テキスト全文
思春期アトピー性皮膚炎の概要と重要性
#1. ⼩児科の⽬線から考える 思春期アトピー性⽪膚炎の治療戦略 どっと@⼩児科医
#2. はじめに 2 どっと@⼩児科医 です 今回は、コミュニケーションの⾯でも難渋しやすい 「⼩児科⽬線の思春期アトピー性⽪膚炎管理」 についてまとめます ー このスライドの主な対象者 ー ・初期研修医 ・⼩児科後期研修医 ・⽪膚科後期研修医
#3. Take Home Message Ø 思春期のアトピー性⽪膚炎は社会⽣活における疾病負荷が⼤きい Ø 思春期特有の課題には⼀⼈ひとりに合わせた個別対応が必要 Ø JAK阻害薬や⽣物学的製剤は難治例への選択肢として有⽤である
思春期アトピー性皮膚炎の問題点と社会的影響
#4. 4 1. 思春期アトピー性⽪膚炎の問題点 ・ 思春期とは ・思春期アトピー性⽪膚炎の管理はなぜ重要か ⽬次 ・思春期外来の悩み 2. 思春期アトピー性⽪膚炎の治療戦略 ・思春期の治療戦略 ・12歳以上から増える治療選択肢 ・<仮想症例提⽰>
#5. 思春期とは 5 親 離 れ ⾃ ⼰ 中 ⼼ 性 葛 藤 不 安 外 ⾒ 意 識 無 敵 の 感 覚 ⾃ ⼰ 同 ⼀ 性 第2次性徴が始まってから成熟した成⼈の⾝体になるまで 該当する年齢 8〜20 歳 *定義は複数あります ⾝体的な急激な変化だけでなく、⼼理的・社会的に⼤きく発達していく時期
#6. 思春期を⼀⾔で表現すると ・⼩児期と成⼈期の 狭間 にある 本⼈を中⼼にするべきだが、保護者の存在が良くも悪くもまだまだ⼤きい ・コミュニケーションが難しい ⾃らを語らない⽅も多く、保護者にも伝わっていないことが多い ・ 器質的疾患に関わらず、様々な ⾃覚症状を訴えることが多い 中⼭明⼦. ステップアップ思春期の診かた. ⾦芳堂. 2023 6
#7. 思春期アトピー性⽪膚炎の管理はなぜ重要か ü アトピー性⽪膚炎は 思春期に悪化 しやすい ü 湿疹による 疾病負荷が⼤きくなりやすい ü 将来的な 低⾝⻑や収⼊の低下 など重要な問題との 関係性が報告されている ü ⼼⾝状態の悪化は家庭や社会⽣活にも影響する 7
#8. 様々な社会的問題も指摘されている 低⾝⻑ ︖ 8 ・中等症および重症のアトピー性⽪膚炎を有する患者では、 ⾝⻑が25パーセンタイル未満 のリスクが有意に⾼い. → 主に睡眠障害による影響が⼤きいと考えられている. Silverberg Jl, et al. Association between eczema and stature in 9 US population-based studies. JAMA Dermatol. 2015;151(4):401-409 うつ︖ 進学 収⼊ ・⼩児期および思春期における重症アトピー性⽪膚炎は、 うつ症状 に関連している可能性がある. Kern C, et al. Association of Atopic Dermatitis and Mental Health Outcomes Across Childhood: A Longitudinal Cohort Study. JAMA Dermatol. 2021;157(10):1200-1208 ・重症アトピー性⽪膚炎は、⼤学進学率や成⼈期の収⼊ に 影響を与える可能性がある. Theodosiou G et al. Burden of Atopic Dermatitis in Swedish Adults: A Population-based Study. Acta Derm Venereol. 2019 Oct 1;99(11):964-970
思春期アトピー性皮膚炎管理の悩み
#9. 思春期アトピー性⽪膚炎管理の悩み(医療者) 関わりにくい(本⼈の理解⼒や感情が読みにくい) ⼩児量か成⼈量か、処⽅薬の扱いが難しい 年齢 によっても治療の選択肢が変わってくる そもそも⾝体の観察や診察が難しい 学校が忙しくて、なかなか本⼈が受診してくれない 学校や家庭とうまく⾏っていない⼦ も多い 9
