テキスト全文
肺アスペルギルス症の治療と診断の概要
#1. 肺アスペルギルス症の治療 スペクトラムで考える 新潟大学医歯学総合病院
高次救命災害治療センター/呼吸器・感染症内科
番場祐基
IPA・CPA 2026
#3. 3 肺アスペルギルス症のスペクトラム 診断から治療まで At a glance Immunocompromised Immune dysfunction Normal Immune hyperactivity 造血幹細胞移植後
血液悪性腫瘍 免疫抑制薬
自己免疫性疾患 肺局所免疫の低下・構造改変
COPD/間質性肺炎/肺NTM症 アレルギー
喘息 IPA CPA ABPA sub-acute IPA
(CNPA) CCPA
CFPA Aspergilloma Aspergillus
Nodule Severe Asthma with fungal sensitization
(SAFS) GM抗原 アスペルギルスIgG抗体 (アスペルギルスIgE抗体) 抗真菌薬(アゾール系) ステロイド
抗真菌薬の治療法とガイドライン
#4. 4 肺アスペルギルス症の治療ー抗真菌薬overviewー
#5. 5 肺アスペルギルス症のスペクトラムー治療ー IPA sub-acute IPA
(CNPA) CCPA CFPA 免疫抑制 肺の構造改変 IPA寄りか、CPA寄りか一部はIPA(sub-acute IPA)→CPAとして長期治療することも
どのアゾールを選択するか(投与経路、相互作用、副作用など)他剤を併用するかどうか
非A. fumigatusやアゾール耐性を考慮すべきか
基本的な
考えかた
ガイドライン比較:IPAとCPAの治療
#7. 7 ガイドライン比較:IPA IDSA,2016 ECIL-6*,2017 VRCZ ISCZ(preferred)
VRCZ L-AmB
ISCZ ABLC
CPFG、MCFG
PSCZ、ITCZ L-AmB
PSCZ 第一選択
(推奨A) 第一選択
(推奨B) Salvage
(推奨C) 肺アスペルギルス症の治療 IPA 1)Clin Infect Dis. 2016;63(4):e1-e60
2)Haematologica. 2017;102(3):433-444.
3)Clin Microbiol Infect. 2018:24 Suppl 1:e1-e38. *最新のガイドラインはECIL-10(2025)だが、
治療についてはECIL-6から変わっていない
#8. 8 ガイドライン比較:IPA 第一選択
(推奨A) 第一選択
(推奨B) (推奨C) 肺アスペルギルス症の治療 IPA ESCMID-ECMM-ERS,2017 CPFG L-AmB
VRCZ ITCZ、ABLC
MCFG VRCZ
ISCZ,PSCZ L-AmB
L-AmB、ABLC
CPFG,MCFG
ITCZ Empirical
Neutropenia、HSCT Targeted
Neutropenia、HSCT VRCZ(HIV)
VRCZ(SOT)
L-AmB(SOT)
CPFG(SOT) Non-hematological 1)Clin Infect Dis. 2016;63(4):e1-e60
2)Haematologica. 2017;102(3):433-444.
3)Clin Microbiol Infect. 2018:24 Suppl 1:e1-e38.
#9. 9 ガイドライン比較:IPA(ICU) 肺アスペルギルス症の治療 IPA ATS,2024 一方のアプローチが他方より優れていると判断するには不十分
重症あるいはトリアゾール耐性の懸念がある場合には、併用療法がより適切である CQ1.トリアゾール単剤 vs. 併用療法 Am J Respir Crit Care Med. 2024;211(1):34-53. エビデンスは乏しいが、併用療法(基本はVRCZ+キャンディン系)に含みを持たせたかたちの推奨
#10. 10 肺アスペルギルス症の治療 IPA Open Forum Infectious Diseases, 2025. DOI: 10.1093/ofid/ofaf709
アゾール系抗真菌薬の選択と問題点
#11. 11 ガイドライン比較:CPA IDSA,2016 ERS,2016 VRCZ ITCZ
VRCZ L-AmB
ISCZ PSCZ ABLC
CPFG、MCFG
PSCZ、ITCZ L-AmB、AmB
CPFG、MCFG 肺アスペルギルス症の治療 CPA 第一選択
(推奨A) 第一選択
(推奨B) Salvage Clin Infect Dis. 2016;63(4):e1-e60
Eur Respir J. 2016;47(1):45-68.
