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腎臓内科
救急科
東北大学病院
尿細管性アシドーシス(RTA:Renal Tubular Acidosis)は大体は酸の排泄障害によって起こり、腎機能低下による高K血症、溢水が緊急透析の適応となります。このスライドを通して腎機能の基本的な生理学的機能を大まかに知っていただけたら幸いです。
◎目次
・今回のTips
・腎臓の生理学的な機能(ごく簡単に)
・今回は尿の生成に注目
・GFR↓となると老廃物が溜まる → 代謝異常
・CKD → 代謝性アシドーシス
・尿細管性アシドーシスの本質
・1型RTAの本質
・4型RTAの本質
・2型RTAの本質
・RTAがわかって役に立つの?
・Q&A:代謝性アシドーシスとRTAは合併しない?
・Q&A:薬剤性でRTAを合併したらやめるべき?
・緊急透析も腎臓の生理が分かれば理解しやすい
・尿の生成ができなくなると…
・RRTの基本的な考え方
・緊急血液透析(HD)の適応
・RRT開始のタイミング
・Q&A:AKIで念のためにRRTした方がいいですか?
・Q&A:AKIで高P血症など合併しますか?
・Q&A:AKIかCKDか分かりません
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腎臓の生理を理解すると簡単 〜尿細管性アシドーシスや緊急透析の適応〜 長澤@腎臓内科 1
今回のTips ✔ 腎機能の基本的な生理学的機能を大まかに知る ✔ 尿細管性アシドーシス(RTA:Renal Tubular Acidosis)は 大体は酸の排泄障害 → 重炭酸塩の再吸収障害でも起こる(珍しい) ✔ 腎機能↓で高K血症、溢水が緊急透析の適応 → GFRが落ちたことによる問題が大半 2
腎臓の生理学的な機能(ごく簡単に) 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 🞐 エリスロポエチンの産生 🞐 ビタミンDの活性化 🞐 レニンの分泌 尿の生成が重要 主に間質の細胞などが傷んで 機能が落ちてくる 3
今回は尿の生成に注目 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 🞐 エリスロポエチンの産生 🞐 ビタミンDの活性化 🞐 レニンの分泌 尿の生成が重要 主に間質の細胞などが傷んで 機能が落ちてくる 4
今回は尿の生成に注目 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 糸球体ろ過量(Glomerular Filtration Rate:GFR)に依存している 大事なポイント ✔ 尿量は GFR<5 を切る程度まであまり変わらない ✔ CKD(慢性腎臓病:Chronic Kidney Disease)では老廃物の排泄はG4あたりから低下していく ✔ 腎不全は「質の良い尿が作れない病態」と解釈する 5
GFR↓となると老廃物が溜まる → 代謝異常 高K血症 アシドーシス 高P血症 CKD G1 ー 10% ー CKD G2 5% 6% 5% CKD G3 20% 16% 10% CKD G4 30% 39% 20% CKD G5 40% 56% 50% ✔ 質の良い尿 = 老廃物をきちんと出せる尿 ✔ GFRが落ちると下記が生じる 🞐 Crの排泄低下 → CKDステージ進行 🞐 H+の排泄低下 → アシドーシス 🞐 Kの排泄低下 → 高K血症 🞐 Pの排泄低下 → 高P血症 ✔ ただし、1つの症例でどの順番で生じるかはわからない N Engl J Med. 1999; 341: 709-17 N Engl J Med. 2004; 351: 543-51 Intern Med 2008;47:1315-23 Kidney International 2011;79:1370–1378 Kidney Blood Press Res 2020;45:863-872 6
