水痘　2020年8月

テキスト全文

• #1.

  水痘 ゆきあかり診療所管理者 小林聡史

• #2.

  なぜ水痘は「Chickenpox」なのか Chickenpox, Wikipedia 語源ははっきりしないが、幾つかの説が言われている 発疹がひよこ豆（chickpeas）と似ているから？ 鶏がくちばしでついばんだような皮疹だから？ 比較的軽症だから（chicken＝弱虫）？ 鶏から発生したと考えられたから？（＊実際の宿主は人間のみ）

• #3.

  概要

• #4.

  水痘帯状疱疹ウイルスの復習 Chickenpox, Dynamed IASR Vol. 37 p. 116-118: 2016年6月号 Chickenpox(Varicella), CDC ヘルペスウイルス科に属する。初感染後体内に潜伏し、免疫力低下時に回帰感染を起こす 宿主：人間のみ 感染様式：接触/飛沫/空気感染いずれもあり 非常に感染性が強い：基本再生産数（R0 ）8～10程度 皮疹発症の1-2日前から、全病変の痂皮化まで感染性があると言われている

• #5.

  発症者はほぼ10歳未満で冬～春に多い IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号 https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/787-disease-based/sa/varicella/idsc/iasr-topic/8223-462t.html Nat Rev Dis Primers. 2015 Jul 2;1:15016. 2014年の水痘ワクチン定期接種化以降、小児科定点医療機関での報告患者数は年間6-7万人にまで減少 任意接種は1987年から 10歳未満が9割以上を占めている 海外においてもほとんどが10歳未満 定期接種前は5歳未満が全体の8割弱だったのが、定期接種後は4割程度にまで減少 季節性：毎年12〜7月に多く、8〜11月には減少

• #6.

  IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号 https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/787-disease-based/sa/varicella/idsc/iasr-topic/8223-462t.html 特に5歳未満の 割合が激減 2014年10月 定期接種開始 →発症者激減

• #7.

  評価

• #8.

  潜伏期間は2週間、前駆症状はあったりなかったり Chickenpox(Varicella), CDC 水痘ワクチンに関するファクトシート（平成22年7月7日版）国立感染症研究所. 潜伏期間：平均14-16日（10-21日の幅がある） 特に成人症例において、前駆症状として発熱や倦怠感等が見られることがある（皮疹の1-2日前） 未接種例の70%程度が発熱あり 小児では前駆症状が見られないこともしばしば

• #9.

  様々なPhaseの痒い皮疹が出現 Chickenpox(Varicella), CDC https://www.cdc.gov/chickenpox/downloads/Breakthrough-Varicella-fact-sheet-508.pdf 内科で出会う見た目で探す皮膚疾患アトラス 掻痒性の皮疹 水疱がメインで斑状/丘疹性病変が混在 水疱は中央が陥凹していることが多い（中心臍窩） 1cm以下の皮疹で、癒合しない。色素沈着を残すこともある 皮疹の数は250-500個 4-7日続いて、痂皮化していく

• #10.

  Clinical features of varicella-zoster virus infection: Chickenpox, UpToDateより画像引用 紅斑 丘疹 中心臍窩を伴う水疱 痂皮化初期

• #11.

  分布について Nat Rev Dis Primers. 2015 Jul 2; 1: 15016. Chickenpox(Varicella), CDC 内科で出会う見た目で探す皮膚疾患アトラス HAPPY！こどものみかた 第2版 今日の臨床サポート, 水痘 水痘帯状疱疹ウイルスは 口腔咽頭（扁桃腺）でT細胞に感染して増殖し、皮膚や他の臓器にウイルスを拡散させる ↓ 顔面→体幹部→四肢へと広がる 頭皮に出現した場合は特異度が高い 手掌や足底に 出現することは稀 特に胸背部に 目立つことが多い 粘膜疹が 出現することもある

• #12.

  ワクチン接種例は軽症になりやすい～Breakthrough Varicella Chickenpox(Varicella), CDC https://www.cdc.gov/chickenpox/downloads/Breakthrough-Varicella-fact-sheet-508.pdf ワクチン接種後42日以上経過した症例が水痘帯状疱疹ウイルスに感染した場合に「Breakthrough varicella」と呼ぶ ただし、1回以上ワクチン接種した症例でも25-30%は未接種例と似たようなプレゼンテーションを呈する 症状が総じて軽症のため診断が難しい 皮疹の数＜50未満 水疱が少なかったり、全く見られないことも 発熱もあっても微熱程度 罹病期間がより短い

• #13.

