テキスト全文
#1. 「怒られ」脳神経内科用語集 ばりすた☕脳神経内科医
#2. このスライドを作った人 ばりすた☕脳神経内科医
脳神経内科専門医
総合病院勤務
Twitter:@bar1star
分かりやすい医療情報発信を目指す
フォロワー3万8000人↑
コーヒーインストラクター検定2級
(そんなに凄くない)
#4. 脳神経内科医はなんで言葉に細かいのか? 言葉には定義がある
定義に則して言葉を使い分ける必要がある
言葉が適当だと病態の理解も曖昧になる
カルテやプレゼンの言葉遣いによって、正しく評価・判断できているかが分かる
#5. このスライドの流れ 実習や研修でよくある言葉の間違いを例示
なんでその言葉遣いがおかしいのかを解説
言葉を正しく使うための知識や評価方法を解説
#6. 「呂律困難があります!」 「呂律が回らない」という言葉はあるが、
「呂律困難」は無い
呂律:物を言う時の調子、言葉の調子
呂律障害・呂律不良という医学用語も無い
「構音障害」が無難
怒られワード
#7. 構音障害とは 大脳半球、基底核、脳幹、間脳、小脳、脳神経、筋肉などの障害で語音を上手く出せないこと
麻痺性(脳梗塞など)
協調運動障害性(小脳障害など)
【まぎらわしい症状と用語】
失構音(anarthria)
運動麻痺などは無く、咀嚼や嚥下も可能だが、
言葉を思い浮かべてから
発声に至る過程の障害が起こる(後述)
#8. 構音障害の評価手段 単音の繰り返し
「パパパ……」「タタタ……」「カカカ……」
三音節の繰り返し
「パタカパタカ……」
自発話や復唱、音読の評価
構音障害の評価で復唱させる文章の定番に、「ルリモハリモテラセバヒカル」というのがあります。「瑠璃(青の宝玉)も玻璃(透明な水晶)も照らせば光る」、すなわち、才能のある者は何処にいても目立つという意味です。
僕はずっと「針」だと思っていました。そりゃ光るけどさ。
#9. 麻痺性構音障害の場合 単音の繰り返し
どの音が苦手かが分かる!例えば、パは口唇、タは舌、カは軟口蓋の麻痺
三音節の繰り返し
それぞれの音の苦手の度合いは変わらないので、一音節も三音節も変わらないし、評価時のばらつきもない
自発話や復唱、音読
音の苦手の度合いは単音・三音節と大きく変わらない 脳梗塞などによる錐体路障害がよくある原因
#10. 協調運動障害性構音障害の場合 音の強弱が不規則で、不自然なアクセントに
爆発性発語(explosive speech)急激な音の強さの変化で突然大きな発音になる
断綴性発語(scanning speech)本来連続的な発音のところが刻まれたような発音に
不明瞭言語(slurred speech)音節から音節への移り変わりが不明瞭になり、モッタリとした喋り方になる
重度だと麻痺性構音障害との区別がつきづらい 小脳の脳血管障害による運動失調性が多い
以下は運動失調性構音障害の特徴について (だんてつ)
#11. 失構音の場合 単音の繰り返し
特別に苦手な音はない
最初の方で躓いても、繰り返していると正常に近づく
三音節の繰り返し
単音に比べると極端に発音が困難になる
自発話や復唱、音読
自然な自発話に比べて、復唱や音読の課題の方が発音がうまくできない
麻痺性構音障害のような苦手な音の一貫性はない 発語失行とも言われ、運動性失語に含まれる症状
#12. 「筋炎で麻痺があります!」 麻痺とは、上位・下位運動ニューロンのどちらかまたは両方の障害で、運動機能に支障が出ている状態
筋疾患が原因の場合は、「筋力低下」「筋脱力」と言う方が良い なお現在、医学用語としての麻痺(paralysis, paresis)は運動麻痺にのみ用いる言葉です。しかし日本語本来の「麻痺」は運動障害と感覚障害の両者を包含するものでした。
医学用語と日常の言葉で微妙に違うので紛らわしいですね。 怒られワード
#13. 神経原性?筋原性? 病歴と問診から部位と経過を把握(超基本)
これだけで大体のアタリがつく
神経が原因の場合、運動の迅速性と筋力が低下
感覚障害があれば神経が原因の可能性↑
腱反射が亢進していれば中枢神経が原因の可能性↑
針筋電図が原因を見極めるのに有用
#14. 「筋炎」も注意が必要 筋肉の異常をミオパチーという
ミオパチーの中に筋炎がある
筋炎かどうかは、抗体測定や筋生検をしないと分からない
精査が済んでいないものはミオパチーと言うのが無難
ミオパチーを見たときは低K血症や甲状腺機能障害もチェック
筋ジストロフィーは含めないことが多い
筋炎のうち、皮膚症状のあるものが皮膚筋炎、ないものが多発筋炎という認識の人も多いです。しかし今は病理と抗体で疾患名が決まります。本来の多発筋炎はごく少数で、かつて多発筋炎と言われていたものの多くは免疫介在性壊死性ミオパチーや皮膚症状のない皮膚筋炎と言われています。 怒られワード
#15. 「バビンスキー反射陰性です!」 バビンスキー(Babinski)徴候と言う方が良い
足底皮膚反射の中のBabinski徴候という位置付け
「陽性」と言われるのは、第1趾の背屈と、他の4趾の開排現象
正常の場合は5本の足趾が少し底屈する
なので何も動きが無い場合は異常の可能性がある
左右差は意味のある所見であることが多い 怒られワード ※ちょっと細かいです
#16. バビンスキー徴候を見るコツ まずはリラックスしてもらう
手技の際は足底を触らない
まずは優しめの力で
出なければ少しずつ強めに
正常反応は内側をこすると見やすい
異常反射は外側をこすると見やすい
反応が確認できたところで止める
#17. 「パーキンソンがあります!」 PDかパーキンソン症候群か?
