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致死的消化管出血対応(試作 第3版)

投稿者プロフィール
松田律史

医療法人徳洲会札幌東徳洲会病院

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投稿した先生からのメッセージ

札幌東徳洲会病院院内向けに作った資料です。

IVR医や内視鏡医の人数、スキルなどによって最適解が異なることはご理解下さい。

内視鏡で止血が困難な症例、術中心停止が予測される症例について、どのように安全且つ確実にマネージメントするかを目標にしてERから依頼する際のマニュアル的なものを作る一環でまとめた資料です。

各科のコンセンサスを得られるよう調整している途上ですので、適宜変更は十分あり得るかと思います。

概要

札幌東徳洲会病院院内向け、心停止し得る出血性ショックの吐血を対象に作った資料です。

重要なポイントとして、

 確実な気道確保

 外傷に準じた輸血・止血マネージメント

 蘇生に必要なDeviceの選択基準

などを含んでいます。

本スライドの対象者

研修医/専攻医/専門医

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テキスト全文

致死的消化管出血の概念と影響

#1.

試作 第3版 致死的消化管出血対応 救急集中治療センター 兼 画像・IVRセンター 松田律史

#2.

概念の解説

#3.

吐血=外傷に似た多臓器不全 気道:窒息 呼吸:誤嚥性肺臓炎 循環:出血性ショック、ストレス誘発性心筋症 意識:不穏、低酸素脳症、肝性脳症 体温:低体温 他:凝固障害、低Ca血症、AKI、Shock liver

重症吐血診療の基本方針とチーム編成

#4.

重症吐血診療コンセプト • 早期全身状態安定化 • 早期根本治療開始 • 蘇生チーム召集 • IVRチーム召集 • 確実な気道確保 • 内視鏡チーム召集 • 輸血療法開始 • 外科チームへ一報 最短距離で蘇生と止血の専門家を呼び出す (無駄な時間を費やさない、無理に頑張らない)

#5.

「最短距離」の解釈 Goal directed 先ずゴールを決定 No greed In time 余計な事を割愛 時間制限を設定

#6.

「最短距離」の技術 • 災害(平時以上の医療資源が必要な状態)に類似 • 「すしあんじょうほうよう場所取り」 • 「CSCATTT」

#7.

スイッチON! • 災害モードへの移行を宣言 • 災害モードでの意思決定 • より早く • より簡潔に • 致死的状態の把握

#8.

重症対応時CSCATTT C:重症宣言/指揮官設定、ER内外の連絡 S:PPE装備、他患者情報収集、二次被害対策 C:Closed loop communication A:必要な戦力の推定(人数・技術) T:患者の優先度設定(マンパワー配分) T:処置の優先度設定・実施(蘇生優先) T:ICU/HCU確保 or 転院先設定

ショック時のバイタルサインと大動脈遮断

#9.

蘇生時に必要な役割分担 Commander 蘇生リーダー Conductor 治療リーダー 輸血 管理 Operator 術者 Assistant 助手 止血術担当 全身 薬剤 管理 担当

#10.

ショックのバイタルサイン HR SBP DBP 心臓 血管 陽性変時作用 陽性変力作用 末梢血管抵抗増大 代償不能域

#11.

出血死しそう→大動脈遮断 HR SBP DBP 心臓 血管 陽性変時作用 陽性変力作用 末梢血管抵抗増大 代償不能域

#12.

ClassⅣで大動脈遮断 SBP<90mmHg 一過性の輸液反応 輸液反応なし Dirty double 大腿静脈:5Fr シース 大腿動脈:4Fr シース

REBOAの選択基準と合併症管理

#13.

REBOAを選ぶ時 • 大動脈遮断方法は複数ある • REBOA • 腹腔動脈上大動脈圧迫@開腹 • 胸部下行大動脈遮断@開胸 • REBOAを避けるべき状況 • 近位の出血(上肢・頭頸部) • 大動脈損傷 • 心タンポナーデ DIRECT REBOAセミナー公式テキスト REBOAハンドブック ヘルス出版、2021年

#14.

REBOAの留置位置と禁忌 出血助長 頸部 上肢 心損傷 (頭蓋内) 第2肋間より下 剣状突起より上 損傷拡大 大動脈損傷 Acute Care Surgery認定外科医テキスト へるす出版、2021年 (一部改定して使用)

#15.

