テキスト全文
リハビリテーションの重要性と医師の役割
#1. 医師・医学⽣34万⼈に伝えたい リハビリテーション 国⽴病院機構東京病院 リハビリテーション科 ⼤野洋平
#2. メニュー • リハ医という存在 • リハビリの処⽅について • 3種類の療法⼠
リハビリテーション科医の現状と認識
#3. リハビリテーション科医の現状 • 医学部での講義時間が臨床科⽬中最少 • 19領域中、専⾨医が最少(臨床検査 を除く)1) (リハビリ専⾨医 2531⼈ (2019年)) 基本19領域の専⾨医数1) 臨床検査 リハビリテーション科 形成外科 病理 救急科 ⽪膚科 泌尿器科 放射線科 脳神経外科 ⿇酔科 眼科 精神科 ⽿⿐咽喉科 ⼩児科 産婦⼈科 外科 整形外科 内科 0 1) 5000 10000 15000 ⽇本専⾨医制度概報 20000 25000 30000 令和元年度版 35000
#4. リハビリテーション科医あるある • 整形外科医と間違われがち(実際に兼務が多い) • 「リハビリ科=理学療法⼠」という世の認識 • 療法⼠の急増(約30万⼈︕) ST(⾔語聴覚⼠) 3万2863⼈(2019年) OT(作業療法⼠) 9万4241⼈(2019年) リハ専⾨医 2531⼈(2019年) 希少種︕ PT(理学療法⼠) 17万2285⼈(2019年)
リハビリテーションの必要性と医療の実例
#5. 総合診療科からリハビリ科に転科した理由 ① 急性期病院を去っていく患者さんの「その後」が知りたい ② リハビリそのものへの興味(歩ける、⾷べられる︖) ③ 障がい者スポーツとの関わり
#6. リハビリテーションのない医療(例) 誤嚥性肺炎で⼊院 絶⾷・補液・抗⽣剤 1〜2週間 肺炎は治癒したが筋⼒・持久⼒低下、嚥下障害増悪 ⾷事再開したら誤嚥性肺炎再燃・・・
リハビリテーション医療の基本概念と対象
#7. リハビリテーションのある医療(例) 誤嚥性肺炎で⼊院 絶⾷・補液・抗⽣剤 肺炎は治癒 嚥下機能の評価 安全な⾷事形態の検討 筋⼒・持久⼒・嚥下機能 を維持/改善するリハビリ 筋⼒・持久⼒維持 退院、安⼼安全な⽣活 嚥下機能維持 安全に⾷事
#8. リハビリテーション医療とは • 特定の臓器・疾患にとらわれない • 疾患をみるだけではなく、 活動も⼀緒にみる必要がある︕ ⾷べる、排泄する、服を着る 座る、⽴つ、歩く、運転する 話をする、字を書く、記憶する ⼊浴する・・・etc
#9. リハビリテーション医療とは ⼦どもから⾼齢者まで
#10. リハビリテーション医療とは 急性期 回復期 疾患の幅広いステージで関わる ⽣活期
リハビリテーションにおける目標設定の重要性
#11. チーム医療 理学療法⼠ 家族 患者 作業療法⼠ ⾔語聴覚⼠ 栄養⼠ • • • • MSW リハ医 監督 病状(障害)の正確な評価・予測 チームメイトと情報共有 患者・家族の希望把握 安全安⼼な⽣活の設計 薬剤師 看護師
#12. メニュー • リハ医という存在 • リハビリの処⽅について • 3種類の療法⼠
#13. 処⽅には必ず⽬標がある • 降圧薬処⽅の先にある⽬標︓⾎圧を〇〇まで下げたい • リハビリ処⽅の先にある⽬標︓︖︖ 「と、とりあえず⾃宅退院︕」は△ →できればもっと具体的に 例① ⼀⼈でトイレまで⾏き⽤が⾜せる 例② 近所のスーパーまで歩いて買い物に⾏ける 例③ 安全に(誤嚥なく)⾷事ができる →これらの⽬標を⽴てられる根拠= 機能予後予測 リハ医の強み︕
#14. ⽬標を⽴てるために • 患者さんの背景を知ろう︕ Ø背景テンプレート p ⾃宅環境︓家屋、階数、⼿すりなど p 家族︓同居家族、サポート⼒ p 病前ADL︓⾷事、排泄、移動など p 介護保険︓要介護○ いつから p 職業・趣味︓通う⼿段や距離も(もともとやっていたことも) ※ この順だと聞きやすいです
自宅環境と家族の協力がもたらす影響
