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周術期におけるステロイドと免疫抑制剤の概要
#1. 周術期ってステロイド・免疫抑制剤どうする︖ MajorTY@膠原病内科(@Dr_MajorTY) ⽇本リウマチ学会専⾨医・指導医
#2. はじめに üリウマチ・膠原病疾患は、ステロイド・免疫抑制剤・⽣物学的製剤で、 疾患の鎮静化は達成できるようになり、⽣命予後は改善しました. üしかしながら、上記治療薬の使⽤は、周術期の⼿術侵襲ストレスへの反 応不良、⼿術部位感染と関連します.
ステロイドと抗リウマチ薬の種類と使用法
#3. 薬剤説明 üステロイド: 例︓プレドニソロン(PSL)、メチルプレドニゾロン(mPSL) ü疾患修飾性抗リウマチ薬︓DMARD ü従来型合成DMARD: csDMARD 例︓アザルフィジン、メトトレキサート、イグラチモドなど ü分⼦標的型合成DMARD: tsDMARD 例︓JAK阻害薬 ü⽣物学的製剤︓ biological DMARD (bDMARD)
#4. スライド内容について ü前半︓ 関節リウマチ治療︓ステロイド、抗リウマチ薬、⽣物学的製剤 整形外科的⼿術︓清潔⼿術 ü後半︓ 膠原病治療全般︓ステロイド、免疫抑制剤、関節リウマチ以外の⽣物学的製剤 整形外科的⼿術︓清潔⼿術
整形外科手術におけるステロイドの影響とリスク
#5. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 ステロイドは周術期合併症を増やすのか︖① 【⼿術部位感染(SSI)は増加するのか︖】 üステロイドは⼈⼯関節全置換術におけるSSIリスクを上昇させます. 全体オッズ⽐ 1.59 – 2.12 倍 <5mg/day: 1.21-1.90倍 5-10mg/day: 1.36-1.93倍 >10mg/day: 1.86-2.70倍 [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.]
#6. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 ステロイドは周術期合併症を増やすのか︖② 【術後死亡率は増やすのか︖】 üステロイドは術後死亡率を増加と関連します. オッズ⽐ 2.87倍 [1.12 – 7.34] [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.]
csDMARDとbDMARDの周術期合併症リスク
#7. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 csDMARDは周術期合併症を増やすか︖ 【⼿術部位感染(SSI)は増加するのか︖】 ü⼈⼯関節全置換術に限らず、MTXはSSIリスクを増やさない. その他csDMARDもSSIリスクは増やさないと思われます. [Global guidelines for the prevention of surgical site infection, 2nd ed. WHO. 2018.] 【ガイドラインでは︖】 ü整形外科周術期にMTXの休薬は推奨しない. その他csDMARDの休薬はしなくてもよいと思われます. [関節リウマチ診療ガイドライン2020. 診断と治療社. 2020]
#8. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 bDMARDは周術期合併症を増やすのか︖① 【⼿術部位感染(SSI)は増加するのか︖】 ü⼈⼯関節全置換術に限らず、bDMARDはSSIを上昇させます. オッズ⽐ 1.66 - 2.03 倍 [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.] [Pena M. et al. J Rheumatol. 2020;47:341-348.] 【ガイドラインでは︖】 ü整形外科⼿術の周術期にはbDMARDの休薬を推奨する. [関節リウマチ診療ガイドライン2020. 診断と治療社. 2020]
bDMARDの種類と周術期における影響
#9. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 bDMARDは周術期合併症を増やすのか︖② 【bDMARD間でリスクに違いはあるのか︖①】 ü関節リウマチは以下の3タイプがありますが薬剤間で差はありません. ①TNF阻害薬 例︓インフリキシマブ、アダリムマブなど ②IL-6受容体阻害薬 例︓トシリズマブ、サリルマブ ③T細胞選択的共刺激調節薬 アバタセプト [George MD. et al. Ann Intern Med. 2019;170:825-836.]
#10. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 bDMARDは周術期合併症を増やすか︖③ 【創傷治癒遅延は増やすのか︖】 übDMARDは創傷治癒遅延を増やすエビデンスは乏しいです. オッズ⽐ 1.25倍 [0.85– 1.84] [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.]
JAK阻害薬の周術期管理とリスク
#11. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 bDMARDは周術期合併症を増やすか︖④ 【術後死亡率は増やすのか︖】 übDMARDは術後死亡率を増やすエビデンスは乏しいです. オッズ⽐ 0.97倍 [0.44 – 2.17] [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.]