REBOAによる合併症 時期 合併症 対策 モニタリング シース確保 動静脈損傷 感染 下肢虚血 エコー下穿刺 清潔確保 刺入部の観察 シース圧測定 下肢色調評価 REBOA留置 ワイヤー迷入 カテーテル迷入 可及的な透視 五感を研ぎ澄ます レントゲン撮影 バルーン管理 非意図的血流遮断 Downstream migration Over in ation 可及的な透視 正しい操作 刺入長の観察 圧測定 下肢色調評価 抜去前の画像評価 刺入部の観察 シース圧測定 抜去 止血困難 異物残留(Balloon損傷) fl 血栓閉塞 正しい操作 下肢色調評価

外傷Ope中の管理と大量出血プロトコール

#16.

外傷Ope/IVR中の管理 • Vital signs:SBP 80〜90mmHg+深部体温36度以上 • 血液ガス分析:イオン化Ca 0.9mEq/L • CBC:Hb 7〜9 g/dL, 血小板 • 凝固:フィブリノゲン 5万/μL 150〜200mg/dL • 体温:深部体温36.0度以上で管理 吐血の全身管理においても 外傷外科と同様のコンセプトが有用な可能性が高い

#17.

外傷死の三徴+低Ca血症 凝固異常 出血による消耗 輸液による希釈 低Ca血症 低体温 消耗・希釈 クエン酸キレート 室温輸液を急速に1L投与 →0.25度体温下がる アシドーシス 生理食塩水による高Cl血症 循環不全による高Lactate血症

#18.

低体温予防の方策 輸液加温 輸血加温 電気毛布 湿った衣類 除去

#19.

輸血オーダーの迅速具合 型合わせ クロスマッチ 時間 RED × × 5分以内 YELLOW ○ × 20分以内 緊急 ○ ○ 40分くらい? 通常 ○ ○ 1時間以上 有害事象 リスク

#20.

大量出血プロトコール プロトコール立ち上げ 関係する人を集めてチームにする トラネキサム酸 7Ts 1時間毎にCBC, 凝固, ガス 輸血の目標設定 低体温予防 プロトコール終了

重症吐血診療の実施手順とレイアウト案

#21.

実際にやること

#22.

重症吐血診療Overview 重症宣言 Yes No 通常診療 ショック 事前準備 (搬入前に完了) 搬入後対応 (15分以内に完了) MTP起動 初回輸血開始 (採血提出必須) REBOA 準備 両側大腿動静脈 確保 Team起動 病床・AG室 確保 経口気管挿管 経鼻胃管挿入 止血開始 予定時刻確認 早期のVital sign安定化を図る。転院のタイミングとしては、 ①止血開始前、②治療方針変更時、③ICU入室時で区切る

#23.

トリガー基準 • 前提条件:吐血/タール便が確認されている • 絶対適応:以下のバイタルサインのいずれかに該当する • SBP<90mmHg • HR<60bpm/ 120bpm • JCS Ⅱ桁以上 • 相対適応:ショックを疑う所見がある • Lactate 2.0mmol/L • 顔面蒼白、普段の血圧より40mmHg以上の低下

#24.

初期人員配置概要 気道管理、NG挿入(マギール鉗子) (2) エコー評価 大腿動静脈路確保 血液検査 クロスマッチ (5) 記録、時間管理 (6) (1) (3) (4) ルート確保 (20G以上2本) 初期薬剤投与 大腿動静脈路確保

#25.

レイアウト案1

IVRチーム起動と輸血オーダーの流れ

#26.

レイアウト案2

#27.

最初にやるべきこと 発動基準満たす IVR/内視鏡チーム起動 救急チーム起動 Code RED RCC & FFP 6単位 *FFP4単位は直ぐに解凍 薬剤投与準備 ミダゾラム/ケタラール/ロクロニウム オメプラゾール/エリスロマイシン 気管挿管:必須 NGチューブ:愛護的に18Fr 人工呼吸:適宜 両側大腿動静脈路確保 大腿静脈:5Fr(+FDL) 大腿動脈:4Fr(+8Fr)

#28.

最初に連絡するべき相手 • 蘇生関連:救急医+輸血など • 救急科当直:院内PHS →ER対応依頼 • 当直師長:PHS XXXX →ICU/HCU手配依頼 • 医事課:PHS XXXX →ID作成/受付 • 臨床検査:PHS XXXX →Code Red+α依頼 • 薬局:PHS XXXX →オーダー後連絡 • 止血関連:IVRも内視鏡も準備 • 放射線科:院外コール →来院依頼 • 消化器内科:院外コール →来院依頼 • 画治検:PHS XXXX →TAE+内視鏡準備 • 放射線技師:PHS XXXX →Xp、CTなど手配 • 臨床工学技士:PHS XXXX →内視鏡準備依頼

#29.

