テキスト全文
#1. 歯を失うほど、 寝たきり早死に一直線 a a 作者 Dr KOTATSU 編者 h n かっぱ@歯科
#2. Take Home Message 残存歯数の少なさが大腿骨骨折のリスク因子となりうる。 歯周病で歯を失う本数が多い人ほどアルツハイマー病になりやすい。 歯間清掃が長生きの秘訣。寝たきり予防の一つとして歯科受診を勧めよう。
#3. 日本人の平均寿命と健康寿命の格差 平均寿命 健康寿命 平均寿命 男性 健康寿命 女性 90 90 87.14歳 80.98歳 82.5 平均寿命:0歳における平均余命 85 8.84年 75 72.14歳 67.5 12.35年 80 健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限 75 74.79歳 60 されることなく生活できる期間 70 年 16 20 年 13 20 年 10 20 年 07 20 年 04 20 年 01 20 年 16 20 年 13 20 年 10 厚生労働白書 20 年 07 20 年 04 20 年 01 20 平成28年版 P12を参照 平均寿命と健康寿命の差:日常生活に制限のある「不健康な期間」 その期間は、2016年では男性8.84年、女性12.35年となっています。 平均寿命と健康寿命の差を縮めることが今後の目標になりそうです。 日常生活に制限がある、『寝たきり』の状態に注目していきましょう。
#4. 寝たきりの原因は 認知症とフレイルで6割を占める 寝たきりの原因の第一位はずっと脳血管疾患でした。 しかし、2016年に認知症が寝たきりの原因疾患第一位となりました。 寝たきりの原因疾患 (%) 30 その他の原因疾患について見ていくと、 認知症 22.5 脳血管障害 骨折・転倒 15 • 高齢による衰弱 • 関節疾患 • 骨折転倒 共通因子 いわゆる フレイル 筋骨格系の 能力の低下 寝たきりの原因 疾患の1/3以上 認知症と合わせると 全体の6割以上 2019年には骨折・転倒が第3位に踊り出てきました。 7.5 0 フレイルの状態にならない つながる 年 19 年 16 高齢による衰弱 健康寿命を伸ばすことに 20 20 年 13 年 10 年 年 07 04 年 01 認知症 20 20 20 20 20 脳血管疾患 骨折・転倒 認知症にならない 関節疾患 認知症にならないようにするのはかなり難しいですが、 フレイルの状態にならないようにするのは、実は今日からでもできる ことがあります。 その前に、まずはフレイルについておさらいしましょう。 厚生労働省 国民生活基礎調査よりグラフを作成
#5. フレイルって何? フレイル:加齢によって身体と心の活力が低下した状態で要介護の状態に進む前段階 (日本老年医学会で提唱) 運動機能や認知機能などが低下+複数の慢性疾患も影響 生活機能の衰え、心身の弱さが出現 身体的 フレイル 身体的フレイル、社会的フレイル、精神・ 心理的フレイルは相互に影響を及ぼし合う ので、多角的に対応する必要があります。 筋肉減少 肺活量の低下 など 相互に影響 2020年度から後期高齢者医療制度の健康診査で、 社会的 フレイル 精神・心理的 フレイル フレイル状態のチェックがスタート。 社会的な孤立 経済力の不足 記憶力の低下 気分的なうつ 2019年度まではメタボリックシンドローム対策に 引きこもりなど など 着目していましたが、今後はフレイルなど後期高齢者 の健康状態を総合的に把握する方向へシフトして フレイルの多面性 いきそうです。