#12. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 JAK阻害薬は周術期合併症を増やすか︖ 【⼿術部位感染(SSI)は増加するのか︖】 üJAK阻害薬のデータは乏しく、bDMARDに準じた⽅が望ましいです. オッズ⽐ 1.66 - 2.03 倍 [Ito H. et al. Mod Rheumatol.2021. doi:10.1080/14397595.2021.1913824.] [Pena M. et al. J Rheumatol. 2020;47:341-348.] 【ガイドラインでは︖】 ü整形外科⼿術の周術期にはJAK阻害薬の休薬を推奨する. [関節リウマチ診療ガイドライン2020. 診断と治療社. 2020]
周術期におけるステロイドとDMARDの投与方針
#13. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖① 【ステロイド】基本的に術前までに最低限の投与量に減量. できれば0 外科的ストレス 局所⼿術 軽度 中等度 重度 術式 ⻭科⼿術 ⽣検 ⿏径ヘルニア修復 ⼿の⼿術 ⼤腸内視鏡 ⼦宮掻爬術 下肢⾎流再建術 ⼈⼯関節置換術 胆嚢摘出術 ⼤腸切除術 腹部⼦宮摘出術 ⾷道摘出術 開胸⼼臓⾎管⼿術 出産 外傷 肝静脈吻合術 直腸結腸切除術 膵頭⼗⼆指腸切除 術 肝切除術 下垂体腺腫摘出術 推定コルチゾール分泌量 8-10mg/⽇ 50mg/⽇ 75-150mg/⽇ 75-150mg/⽇ 推奨補充量 (HC: ハイドロコルチゾン) 常⽤量のみ 常⽤量に下記記追加 開始前にHC 50mg IV その後HC 25mg 8H毎 24H その後常⽤量に 常⽤量に下記追加 開始前にHC 50mg IV その後HC 25mg 8H毎 24H その後常⽤量に 常⽤量に下記追加 開始前にHC 100mg IV その後 HC 200mg/24H持続投与 もしくは、HC 50mg 8H毎 24H 24時間毎に補充量は常⽤量になるまで半分に減 量 [Seo KH. Anesthesia Pain Medicine. 2021;16:8–15.を引⽤改変] ü左記を参考に補充します.
#14. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖② MTX含むcsDMARD、bDMARD、tsDMARDの対応 csDMARD メトトレキサート(MTX) アザルフィジン その他DMARD (イグラチモド、ブシラミンなど) bDMARD アダリムマブ エタネルセプト ゴリムマブ セルトリズマブ インフリキシマブ アバタセプト トシリズマブ tsDMARD JAK阻害薬 投与期間 計画すべき⼿術時期 週⼀回 毎⽇ 毎⽇ 継続 継続 継続で良いだろう 2週に1回 週1回ないし2回 4週に1回 2週ないし4週に1回 48週に1回 4週に1回(点滴) 週1回(⽪下注) 4週に1回(点滴) 1週ないし2週に1回(⽪下注) 基本的に投与間隔+1週間後 最終投与の3週間後 最終投与の2週間後 最終投与の5週間後 最終投与の3週ないし5週間後 最終投与から投与間隔+1週間後 最終投与の5週間後 最終投与の2週間後 最終投与の5週間後 最終投与の2週ないし3週間後 毎⽇ 最終投与の(3-)i)7⽇後 ü左記を参考に調整 [Goodman SM, et al. Arthritis & Rheumatology.2017;69:1538–51.を引⽤改変] i) [Albrecht K, et al. Zeitschrift Für Rheumatologie. 2021. doi: 10.1007/s00393-021-01140-x.を引⽤改変]
#15. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖③ 緊急⼿術︖ ステロイドで現在 治療中︖ ⼿術までにできるだけ 減量. PSL10mg以上はhigh risk. 周術期通して DMARD継続. 参考フローチャート ⼿術は⾏う. csDMARDは継続. bDMARDは術後14⽇経過 してから再開検討. ü左記を参考に調整 DMARDで現在 治療中︖ 利益より不利益が勝る限りは bDMARDは⼿術まで間を空ける. 術後14⽇経過してからbDMARD は再開を検討. [George MD, Baker JF. Current opinion in rheumatology. 2019;31:300–6.を引⽤改変]
周術期のステロイド減量と免疫抑制剤の管理
#16. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖ まとめ üステロイド︓⼿術までには最低⽤量に減量. PSL5mg/⽇以下はステロイドカバーは不要とされていますが、投与量不明や 副腎不全のおそれがある場合はカバーを. üDMARD: ①csDMARD 基本的に継続可能. ただし合併症や術後の影響も含めて最終判断を. 経⼝可能となれば再開. ②bDMARD/tsDMARD: 術前には適切な期間を空ける. 術後14⽇経過して創部治癒 の状態をみて再開考慮.
