テキスト全文
気管支拡張症の紹介と背景
#2. 読んでみると・・・ 80代の女性
遠方の専門病院から通院困難のため、今後のフォロー依頼
病名は「気管支拡張症」「高血圧」「認知症」など
肺炎を繰り返しており、数か月前にも入院歴あり
処方内容は「クラリス200mg1錠分1」など多数→毎日飲んでいるようだ。
気管支拡張症の定義と特徴
#3. マクロライド・・・ 確かに副鼻腔炎とか気管支拡張症とかで
マクロライド長期投与って時々見るけど
実際どうなんだろう?
副作用や耐性菌も気になるし・・・ 3
#4. 気管支拡張症 Bronchiectasis ゆきあかり診療所管理者
小林聡史
#6. 定義 6 persistent or progressive suppurative lung disease characterized by irreversibly dilated bronchi and chronic or recurrent bronchial inflammation and infection
持続性/進行性の化膿性肺疾患で不可逆的な気管支拡張と慢性/再発性の気管支の炎症/感染症を特徴とする疾患 Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
気管支拡張症の疫学と原因
#7. 7 慢性炎症による気管支壁肥厚と拡張 病気がみえる vol.4 呼吸器
#9. 疫学~さほど頻度は多くない 9 高齢化や画像診断の進歩に伴い診断数は増加傾向であり正確な有病率は不明
有病率139/人口10万対
米国での2009-2013の後ろ向きコホート
高齢者の女性に多い
80-84歳がピーク
男性に比べてOdds ratioが1.36(1.32-1.40)→約6割が女性 Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
Am J Respir Crit Care Med. 2013 Sep 15;188(6):647-56.
#10. 原因 10 Clin Chest Med. 2012 Jun;33(2):219-31.より作成 結核、NTM、肺炎など HIV、リンパ腫など 関節リウマチ、嚢胞性線維症、COPDなど
気管支拡張症の症状と診断
#12. 症状 慢性咳嗽、膿性痰
呼吸困難、血痰
胸痛(胸膜性のこともある)
喘鳴
鼻副鼻腔炎
倦怠感
*無症状のこともある=Dry type(症候性はWet type) Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
#13. レントゲンで注意すべき所見 多くの気管支拡張症症例では異常像を示す
異常所見(単独で確定診断はできない)
線状無気肺
気管支の肥厚・拡張
不整な末梢陰影(粘液栓を示唆) Clinical manifestations and diagnosis of bronchiectasis in adults, UpToDate, last updated Sep 20, 2019.
#14. 14 正常なレントゲン像 Clinical manifestations and diagnosis of bronchiectasis in adults, UpToDate, last updated Sep 20, 2019.
気管支拡張症のCT所見と検査
#15. 異常所見 Clinical manifestations and diagnosis of bronchiectasis in adults, UpToDate, last updated Sep 20, 2019. 気管支壁の
肥厚と拡張
#20. その他の検査 肺機能検査:閉塞性障害パターンを取ることが多い
気管支拡張症のマネジメントと治療法
#21. 気管支拡張症と診断したら・・・
原因検索も忘れずに
#22. 原因(再掲) 22 Clin Chest Med. 2012 Jun;33(2):219-31.より作成 結核、NTM、肺炎など HIV、リンパ腫など 関節リウマチ、嚢胞性線維症、COPDなど
#24. 非薬物療法~気道クリアランス法 イギリス胸部学会(BTS)では、全ての気管支拡張症患者に気道クリアランス法を指導すべきとしている(BTS Grade D)
具体的な手技は、セラピストに指導してもらうべき Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
抗生剤の長期投与に関する研究
#25. 薬物療法~抗生剤 急性増悪時に短期的に抗生剤を使用
急性増悪を年3回以上繰り消す場合、長期療法を考慮 Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