#10. 思春期アトピー性⽪膚炎管理の悩み(患者) 10 受診したり、軟膏塗ったりする時間はない 今まで頑張ってもあんまり良くならなかった 痒いのも眠いのも普段どおり 軟膏はベタベタ・テカテカするから嫌だ ⾃分の悩みは誰も気にしてくれない 家族と⼀緒に⾏動(受診)するのは嫌だ
情報収集ツールとSNSの影響
#11. 情報収集ツールにも注意が必要 スマホを活⽤した情報収集のメリット・デメリット 10代の患者さんの多くはスマホを活⽤ *メリット *デメリット ・誰でも⼿軽に調べることができる ・情報の真偽を確認する⼒が必要 (情報リテラシー) ・多くの情報を得ることができる ・SNSで悩みを共有、相談できる ・SNS情報の多くは 個⼈の経験 や 反医療系マーケティング 対策は… ・適切な情報やWebメディアをプッシュ型で伝える ・気になる情報を⾒かけたら相談してほしいことを予め伝えておく 11
#12. SNSの現状(⼀例) YouTube 私の 脱ステ 体験談! Instagram 医者も知らない アトピーの原因 1年前の私と 12 TikTok アトピービジネス 解説します みんなはめられている 医療のワナ︕ 現役〇〇が解説 ステロイドが危ない 本当の理由 あの り ぱ やっ が原因! 食べ物 今の私 この化粧品 *最高* これだけで解決 アトピーの本当の治療︕︕ 〇〇を⾷べるべし アトピー完治 確かに情報を吟味すれば、有⽤な情報もありますが、 まだまだ危険な情報がかなりはびこっています・・・
AIと医療情報の活用法
#13. ChatGPTはどう︖ 13 ここ最近ではAIチャットボットの台頭が話題です ChatGPT に 思春期アトピー性⽪膚炎の治療 について聞いてみました *2023年3⽉時点 • ステロイド軟膏を使い、症状が落ち着いたら徐々に減量する。 • トピカル免疫抑制剤を使⽤する。 • 保湿剤をこまめに塗る。 • 睡眠やストレスの管理をする。 つくことにも注意が必要です… • 喫煙を避ける。 p ウンタカトントンについて教えてください • 痒みを感じたら掻かずに、軽くたたくようにする。 • 暑さや汗を避けるようにし、通気性の良い⾐服を着る。 p • ⾷事に注意し、アレルギーのある⾷品を避ける。 • 積極的に運動する。 「ウンタカトントン」は⽇本の総合診療科 医が提唱する、⾝体と⼼の調和を図るための 健康法です。 ウン(運動)、タカ(⾼温)、トン(⾳) という⾔葉の頭⽂字をとったもので、運動、 ⼊浴、⾳楽を活⽤することで体の健康と⼼の 安定を促すとされています。 ある程度正しい情報が得られますが、⼀部なんとも ⾔えない情報も含みます。場合によっては、⾷物の 過度な除去につながる恐れも︖︖ 適当に質問しても、それらしく平気で嘘を
#15. 15 1. 思春期アトピー性⽪膚炎の問題点 ・ 思春期とは ・思春期アトピー性⽪膚炎の管理はなぜ重要か ⽬次 ・思春期外来の悩み 2. 思春期アトピー性⽪膚炎の治療戦略 ・思春期の治療戦略 ・12歳以上から増える治療選択肢 ・<仮想症例提⽰>
基本的な治療戦略とゴール設定
#16. 基本的な治療戦略 ガイドラインに準じて 寛解導⼊ → 寛解の維持 → 治療のゴール Ø 指導はなるべく シンプル に Ø ゴールは明確にしつつ、現実的な着地点を本⼈と相談する Ø ⼩学校⼊学以降は徐々に 本⼈主体の管理 に移⾏ 16
#17. 指導はなるべくシンプルに 17 思春期は治療アドヒアランスは低いことが多い 複雑な指⽰ ⾯倒に感じやすい治療 特にアドヒアランスが低下しやすい → 本⼈と相談しながら、現実的に可能な⽅法を探る どうしても外⽤が難しい場合は、JAK阻害薬など外⽤薬以外で 症状を改善させる選択肢を提案する