Clin Microbiol Infect. 2018:24 Suppl 1:e1-e38. ESCMID-ECMM-ERS,2017 ITCZ
VRCZ PSCZ Azole vs. Azoleの比較試験が乏しい
最近のGLs updateがない
#12. 12 Azole同士の初めての比較試験 (ITCZ vs. VRCZ) 肺アスペルギルス症の治療 CPA Lancet Infect Dis. 2025:S1473-3099(25)00537-7. 6ヶ月時点の治療反応は同等
有害事象(肝障害、粘膜炎、色素沈着)がVRCZで多い
#13. 13 肺アスペルギルス症の治療ー抗真菌薬overviewー ガイドライン準拠 第一選択 第二選択 サルベージ治療 ➡︎カンジダとクリプトコックスの薬
#14. 14 Evidenceは圧倒的にVRCZ(他はダメなのではなく臨床試験が乏しい…) ただし、併用薬や副作用の観点でVRCZが使用しにくい場面も存在 肺アスペルギルス症の治療-小括1
VRCZの有効性と副作用のリスク
#15. 15 VRCZが最善手か? 肺アスペルギルス症の治療 豊富な
エビデンス 代謝 TDM「しなくてはいけない」 TDM「できる」 薬物相互作用 Pros Cons 食間投与
#16. 16 アゾール系抗真菌薬の問題点 肺アスペルギルス症の治療 有害事象 相互作用
#17. 17 アゾール系抗真菌薬の問題点 肺アスペルギルス症の治療 有害事象 肝障害 胃腸症状 その他 皮膚、眼、など
#18. 18 アゾール系抗真菌薬の問題点 肺アスペルギルス症の治療 相互作用
CYP酵素と薬物相互作用の影響
#19. 19 アゾール系抗真菌薬の問題点 肺アスペルギルス症の治療 相互作用
#20. 20 シトクロムP450(CYP)/p糖タンパク(P-gp) CYP3A4 ✔️ ✔️ ✔️ ITCZ VRCZ PSCZ 肺アスペルギルス症の治療
CYP2C9 ❌ ✔️ ❌ CYP2C19 ❌ ✔️ ❌ P-gp ✔️ ✔️ ✔️ ✔️ ISCZ ❌ ❌ ✔️ CYP:アゾール系抗真菌薬の代謝酵素(そもそもの作用点)
P-gp:薬物の細胞外排出を行う(CYP3A4の基質はP-gpの基質であることが多い) ✔️阻害する
❌阻害しない
#21. 21 CYP2C19遺伝子多型 肺アスペルギルス症の治療
VRCZの代謝には、CYP2C19、CYP2C9、CYP3A4が関与するが、CYP2C19が特に重要 *2 G681A
*3 G636A
*17 C3402T, C806T PMでは、VRCZ血中濃度が高くなりやすい
⇨外来でもTDMを実施したいが、保険収載されていない Curr Fungal Infect Rep. 2015 Jun;9(2):74-87.
Br J Clin Pharmacol. 2008;65:437-9
#22. 22 VRCZ濃度と有害事象 肺アスペルギルス症の治療
1) J Antimicrob Chemother. 2016;71(7):1786-99.
2) Int J Antimicrob Agents. 2022;60(5-6):106692.
3) Infect Drug Resist. 2022;15:7475–7484.
4) J Infect Chemother. 2023;29(7):683-687. トラフ濃度と肝障害、中枢神経毒性は用量依存的に関連する トラフ4-6μg/mL以上で肝毒性リスク↑1) 他の肝毒性リスクのある薬剤で↑2)
視野異常を含む神経毒性リスクも用量依存的
トラフ4.85μg/mLを閾値とする報告3)
またCRPとVRCZ濃度は相関する4)ため、特に急性期ではこまめなTDMが必要 ⇨外来でもTDMを実施したいが、保険収載されていない
他のアゾール薬剤の比較と選択
#23. 23 アゾール系抗真菌薬(主にVRCZ)の問題点と対策 肺アスペルギルス症の治療 肝障害 胃腸症状 その他 皮膚、眼、など ◎TDM(VRCZ):トラフ>4μg/mLはリスク
○定期検査モニタリング
○併用薬の点検
○他剤への変更(VRCZ→PSCZ、ISCZ) ○TDM(VRCZ)
○製剤変更/他剤への変更 ○眼、中枢神経:TDM
○VRCZ長期で光線過敏→扁平上皮癌のリスク↑
日光回避(日焼け止め、帽子・長袖)、皮膚科累積投与量に比例
#24. 24 アゾール系抗真菌薬(主にVRCZ)の問題点と対策 肺アスペルギルス症の治療 肝障害 胃腸症状 その他 皮膚、眼、など ①まずはTDM(外来では困難)
②併用薬の調査
③程度に応じて休薬、中止を判断する
#25. 25 他のアゾールは…? 肺アスペルギルス症の治療 ISCZ vs. VRCZ1) 42日目までの死亡率(ITT) 19% vs. 20%(95% CI -7.8 to 5.7)薬剤関連有害事象 42% vs. 60%
PSCZ vs. VRCZ2)42日目までの死亡率(ITT) 15% vs. 21%(95% CI -11.6 to 1.0)薬剤関連有害事象 30% vs. 40% 1)Lancet. 2016 Feb 20;387(10020):760-9
2)Lancet. 2021 Feb 6;397(10273):499-509. For IPA(非劣性試験) 薬剤関連副作用は↓
#26. 26 他のアゾールは…? 肺アスペルギルス症の治療 Isavuconazole vs. VRCZ1)臨床的有効率 82.7% vs. 77.8%薬剤関連有害事象* 61.5% vs. 85.2%
Posaconazole vs. VRCZ2) 臨床的有効率 58.3% vs. 87.0%薬剤関連有害事象* 73.7% vs. 96.3% 1)J Infect Chemother. 2023;29(2):163-170.
