#4.
① REBOAとは Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta =Intra Aortic Balloon Occlusion(IABO) :蘇生を目的として大動脈をバルーンカテーテルで閉塞する手技 バルーンカテーテル 日本ではIABOと呼ばれることが多かったが, 学会などではREBOAに統一されつつある. 外傷治療のデバイスや治療戦略は戦争で使用して 有効性が示されることが多く, REBOAも1954年に朝鮮戦争で使われたのが始まり. 止血術につなげるための橋渡し. BLS Borger van der Burg.Eur J Trauma Emerg Surg. 2018;44(4):535-550.
#5.
REBOA:大動脈をバルーンで閉塞するとどうなる? バルーン拡張前 バルーン拡張後 ❷中枢側は血流上昇 ❶末梢側は血流低下 バルーンを留置した時点で中枢の 血圧が上がることもあります ❶血流が低下することで出血量も低下する 外傷性などの出血をコントロールができる ❷中枢側は血流が上昇する=血圧上昇 心臓や脳への血流が維持される(ZONE1の場合*) ZONEの説明は後ほど
#6.
ただし、メリットとデメリットは表裏一体 バルーン拡張後 ❷中枢側は血流上昇 ❶末梢側は血流低下 ❶血流が低下することで出血量も低下する メリット 出血をコントロールができる デメリット ≒末梢側の臓器虚血が起こる ❷中枢側は血流が上昇する メリット 心臓や脳への血流が維持される デメリット ≒中枢側の出血は増える
#7.
② REBOAの適応 基本的には横隔膜以下の臓器損傷による出血性ショック に対して蘇生と出血の一時的コントロールのために使われる 肝損傷 脾損傷 腎損傷 骨盤骨折 最近では非外傷性の疾患にも活用 術中出血などでも 報告あり 産後出血などの産婦人科系の出血 腹部大動脈瘤破裂 消化管出血
#8.
② REBOAの適応 基本的には横隔膜以下の臓器損傷による出血性ショック に対し,蘇生と出血の一時的コントロールのために使われる 血圧が上がるためREBOA後に一瞬気が緩むが あくまで止血術までの橋渡し 肝損傷 腎損傷 REBOA=止血術 脾損傷 骨盤骨折 最近では非外傷性の疾患にも活用 術中出血などでも 報告あり 産後出血などの産婦人科系の出血 腹部大動脈瘤破裂 消化管出血
#9.
なぜ横隔膜以下の損傷? 閉塞より中枢側の血流が増えるため, 血圧が上がり, ✔胸部・腋窩の外傷(大血管損傷も含む) ✔頭頸部外傷 の悪化の可能性があるため. Nakajima K.World J Emerg Surg.2019;14:35. 脳血流は本来autoregulationで体血圧の上昇でも大きく 変動しないが,頭部外傷の場合はregulationがうまく 機能しないことや再還流などにより出血助長や2次性 脳損傷が増えることが知られている. 多発外傷の場合にはREBOAのバルーンカテーテルを留置する前に 必ずJATECに沿って胸部外傷、頭部外傷の有無はチェックしましょう. ただしREBOAは出血性ショックや心停止前の切迫した状態に使うことが想定されること, primary survey のみででは胸部外傷・頭部外傷の有無は完全に否定はできないため, 絶対的な禁忌ではありません.(相対的禁忌になります) 胸部外傷で大動脈遮断の必要がある場合は蘇生的開胸術(Resuscitative thoracotomy)が優先されることが多いです.(同時に止血操作を行える可能性があるため)
#10.
バルーン留置の場所は? ZONE1 ZONE1:左鎖骨下動脈〜腹腔動脈 Zone2:腹腔動脈〜腎動脈 Zone3:腎動脈〜大動脈分岐部 • 外傷性出血の場合 ZONE1が第一選択 ZONE2 ZONE3 • 骨盤骨折単独や産婦人科系出血 (卵巣動脈が関与している時以外) ZONE3 • ZONE2は臓器虚血などの観点から 現時点では適応疾患なし Nakajima K.World J Emerg Surg.2019;14:35.
#11.
