テキスト全文
急性胆管炎・胆嚢炎のガイドラインと重症度
#1.
Melon@消化器外科 胆嚢炎と胆管炎のみかた~診断と治療の原則を知っておこう~
#2. 急性胆管炎・胆嚢炎に関するガイドライン 診断・治療方針は原則として急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン 2018 (Tokyo Guidelines 2018 : TG18)に基づいて行う。
重症度は胆管炎も胆嚢炎も軽症(Grade I)、中等症(Grade II)、重症(Grade III)に区分される。
胆管炎の重症度が上がるほど胆管の緊急ドレナージの重要性が増す。
胆嚢炎については重症度によらず可能な限り早期のラパコレを考慮する。
胆嚢 胆嚢管 総胆管 総肝管
急性胆管炎の病態と治療法
#3. 急性胆管炎の病態と診断 病態:
胆管閉塞:総胆管結石が最多だが、腫瘍性の狭窄も増加
胆道感染:胆汁の培養による細菌の同定
胆道内圧の上昇:ドレナージによる減圧が必須
診断:A. 全身の炎症所見
A-1. 発熱, A-2. 血液検査の炎症反応所見
B. 胆汁うっ滞所見
B-1. 黄疸, B-2. 血液検査の肝機能検査異常
C. 胆管病変の画像所見
C-1. 胆管拡張, C-2. 胆管狭窄、胆管結石、ステントなど胆管炎の成因
「腹痛」は診断基準に入らない! 確診:Aのいずれか+Bのいずれか
+Cのいずれかを認めるもの
疑診:Aのいずれか+Bもしくは+C
のいずれかを認めるもの
#4. 急性胆管炎の治療 原則としてERCPによる胆道ドレナージ(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ: ENBD or 内視鏡的胆管ステント留置: EBS)を実施。
効果は同等であり、選択は施設の状況による。
嚥下機能障害症例、術後再建腸管症例などでは経皮的胆道ドレナージも考慮。
重症胆管炎では12時間以内の緊急胆管ドレナージが必要。
中等症および軽症胆管炎では来院後48時間以内の治療が望ましい。
急性胆嚢炎の病態と治療法
#5. 急性胆嚢炎の病態と診断 病態:胆嚢の急性の炎症性疾患。胆嚢内圧上昇ほぼ必発。胆石によるものが最多だが、無石胆嚢炎も存在。
胆石性の場合:胆嚢頚部や胆嚢管に胆石が嵌頓→胆嚢内容物の流出障害→胆嚢壁の血流障害(浮腫性胆嚢炎)
→壁の変性・壊死(壊疽性胆嚢炎)→線維性の増生により壁肥厚(化膿性胆嚢炎)と進行。
無石胆嚢炎:胆汁うっ滞または胆嚢壁の虚血
診断:A. 局所の臨床兆候
A-1. Murphy’s sign, A-2. 右上腹部の腫瘤触知:自発痛・圧痛
B. 全身の炎症所見
B-1. 発熱, B-2. CRPの上昇, B-3.白血球数の上昇
C. 急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見
MRI: 胆嚢結石, pericholecystic high signal, 胆嚢腫大, 胆嚢壁肥厚
CT: 胆嚢壁肥厚, 胆嚢周囲浸出液貯留, 胆嚢腫大, 胆嚢周囲脂肪織の線状高吸収域
超音波検査:壁肥厚, デブリエコー, 特に重要なのはsonographic Murphy’s signや胆嚢の緊満感 確診: Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれかを認めるもの
疑診: Aのいずれか+Bのいずれかを認めるもの
Murphy’s sign : 炎症のある胆嚢を手で押さえると、
痛みのために呼吸を完全に行えない状態
なるべく
造影CTを!
#6. 急性胆嚢炎の治療 治療原則は早期のラパコレ(腹腔鏡下胆嚢摘出術)。
耐術と判断したら、発症からの経過時間にかかわらず、早期にラパコレを行うことが推奨されている。
手術適応はASA-PSおよびチャールソン併存疾患指数(CCI)にて判断。
重症例であっても耐術能があれば早期のラパコレを考慮。
手術適応がない場合には経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)推奨。
ラパコレの手法と重症度判定
#7. ラパコレのキモ! 胆嚢に穴をあけることは大きな問題ではない!(戦略的にあけることもある)
→総胆管など胆管損傷の方がはるかに恐ろしい。
胆嚢管と胆嚢動脈を切るのはCritical view of safetyを確立してから!