#18. シンプルな処⽅(⼀例) ・A外⽤薬 前腕 ・B外⽤薬 ・C外⽤薬 ⾜関節 顔・⾸ ・D外⽤薬 C外⽤後に重ね塗り ・X錠剤 ・Y細粒 1⽇24回 1⽇2回 1⽇1回 3錠分3 3包分3 ・Zカプセル 18 ・a外⽤薬 全⾝ ・b外⽤薬 肘・膝関節 → 1⽇2回 ⼊浴後・起床時 ・x錠剤 1錠分1 ・yカプセル 1カプセル分1 2カプセル分2 悪化時はB外⽤薬をC外⽤薬と併⽤ 調⼦が良くなり次第徐々に減量 ●⽉✕⽇ 受診時まで継続
#19. プロアクティブ療法が難しい場合 主な原因 ・アドヒアランスの低下 ・寛解導⼊が不⼗分 ・減量のペースが早い ・複雑な指⽰で諦めてしまう → 対策は… ① こまめに現在の治療段階を再評価する ② 外⽤の⽇程を明確にする( 奇数⽇ や 燃えるゴミの⽇ など) ③ 新しい薬 を活⽤する ・寛解はOK → 新規⾮ステロイド系抗炎症薬を活⽤ ・寛解が不⼗分 → JAK阻害薬などの全⾝療法薬 19
#20. ゴールの明確化・現実的な着地点 20 ガイドラインにおける治療のゴール ・症状がないか軽微で、⽣活に⽀障がなく薬物療法もあまり必要ない状態の維持 ・このレベルに到達しない場合でも、症状が軽度で急な悪化のない状態の維持 佐伯秀久 ほか. ⽇⽪会誌, 131, 13:2691-2777(2021) 理想ではありますが、必ずしもこの⽬標で頑張れるとは限りません まずは 現実的な着地点 を患者ごと⼀緒に考える必要があります 湿疹で困っていることは何ですか︖ 湿疹がなければやりたいことはありますか︖
患者主体の管理とスモールステップ
#21. コーチングを意識した指導 21 ・未来志向 で指導する なぜうまく⾏っていない(塗っていない)かを攻めても改善しません 「どうしたら塗れるようになりますか︖」に焦点を当てる ・⽬的やゴール を共有する ⽬的やゴールが共有できていない航海は難渋します ・ 現状 から⾒える⼩⽬標を設定する ゴールを10としたら今はどの辺か、⽬の前の⽬標はどの地点か 平瀬敏志. チャイルドヘルス, Vol.26 No.2. 2023
#22. アトピー性⽪膚炎の疾病負荷 22 ⾝体的 精神的 社会的 かゆい ⾒た⽬が気になる 好きな服が着れない 眠れない ⾃信が持てない ✕ 温泉やプール 集中⼒の低下 周りからの無理解 ケアに時間を取られる 合併症 様々な不安 悪化要因が多い (副作⽤・遺伝・⾦銭⾯など)
#23. ⼀つ⼀つのゴールを明確に(⼀例) 23 ・アトピーを気にしない⽇々 ・諦めていたことにチャレンジ ・好きな服を着る ・夜に寝られる ・野球を楽しむ ・⾃分に⾃信を持つ
#24. 徐々に本⼈主体の管理に移⾏ 年齢とともに養育者主体での管理は困難に ・⾒られること、触られることを嫌がる ・⼤⼈に⾔われた通りにすることを嫌がる 「⼩学校⼊学」 や 「10歳」 など 成⻑を感じやすいタイミングを⽬安に 徐々に 本⼈主体の管理に移⾏していく 例えば、外⽤薬のタイプ(クリームやローションなど)を⾃分で選ぶなど ⾃分が治療の中⼼ であることの⾃覚を促すことから始めてみるなど 24
新しい治療選択肢とJAK阻害薬の特徴
#25. スモールステップで進めていく 気分が乗っていれば前胸部や腹部を塗ることができる *ムラがあっても頑張りを認めること 前胸部や⼿はある程度塗ることができる 顔や下半⾝も塗ることができる 指⽰書を⾃分で⾒て、⾃分で判断できる 習慣化には、トークンエコノミー法の活⽤も⼿ 25
#26. 12歳以上から増える治療選択肢 26 全⾝療法 (既存治療で効果不⼗分な症例) 13歳以上 成⼈ 2020年 バリシチニブ(経⼝) *JAK阻害薬 2018年 デュピルマブ(注射) *抗IL-4/13受容体抗体 1回/2週 2022年 ネモリズマブ(注射) *抗IL-31受容体A抗体 1回/⽉ 12歳以上 2021年 アブロシチニブ(経⼝) *JAK阻害薬 2008年 シクロスポリン(経⼝) 2021年 ウパダシチニブ(経⼝) *JAK阻害薬 現在 中等症〜重症でも寛解の維持が可能に