ZONEでみるREBOAの適応 ZONE1 肝損傷 脾損傷 腎損傷 腹部大動脈瘤破裂 消化管出血や術中出血 産後出血などの産婦人科系の出血 ZONE3でもOK 骨盤骨折
#12.
大動脈瘤破裂の時にカテーテルをいれていいの? 腹部大動脈瘤破裂 REBOAは通常は大腿動脈アプローチだが 大動脈瘤の場合には上腕動脈アプローチでバルーンを留置 ✔瘤や脆弱な血管を通過しなくて済む ✔手術中も中枢クランプまで使用できる 今回は基本の使い方である大腿動脈アプローチのREBOAを中心に説明しますね. ちなみに. ZONE1のREBOAで冠動脈血流、脳血流が増えること から非外傷症例の心肺停止などにも応用できるの ではと考えられています.まだまだ研究段階です が,最近ヒトを対象としたstudyが組まれており 結果が楽しみですね. CA Mazzoli.J Clin Med.2022;11(3):742.
#13.
どうやってZONEを入れ分けるの? ✔推奨は透視下で確認しながら留置と位置調節 ✔難しければエコー下やポータブルX線(ERだとこちらが現実的) ✔病院前や画像を使用できない際はブラインドで入れざるを 得ないことも • ランドマーク法として体表面の 第2肋間あたり 胸骨上縁 胸骨上縁と剣状突起の間の長さで 1) 留置すればZONE1へ留置できる 剣状突起 • RESCUE BALLOON®の添付文書は第2 肋間を目安 • 99% ZONE1は刺入部から41〜47cm2) これらを目安にブラインドで留置 穿刺部 1)Okada Y.Scand J Trauma Resusc Emerg Med.2017;25(1):63 2)Pezy P.JAMA Surg.2017;152(4):351-358. ZONE1の安全マージンが6〜7cmしかないので実際ブラインドはかなり難しいです
#14.
REBOAカテーテルの種類は? RESCUE BALLOON® RESCUE BALLOON-ER® 東海メディカルプロダクツ 東海メディカルプロダクツ バルーンカテーテル自体は複数ありますが, 救急医がよく使うのはこの3つ. RESCUE BALLOON®と-ER®は7Fr対応 ブロックバルーンTMは10Fr対応という違いがあ ります. 大動脈閉塞バルーン 泉工医科工業社 ブロックバルーンTM
#15.
使用するカテーテルの特徴をよく知っておきましょう 例えばRESCUE BALLOON-ER®の場合 ✔7Fr対応(7Frであれば5Frシースからの入れ替え可能) ✔パッケージ内容(RESCUE BALLOON-ER®では消毒のスワブも入っているなど) ✔透視でみる時にどこがマーカー(X線不透過部)になっているのか ✔バルーン全長6cm(メルクマール法での安全マージンが6-7cmなのでギリギリ) ✔インフレートの量や形状、直径(非ショック時の胸部大動脈径は2.5-3cm) 東海メディカルプロダクツ
#16.
REBOAカテーテルの留置方法は? 透視下を推奨,エコー下,ポータブルX線補助下 エコーやポータブルのカセッテをバックボード下に入れて いつでも取れる状況にしておく 事前準備として ✔メルクマール法でガイドワイヤーとカテーテルを入れる長さを事前に確認 ✔バルーン内の空気をシリンジで抜く.スタイレット(捨てないで!)を抜いて内腔を ヘパリン加生理食塩水でフラッシュ いざ、挿入! ①動脈シースを留置(大腿動脈,時に上腕動脈) 動脈シースの入れ方については、こちらもご参照ください. 通常は5Frのシースを留置しておいて(完全にショックに なってシースが入れにくくなる前に留置しておくのがコツ) 7Frに入れ替えることが多いです.
#17.
