テキスト全文
がん検診と予防医療の概要
#1. がん検診
藤田医科大学 総合診療プログラム
専攻医:森川慶一
指導医:寺澤佳洋
#2. 予防医療とは 予防医学とは、 American Board of Preventive Medicine 個人だけでなく、
地域や集団を対象にし、
人々の健康を増進する
予防的介入に特化した専門分野
#3. USPSTF United States Preventive Services Task Force の略
予防医療のエビデンスが総括・推奨されている
USPSTFの推奨度とアプリ
#4. USPSTF 推奨度
A: 強く推奨する
B: 推奨する
C: 推奨がない
D: 推奨しない
I : エビデンスが不十分
#5. USPSTFはアプリもある 年齢、性別、たばこの有無、性習慣、妊娠の有無から各人に推奨される
項目をピックアップしてくれる 実際に
使用してみよう!! ePSSで検索!!
#6. 例:70歳男性 喫煙歴あり A:強く推奨する
大腸がんスクリーニング
高血圧スクリーニング・家庭血圧測定
たばこの中止 B:推奨する
腹部大動脈スクリーニング
アルコール多飲の有無
うつ病
糖尿病
転倒リスク
CVD予防のための食事・身体活動 HBV・HCV
潜在性結核感染スクリーニング
肺癌
肥満
CVD予防のためのスタチン使用
#7. USPSTFはアメリカ基準であり、
日本国内とは状況が異なるため、
適応をよく考えて行うと良い
日本におけるがん死亡数と罹患数
#11. がん死亡数順位 がん罹患者数 死亡順位と罹患率は一致しない 2017年 2017年
#12. がん検診 がん検診
何が思い浮かびますか??
がん検診の推奨と非推奨
#13. 口腔がん
甲状腺がん
がん検診 大腸がん
前立腺がん
膀胱がん
卵巣がん
子宮頸がん
精巣癌 乳がん
肺がん
胃がん
膵臓がん
皮膚がん
#14. 口腔がん
甲状腺がん
がん検診 大腸がん
前立腺がん
膀胱がん
卵巣がん
子宮頸がん
精巣癌 乳がん
肺がん
胃がん
膵臓がん
皮膚がん この中で
推奨されているものと
推奨されていないものは
どれでしょう??
#16. USPSTFのがん検診 推奨
(A・B)
乳がん
子宮頸がん
大腸がん
肺がん エビデンス不十分 膀胱がん
口腔がん
皮膚がん 非推奨
(D)
卵巣がん
膵臓がん
前立腺がん
精巣がん
甲状腺がん
子宮頸がんと大腸がんのスクリーニング
#18. 子宮頚がん USPSTF 21-29歳 30-65歳 子宮頸部細胞診にて
3年ごとにスクリーニングを行うことを推奨 子宮頸部細胞診のみで3年毎
ハイリスクヒトパピローマウイルス(hrHPV)
検査で5年毎
細胞診とhrHPV検査の組み合わせで5年毎
罹患率 60-90%低下
死亡率 20-60%低下 Ann Internal Med 2012 ;156:880-891 2018年
#19. 2年ごとの
マンモグラフィを推奨 乳がん USPSTF 50-74歳女性 40-49歳女性 偽陽性が増えるため、個別に検討.
親・同胞・子供に乳がんの患者を持つ女性は40歳代から検査することで意義がある可能性がある 1000人に10年検診し、
約600人の偽陽性を生じ、
3人の乳がんを救命する JAMA Intern Med 2014;174:448-54 2016年
#20. 大腸がん USPSTF 50‐75歳 大腸がん
スクリーニングを推奨 76‐85歳 患者の健康状態および
以前のスクリーニング歴を
考慮する
2016年
肺がんスクリーニングの重要性
#21. 大腸がんスクリーニングの内容 便潜血反応:毎年 全大腸内視鏡:10年毎 CT colonography:5年毎 S状結腸内視鏡:5年毎 年1回の便潜血
それに対する内視鏡
→死亡率30%程度低下 NEJM 2013;369:1095-105
#22. 大腸がん家族歴あり 60歳未満の第一近親者
2人以上の第一近親者(年齢関係なし)
大腸がん 腺腫性ポリープ または 40歳から 親族で最も若年の発症-10歳
or 5年おきの全大腸内視鏡スクリーニング あり
#23. 肺がん USPSTF 喫煙歴のある
55-80歳 30pack-year以上の喫煙歴、
過去15年以内に禁煙、
低線量CTを用いた肺がんの1年1回
2013年
#24. 低線量CT 通常のCTの1/10程度の線量にて検査する 毎年の低線量CT実施により、
相対死亡リスクを20%低下させられる 一次予防が圧倒的に重要!! NEJM2011;365:395-409 肺がん死亡者数を減らすことはできない JAMA2011;306:1865-73 X線検査では
胃がんの死亡率と検診方法
#25. 胃がん 米国 日本 10,990人 48,632人 死亡率 死亡者数 10万人当たり
3.5人 10万人当たり38.7人 2014年 2013年
#26. 胃がん 米国 日本 10,990人 48,632人 死亡率 死亡者数 10万人当たり
3.5人 10万人当たり38.7人 2014年 2013年 日本の死亡率は
圧倒的に高い!!