2)真菌誌, 2020;61(1), 1-11 For CPA 国内試験 *CPA以外の患者を含む
治療における食事とQT延長の関係
#27. 27 MIC: Minimum Inhibitory Concentration 肺アスペルギルス症の治療
JAC Antimicrob Resist. 2021;3(2):dlab088 MICの直接比較はできないが、VRCZ無効例、非Fuminagtusでは
PSCZが好ましいかもしれない
#28. 28 食事との関係 肺アスペルギルス症の治療
脂溶性であり、食事の影響を受けやすい 1)CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 2023;12(6):865-877.
2)Br J Clin Pharmacol. 2003;56 Suppl 1(Suppl 1):17-23.
#29. 29 QT延長 肺アスペルギルス症の治療
心筋の遅延整流カリウム電流(IKr、hERGチャネル)阻害と薬物相互作用 QT延長 ITCZ、VRCZ、PSCZ QT短縮 ISCZ CYP阻害 他のQT延長薬(例:一部の抗不整脈薬、キノロン、マクロライド、抗うつ薬、向精神薬)を増量する ①併用薬の確認
②ECG+電解質(K,Mg)のフォロー
③QT延長リスクの低い薬剤の選択(ISCZ>PSCZ、VRCZ>ITCZ)
#30. 30 シクロデキストリン,CD
(スルホブチルエーテルβシクロデキストリン) 肺アスペルギルス症の治療
溶解性を高めるためにVRCZ、PSCZ注射薬に含有
CrCl <50 mL/min で蓄積
CDは高曝露で腎毒性が報告され、人でも「理論上のリスク」がある(VRCZやPSCZ点滴が明らかに腎障害を増やすというデータはない) ①CrCl <50 mL/minでは、VRCZ(PSCZ)は経口優先
点滴を用いる場合は、なるべく短期間にとどめる
②CYPを介した、他剤(特にカルシニューリン阻害薬)の濃度上昇に注意
③腎機能低下のみで、VRCZやPSCZ投与を避けるほどのリスクではない
菌種同定と薬剤感受性試験の重要性
#31. 31 アゾール間の比較と選択(私見) Evidence +++ ++
(予防++) ++ 肺アスペルギルス症の治療 VRCZ PSCZ ISCZ Spectrum + +++ ++ 相互作用の少なさ + ++ +++ 副作用 + +++ +++ 注射薬 CD+ CD+
CVCから投与 CD- コスト(内服) ++
(≒500円/200mg) +
(≒8500円/300mg) +
(≒10000円/200mg) ※40mgカプセルの場合 治療の確実性(入院中、TDMで微調整)、エビデンス、値段 ⇨ VRCZ
予防、アスペルギルス以外の医真菌への作用 ⇨ PSCZ
相互作用、アドヒアランス、副作用 ⇨ ISCZ
値段、副作用 ⇨ ITCZ ++ ITCZ + + ++ なし +++
(≒240円/200mg) ※50mgカプセルの場合 CD:シクロデキストリン
#32. 32 菌種同定、薬剤感受性試験 肺アスペルギルス症の治療 一般検査室では
施行困難 1)アゾール耐性かどうかは臨床経過から判断
2)外部へ検査委託(千葉大学真菌医学研究センターなど) 副作用や併用薬の問題:他のアゾールへの変更は検討
不良な経過、無効例:L-AMBやキャンディンの使用
#33. 33 まとめ 肺アスペルギルス症のスペクトラムーIPA、CPAの分類、診断、治療ー IPA sub-acute IPA
(CNPA) CCPA CFPA 免疫抑制 肺の構造改変 GM抗原 アスペルギルスIgG抗体 VRCZ、ISCZ
(±キャンディン) VRCZ(ISCZ、PSCZ)