#27. 新しい全⾝療法の⽐較 デュピルマブ デュピクセント® バリシチニブ オルミエント® ウパダシチニブ リンヴォック® アブロシチニブ サイバインコ® 27 ネモリズマブ ミチーガ® 作⽤機序 抗IL-4/13受容体抗体 JAK阻害薬 抗IL-31受容体A抗体 投与⽅法 ⽪下注射 経⼝投与 ⽪下注射 年齢 成⼈ 成⼈ 12歳以上 13歳以上 既存の治療で⼗分な効果が得られなかった中等症以上のアトピー性⽪膚炎 適応 EASI > 16 EASI > 10 事前検査 不要 結核スクリーニングや⾎液検査が必要・施設条件あり 不要 投与間隔 2週間間隔 ⾃⼰注射可能 毎⽇服⽤ 4週間間隔 ⾃⼰注射は不可 特徴 定期的な採⾎は不要 結膜炎の副作⽤ 効果発現に12週間 中断・再開はやや不適 効果の発現が早く、中断や再開がしやすい JAK1/2阻害 減量が可能 JAK1阻害 ざ瘡に注意 成⼈は増量可能 嘔気・ざ瘡に注意 ⼩児も増量可能 かゆみに対して有効 他剤よりやや効果が 劣る可能性
#28. JAK阻害薬 のメリット・デメリット コーチングを意識した指導 28 デメリット メリット ・未来志向 で指導する ・潜在的な感染症のリスク ・⾼い効果と即効性 なぜうまく⾏っていない(塗っていない)かを攻めても改善しません ・ざ瘡などの副作⽤ ・注射を必要としない 「どうしたら塗れるようになりますか︖」に焦点を当てる (検査は除く) ・事前検査が必要 ・⽬的やゴール を共有する ・外⽤は基本的に必要だが、 ・定期的な⾎液検査が必要 外⽤困難な⽅にも治療可能 ⽬的やゴールが共有できていない航海は難重します ・処⽅に施設・医師制限あり ・12歳から使⽤できる ・ 現状 から⾒える⼩⽬標を設定する ・薬価が⾼い ゴールを10としたら今はどの辺か、⽬の前の⽬標はどの地点か (私⾒) 平瀬敏志. チャイルドヘルス, Vol.26 No.2. 2023 寛解や寛解の維持が困難で注射が苦⼿な⽅が最もよい適応 発達特性などにより、外⽤が困難な⽅にも提案しやすい選択肢
仮想症例の経過と治療のまとめ
#29. <仮想症例> 13歳 ⼥児 29 【主訴】かゆみ、湿疹 【現病歴】 乳児期より重度のアトピー性⽪膚炎あり。近隣クリニックを転々とし、管理 に難渋していた。発達特性により、外⽤を拒否する傾向あり。 かゆみで集中できないことや外⾒が気になり、中学1年⽣より不登校状態と なっており、⼩児アレルギー外来を受診した。 【既往歴】⾃閉スペクトラム症、アレルギー性⿐炎 【所⾒】好酸球 13%、総IgE 21040 U/mL、TARC 3450 pg/mL EASIスコア 19.7、IGAスコア 3
#30. 仮想症例経過 30 ウパダシチニブ 15 mg /day ステロイド外⽤薬 (クリーム製剤) デルゴシチニブ軟膏 ・スキンケア指導 → クリーム製剤なら外⽤を許容できることを確認した ・⽬標の設定 → ①かゆみの改善 ②湿疹が⾒えないようにする ・クリームでも外⽤を続けることの負担あり ・⼿⾸などの重度の湿疹の寛解導⼊に難渋 湿 疹 難渋 寛解導⼊ 学 校 ざ瘡に対応 現在 ・ウパダシチニブ 15 mg /day ・1⽇1-2回のスキンケア ・デルゴシチニブ軟膏主体で管理 寛解状態を維持できている
#31. 症例のまとめ 症例の特徴 介⼊ 経過 31 ü 乳児期より寛解導⼊に難渋していたアトピー性⽪膚炎 ü 湿疹だけが原因ではないが、 不登校 を伴っていた ü 発達特性により、外⽤薬を嫌がる傾向が強い ü スキンケアの指導+外⽤薬のタイプをクリームタイプに変更 ü 本⼈と治療における⽬標を明確にした ü 外⽤のみで寛解導⼊が困難であり、 JAK阻害薬 を導⼊ ü 速やかに掻痒が改善し、湿疹も1-2か⽉で寛解した ü 寛解後は ü 当⾯治療の継続を希望しているが、⽌める時の⼼配をしている ⾃らスキンケアを⾏い、意欲も向上
Take Home Message
#32. Take Home Message Ø 思春期のアトピー性⽪膚炎は社会⽣活における疾病負荷が⼤きい Ø 思春期特有の課題には⼀⼈ひとりに合わせた個別対応が必要 Ø JAK阻害薬や⽣物学的製剤は難治例への選択肢として有⽤である