②挿入用ガイドワイヤーをZONE1にすすめる ✔事前に決めたワイヤーを留置したらエコーやレントゲンで位置を確認 (挿入途中で抵抗があれば、都度検査して確実に大動脈内を走行しているか確認) ③ガイドワイヤーに沿ってバルーンをZONE1へ ✔バルーン下端が横隔膜を超える位置に留置 ④ガイドワイヤーを抜いてスタイレットに入れ替え ✔焦ってスタイレットを入れずにインフレートすると,downstream migration (バルーンが遠位に移動)を起こす ⑤バルーンをインフレート(生理食塩水か2倍希釈造影剤) ✔インフレートするとカテーテルが血圧で押し戻されるため,抜けないように 押さえておく ✔インフレートの量は使う製品と患者の大動脈径,血圧の反応による ✔上肢血圧(できればAライン)と対側の大腿動脈シース(モニタリングや その後の治療で利用)があるとよい インフレートを開始した時点で 末梢側の臓器虚血がスタートしていることを意識すること! インフレート後すぐに止血術へ.(20-30分以内)
#18.
⑥インフレート後は位置確認 ZONE1 スタイレットを入れてカテーテルを抑えても インフレート後にバルーンが遠位に押されて zone2に入ってしまうことが多いです. ずれていれば位置を再調節して固定. REBOAを入れる手技自体は比較的シンプルですが 外傷による出血性ショックの初期診療で1分1秒を争う場面で ✔REBOAの適応決定 ✔REBOAの準備 ✔バルーンカテを問題なく挿入し留置する ✔モニタリングしながらインフレート量(完全遮断かpartial REBOAか)を決める これらを瞬時に判断し安全に手技を行う必要があります. (緊急だから,ショックだから,と安易に行える手技ではないです) 普段からのトレーニング(セルフトレーニングと同時にチームでの情報共有,理解) が重要です. ⑦止血終了後バルーンをデフレーション(1-2mlずつ)
#19.
③ REBOAの合併症と対策 ✔REBOA合併症率は3-18%ほど,合併症による死亡例もある ✔救命のためという理由で合併症が容認されることはない • ガイドワイヤー・カテーテル迷入による血管損傷 • 刺入部の感染(清潔操作不十分による) 正しい動脈シースの入れ方をマスター エコーガイド下穿刺をマスター • バルーン留置位置による合併症 • 誤ったZONEに留置(ZONE1より近位,ZONE2など) • downstream migration スタイレット入れなかったら 血流に押されて 反転して迷入 ZONE2へ 透視やX線などで位置を確認(入れっぱなしにしない) スタイレットを必ず入れる
#20.
③ REBOAの合併症と対策 • バルーン留置位置による合併症(続き) • 臓器虚血(迷入・ZONEのずれ・インフレートに伴う) 迷入、ZONEずれ対策(画像で確認し適宜調節) インフレート時間を最短に ✔とにかく早急な根治的な止血術を(手術,IVR問わず) ✔インフレート開始から時間を測定(REBOA専属の医師・スタッフ推奨) ✔ZONE1は最大でも20-30分以内(完全遮断※これ以下でも虚血は起こる) ✔骨盤や下肢単独とわかった時点でZONE1からZONE3への切り替えを検討 ✔完全遮断をしないですむ方法(partial REBOAなど)を検討 • インフレーション量が多すぎる血管損傷 バルーン形状を透視・レントゲンで確認 出血性ショックによる血管径の縮小も考慮 • 近位側の損傷部位の増悪(頭頸部・胸部・腋窩など) むやみに出血性ショックだからとREBOAを使わず 限られた時間のsurveyでREBOAの適応を判断する • デフレーション時の合併症(再出血,再環流障害など) 確実な止血,十分な輸液・輸血,ゆっくりデフレーション
#21.
④ • • • 症例提示 40代男性.仕事中に4mの脚立から転落 腰の激しい痛み 血圧測定できず HR130bpm RR 40/min GCSE4V5M5 • 全脊柱固定・高濃度酸素投与で搬送 • 搬送に10分(受傷から30分後に到着) SpO2(-) 救急隊の情報から転落外傷でショック.骨盤だろうな... 外傷チームを招集,緊急輸血のオーダー,REBOAも使うかも 一応開胸セットも準備して最大限の準備をしておこう ✔物品スタンバイ 両側大腿動脈シース準備 ✔放射線技師さんもスタンバイ Primary survey • 気道開通 • 呼吸:RR 25/min SpO2 95% 視聴打触で明らかな所見なし 胸部Xp 明らかな縦隔拡大や肺挫傷など目立った所見なし • ショック継続 BP 60mmHg HR 130bpm →輸液に反応なし 骨盤Xp 不安定型骨盤骨折あり FAST*陰性(*Focused assessment with sonography for trauma) • 意識レベルGCS E4V5M5 瞳孔所見問題なし • 体温36度 背面は見れないが明らかな外表面の出血なし
#22.