#15. (⾃宅)環境の⼤切さ チェックポイント p ⼾建て or 集合住宅 p 何階 p エレベーターの有無 p 周辺の道路(坂、階段の有無) (リハ医は以下も) p 寝具(ベッド or 布団) p 屋内の段差 (⽞関、⾵呂、トイレなど) p ⼿すり(⽞関、階段、⾵呂、トイレなど) p トイレ(洋式 or 和式) p 間取り(⽞関〜寝室〜トイレの距離など) も有⽤︕
#16. 家族の⼤切さ • ⾃宅退院にはADLと同居家族の⼈数・協⼒度が重要︕ ADLの評価⽅法︓FIM(18〜126点) ⾃宅復帰Index=退院時FIM+(同居家族⼈数×協⼒度)×10-60 【家族の協⼒度】 0︓主治医からの来院要請に応じようとしない 1︓主治医から連絡したときのみ来院 2︓⾝の回りのこと(洗濯やお⾦)の⼿配に来院 3︓週2回程度の⾯会 4︓週2回程度の⾯会+病後の⽣活設計について 積極的に話し合う姿勢がある 5︓ほぼ毎⽇⾯会し、病棟でのADL訓練に参加 ⼩⼭哲男,道免和久︓脳卒中患者の⾃宅復帰指標の作成.リハ医学 45(Suppl):S391,2008
#17. 家族の⼤切さ ⾃宅復帰Index=退院時FIM+(同居家族⼈数×協⼒度)×10-60 例1︓・退院時FIM80点/126点(屋内歩⾏なんとか⾃⽴) ・家族が息⼦3⼈ ・協⼒度0(主治医からの来院要請に応じようとしない) ⾃宅復帰Index=80+(3×0)×10-60=20 →⾃宅復帰率 5% ⼩⼭哲男,道免和久︓脳卒中患者の⾃宅復帰指標の作成.リハ医学 45(Suppl):S391,2008
#18. 家族の⼤切さ ⾃宅復帰Index=退院時FIM+(同居家族⼈数×協⼒度)×10-60 例2︓・退院時FIM80点/126点(屋内歩⾏なんとか⾃⽴) ・家族が妻1⼈、娘1⼈ ・協⼒度4(週2回程度の⾯会+病後の⽣活設計について積極的に話し合う) ⾃宅復帰Index=80+(2×4)×10-60=100 →⾃宅復帰率 約95% ⼩⼭哲男,道免和久︓脳卒中患者の⾃宅復帰指標の作成.リハ医学 45(Suppl):S391,2008
ADL評価とリハビリの適応疾患
#20. 患者さんはどんなADL︖ 1 ⾷事 2 整容 FIM セルフケア 2 整容 2 整容 3 清拭 セルフケア 4 更⾐(上⾐) 社会認識 機能的⾃⽴度評価法) 17 問題 18 記憶 3 清拭 7 排尿管理 14 理解 14 理解 コミュニケーション コミュニケーション 8 排便管理 15 表出 15 表出 9 ベッド・⾞いす移乗 16 社会的交流 16 社会的交流 移乗 10 トイレ移乗 社会認識 4 更⾐(上⾐) 排泄 10 トイレ移乗 移乗 11 浴槽・シャワー移乗 12 歩⾏・⾞いす 17 問題解決 社会認識 11 浴槽・シャワー移乗 18 記憶 5 更⾐(下⾐) 6移動 トイレ動作 9 ベッド・⾞いす移乗 移動 4 更⾐(上⾐) 18項⽬をそれぞれ1〜7点で評価 1排泄 ⾷事 8 排便管理 15 表出 6 トイレ動作 1 ⾷事 7 排尿管理 14 理解 16 社会 (Functional Independence Measure 5 更⾐(下⾐) 6 トイレ動作 移乗 3 清拭 セルフケア 5 更⾐(下⾐) 排泄 コミュニケーション 12 歩⾏・⾞いす 17 問題解決 18 記憶 13 階段昇降 7 排尿管理 8 排便管理 9 ベッド・⾞いす移乗 10 トイレ移乗 11 浴槽・シャワー移乗 12 歩⾏・⾞いす どれが⾃⽴でどれが介助必要か 家族にも聞いてみる︕
#21. FIMを⽤いた機能予後予測 対象︓ 発症前ADLが⾃⽴していた初発かつ テント上病変の脳卒中患者 発症1〜2ヶ⽉⽬のFIMの推移から 発症6ヶ⽉後までのFIMを予測できる 回復期病院⼊院から数週間で、退院時の ADLがイメージできる Koyama T, et al.Clin Rehabil 19:779-789,2005