ラパコレができない時、開腹移行しても手術が簡単になるとは限らない。
→fundus first technique(通常胆嚢頚部より剥離を開始するが、胆嚢底部の剥離を先行させる手法)や胆嚢亜全摘(胆嚢壁一部遺残)なども考慮。 Rationale and Use of the Critical View of Safety in Laparoscopic Cholecystectomy. Strasberg, Steven M. et al. Journal of the American College of Surgeons, Volume 211, Issue 1, 132 – 138, Figure 1.
胆嚢 胆嚢動脈 胆嚢管 Critical view of safety:
胆嚢頚部をcystic plateから十分に剥離し、胆嚢頚部へ連続する2本の構造物(胆嚢管と胆嚢動脈)だけにする。胆管損傷を避けるため、必ず行うべき手法。
#8. 急性胆管炎・胆嚢炎の重症度判定 重症と軽症は胆管炎も胆嚢炎も同じ
重症(以下のいずれかを伴う場合)多臓器不全を想定
循環障害, 中枢神経障害, 呼吸機能障害, 腎機能障害, 肝機能障害, 血液凝固異常
軽症
「中等症」「重症」の基準を満たさないもの。
重症度は経時的に変化することがあるので注意。重症度を繰り返し判定する。
中等症(以下のいずれかを伴う場合)
胆管炎
白血球数>12,000 or <4,000
発熱≧39℃
75歳以上
総ビリルビン≧5mg/dl
アルブミン健常値下限x0.73g/dl
胆嚢炎
白血球数>18,000
右季肋部の有痛性腫瘤触知
72時間以上症状持続
顕著な局所炎症所見(壊疽性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍など)
急性胆管炎・胆嚢炎の抗菌薬と診断基準
#9. 急性胆管炎・胆嚢炎の抗菌薬 起因菌は大腸菌が最多、クレブシェラ、腸球菌など
→グラム陽性球菌なら腸球菌を第一に考える。
→グラム陰性桿菌ならセフメタゾールやセフォペラゾン・スルバクタムも可。
院内発症なら緑膿菌やブドウ球菌も考慮する。
軽症例:アンピシリン・スルバクタム、
中等症・重症:ピペラシン・タゾバクタム
ペニシリンアレルギー:ジプロフロキサシンなどを考慮
胆管炎のドレナージ後の抗菌薬投与は3日程度。血液培養陽性の場合など、起因菌によっては2週間程度必要なことも。
#10. 胆管炎と胆嚢炎は似ているけど違う 似ている点
胆汁の流れがとどこおるために内圧の上昇が生じて炎症をきたす。
原因は結石が最多。
重症になると多臓器不全をきたす。
異なる点
胆管炎の診断基準に腹痛は含まれないが、黄疸・発熱は含まれる。
胆嚢炎の診断基準に腹痛は含まれるが、黄疸・発熱は含まれない。
胆汁の流れがとどこおっている部位(胆管 vs. 胆嚢頚部or胆嚢管)
治療は内視鏡的胆道ドレナージ vs. ラパコレ(内科医 vs. 外科医)
胆管炎と胆嚢炎の違いと参考文献
#11. Tips 局所所見と全身所見で診断、重症度判定、治療方針を決定。
循環障害、意識障害、呼吸機能障害、腎機能障害、肝機能障害、血液凝固異常のどれかひとつでもあれば重症例なので注意。
胆管炎は内視鏡的胆道ドレナージ、胆嚢炎は外科的切除(ラパコレ)が基本。
#12. 参考文献 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン改訂出版委員会 編:-TG18新基準掲載-急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018(第3版).医学図書出版,東京.2018
竹中 完ほか:急性胆管炎・胆嚢炎の病態.臨床消化器内科 36: 1109-1118, 2021
藤澤 聡郎ほか:急性胆管炎・胆嚢炎に対する抗菌薬選択.臨床消化器内科 36: 1145-1151, 2021
森 俊幸ほか編:ラパコレを究める-技術認定を目指す標準手技・困難例を制すBailout手技-.南江堂,東京.2020
Rationale and Use of the Critical View of Safety in Laparoscopic Cholecystectomy. Strasberg, Steven M. et al. Journal of the American College of Surgeons, Volume 211, Issue 1, 132 - 138