#6. フレイル対策が重視される理由 フレイルが要介護状態になる危険が高い状態であること。 適切な介入や支援を行うことで健康を維持して、自立した生活を送れる状態でもあること。 フレイルが改善することで、健康寿命を延ばすことが十分に期待できること。 フレイルの状態は、フレイルではない状態に比べ、 自立喪失(要介護発生または死亡)の発生リスクが約2.4倍高い。 自立 平成29年11月に公表された地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの研究により フレイルは 早期発見・早期対応が重要! 生 活 機 能 健康 フレイル 要介護状態 死亡 加齢 厚生労働省 平成28年版厚生労働白書〜人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える〜をもとに作成
#7. フレイルの評価 フレイルの統一された評価基準はなく、Friedらの評価基準が一般的に用いられています。 ①歩行速度低下(<1m/秒) ②握力低下(<26kg;男性、<18kg;女性) ③易疲労感(わけもなく疲れたような感じがする) ④身体活動性低下(運動・体操はしていない) ⑤体重減少(6か月間>2kg) ちょっと分かりにくい・・。 ①〜⑤で 3項目以上当てはまるとフレイル、 1〜2項目当てはまるとフレイルの前段階のプレフレイル。 自分や家族が気づく方法として、 ①横断歩道を渡るのに難渋することがある。 (1m/秒で渡れる設計になっている) ②ペットボトルが開けにくい、牛乳紙パックが開けられない。 ③疲れた顔をしている。 ④家の中にいて体を動かさない。 ⑤痩せてきた。 と言った、見かけや観察が重要。
#8. フレイルサイクル ~その悪循環~ 低栄養 食欲・摂取量 低下 加齢 体重減少 精神的な 疾患 筋肉量減少 憂鬱 基礎代謝 バランス障害 低下 消費エネルギー 易疲労 筋力低下 転倒・外傷 低下 前ページで示したフレイルの 5つの評価基準でもある兆候 ・筋肉量減少 ・易疲労 ・歩行速度の低下 ・活動性の低下 ・体重減少 移動困難 活動性 低下 歩行速度 低下 障害 互いに関連し合って 悪循環を形成 要介護 フレイル予防のためには、栄養バランスの取れた食事、 継続的な運動、社会参加など総合的な対応が必要となります。 国立長寿医療研究センター 「フレイルサイクル」を元に作成
#9. オーラルフレイルって何? オーラルフレイル:身体の衰え(フレイル)の一つ。 老化に伴う様々な口腔の状態の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下 も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を 与え、心身の機能低下にまでつながる一連の現象及び過程。 分かりにくっ・・・。 ただ単に『口の機能の衰え』で は な い その人の生活や環境の変化により、口に対する関心の低下からスタートして、 次々に負の連鎖を起こしていくのです。 次のページでは、負の連鎖の概要を説明していきます。
#10. オーラルフレイルの負の連鎖 一連の現象と過程を指してオーラルフレイルです。 負のライフイベントで 生活環境などの変化 自分の口腔内への 関心低下 日常生活の中で口のささいな トラブル出現! でも関心がなく放置 口のケアなんてどうで • • • • もいいわ…。 負の連鎖 最終的に ますます 低栄養・サルコペニア の リスクアップ 体重がものすごく 食欲の低下 食の偏り 口腔機能低下 うまく 食べる機能の 障害出現 滑舌低下 噛めない食品の増加 食事中にむせる 食べこぼしの増加 など 飲み込めない…。 減ってる! 動いていないから食欲もわかない。 一人で食べても美味しくない。 歯がぐらぐらしてるから うまく噛めないし…。 ・咬合力低下 ・舌運動機能低下 など さらに、それぞれの現象は4つのレベルに分類され、それぞれに対応の仕方が異なるんです。 柔らかいものを 好んで食べる