輸血オーダーの方法 • 医師セット内の「MTPセット」からオーダー • 内容:RBC, FFP, PC 10単位ずつ • 手配:RBC, FFP 6単位ずつCode Red • 準備:血液型・クロスマッチ提出、LEVEL 1™準備 • 投与:RBCは直ちに投与、FFP 4単位は直ぐ解凍 • 目標:SBP 80mmHg以上までは急速輸血

#30.

先手必勝のA/Vシース • クロルヘキシジンで消毒 • 清潔操作を推奨 • 鼠径靭帯の二〜三横指下を穿刺 • 下図のようにステイプラ固定 原則エコー下穿刺するべし! (ブラインド時は低位穿刺に注意) 静脈:5Fr 動脈:4Fr 鼠径溝 腸恥窩

経口気管挿管の戦略とSALAD法

#31.

Femoral deviceの選択 右大腿=IVR用 Responder Transient responder Non responder 動脈路 4Fr(赤) 5Fr(灰) 静脈路 5Fr(灰) 7Fr(橙) *REBOA付属品 左大腿=蘇生用 Responder Transient responder Non responder 動脈路 4Fr(赤) 8Fr(緑) *Medikit社製 静脈路 5Fr(灰) FDL-Quad

#32.

経口気管挿管前対応 • 前酸素化:鼻カヌラ10L投与(受動酸素投与) • 酸素分配:鼻カヌラとジャクソンリース併用 • 経鼻胃管:可能なら先に18Frを挿入、可及的に除染 • 吸引準備:ヤンカーサクション必須 • 代替手段:GEB準備、外科的気道確保セット準備 • 薬剤準備:ケタラール®、ミダゾラム®、ロクロニウム® etc.

#33.

薬剤準備チェックリスト (挿管時) 希釈 液量 投与方法 初期投与量 ケタラール 原液1A (10mg/mL) 5mL 静注 0.05mL/kg 10mL 静注 1mL/kg 5mL 静注 0.05mL/kg 液量 投与方法 初期投与量 持続 2〜4mL/hr (50kg) 持続 2〜4mL/hr (50kg) ミダゾラム ロクロニウム 1A+生食8mL (1mg/mL) 原液1A (10mg/mL) (挿管後) 希釈 フェンタニル 3A+生食24mL (10μg/mL) ミダゾラム 5A+生食40mL (1mg/mL) 30mL 50mL

#34.

経口気管挿管戦略 Non responder:Awake intubation Transient responder:Delayed Sequence Induction+α 1. ケタラール® 0.05mL/kg静注 2. ジャクソンリースでmask CPAP(換気はしない) 3. 酸素化良ければ5倍希釈ミダゾラム® 1mL/kg静注 4. 直ぐにロクロニウム® 0.05mL/kg静注 5. McGRATH™で気管挿管 →経鼻胃管が未挿入ならマギール鉗子で挿入

#35.

SALAD method Suction Assisted Laryngoscopy Airway Decontamination 概要:サクション持続的に行なって視野を確保 方法:ヤンカーでサクションしながら喉頭展開する 1. McGRATH™の先端汚さないようにヤンカーを挿入、視野 確保しながら喉頭展開する 2. ヤンカーの先端を食道内に留置し、根本をMcGRATH™の ブレードの左側にずらす 3. 視野を維持したまま、経口気管挿管する

診療フローとMTPの整備状況

#36.

診療フロー@非HERS(案) 搬入前 リーダー 医師 重症宣言 搬入後10分以内 チーム起動 緊急輸血準備 診療医 気管挿管 18Fr NG挿入 両鼠径確保 看護師 事前連絡 (事務、放射線) ルート確保 (18G 2) 薬剤準備 薬剤投与 (挿管) (挿管) 搬入10分までに 【意思決定A】 三次転院? 治療継続? 【意思決定B】 CT優先? REBOA優先?

#37.

診療フロー@HERS(案) トリガー 絶対基準 No トリガー 相対基準 Yes fl Team 起動 Yes 事前準備 (搬入前に完了) MTP 起動 Device 準備 Team 起動 SBP 搬入後対応 (15分以内に完了) <80mmHg 初回輸血開始 (採血提出必須) 両側大腿動静脈 確保 経口気管挿管 経鼻胃管挿入 REBOA In ation Timer start SBP 80mmHg CT撮影 [1]スカウト→Device位置調整 [2]単純CT →Device位置確認 [3]造影CT →止血戦略決定

#38.