PSと同時進行で方針決定:不安定化型骨盤骨折で出血性ショック ✔REBOA入れる(骨盤のみだと思うがショックが遷延しておりZONE1に!) ✔緊急輸血投与開始 ✔ショックがあるため気管挿管 ✔止血術は動脈塞栓術を行う 来院から15分後 • 右大腿動脈の5Frシースを7Frに入れ替えRESCUE BALLOON®をZONE1に留置しインフレート • 血圧90mmHg程度を目標に頭骨動脈Aラインと左大腿動脈シース圧をモニタリング • 気管挿管を行いアンギオ室へ移動 来院から30分後(REBOAインフレートから15分) • アンギオ開始.左内腸骨動脈造影で多数の造影剤の血管外漏出あり • スポンゼル®で両側内腸骨動脈を本幹塞栓(開始から10分後)BP 100mmHg HR 100/min • 輸血もRCC 6単位,FFP 6単位入ったためREBOAを少しづつデフレーション • (インフレート開始から25分) • 完全にデフレーション後もBP 110mmHg HR 90/minで安定.REBOAは抜去 • C(circulation)の安定化が図れたので、primary surveyの続きを行い、続いてCTへ • CTでは骨盤骨折、腰椎椎体骨折を認めるものの造影剤漏出はなし • その後もバイタルサインは安定,凝固系も翌日には改善し両側大腿動脈シース抜去 • 経過でシースやREBOAに伴う合併症はなし
#23.
症例提示したケースは非常にスムーズに診療が進んでいますね. REBOAを入れる手技自体は理論・リスク・合併症対策を理解して 十分にシミュレーションすることでトレーニングできます. 「DIRECT REBOAセミナー」というREBOAに特化したセミナーもあります. 興味がある方は受講してみてはいかがでしょうか. http://direct.kenkyuukai.jp/event/index.asp ? REBOAの手技をマスターしたら次のステップとして いかに虚血時間を短くできるか工夫しましょう. REBOAは一見血圧を上げますが,止血術ではありません. 手術や動脈塞栓術などにいかにつなげるか,一分一秒でもREBOAの インフレート時間を短くすることを考えてみましょう. 各施設でもマンパワーや医療資源は異なります. 病院ごとの対策が重要です. 参考文献 • DIRECT REBOAセミナー公式テキスト REBOAハンドブック • Top Stent The Art of Endovascular hybrid Trauma and bleeding Management
#24.
よくある質問 Q&A Q:病院前でREBOAを行うことはありますか? A:院前の特に外傷性心停止を防ぐ目的のREBOAにはメリットがありそうで すが,明確なエビデンスがあるかと言われると難しいところです.病院 前という限られた状況での適応判断や手技による搬送時間の延長,合併 症などの点から,まだまだ議論の余地はありそうです. 日本でもDIRECT-IABO resisty、海外でもABO Trauma registry、UKREBOA trialなどのレジストリーができており症例が集積されつつありま す.症例を集めて検証することで,明確な病院前でのREBOAの効果や適応 が明確化するかもしれません. 現時点では心停止前の現場のバイタルサインが ・GCS≧9 ・SpO2>90% ・systolic BP<90mmHg だと,病院前REBOAが有効な因子になるようです. GCS : Glasgow Coma Scale Henry R.J Am Coll Surg.2019;229(4):383-388.e1.
#25.
Take home message ✔REBOAの適応は、留置する部位より下の出血コントロール ✔手技のコツは迅速にかつ安全に。REBOAで起こり得る合併症を 知り,対策を立てよう。 ✔REBOAはあくまで時間稼ぎ、その後の止血術とセット