#11. オーラルフレイルに気づくポイント 口腔機能低下の悪循環 我々医療従事者が、 噛めない どの時点でオーラルフレイルに気付けるかが重要です。 担当患者の 食欲低下 噛む機能 の低下 柔らかいもの を食べる ・食欲低下 ・食事の偏食 ・体重の増減 ・口腔内の診察 を注意深く観察してください。 口腔内の診察のポイント ・歯のない場所があり、しかも入れ歯などの治療をしていない。 ・歯がぐらぐらしている。 ・歯垢や歯石がべったりと付いている。 ・舌の表面が乾燥、あるいは舌苔が付着している。 ・口臭がひどい。 ・半年以上、歯科を受診していない。
#12. 「オーラルフレイル」という言葉の意義 『オーラルフレイル』という言葉の意義 様々な医療・介護の現場において、「口腔領域のささいな機能低下を見逃さない」 と警鐘を鳴らすことを目標。 オーラルフレイルの人の 新規発症のリスク 身体的フレイル 2.4倍 サルコペニア 2.1倍 左の図表は、柏スタデイの調査結果です。 概要 ・千葉柏市在住の高齢者2,044人に45ヶ月間の縦断調査。 ・オーラルフレイル:6つの口腔指標のうち3つ以上低下した者と定義。 ・6つのうち0個の対象者と3個以上の対象者で比較。 ・年齢、性別、手段的日常生活動作、BMI、認知機能、うつ傾向、 居住形態、既往歴、服薬数を調整。 様々な要因を考慮しても 要介護認定 2.4倍 総死亡リスク 2.1倍 口腔機能の低下 →フレイル、サルコペニア、要介護認定、総死亡リスクの全ての発生に関与。 先にオーラルフレイルが生じて、 その後全身のフレイル、身体能力の低下につながっていくことを示唆した結果。 オーラルフレイル→プレフレイル状態 口の変化に気づけばフレイルの早期発見につながりやすい、ということです! フレイルの5つの評価基準に含まれる低栄養と体重減少に影響を与える、『食べる』ことのスタート地点である 口腔が重要な役割を果たしていると言えますね。
#13. オーラルフレイルと老化は違う? 『老化』は自然の摂理として起こる進行性の現象のことです。 では、「むせ」や「食べこぼし」は老化 or オーラルフレイル? 「むせ」や「食べこぼし」は、年をとるとみんなに起こっているような…。 だから老化現象?? あ!でもさっき、オーラルフレイルの第2レベルに 「むせ」や「食べこぼし」が症状としてあった!あれれ? そうだったね! 「むせ」や「食べこぼし」は、生理的老化の初めの一歩でもあります。 では、自然の衰えとオーラルフレイルの違いはなんだと思いますか? え〜、、、なんだろう。。 大きな違いは、その『きっかけ』と『機能回復の可能性』です。 オーラルフレイルのきっかけが社会的問題、精神心理的問題と複合的に生じるもので、それゆえ不自然な衰えなのです。 早期に発見し、意識的なアプローチで、 口腔周辺の器官の老化を緩やかにすることができ、かつ口腔機能を回復させる余地もあります。 しかし、逆に放置することで、 自然の衰え以上に口腔機能の低下が進行することもあります。
#14. オーラルフレイルを予防するには? 社会とのつながりを保つようにする。 自分の健康などへの関心を保ち続ける。 かかりつけ歯科医をつくっておく。 自分の気づかない口の中の変化を教えてもらい、 オーラルフレイルの予兆の早期発見。 6ヶ月〜1年に1回は定期的に歯科検診に行く。 自分の口への関心を保ち続け、 オーラルフレイルを予防する。 虫歯や歯が抜けている所は放置せず治療する。 しっかりと噛める口腔内の状態に保つ。 自分にあった口腔ケアのグッズや方法を理解 自分への口の関心を保ち、口腔内を良い状態に しておく。 保ち続ける。 偏食はせず、噛みごたえのある食材も選んで、 しっかりと噛むことで、口腔機能の低下を予防、 よく噛んで食べる。 オーラルフレイルの予防につながる。