#27. 胃がん検診 X線検査 内視鏡検査 50歳以上/間隔1-3年 50歳以上/間隔2-3年 2014年
#28. Helicobacter pylori 感染すると胃癌のリスク
萎縮性胃炎や腸上皮化生を生じる前に
除菌できるとより有効である
3-20倍 除菌 vs 対象群(プラセボまたは治療なし)
1.6% 2.4%
BMJ 2014;348:g3174 胃癌発症率
卵巣がんと前立腺がんの検診
#29. USPSTFのがん検診 推奨
乳がん
子宮頸がん
大腸がん
肺癌 エビデンス不十分 膀胱がん
口腔がん
皮膚がん 非推奨
卵巣がん
膵臓がん
前立腺がん
精巣がん
甲状腺がん
#30. 卵巣がん 腫瘍マーカーCA125
経腟超音波 で行われていたが…. 死亡者リスク減らず、
偽陽性の不必要な手術が多く実施された JAMA2011;305:2295-303 家系に多くの乳がん、卵巣がんあり
BRCA遺伝子変異疑い
→遺伝子変異を確認後、予防的卵巣摘出術により救命が期待
2018年
#31. 膵臓がん 発見された時点で
手術は20%程度にしか適応にならない 手術ができても、2年生存率は10-20%程度 発見できても、
根治が非常に難しい 2019年
#32. 前立腺がん 55-69歳 70歳以上 見込まれる利益と不利益が明確に理解されたうえで、患者の判断に基づいて決定されるべきである。 行うべきではない!! 2017年
がん検診のエビデンスとバイアス
#33. 前立腺がん 前立腺がん死亡を10年以上かけて
1000人に1人減らす程度 PSAスクリーニング AUA 2013 約5億円費やして、
1人の死亡を予防することになる NEJM.2009:360(13):1320-8
#35. Case.1
検診により見つかったがんの80%がStage1であり、
症状が出てから見つかったがんの30%と比べるとずっと高い Case.2
検診でみつかったがんは早期のものが多く、
5年生存率は90%である一方、検診を受けずにがんが見つかった場合の5年生存率は60%である Case.3
ランダム化比較試験(RCT)において、
検診をした群の死亡率は検診をしなかった際の
死亡率と比較して有意に低かった
#36. Case.1
検診により見つかったがんの80%がStage1であり、
症状が出てから見つかったがんの30%と比べるとずっと高い Case.2
検診でみつかったがんは早期のものが多く、
5年生存率は90%である一方、検診を受けずにがんが見つかった場合の5年生存率は60%である Case.3
ランダム化比較試験(RCT)において、
検診をした群の死亡率は検診をしなかった際の
死亡率と比較して有意に低かった この中で
がん検診の有効性を
証明するエビデンスは
どれですか?
#37. Case.1
検診により見つかったがんの80%がStage1であり、
症状が出てから見つかったがんの30%と比べるとずっと高い Case.2
検診でみつかったがんは早期のものが多く、
5年生存率は90%である一方、検診を受けずにがんが見つかった場合の5年生存率は60%である Case.3
ランダム化比較試験(RCT)において、
検診をした群の死亡率は検診をしなかった際の
死亡率と比較して有意に低かった
#38. がんを早期発見できる事実をもって
検診の効果が証明できるわけではない
検診により発見されたがん患者の生存率が
高いからと言って、検診が有効なわけではない バイアスが存在する!! ※ただし、推奨されている
すべての検診でRCTで有効性が示されているわけではない
がん検診のバイアスと推奨される検診
#39. がん検診のバイアス Selection bias
Lead-time bias
Length bias
Overdiagnosis bias
#40. Selection bias がん検診を受ける人は
受けない人と比べて属性が違う
交絡因子を調整することである程度リスク回避できるが、
未知の交絡因子が残る可能性あり
特に自主的な参加者を対象にした
コホート研究などで差が生じやすい
これらを防ぐために
RCTを
しっかり行うことが大切!!
#41. Lead-time bias がん発生 検診発見 症状出現 死亡 A B Lead
time
#42. Lead-time bias Aさんは検診のおかげで長生きしたようにみえるが、
実際はBさんと死亡する時点は変わっていない 検診を始めた時点から計測した集団の死亡率を
検診群と非検診群で比較することで解消できる 5年生存率の比較による有効性の検証には
注意が必要である
#43. A B Length bias 検診
1回目 検診
2回目 検診
X回目 がんが発生したタイミング 検診発見可能な大きさ 発見される
タイミング
#44. Length bias 検診で発見される癌は、
検診で発見されない癌に比べて緩徐に進行し、
そもそも予後が良い可能性がある
#45. Overdiagnosis bias 放っておけばそのまま消失するか、
死ぬまで進行がんにならないような
遅い早期がんも拾い上げてしまう可能性のこと 早期がんが多く見つかったことが
がん検診の有効性の証明でなく、
検診する群としない群の死亡率の比較が大切!!
#46. まとめ 実は推奨されているがん検診は限られる!!
日本人では
胃がん
乳がん
子宮頸がん
肺がん
大腸がん が推奨!! 有効性の判断には各種バイアスを意識する!!
#48. まとめ 胃がん 子宮頚がん 乳がん 肺がん 大腸がん v 50歳以上 50-74歳 20-29歳
30-65歳 55-80歳 50-75歳 v 胃内視鏡/2-3年
胃X線検査/1-3年 v 細胞診/3年
細胞診±hrHPV/5年 v マンモグラフィー/2年 v 30pack-year以上
低線量CT/1年 v 便潜血/1年
大腸内視鏡/10年 2014 2018 2016 2013 2016