#22. どんな病気でもリハビリOK? リハビリの種別 疾患名 対象 脳血管疾患等リハビリ 脳梗塞、脳出血、脳外傷、末梢神経障害、パーキンソン病など PT・OT・ST 廃用症候群リハビリ 急性疾患等に伴う安静による廃用症候群 一定程度以上の基本動作能力などの低下を来しているもの PT・OT・ST 呼吸器リハビリ 肺炎、肺腫瘍、COPDなど PT・OT・ST 運動器リハビリ 体幹・上下肢の骨折、関節の変性疾患など PT・OT 心大血管疾患リハビリ 急性心筋梗塞、開心術後、大血管疾患、慢性心不全など PT・OT → ほとんどの疾患・病態でリハビリ可能︕ 【注意点】 ü 「○○の疑い」は× (確定病名で処⽅を) ü 筋⼒低下、倦怠感、認知症などは病名としては適応外
リハビリ専門職の役割とその重要性
#23. メニュー • リハ医という存在 • リハビリの処⽅について • 3種類の療法⼠
#24. 3種類の療法⼠(PT・OT・ST) 療法⼠ ︓⼤学・専⾨学校で3〜4年間の専⾨教育を受け国家資格を有する、リハビリの専⾨家 ST(⾔語聴覚⼠) 3万2863⼈(2019年) PT(理学療法⼠) 17万2285⼈(2019年) OT(作業療法⼠) 9万4241⼈(2019年)
#25. 理学療法⼠ PT︓Physical Therapist 「⼿⾜を動かす」「⽴つ・座る」「歩く」 などの⽇常⽣活に必要な基本的動作能⼒の 評価・訓練を⾏う。 運動のスペシャリスト • 最⼤勢⼒ • 廃⽤症候群などでまず処⽅
#26. 作業療法⼠ OT︓Occupational Therapist • ⾷事、排泄、⼊浴などの応⽤動作の訓練 を⾏う。 • 認知機能や⾼次脳機能(主に⾔語⾯以 外)の評価・訓練を⾏う。 • 精神⾯の評価、介⼊も得意(精神科OT) ⾝体や頭を使う「作業」の スペシャリスト
#27. ⾔語聴覚⼠ ST︓Speech-Language-Hearing Therapist • ⾔語障害(うまく話せないなど) • ⾳声障害(声が出しづらいなど) • 嚥下障害(ものを飲み込みづらい) に対して評価・訓練を⾏う。 話すこと、聞くこと、⾷べる ことのスペシャリスト • 聴⼒検査も可能
リハビリテーションの具体的な実施内容
#28. リハビリで⾏っていること リハビリ1単位=20分間 ・評価︓ 筋⼒、関節可動域、歩容、⽇常⽣活動作、認知機能 嚥下機能評価(嚥下内視鏡、嚥下造影) リハ医 ・治療︓ l 筋⼒/可動域低下 →筋トレ、ストレッチなど l 持久⼒低下 →歩⾏訓練、エアロバイクなど l 嚥下障害 →嚥下訓練、⾷事形態の調整など
#30. リハビリで⾏っていること (他にもロボット、電気刺激療法、ボツリヌス注射などなど・・・) ・代償⼿段の検討︓ l 杖、装具、⾃助具などの検討、練習、(⼀部)装具の処⽅ 短下肢装具 ⾃助具︓箸ぞうくん® リハ医 + 義肢装具⼠ + PT ・その他︓ l 公共交通訓練 電⾞・バスを利⽤できるか評価 l 家屋調査 ⾃宅に同⾏し実際に⽣活できそうか評価 l 調理訓練 買い物+調理 安全に正しく⾏えるか評価
リハビリテーションの安全管理とリスク管理
#31. 対応する認知機能 概念 具体的行為 リハビリで⾏っていること 対応する高次脳機能 為全体の計画を行 目 的 地 と 最 善 の 経 路, 時 間 の 選 遂行機能,自己の能力の認識 画の変更を行う認 定,危険の予測と回避 周囲との関係をコ ほ か の 自 動 車 と の 車 間 距 離 の 維 注意機能,遂行機能,視覚走査能 認知過程 持,スピード調節,人や障害物の 力,時間推定能力,視空間認知機 回避 能,視覚・運動変換能力,情報処 理速度,情動のコントロール l ⾃動⾞運転再開 脳卒中などで障がいを持った患者さんが安全に運転再開でき るか評価し、訓練や⾞両の改造などを⾏う ※ 判定は公安委員会が⾏う 車を操作する認知 ブレーキ,アクセル,ハンドルを 注意機能,運動感覚機能,捜査知 操作し,一定のスピードを維持し 識,視覚・運動変換能力 走行レーンを運転操作する そう 行う場合もあります2). ついて記載しました.