CKD → 代謝性アシドーシス ✔ 尿からは不揮発性の酸を排泄する ✔ 上記の理由で基本的に尿は 酸性(pH=5-6 が多い) → 特にアルカリ化などしていないのに尿がアルカリはおかしい! ✔ GFR↓ → 不揮発性の酸の蓄積 → 不揮発性の酸=水溶性の酸、揮発性の酸 ≒ CO2 → そのためにCO2↓して代償する ✔ 最終的には CKD では Anion Gap が開大するアシドーシス → 臨床的には Cl の上昇で認識する AG = Na ー(HCO3 + Cl) → これが大体 12 ± 2 程度 7
尿細管性アシドーシスの本質 🞐 尿細管からの酸の排泄障害(1型、4型) 🞐 重炭酸が再吸収されない(2型) 🞐 3型は永久欠番(1型の重症型と言われている) → 小児科では成長障害を生じるために重要。成人では二次性の RTA が多い 🞐 AG が開大しないアシドーシスである! 8
1型RTAの本質 ✔ 尿細管からの 酸 の 排泄 障害 ✔ 1型:集合管での H+ の排泄障害 → なので遠位尿細管アシドーシスと呼ばれる ✔ H+ の排泄障害を反映して、尿の pH>5.5 ⮚ 尿中AG = 尿Na + 尿K - 尿Cl(= 80 - 尿NH4+) ⮚ H+はNH4+の形で排泄されるために、尿中NH4+が 減ると尿 AG が正の値になる ⮚ 下痢や嘔吐などの腎外のアルカリ喪失だとNH4+が → NH4+ を負荷しても尿中の pH が下がらない(診断に使う) ✔ 血液 AG は開大しない(一度は確認) 増加して尿中 AG が負の値となる → ただし uNa < 20mEq/L やアルカリ尿など 使えない場合が多い ✔ マニア的には、尿中 AG>0 となる(知らなくても困らない) ✔ 臨床的に、両側腎実質石灰化でシェーグレン症候群などを想定するキッカケになる → 低K血症を伴うことが多い 9
4型RTAの本質 ✔ 尿細管からの 酸 の 排泄 障害 ✔ 4型:集合管での H+、K 排泄障害(アルドステロンが効かないことで生じる) → こちらも遠位尿細管アシドーシスと呼ばれる。高K血症を伴うことが多い アルドステロンが出ない、又は効かない場合。ただしチャネルの異常などは難治性かつ激レア ✔ 臨床的には RAA 系を使っていれば起こりうる ✔ むしろアルドステロンの過剰分泌(原発性アルドステロン症)が逆の病態なので、 高血圧で低K、アルカローシスを気にした方が良い 10
2型RTAの本質 ✔ 尿細管からの 重炭酸 の 再吸収 障害 → 近位尿細管アシドーシスと呼ばれる ✔ 成人では二次性が多い(ファンコニ症候群などが多い) → 抗がん剤など薬剤性も多い ✔ 尿の pH は低い(<5.5) 酸の排泄は障害されないため ✔ 臨床的には HCO3ー が低下 → Cl が上がるが、AG は開大しない → なので一度は動脈ガス分析をする ✔ 低K血症を伴うことが多い → ややこしいが、HCO3ー の排泄増加 → Naの遠位尿細管への到達増 → Na再吸収 → K排泄 11
RTAがわかって役に立つの? A. ほとんど役に立ちません ✔ 高 Cl 血症を見たときに、鑑別ができるくらい ✔ コツコツ続けると、珍しい病気分類などに気づける シェーグレン症候群、原発性胆汁硬化症を伴う間質性腎炎(IgMPC-TIN:Tubulointerstitial Nephritis with IgM-Positive Plasma Cells.) J Am Soc Nephrol. 2017;28:3688-3698 ✔ きちんとした内科の素養として1回整理した方がよい(個人的な意見) 12
Q&A:代謝性アシドーシスとRTAは合併しない? A. 多分日常的にしています ✔ RTA は AG が開大しないことが特徴なので、AG が開大するものが合併した場合、 認識できなくなります ✔ 特に GFR が 30 を切ってくるような場合は認識が難しいです ✔ 「腎機能正常なのに高 Cl 血症がある、尿がアルカリ?」などがポイントになります 13
Q&A:薬剤性でRTAを合併したらやめるべき? A. 悩ましいです ✔ 例えば、以下のような薬でRTAを起こすことが知られていますが、 「RTAを起こしたくらいでやめるような薬を使うのはそもそもなぜか?」と思っています 🞐 リチウム 🞐 ST 合剤 🞐 アムホテシリン B 🞐 カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンやタクロリムス) ✔ ファンコニ症候群を起こす薬剤も山程ありますので、 普段から「どのくらいの必要度か?」は考えておいた方が良いと思っています 14
