テキスト全文
梅毒陽性患者の術前スクリーニングの重要性
#1. 担当患者の術前スクリーニングで 梅毒陽性! そんな時はどうしたらいい? ボブ ⽪膚科専⾨医 TwitterID:@hifukaibob
#2. なぜ今、梅毒の知識が必要なのか? それは『近年梅毒患者数が増加傾向だから』です (⼈) 梅毒感染者数推移 8000 6000 全国 4000 東京 2000 0 2001 ※近年、未報告例が減ったことで⾒かけ上の感染者数が 増えているだけである可能性も否定はできません 2010 2020 (年) 参考) 厚⽣労働省HP、東京都感染症情報センターHP
梅毒検査の解釈と注意点
#3. このスライドを読むメリットは? ü 梅毒の検査結果をパターン別に 解釈できるようになる ü 梅毒治療開始時の注意点を認識できる 近年の梅毒患者数増加に伴い、スクリーニング検査等で偶発的に 梅毒陽性者を発⾒するケースの増加が予想されるため 知っておいて損はないと思います!
#4. 結果の読み⽅なんて、陽性 or 陰性だけでしょ? いえいえ、実際に⾒てみると結構分かりづらいんです なぜなら教科書の記載と実臨床の検査項⽬名に乖離があるから STS TPHA ー ー ー + + ー + + 教科書:STSとTPHAの 組み合わせで判断しよう! ・STS ・梅毒定性RPR〔LA〕 ・梅毒定量RPR〔LA〕 ・梅毒定量RPR法 ・RPR法 定性 ・RPR法 半定量 ・梅毒定量TPHA ・梅毒定性TP抗体〔LA〕 ・梅毒定量TP抗体〔LA〕 ・TP抗体 半定量 ・TP抗体 定性 ・梅毒トレポネーマ抗体 ・FTA-ABS ・FTA-ABS法 定性 ・FTA-ABS法 半定量 ・IgM-FTA・ABS法 定性 ・ワッセルマン反応 ・ガラス板法 ・凝集法 ・緒⽅法 実際:似たような名前がたくさん! どれ使って検査してるんだ!?
#5. 梅毒の検査項⽬ そこで、たくさんある検査項⽬を以下の2つに分類してみます ①梅毒トレポネーマの持つ カルジオリピンというリン脂質に 対する特異抗体を測定する⽅法 ②梅毒トレポネーマに対する 特異抗体を測定する⽅法 (※梅毒トレポネーマ=梅毒の病原菌) ①は病原体の持つ⼀部の成分に対する抗体を測る ②は病原体全体の成分に対する抗体を測る と⾔い換えると、違いが理解しやすいかもしれません
梅毒トレポネーマに対する抗体検査法の種類
#6. ①梅毒トレポネーマの持つカルジオリピンという リン脂質に対する特異抗体を測定する⽅法 ü この⽅法を STS法 と呼びます ü STS法には、測定⼿技の違いによって ワッセルマン反応・ガラス板法・RPR法・凝集法・緒⽅法など がありますが、とりあえず STS法≒RPR法 の理解でOKです ü なぜなら代表的な検査会社2社(SRL・BML)における検査項⽬で STS法に該当するのは以下の通りだからです SRL BML 梅毒定性RPR〔LA〕 梅毒定量RPR〔LA〕 梅毒定量RPR法 RPR法 RPR法 定性 半定量 STS法≒RPRがつくやつ と理解しておけばOK!
#7. STS法(≒RPR法)の特徴 ü 感染後2~4週頃から陽性化します(値は『〜倍』と表現されます) ü 治癒後は抗体価が低下するので、治療効果判定にも⽤いられます ü いろんなことが原因で偽陽性になるのが難点です ・梅毒以外の感染症 ・肝疾患 ・炎症性疾患 ・⾃⼰免疫性疾患 ・妊娠 ⽣物学的偽陽性:BFP と呼ばれています ü 無症状でも抗体価16倍以上の梅毒を発⾒した場合は 届出が必要です(感染症法) ※16倍未満でも検査結果は陽性と表現される点に注意しましょう
#8. ②梅毒トレポネーマに対する 特異抗体を測定する⽅法 ü こちらは TP抗体検査法 と呼ばれています(TP=トレポネーマ) ü TP抗体検査法にはTPHA法・TPLA法・FTA-ABS法がありますが、 TP抗体検査法 ≒『TP〜』or『FTA-ABS』がつくと覚えましょう SRL 梅毒定量TPHA 梅毒定性TP抗体〔LA〕 梅毒定量TP抗体〔LA〕 FTA-ABS BML TP抗体 TP抗体 半定量(梅毒トレポネーマ抗体) 定性(梅毒トレポネーマ抗体) FTA-ABS法 定性 FTA-ABS法 半定量 IgM-FTA・ABS法 定性 『TP〜』や『FTA-ABS』 がついているものは全て TP抗体検査法!