#26. 薬物療法~その他PC医が試しやすいもの 排痰困難:去痰薬を考慮(ヨーロッパ呼吸器学会、Weak recommendation)
重度の息切れ:気管支拡張薬トライアルを考慮(イギリス胸部学会、Grade D) Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
#27. 専門医紹介のタイミング 若年症例
原因疾患がはっきりしない症例
コントロール不良の症例などで専門医紹介を考慮(イギリス胸部学会、Good practice point) Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
#29. 抗生剤長期投与に関するメタ解析 Patient 気管支拡張症で3か月以上喀痰排出がある症例 Intervention 4週間以上の抗生剤投与 プラセボまたは必要に応じて治療 Primary:急性増悪、入院
Secondary:耐性菌出現、副作用、SGRQスコア*など9つ 除外:研究参加前に抗生剤暴露、嚢胞性線維症、サルコイドーシス、ABPA Cochrane Database Syst Rev. 2015 Aug 13;(8):CD001392. *COPDにおけるQOL尺度
#30. 30 Cochrane Database Syst Rev. 2015 Aug 13;(8):CD001392. *副作用は有意差なし
抗生剤投与の効果と選択
#31. 論文の結論 長期的な抗生剤投与は、急性増悪や入院を優位に減らす。
ただし耐性菌も優位に増えることに注意が必要。
副作用に有意差はなし。
エビデンスの質は中程度。 31 Cochrane Database Syst Rev. 2015 Aug 13;(8):CD001392.
#32. おまけ:抗生剤長期投与に関するRCT Patient 気管支拡張症で前年に1回以上増悪発作がある症例 Intervention アジスロマイシン500mg/日を週3回、6か月間 プラセボを週3回、6か月間 6か月間の増悪の頻度、FEV1、SGRQスコア* Lancet. 2012 Aug 18;380(9842):660-7. *COPDにおけるQOL尺度
#33. 結果~増悪予防には効果的 AZM群の増悪頻度は71人中22人
プラセボ群の増悪頻度は70人中46人
RR=0.48(0.32-0.71)、NNT=2.9
FEV1やSGRQスコアは有意差なし Lancet. 2012 Aug 18;380(9842):660-7.
#34. 投与終了後半年しても
増悪予防効果が持続している Lancet. 2012 Aug 18;380(9842):660-7.
#35. 長期投与における抗菌薬の選択は? 肺炎球菌 or インフルエンザ桿菌(βラクタマーゼ陰性)
第一選択:アモキシシリン500mg1日2回
第二選択:クラリスロマイシン250mg1日2回
モラクセラ or インフルエンザ桿菌(βラクタマーゼ陽性)
第一選択:アモキシシリンクラブラン酸375mgタブレット1日3回
第二選択:クラリスロマイシン250mg1日2回
黄色ブドウ球菌(MSSA)
第一選択:Flucloxacillin500mg1日2回
第二選択:クラリスロマイシン250mg1日2回 Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
#36. 長期投与っていつまでやるの? no randomized trials found comparing continuous antibiotic therapy to intermittent antibiotic therapy with duration ≥ 3 months in adults or children with bronchiectasis
持続投与と3か月以上の間欠的投与を比較したRCTはない Bronchiectasis, Dynamed, last updated 13 Sep 2019
症例の経過と気管支拡張症のまとめ
#38. 症例その後 気管支拡張症の基礎疾患は不明であった。
気管支拡張症急性増悪の既往はないが、肺炎の既往は複数回あり、両者が厳密に区別されているかは紹介状からは読み取れなかった。年3回以上の既往はないものの、クラリスを継続投与することも考慮すべきと考えた。
一方で、採血をすると、症状はないものの前医と比較して低Na血症が軽度進行傾向にあり、クラリスによるSIADHの可能性も考えた(ただし、他にも被疑薬あり)。
すぐには投与を変更せず、経過をフォローしながら、本人家族と投薬についても相談していくこととした。
#40. 気管支拡張症まとめ 高齢女性に多く、さほど有病率は高くない。
特発性が最多だが、その他の原因についても検討が必要。
急性増悪を繰り返す症例には抗生剤投与が有効だが、はっきりした投与期間は決まっていない。