脳 ビリテーションを経て運 あるため,患者が運転再 価も含めリハビリテー ければ幸いです. 修.脳卒中後の自動車運 歯薬出版;2017. 医のための疾病と自動車運 . 学医療センター・ラスク研 プログラム―「脳損傷者通 頭葉機能の定義(前編) .総 06;34:487 92. of driver models:what 図3 図6 ドライビングシミュレーター ドライビングシミュレーター 写真提供︓(株)HONDA 写真提供: (株)HONDA. Human behavior and traffic safety. New York:Plenum Press;1985, 485 520. 5)武原 格,一杉正仁,渡邉 修,他.脳損傷者の自動 車運転再開に必要な高次脳機能評価値の検討.Jpn J ステアリンググリップ 図4 補助ペダル ⽚⼿でハンドルを操作するためのグリップ 写真提供︓(有)フジオート 写真提供: (有)フジオート. 写真提供:Gazoo. するためのステアリンググリップ( 図 3 ) ,補助ペ 自己認 ダル( 図 4 )などがあげられます. 遂行機 一方で,高次脳機能障害は失認,失行,半側空間 無視など目に見えない障害であり,運転再開の判断 にはより専門的見地が求められます(後
#32. 安全にリハビリを⾏うために ①安静時脈拍 40/分以下または 120/分以上 リハビリ中⽌基準 (積極的なリハビリを実施 しない場合) ②安静時収縮期⾎圧 70mmHg以下または200mmHg以上 ③安静時拡張期⾎圧 120mmHg以上 ④労作性狭⼼症がある ⑤⼼房細動のある⽅で著しい徐脈または頻脈がある ⑥⼼筋梗塞発症直後で循環動態が不良 ⑦著しい不整脈がある pバイタルサインの異常 p急性の⼼疾患を疑う所⾒ ⑧安静時胸痛がある ⑨リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛がある ⑩座位でめまい,冷や汗,嘔気などがある ⑪安静時体温が 38℃ 以上 ⑫安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下 リハビリはリスクを伴う 医療⾏為︕ 前⽥真治︓リハビリテーション医療における安全管理・推進のための ガイドライン.Jpn J Rehabili Med,vol44:384-390, 2007
#33. リハビリで注意すべき⾎液検査データ ・好中球減少︓好中球500/μL以下で感染のリスクが⾼い ・貧⾎︓明確な基準なし Hb8g/dL以下または急なHb低下が⾒られる際は介⼊控える ・⾎⼩板減少︓ 12万/μL 抵抗運動を⾏わない 1万/μL以下 積極的な介⼊を⾏うべきではない がんのリハビリテーション がんのリハビリの実際・リスク管理 ・Dダイマー⾼値︓ 施設で定めた基準値(<500ng/mLあるいは<1μg/mL)を超える +下肢の腫脹、熱感など →DVTを疑う︕ 肺⾎栓塞栓症および深部静脈⾎栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)を参照
#34. リハビリ⾒学のススメ Step1︓ 患者さんのリハビリの時間を調べる(電⼦カルテ、看護師) Step2︓ ベッドサイド or リハビリ室に⾏ってみる ✔ 療法⼠は⼤歓迎︕ (ただし認知機能の検査中などは同席してOKか配慮を) ✔ 全部⾒なくてよい(3分でも5分でも・・・) Step3︓ リハビリで何を、何のためにやっているか知る ✔ 患者さんの最⼤のパフォーマンスを⾒る ✔ 療法⼠が医師に感じる「壁」を取り除く
#35. Take Home Message • リハビリ科医は活動をみる希少な医師である。 • リハビリは処⽅するもので、根拠に基づく⽬標設定が重要である。 • ⾃宅環境、家族などの背景を知ることが⼤切である。 • PT>OT>STの⼈数順であり、適切に処⽅する。 • リスク管理は医師の役割である。 • 明⽇から担当患者さんのリハビリをぜひ⾒学してください︕