, et al. Clin Pharmacol Ther. 2014;96:470–6.を引⽤改変] üスタチンの副作⽤で横紋筋融解症やCPK上昇は有名なところですが、 発⽣率は2000⼈に1⼈から50000万に1⼈と思ったより低い. üロスバスタチン・アトルバスタチンは筋関連の有害事象の発⽣率は、 プラバスタチンより低いことが⽰されています. [Naci H, et al. Circulation Cardiovasc Qual Outcomes. 2018;6:390–9.]
#10. さいごに üCPKが上昇した、特に1000IU/Lを超える時の解説をしました. ü内服薬の関連は気にしやすいですが、甲状腺機能の評価は忘れがちで 盲点となる場合があります. ü甲状腺機能低下症の場合、倦怠感・易疲労感も出てくるので、CPK上 昇があると、筋⾁の異常だと勘違いしやすいと思われます.
#11. Take Home Message ü①CPK⾼値は筋炎だけではないこともある︕ ü②甲状腺機能低下でも上がることがあるので注意しよう︕ (割とよくある紹介)