#15. 2065年の高齢化率は38%台の見通し 2020年時点 総人口 1億2571人 65歳以上 3619万人 高齢化率(総人口に占める割合)28.8% 2029年 1億2000万人を下回る 2053年 9924万人 2065年 8808万人 65歳以上 3381万人 とうとう1億人を割った! 高齢化率 38.4% 2.6人に1人が65歳以上 3.9人に1人が75歳以上 平成29年4月 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より 今からおよそ40年後の2065年、 75歳以上と言えば、健康から不健康へと変わる年代 4人に1人が何らかの形で日常生活に支障をきたしているとしたら・・・。 寝たきりの主な原因は、フレイルと認知症でしたね。 そのフレイルのきっかけとなる骨折・転倒と口腔との関連、 また、長生きと口腔内との関連について説明していきます。
#16. レモネード・スタディ 日本の歯科医師自らが参加する前向き研究 目的:「口腔状態が良好であれば寿命が長く、重大な疾病への罹患も少ない」という仮説を検証するため 対象:21,272人の歯科医師 期間:10年間にわたり疾患罹患状況・死亡の追跡調査 対象者の内訳 対象者の選抜理由: ①当時の歯科医師会会員の1/3に該当 ①歯科医師であれば自分自身で正確な口腔衛生状況を調査しやすい ②女性は8.0% ②歯科医師会を通じて対象者の疾病罹患状況や死亡を把握しやすい ③年齢は52.3 12.3歳で40代が最多 ④平均9.6年の追跡期間中に1,086名の死亡(5.5%)を確認 このレモネード・スタディにおいて、 ・歯の喪失と転倒骨折の関連性 ・歯の喪失と死亡リスクの関連性 ・歯間清掃と死亡リスクの関連性 についての調査結果が出ているの以下で紹介していきます。
#17. 残存歯数の少なさが 大腿骨骨折のリスク因子になりうる 〜寝たきり原因の第3位「転倒・骨折」と歯の喪失〜 大腿骨骨折(大腿骨頸部・転子部骨折)と喪失歯数の関係について見ていきましょう。 対象:50歳以上の男性歯科医師9,992名 うち20名に大腿骨骨折が発生 年齢:61.1 9.6歳 期間:平均6年間 6 結果 大腿骨骨折の危険度 歯を10〜19本失う 2.3倍に高まる 歯を20本以上失う 5.2倍に高まる 歯を失うことで、体幹のバランス維持能力の低下につながり、 結果として転倒骨折が増加すると考えられいます。 3 確かに、口を開けたまま(つまり歯を食いしばらないで) 1.5 ジャンプなんかは難しい! 0〜9 10〜19 20〜28 喪失歯数(本) ➡︎ 0 ➡︎ 大腿骨骨折危険度 4.5 でも、そもそも歯ってそんなに抜けるもんなのかなぁ?
#18. ➡︎ 年取ると歯は何本抜けてしまうの? 年齢階級 対象者数 35〜39 40〜44 45〜49 50〜54 55〜59 60〜64 65〜69 70〜74 75〜79 80〜84 85〜 190 254 202 221 254 351 503 380 319 224 136 割合(者率) 平均値(無歯顎者除外) 無歯顎者 20歯以上 現在歯数 喪失歯数 0 100 28.56 0.32 0 98.8 27.97 0.78 0 99.0 27.59 0.95 0 95.9 26.44 1.96 1.2 91.3 25.64 2.85 1.4 85.2 24.22 4.29 2.4 73.0 22.12 6.20 6.3 63.4 21.04 7.33 7.5 56.1 19.46 8.89 16.1 44.2 18.25 9.99 25.7 25.7 14.70 13.56 歯科疾患実態調査2016年より作成 ・歯は28本 ・親知らずを入れると32本 ターニングポイントは50代 ・50代から歯が一本もない無歯顎者 が出てくる。 ・50代から歯を失う本数が急に増え てくる。 ・健康寿命の境界の75歳から20本歯があるのはおよそ半数。 ・80代になると無歯顎の数が急激に増える。 70代を超えると、7本以上は抜けていることになる。 28本中7本を多いとみるか少ないとみるか…。 ものを噛むのに大切な奥歯2本(大臼歯)が上下左右ほぼ全部(計8本)抜けている場合もある。 これだと物はかなり噛みにくい!