#17. スライド内容について ü前半︓ 関節リウマチ治療︓ステロイド、抗リウマチ薬、⽣物学的製剤 整形外科的⼿術︓清潔⼿術 ü後半︓ 膠原病治療全般︓ステロイド、免疫抑制剤、関節リウマチ以外の⽣物学的製剤 整形外科的⼿術︓清潔⼿術
#18. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期はステロイドはどうするの︖ 【ステロイド】基本的に術前までに最低限の投与量に減量. できれば0 外科的ストレス 局所⼿術 軽度 中等度 重度 術式 ⻭科⼿術 ⽣検 ⿏径ヘルニア修復 ⼿の⼿術 ⼤腸内視鏡 ⼦宮掻爬術 下肢⾎流再建術 ⼈⼯関節置換術 胆嚢摘出術 ⼤腸切除術 腹部⼦宮摘出術 ⾷道摘出術 開胸⼼臓⾎管⼿術 出産 外傷 肝静脈吻合術 直腸結腸切除術 膵頭⼗⼆指腸切除 術 肝切除術 下垂体腺腫摘出術 推定コルチゾール分泌量 8-10mg/⽇ 50mg/⽇ 75-150mg/⽇ 75-150mg/⽇ 推奨補充量 (HC: ハイドロコルチゾン) 常⽤量のみ 常⽤量に下記記追加 開始前にHC 50mg IV その後HC 25mg 8H毎 24H その後常⽤量に 常⽤量に下記追加 開始前にHC 50mg IV その後HC 25mg 8H毎 24H その後常⽤量に 常⽤量に下記追加 開始前にHC 100mg IV その後 HC 200mg/24H持続投与 もしくは、HC 50mg 8H毎 24H 24時間毎に補充量は常⽤量になるまで半分に減 量 [Seo KH. Anesthesia Pain Medicine. 2021;16:8–15.を引⽤改変] ü膠原病もステロイドのリスク は同じと思われます. ü左記を参考に補充します.
免疫抑制剤と生物学的製剤の周術期対応
#19. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 免疫抑制剤は周術期合併症を増やすか︖ 【免疫抑制剤】アザチオプリン・ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン・タクロリムス ü重症度が⾼い膠原病(SLE含む) 合併症に関するデータは乏しいけど、臓器移植は中⽌せず⼿術でき ている. 免疫抑制剤は中⽌せず継続. ü重症度が⾼くない膠原病(SLE含む)︓再燃の可能性は低い症例. データは乏しい. でも膠原病の再燃より合併症の影響が⼤きいかも.. 術前(1-)i)7⽇前に中⽌します. [Goodman SM, et al. Arthritis & Rheumatology.2017;69:1538–51.を引⽤改変] [Vasavada K, et al. Curr Rev Musculoskelet Medicine. 2021;14:421–8.を引⽤改変] i) [Albrecht K, et al. Zeitschrift Für Rheumatologie. 2021. doi: 10.1007/s00393-021-01140-x.を引⽤改変]
#20. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 他の⽣物学的製剤は周術期合併症を増やすか︖ 投与期間 計画すべき⼿術時期 ⽣物学的製剤 リツキシマブ 1週間に1回 4回連続 最終投与の(4-)i)7ヶ⽉後 セクキヌマブ 4週間に1回 最終投与の5週間後 ウステキヌマブ 12週に1回 最終投与の13週間後 4週に1回(点滴) 最終投与の5週間後 ベリムマブ 週1回(⽪下注) 最終投与の2週間後 合成免疫調整薬 アプレミラスト 毎⽇ 継続可能だろう 【⽣物学的製剤】重症感染症リスクとの関連はあり. 【アプレミラスト】中⽌しなくてもよいかも. i) [Albrecht K, et al. Zeitschrift Für Rheumatologie. 2021. doi: 10.1007/s00393-021-01140-x..を引⽤改変] [Vasavada K, et al. Curr Rev Musculoskelet Medicine. 2021;14:421–8.を引⽤改変]
#21. 整形外科的⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖ まとめ üステロイド︓⼿術までには最低⽤量に減量. PSL5mg/⽇以下はステロイドカバーは不要とされていますが, 投与量不明や 副腎不全のおそれがある場合はカバーしたほうがよいでしょう. ü他の⽣物学的製剤: データは乏しいが、感染症リスクと関連はありそう. 術前には適切な期間を空けます. 術後14⽇経過して創部治癒の状態をみて再開考慮.
整形外科以外の手術における周術期管理のまとめ
#22. 整形外科以外の⼿術とリウマチ膠原病治療 周術期は結局どうするの︖ まとめ ü⼀般外科⼿術全般に配慮した周術期管理の⽬安はいまのところはありません. üしかし、清潔⼿術の整形外科⼿術の周術期管理対応は前述のとおりあります. これを参考として⼿術術式および個⼈の背景を鑑みて対応するしかないでしょう.
#23. Take Home Message ü①⼿術に際して最⼩限のステロイド投与にしよう︕ ü②免疫抑制剤は病態が許せば術前中⽌も考慮. ü③中⽌で膠原病の再燃リスク⾼いならば直前まで継続はしてもよい.