緊急透析も腎臓の生理が分かれば理解しやすい 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 🞐 エリスロポエチンの産生 🞐 ビタミンDの活性化 🞐 レニンの分泌 尿の生成が重要 主に間質の細胞などが傷んで 機能が落ちてくる 15
尿の生成ができなくなると… 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 ✔ 上記ができなくなるのが急性腎障害(AKI:Acute Kidney Injury) ✔ AKI による Renal Indication が緊急透析の適応 16
RRTの基本的な考え方 ※RRT(Renal Replacemet Therapy):腎代替療法 ⮚ 腎機能障害で身体の恒常性が破綻した際のサポート → Renal Indication ⮚ 敗血症などのサイトカイン除去 → Non Renal Indication(最近は旗色が悪い)
緊急血液透析(HD)の適応 ✔ Renal Indication = 破綻した恒常性へのサポート 🞐 利尿剤に反応しない溢水 → 主に心不全、SpO2>95%を保つ為に >5L FM or FiO2>0.5 以上必要な時で フロセミドを十分量投与しても利尿がつかないとき 🞐 ※フロセミド十分量 = Cr 値 × 40 mg(経験上) 内科的治療でも K>5.5 mmol/L → 心電図変化を伴う場合や尿が出ない場合と捉える 🞐 代謝性アシドーシス(pH<7.15) → 代謝性アシドーシス単独で透析の適応になるのは稀な印象、下記の中毒などの場合が多い 🞐 一部の中毒 → 一般的にはアルブミンと結合しない水溶性小分子が有効 Ex:アルコール、エチレングリコール、 カフェイン、アシクロビル、、、
RRT開始のタイミング ✔ ICUに入るような重症な患者の研究が多い ※参考:AKIKI、ELAIN、IDEAL-ICU 研究など。ただし海外は導入までかなり粘る印象 ✔ 適応を満たす前に HD を始めてもメリットはなし STARRT-AKI (N Engl J Med 2020; 383:240-251) ✔ (適応があるが)さらにデータ悪化まで粘っても HD を回避できず、若干死亡率↑ AKIKI 2 (Lancet 2021;397:1293-1300.) ▼出口戦略も考えておく ⮚ 適応を満たすタイミングで速やかにHDを導入する準備が大事 尿量低下(<0.5 ml/kg/h)で溢水 and/or 高K血症(K> 5.5 mmol/L) (1時間後に適応を満たしそうなときに準備開始するイメージ)
Q&A:AKIで念のためにRRTした方がいいですか? A. 早すぎるRRTの導入はメリットがなさそうです ✔ しかし、重症者ではメリットがあるかもしれません (Oncotarget. 2017;8:68795-68808) ✔ ただし、「夜にRRT開始するのイヤだから、昼間のうちに開始しておこう」という 医療があるとすれば、それは誰にとってメリットになるかはよくわかりません 20
Q&A:AKIで高P血症など合併しますか? A. これは結構きます。高P血症は見られることが多いです ✔ これに伴いPTHなども上がってきます(恐らく数日で上がると思います) (Emerg Med Int. 2019 Mar 12;2019:2102390) ✔ PTH が上がっていない AKI などを見ると、 「フレッシュな AKI なのかな?」と考えていることが多いです 21
Q&A:AKIかCKDか分かりません A. 分からないことは結構あります ✔ ただし以下がある場合はCKDがベースにあるのでは?と考えることが多いです (Clin Nephrol. 2010 Jul;74(1):46-52.) 🞐 腎臓が萎縮(< 9cm) 🞐 皮質が薄くなっている 🞐 皮質が高輝度 など ✔ 腎後性を否定するためにエコーを当てると思いますので、 腎臓の形態にも少し興味を持ってみるとよろしいかと思います 22