#19. 歯の喪失本数が多いほど 死亡リスクも高まりやすい 〜歯の喪失数と死亡危険度の関係〜 性、年齢を考慮 他の関連要因も考慮 2 左のグラフは、喪失歯数と死亡危険度の関係を 1.80** 1.49** 死亡危険度 1.5 1.27* 1.17 1 1.32* 1.55** 1.54** 1.59** 1.35* 1.30* 5本ごとの喪失数で比較したものです。 喪失歯数の増加とともに有意に死亡リスクが上昇し、 10本以上歯を失うと、 1.00 1.00 わずか8年の間に死亡リスクは5割以上も高まります。 死亡に関連しそうな他の要因を考慮しても 0.5 10本以上歯を失うと、死亡リスクは3割以上も高まります。 0 0〜4 5~9 10~14 15~19 喪失歯数(本) 20~24 25~28 平均追跡期間:7.9年 関連要因:アルコール摂取習慣、喫煙習慣、肥満度、糖尿病の既往、高脂血症の既往、 高血圧症の既往、精神的健康度、睡眠時間、激しい運動の有無 *p<0.05,**p<0.01 以上から、 歯を多く失うと、足も骨折しやすく結果的に寝たきりに つながりやすく、しかも長生きしにくくなるということ が言えそうです。 若井建志ら:歯科医師を対象とした歯と全身の健康,栄養との関連に関する研究-喪失歯と総死亡,動脈硬化関連疾患,肺炎死亡リスクとの関連-.公益財団法人 8020推進財団会誌「8020」,No12:96,2013より作成
#20. 歯間清掃が長生きの秘訣 〜歯磨きと歯間清掃、どちらが命に関わる!?〜 1 1 性、年齢を考慮 他の関連要因も考慮 さらに喪失歯数も考慮 0.9 0.8 1回以下 2回 3回 4回以上 1日の歯磨きの回数 『歯磨きと死亡危険度についての結果』 死亡危険度 死亡危険度 1.1 0.75 0.5 0.25 0 ほとんどしない 4回以下 5回以上 1週間の歯間清掃回数 『歯間清掃と死亡危険度についての結果』 1日4回以上歯磨きしても、1日1回以下しか 『歯間清掃をほとんどしていない』集団の 歯を磨かなくても、様々な要因を考慮した結 リスクを基準値1.0に設定すると週5回以上 果は、死亡リスクとの間に有意な関連が認め 歯間清掃を実行している集団の死亡リスクは られませんでした。 0.84と、有意な低値を示しました。 だからって歯磨きしないでいいわけではありません!! 歯磨きは当たり前の大前提で、プラスして毎日歯間清掃もしましょう。 歯間清掃すると、10年間の死亡リスクが2割も減少し長生きできる可能性があるのです! 次に、寝たきりの原因第1位の認知症と口腔との関連について説明します。 若井建志ら:歯科医師を対象とした歯と全身の健康,栄養との関連に関する研究-喪失歯と総死亡,動脈硬化関連疾患,肺炎死亡リスクとの関連-.公益財団法人 8020推進財団会誌「8020」,No12:96,2013より作成
#21. その物忘れ、加齢 or 認知症 ? 加齢による『物忘れ』と認知症による『物忘れ』の違い 加齢 認知症 記憶の流れ 記憶の流れ 出来事全体が 抜け落ちる 出来事の一部 認知症の病型 アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、 その他に分類される。 前3者が3大認知症と呼ばれ、全体の約90%以上を占めます。 認知症の症状 その他 8.6% 脳血管性 19.5% レビー小体型 4.3% アルツハイマー型 67.6% 中核症状と周辺症状が見られます。 次のページで詳しく説明します。 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年〜平成24年度 総合研究報告書よりグラフを作成