HERS稼働までの課題

#39.

MTPの整備 • 現状の到達度と問題点 • MTP起動条件が未設定 • 院内在庫は十分(O-RBC 10単位、AB-FFP 14単位) • 容易に輸血切れになる(逐次オーダー必要) • 目指すべき姿 • MTP起動条件満たせば誰でも宣言可能 • MTP起動中は輸血部が常に輸血発注を継続

#40.

Drug deliveryの整備 • 現状の到達度と問題点 • 在庫切れた薬品に対しての補充に時間と人力を要する • 麻薬などは看護師が取りに行く必要あり • 目指すべき姿 • 蘇生で使用するセットを薬剤師が届けてくれる仕組み • 麻薬など特殊管理を要する薬剤を運搬できるスタッフの設定

REBOAマニュアルとモニタリング手法

#41.

情報共有ツールの整備 • 現状の到達度と問題点 • 連携する部署に個別連絡が必要で、時間がかかる • ERの重症感/緊急感を他部署と共有し難い • 院外連絡も逐一関係者に連絡が必要で、時間がかかる • 目指すべき姿 • 重症宣言時に関連部署に一斉連絡できる仕組みがある • Trauma codeなどの一斉連絡ツールが整備される

#42.

REBOAマニュアル

#44.

Rescue Balloon ER® クロルヘキシジン、ヘパ生シリンジ、造影剤は準備が必要だが、 それ以外は全て含まれている 図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#45.

挿入方法の概略 1. 穿刺部〜乳頭までを測定(L1) 2. 胸部領域にFPDカセッテを留置 3. Aシースを確保、Seldinger法でシースを サイズアップ(要皮切) 4. REBOAをOver the wireでL1まで挿入、 Xp or USで位置確認 5. スタイレットを挿入 6. カテーテルを固定後、In ation fl 7. 右橈骨動脈PA-lineでSBP 90 mmHg キープするよう加圧 先端位置: 左鎖骨下動脈分岐 2cm下方

#46.

何が必要か? • AVシース挿入セット • 4Fr/5Frシース2本 • エコー(穿刺用) • • • ヘパ生(ロック用) ステープラ(固定用) ナートセット • 次に使うもの • Rescue Balloon ER (ERに在庫あり) • 8Frシース(Medikit) • レントゲン(FPD) • 300オイパロミン® 20mL • 生食20mL

#47.

助手の一番大切な仕事 操作1-2を3回以上 反復した後に三活を ロックする 絶対にBalloonを 膨らませない! インフレーション用 2倍希釈造影剤入りの シリンジを用いる

#48.

助手の次に大切な仕事 スタイレットを抜いて、セントラルルーメンを水通ししておく (スタイレットは必ず無菌状態で置いておく!)

#49.

長さ+バルーン抵抗 挿入困難なら時計方向にカテーテルをひねる 図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#50.

先端位置が大事 図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#51.

スタイレット+固定 時計回り スタイレット シースクリップでカテーテルを シースに固定し、シース本体を 図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 1-0絹糸で縫合固定 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#52.

インフレーション手順 2倍希釈造影剤 30mLシリンジ シリンジ装着後に三活を開け、 空気が入らないようにする 図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#53.

図表は東海メディカルプロダクツHPより引用 (https://products.tokaimedpro.co.jp/product/occlusion01:最終アクセス2023/11/05)

#54.

モニタリングと遮断圧 Permissive hypotension 目標SBP 80-100mmHg 橈骨動脈 圧モニタリング 完全遮断=大腿動脈圧消失 Zone 注入目安 遮断時間 Ⅰ 10〜15mL 15分 Ⅲ 5〜10mL 30分 減圧時 1-2mL/minペース 対側大腿動脈 or シース 圧モニタリング

#55.

Partial REBOA Permissive hypotension 目標SBP 80〜90mmHg 橈骨動脈 圧モニタリング 完全遮断せずに昇圧できるなら 合併症は少ない 大腿動脈圧消失=完全遮断 対側大腿動脈 or シース ↓ 圧モニタリング この注入量を100%に設定 Zone 注入目安 Ⅰ 10〜15mL ↓ Ⅲ 5〜10mL 60%の注入量で管理

#56.

8Fr CAシースの選択 シース先端は 外腸骨動脈内にあり シース 口径差あれば 圧が観られる! 橈骨動脈 圧モニタリング シース 圧モニタリング 遮断容積の調整時に役立つ!

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