未精査ならパーキンソン症候群
パーキンソン症候群は、パーキンソニズムがある疾患のこと
パーキンソニズムは、PDで特徴的な運動緩慢・固縮・振戦・姿勢保持障害などの症状のこと
PD:パーキンソン病
DLB:レビー小体型認知症
PSP:進行性核上性麻痺
MSA:多系統萎縮症
CBS:皮質基底核症候群
NPH:正常圧水頭症 怒られワード
#18. 鑑別に役立つ知識 「らしくない」の太字になっている部分は、診断基準の中で除外基準として規定されています。
L-dopa反応性については、
「中等度以上の症状にもかかわらず高用量のL-dopaが無効」が除外基準とされています。
#19. 「両側なので偏頭痛じゃないです!」 偏頭痛ではなくて片頭痛
両側性の片頭痛もある(約40%)
前兆のない片頭痛もある
非拍動性の片頭痛もある
緊張型頭痛や薬剤使用過多による頭痛(MOH)を合併している片頭痛もある
怒られワード かつての広辞苑には「偏頭痛」が載っていた時期もありました。
古来の日本語(あるいは中国)では「偏」を使っていたのかもしれません。
が、医学用語としては「片頭痛」が正しいです。
これも「麻痺」と同様、日常用語との乖離ですね。
#20. 前兆のない片頭痛の診断基準 前兆のない片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第3版:ICHD-3,2018)
A. B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
① 片側性
② 拍動性
③ 中等度~重度の頭痛
④ 日常的な動作(歩行や階段昇降)などにより頭痛が増悪する.
あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目をみたす
① 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
② 光過敏および音過敏
E. ほかに最適なICHD-3の診断がない
#21. 「痙攣しました!てんかんです!」 痙攣 :症状の名前てんかん:病気・病態の名前
脳の神経細胞が異常な放電をすることで、症状が発作的に起きる状態が、反復して起こる病態が、てんかん!
怒られワード 高齢化社会の今、加齢による神経変性で起こるてんかんや、脳卒中後てんかんが増えています。アルツハイマー病もてんかんの原因になるとされています。
脳卒中を起こした7日以内の発作は急性症候性発作や”early seizure”と呼び、てんかんとは区別します。必ずしも急性症候性発作を起こした人が反復し、てんかんに移行するわけではありません。
#22. 「痙攣」を起こす原因 てんかん
急性症候性発作
脳血管障害
中枢神経系感染症
自己免疫性脳炎
頭部外傷
代謝性疾患(低血糖・電解質異常・低酸素・尿毒症等)
中毒(アルコールやドラッグ等)
離脱 など
失神による脳全体の虚血
洞不全症候群、洞房ブロック、神経調節性失神 etc. 振戦やミオクローヌスなどの不随意運動を「痙攣」と言って呼ばれることもあります。
見た目だけでは区別が難しい場合は、症状・持続時間・全身状態などから総合的に判断することもあります。
#23. まとめ① 呂律困難ではなく構音障害
麻痺性、協調障害性があり、失構音も区別が必要
麻痺は神経障害による筋力低下を言う
ミオパチーが原因の場合は筋力低下や筋脱力
未精査の場合、筋炎ではなくミオパチーと言おう
筋病理や抗体で診断
「多発筋炎」は実はほとんど無い
#24. まとめ② バビンスキー徴候を見るときは正常反応を確認
未精査ならパーキンソン症候群と言おう
偏頭痛ではなく片頭痛
両側性、非拍動性、前兆のない片頭痛もある
痙攣とてんかんは明確に区別しよう
#25. 参考文献 高次脳機能障害の理解と診察 平山和美 中外医学社 2017
神経症候学 平山惠造 文光堂 2010
神経学用語集 日本神経学会
壊死性ミオパチーの筋病理 神経治療 33: 622-626, 2016
日本頭痛学会 片頭痛/片頭痛の治療https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html
脳卒中後てんかんの診断と治療における最前線 神経治療37: 508-512, 2020
てんかん診療ガイドライン2018