TP抗体検査法とSTS法の使い分け
#9. TP〜 と FTA-ABS の使い分けは? TP〜 相違点 共通点 ・感染後6週頃から陽性化 ・検査代が安い FTA-ABS ・感染後4週頃から陽性化 ・検査代が少し⾼い (TP〜の3倍くらい) 梅毒が治癒しても抗体価は低下しない →治療効果判定には使えない ü ⼀般的に、スクリーニングに使うのは『TP〜』です (はっきりとした理由はわかりませんが、多分安いから) ü 『STS(≒RPR)』と『TP〜』の検査結果が不⼀致の場合に FTA-ABSでの再検査を⾏います 『⽚⽅が陽性、もう⽚⽅が陰性』
#10. ここまでをまとめると・・・ ü 梅毒の検査は以下のように分類して理解しておけば問題ない! STS法 RPR がつくもの TP抗体検査法 TP〜 もしくは FTA-ABSがつくもの スクリーニングに⽤いるのはこの2種類 RPRは治療したら下がる! TP〜は治療しても下がらない! ü 続いて、検査結果の解釈⽅法をパターン別にみていきましょう
梅毒検査結果の解釈パターン
#11. STS(RPR):陰性 TP〜:陰性 の場合 ü この場合は基本的に、梅毒陰性と解釈します ü ただしSTSが陽性化するのはトレポネーマに感染後2〜4週間後です ü 感染を疑うエピソード(主に性的接触歴)がある場合や 梅毒を疑う臨床所⾒が認められる場合には 状況に合わせて数週間後に再検査を⾏いましょう ü もちろん、感染症法における届出義務はありません
#12. STS(RPR):陰性 TP〜:陽性 の場合 ü 過去に梅毒罹患歴があるものの、既に治癒後であるパターンです ü 問診で治療歴が確認できれば、精査の必要はありません ü 治療歴がない場合や、梅毒の臨床症状がある場合はFTA-ABSを追加 確認した上で、専⾨家への紹介を検討しましょう ü まれに「感染後、未治療で⻑期間経過した梅毒」や「STSの偽陰 性」「TP〜の偽陽性」でもこのパターンになることがあります ü 感染症法における届出義務はありません
#13. STS(RPR):陽性 TP〜:陰性 の場合 ü 梅毒感染を疑うような性的接触歴がある場合は、 梅毒感染初期の可能性があります FTA-ABS確認や数週間後のTP〜再検査が望ましいパターンです ü その他、⽣物学的偽陽性の可能性があるため、 必要に応じて原因となり得る疾患を鑑別します ü なお、RPR陽性のみでは診断に⾄りません (TP〜陽性が確認されるまでは届出の必要はありません)
#14. STS(RPR):陽性 TP〜:陽性 の場合 ü 梅毒の可能性が⾼く、治療適応のパターンです ü ただし梅毒の症状がなく、かつRPR16倍未満の時には要注意 治療後のTP〜:陽性+⽣物学的偽陽性のRPR:陽性というパターンが 考えられるため、必ずしも治療適応とは限りません ü 梅毒と診断した場合、届出の提出が必要です 次のスライドに感染症法における届出基準を記します 基準に当てはまる場合は治療適応と考えてよいでしょう 迷った時には⼀度チェックしてみてください
感染症法における梅毒届出基準と治療法
#15. 感染症法における梅毒届出基準 ü (ア)確定例 臨床症状から梅毒が疑われ、 かつSTS・TP〜がともに陽性 有症状の場合は RPRが16倍未満でも 陽性と判断します ü (イ)無症状病原体保有者 梅毒の臨床症状はないが、 STSが16倍以上・TP〜が陽性の患者 ※ただし陳旧性梅毒の患者は除く 陳旧性梅毒=治癒状態 にあると判断されるもの ü (ウ)感染症死亡者の死体 こちらは専⾨家以外が判断することはほぼないと 思われるので割愛します 届出の書式は厚⽣労働省HPよりdownloadできます
#16. 梅毒の治療は? ü 抗菌薬投与+1ヶ⽉後のフォロー(RPR再検査)が基本ですが 病期によってはさらに⻑期間の治療が必要です ※治療期間や治療回数は病期によっても異なりますし、記載した以外の選択肢もあります 治療に当たる際は梅毒診療ガイド・論⽂・薬剤の添付⽂書などを適宜ご参照下さい 治療⽅法例 内服の場合:アモキシシリン 1 回 500mg 1⽇3回 4週間投与 (⽇本性感染症学会梅毒委員会 梅毒診療ガイド(2018)における第⼀選択薬) 注射の場合:ステルイズ®︎(持続性ペニシリン製剤)筋注1回 or3回投与 (2021年に本邦で承認された新薬) 判定⽅法:RPR値が「治療開始前の1/4以下」または「8倍以下」まで 低下したら治療成功
梅毒治療の注意点と患者への説明
#17. 治療開始前の説明も⼤切! ü ペニシリン系薬剤を⽤いて治療する場合、 特に⼥性に多い ・治療初期に⾼熱が出やすいこと ・治療によって薬疹が起こりやすいこと などについてあらかじめ説明しておくことも 患者さんとの信頼関係を構築するために⼤切と考えます (個⼈的な⾒解です)
#18. Take home message ü 2013年頃から梅毒患者は増加傾向 今後、感染症スクリーニングには⽬を光らせよう! ü 梅毒の検査項⽬名にはバラつきがあるが 『STS ≒ RPR』と『TP〜』に注⽬しよう! ü 梅毒の治療する場合は開始直後の⾼熱に注意しよう!