#22. 認知症の症状 妄想 せん妄 中核症状 睡眠 幻覚 不安 中核症状 焦燥 抑うつ の障害、実行機能障害、見当識障害、 多弁 脳の神経細胞の減少の程度により進行し 記憶障害 問題解決 能力の障害 暴力 心気 徘徊 仮性 作業 先行・失認・失語などが見られます。 多動 ていきます。 依存 判断力の 障害 暴言 実行機能 障害 異食 周辺症状(BPSD) 多種の周辺症状が見られます。 不潔 行為 過食 治療やケアにより抑制がうまくできれ ば、患者やその家族の生活の改善が期 待できます。 介護への 抵抗 見当識障害 先行:ボタンのかけ違いなど動作の組み合わせた行為が できなくなる。 *仮性作業:一見すると目的や意味の 分からない作業 *心気:思い込み、心配しすぎ 記憶障害、判断力の障害、問題解決能力 障害 先行/失認/ 失語etc 失認:コップや包丁など、知っているはずのものの使い. 道がわからなくなる。 失語:物の名前がわからなくなる。
#23. 夫婦の2人に1人が認知症になる時代 〜ヒサヤマ・スタディから見る認知症〜 65歳以上の住民 ヒサヤマ・スタディ 福岡県の久山町で1961年から40歳以上の住民を対象に 第一段階のスクリーニング 脳卒中・心血管疾患・糖尿病・認知症などの疫学調査を実施。 認知症ではない 受診率:約80%以上 認知症疑い 医師による二次調査 剖検率:約80% 1985年から65歳以上の「全高齢住民を対象にした認知症疫学調査が開始。 認知症の有無と病型判定 認知症ではない 追跡率:99%以上 認知症 全員を追跡調査 頭部CT/MRIと病理解剖で再評価 調査の方法は左図に示した通り行われた。 調査結果 1990年代から認知症有病率は上昇。 2012年には17.9%に達した。 65歳以上高齢者の5〜6人に1人が認知症。 病理解剖後の再評価では、アルツハイマー型認知症の有病率が急増。 では、健常高齢者が新規で認知症になっていく割合は? 健常高齢者が生涯認知症になる確率は55% 60歳以上の認知症のない高齢者を17年間追跡。 つまり、2人に1人が認知症になる。 ➡︎ 夫婦がどちらとも長生きすると、どちらかが認知症になる・・・。
#24. ➡︎ ➡︎ 歯を喪失すると 認知症発症リスクが高まりやすい 〜ヒサヤマ・スタディから見る喪失歯数と認知症発症の関連〜 60歳以上の男女1996人 対象者 口腔診査 5年間追跡調査 未受診者202人 既に データ欠損例 認知症167人 61人 対象者 現在歯数を4群に分類 「20歯以上」「10〜19歯」「1〜9歯」「0歯(無歯顎)」 1566人 全認知症 1556人 全認知症の調整ハザード比 現在歯数の減少に伴って有意に増加。 アルツハイマー型認知症 調整ハザード比 1.9 病型別で見ると、 アルツハイマー型認知症の調整ハザード比。 同様の関係を示した。 1.425 0.95 しかし、脳血管性認知症の場合、有意な関係が見られ なかった。 0.475 0 20歯以上 10〜19歯 1〜9歯 現在歯数 調整ハザード比 性別、年齢、職業、教育歴、高血圧、糖尿病、脳卒中の既往、飲酒、歯磨き頻度、 歯科定期通院、義歯利用で調整 0歯 つまり、「歯を失う本数が増えるとアルツハイマー型 認知症リスクが上がる可能性が高い」ということ。 Takeuchi K et al.:Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community:the Hisayama Study,J Am Geriatr Soc,65(5):e95-e100,2017
#25. 最強の歯周病菌P.gingivalisと ジンジパイン どうも、最強の歯周病菌、P.gingivalisです!今から俺様の自己紹介を始めちゃうぜ! 名前:Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス ジンジバリス) 出身地:歯肉縁下(歯周ポケットの奥深く) 嫌いなもの:酸素(嫌気性菌) 主食 ・鉄:大好物!ヘモグロビンを分解した後のヘミンに鉄が含まれる。 ・アミノ酸:豊富なコラーゲンを含む歯根膜や、歯肉溝滲出液に含まれるアルブミンなどを 分解して得られる。 武器:ジンジパイン(gingipain=gingiva + papain)というタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)。 