  重症例：成人の方が重症化しやすい 水痘ワクチンに関するファクトシート（平成22年7月7日版）国立感染症研究所. 年齢別の重症化する割合 1～14 歳： 10 万人当り約 1 例 15～19 歳： 10 万人当り2.7 例 30～49 歳： 10 万人当り25.2 例 400人に1人が入院を要する 小児：肺炎、気管支炎、熱性痙攣、細菌感染症などが多い 成人：水痘そのものが重症化 ワクチン未接種の罹患者100万人中20人が死亡 神経合併症が発症すると、20%は死亡または後遺症残存

• #14.

  合併症 Chickenpox(Varicella), CDC 皮膚軟部組織感染症（小児では最多の合併症） 肺炎（成人では最多の合併症） 中枢神経系合併症（小脳性運動失調、脳炎など） 出血症状 感染症：敗血症、Toxic shock syndrome、壊死性筋膜炎、骨髄炎、細菌性関節炎 先天性水痘症候群、新生児水痘

• #15.

  先天性水痘症候群/新生児水痘について 水痘ワクチンに関するファクトシート（平成22年7月7日版）国立感染症研究所. 妊娠20週以前の妊婦が罹患した場合、2%程度の頻度で障害が出現 四肢低形成、瘢痕性皮膚炎、眼球異常、精神発達遅滞など 出産間際や直後に妊産婦が罹患した場合、新生児が重篤な水痘を発症しやすい（約30%が死亡）

• #16.

  臨床診断困難なら検査を検討 PCR：最も正確 Tznack試験：ヘルペスウイルス感染の確認が可能 迅速抗原テスト：デルマクイック®

• #17.

  治療

• #18.

  基本は対症療法 Chickenpox, Dynamed 症状に応じて対症療法 ハイリスク例の場合、抗ウイルス薬を考慮

• #19.

  ハイリスク例 Chickenpox(Varicella), CDC Chickenpox, Dynamed 12歳以上の症例 慢性的な皮膚や肺の障害 長期的にサリチル酸治療を受けている 短期的なステロイド内服や、間欠的なステロイド内服、または吸入ステロイド使用 妊娠 新生児 免疫不全

• #20.

  抗ウイルス薬は症状短縮効果あり Chickenpox, Dynamed 健康な小児において、発熱の期間を1日ほど短縮するかもしれない 免疫不全の小児において、皮膚症状を減らすかもしれない 思春期以降の症例において、発熱や皮膚症状の期間を減らすかもしれない 合併症予防効果に関しては記載見つけられず

• #21.

  予防

• #22.

  小児に対する麻疹風疹ムンプス水痘ワクチン Cochrane Database Syst Rev 2020 Apr 20;(4):CD004407 Patient 9か月から15歳までの小児 リサーチクエスチョン Intervention MMRワクチン＋水痘ワクチン（V） Comparison MMRワクチン Outcome 水痘発症率 Type of study システマティックレビュー 小児に対する麻疹・風疹・ムンプス・水痘それぞれのワクチンによる予防効果は？ ＊水痘ワクチンの部分だけピックアップ 研究デザインではMMRVワクチンも含まれていたが、日本では未認可 解析はMMRVとMMR+Vで別個になされているため、MMRVの部分は割愛 （＊MMRも未認可）

• #23.

  結果 Cochrane Database Syst Rev 2020 Apr 20;(4):CD004407 重症度問わず、10年間フォロー、2回接種での水痘発症率 含まれたStudyは1つのRCTのみで、参加者は3010人 水痘発症を62-71％減らすという結果 23 重症度が中等症～重度の場合や、5年フォロー、5~10年フォローの場合など細かく場合分けがありましたが、そちらも割愛

• #24.

  批判的吟味 Cochrane Database Syst Rev 2020 Apr 20;(4):CD004407 網羅性：MEDLINE/EMBASE/CENTRAL等を用いて、出版状況や言語に関係なく研究を集めている。しかし、「それぞれの比較において研究数が限られていたため、出版バイアスの評価ができなかった」と記載あり。 Risk of bias：the Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions ( Higgins 2011 )を用いて評価。 異質性：上記同様「研究数が限られていたため評価ができなかった」と。

• #25.

  暴露後予防 Post-exposure Varicella Vaccination Information for Healthcare Providers, CDC 罹患歴や予防接種歴がなく水痘や帯状疱疹に曝露した場合、暴露後3-5日以内にワクチンを接種することで発症や重症化を予防できるかもしれない。 1歳未満は恐らく保険適応外 5日以上経過したとしても、将来の暴露リスクに備えてワクチンは接種すべき。

• #26.

  まとめ

• #27.

  水痘患者の多くは10歳未満。 日本では特に2014年の定期接種以降、水痘患者は減っている。 典型的には、前駆症状の後、口腔粘膜から広がるようなイメージで皮疹が全身に出現する。 特に妊婦や新生児などハイリスク例に注意。