「歯肉」 「パパイヤ由来のpapain」 ・システインプロテアーゼに分類される。 パパイヤ由来のパパインや、パイナップル由来のブロメラインなどがある。 料理でお肉を柔らかくする目的でパイナップルを入れますが、 この時活躍している酵素がシステインプロテアーゼ。 ・3種のハサミ(ペプチド結合切断)で、タンパク質を跡形も無くなるくらいにぶった斬る。 ・血管内皮細胞に傷害を与えて血管透過性を亢進させる。 モルモットと用いた実験では、P.gingivalis培養液の上清を皮下注射する実験で、 Kadowaki T et al.:Suppression of pathogenicity of Porphyromonas gingivalis by newly developed gingipain inhibitors,Mol Pharmacol,66(6):1599-1606,2004. 全医療従事者が知っておくべき歯周病と全身のつながり 西田亙著 参照 わずか30分で血管透過性亢進を認めた。
#26. ➡︎ アルツハイマー病患者の海馬で ジンジパインが集積 アルツハイマー病患者の脳組織の異常所見 *アミロイドβの沈着:細胞がアミロイドβ(不溶性の異常なタンパク)を処理して除去することができなく なり、組織にアミロイドβが蓄積。 *老人斑:死滅した神経細胞がアミロイドβの周囲に蓄積したもの。 *神経原線維変化:タウ蛋白が線維化し沈着。 *リン酸化したタウ蛋白の集積:ニューロンやグリア細胞に発現しているタンパク質で、生後の脳の成熟、脳神経 系で起こる様々な減少に関与。そのタウ蛋白がリン酸化され集積した像を示す。 マウスを用いた研究結果 マウスの口腔内にP.gingivalisを投与すると、ジンジパインが海馬に局在していることが判明。 さらに、海馬で神経変性が起きており、アルツハイマー型認知症に特徴的なアミロイドβと リン酸化タウが集積。 人体における研究結果 (健常者と各種脳疾患患者の脳組織切片を用いた) アルツハイマー型認知症では病期に応じて著しい海馬にジンジパインの沈着を認めた。 パーキンソン病、ALS、ハンチントン病ではジンジパインの集積は健常者と変わりはなかった。 さらに、存命中のアルツハイマー型認知症患者を対象にしたコホート調査を実施(被験者10人)。 P.gingivalis DNAについて、唾液検体:全員から検出、脳脊髄液検体:7割の患者から検出した。 『脳組織の窓』とも言える脳脊髄液を通してP.gingivalisが生きた人間の体内で、 神経感染を起こしていることが明らかになった。 今後は、ジンジパイン阻害薬が認知症治療薬としての開発が期待されます。
#27. ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ 寝たきりを減らすには 以上のように、歯周病菌の悪影響は口腔内にとどまらず、脳にまで及んでいることがわかってきています。 長寿国と言われる日本で、高齢化率がこれからもどんどんアップしていきますが、寝たきりの割合も 同じように増加していくと、限られた医療費では全てをまかなえなくなります。 必要な患者に十分な医療を提供するためには、平均寿命だけではなく、健康寿命を伸ばすことを 今後は意識して行く必要があります。 そのために口腔内からアプローチできるポイントについて今回は説明してきました。 最後に、寝たきりを減らすためのポイントのおさらいです。 認知症やフレイルを早期発見するためには、それぞれのリスク因子となる口腔内の状態に注目。 そして、オーラルフレイルの段階で早期発見し、適切な介入を行う。 認知症は直接的な予防が難しいとしても、歯周病をコントロールすると認知症のリスクが軽減できる 可能性がある。 コントロールするためには、若いうちからかかりつけ歯科医を作り、自分に合ったホームケアの方法を 身につけておく。 そして定期的に歯科検診に行くことで、変化は早期に発見対処して、口を良い状態に保つ。