テキスト全文
ICU患者における体液過剰の影響と原因
#2. Background
Background
#3. ICU患者における体液過剰
Background ・血圧低下による尿量の減少、急性腎障害、大手術、人工呼吸、MAPを維持する
ための過剰な輸液負荷などが原因で、入院後1週目で4-10L程度の体液過剰になる。
・体液過剰は、ICUに入院した患者の死亡率を高める。
・ミクロな視点での体液過剰
組織浮腫による代謝物の拡散、組織障害や臓器障害、微小循環の阻害
リンパ流の低下などを引き起こし、細胞間相互作用を損なう。
低アルブミン血症も原因のひとつになりうる。
体液コントロールと患者予後の関連性
#4. 体液コントロールと患者予後について
Background ・患者の生存率に対する体液バランスへの介入の有効性は不明
・ARDSの患者を対象とした2つの無作為化比較試験
→体液過剰を制御する戦略が人工呼吸器未使用日数を増やし、
ICUでの滞在期間を短縮することを示した。
・この戦略にアルブミンの投与を加えると、低アルブミン血症の患者で
酸素化と血液動態の安定に効果があった。
・敗血症性ショックの患者を対象とした最近のパイロット試験では、
少なくとも循環器関連の臓器障害の評価においては、体液制限が実施可能で
耐容されたことが示された。
#5. 本研究の目的
Background ・これまでの先行研究からICUに入院した重症患者を対象として、
入院後2日間に体液バランス制御を行う戦略が
通常の治療と比較して全因死亡率を15%減らす
という仮説を立てた。
・本研究の目的
体液バランス制御戦略が重症患者の死亡率に与える影響の評価
POINCARE-2 trialの研究方法と無作為化手法
#6. Methods wedge cluster非盲検ランダム化比較試験(POINCARE-2 trial)
9つのフランスの病院の12のICU
研究期間:2016年5月から2019年5月まで
Methods
#7. ●年齢が18歳以上の気管挿管下人工呼吸管理にある患者
●ICU滞在が48時間以上または72時間未満、滞在予想期間が24時間
以上の患者 組み入れ基準
Methods
#8. ●体重測定ができない臨床状態
●利用可能なベッドサイドスケールがない
●多発外傷
●入院前24時間以内に別のICUでの入院歴がある患者
●妊娠中
●入院後7日以内に生命維持治療の中止が予想される患者
●個人データ収集(または使用)を拒否する患者
●募集期間中に別のICU滞在歴がある患者
●後見人付きの患者
Methods 除外基準
#9. ●患者とその家族に試験プロトコルと試験参加を拒否する権利について説明
●POINCARE-2戦略は、医療機関の組織に焦点を当てているため、
フランス法に従い、書面による同意は免除された。
Methods ICについて
#10. ・無作為化は各ICUレベルで行われ、JMVが実施
・各ICUは、12のシーケンスのうち1つにランダムに割り当てられた。
・ICUスタッフは自分たちの割り当てを1か月前に知らされた。
・対照群の期間は割り当て後すぐに開始され、介入群の期間はトレーニング
期間を経て開始された。
・6つのクラスター期間を通じて参加者を連続的に募集した。 無作為化割付
Methods
POINCARE-2戦略における介入方法の詳細
#11. 介入方法(POINCARE-2戦略)
Methods ・入院後2日目から14日目までの日々の体重測定を基に戦略を決定
・Day2体重>Day0+2kgの場合
➡>0.5kg/24hの体重減少を目指す
塩分および水分制限±利尿薬(フロセミド1mg/kg)
±アルブミン(アルブミン20%100mL/8時間で最大24時間)を投与
・Day0体重以下になるまで続ける
#12. 介入方法(POINCARE-2戦略)
Methods 安全性の観点から、以下の場合は制限戦略を保留
・収縮期血圧<90mmHgまたは集中治療医の裁量による血管収縮薬使用
・血清カリウム値<2.8 mmol/L、血清ナトリウム値>155 mmol/L
・RIFLE分類に基づく腎機能の急激な悪化
・何らかの有害事象(集中治療医の裁量による)
対照方法とデータ収集の手法
#13. 対照方法(usual care)
Methods ・各ICUスタッフによる通常の治療(usual care)を受けた。
#14. データ収集
Methods ・治療開始から14日目までの患者の体重、各種検査、薬剤投与データを毎日収集
・治療期間中の対照群での制限戦略の有無をを評価するため
コントロール期間中にもPOINCARE-2戦略の成分に関するデータを収集
・介入群では、治療開始から14日間、毎日体重を収集
・対照群では治療開始時、7日目、14日目に体重を収集
・介入群の遵守度を評価するため、体液バランスの推定、フロセミドおよび
アルブミンの処方を使用して遵守度の指標とした
#15. Outcome
Methods Primary outcome
・無作為化後60日時点での全死因死亡
Secondary outcome
・28日および入院中の全因死亡率
・MVFD(Day 0〜Day 28の機械的換気なしで生存した日数の累積数)
・VFD(Day 0〜Day 28の血管収縮薬なしで生存した日数の累積数)
・RRTFD(Day 0〜Day 60の腎臓代替療法なしで生存した日数の累積数)
主要および安全性アウトカムの評価方法
#16. Safety outcome
Methods ●Day2-14の間に少なくとも1回発生した予期しない以下の有害事象
・低血圧(収縮期血<90 mmHg)
・高ナトリウム血症(血清ナトリウム値>155 mmol/L)
・低カリウム血症(血清カリウム値<2.8 mmol/L)
・腎障害(Day3-14におけるRIFLE基準に基づく悪化 Day1, 2と比較)
・急性虚血性イベント
#17. 統計解析
Methods ・クラスター無作為化解析(主要分析)とランダム化前後解析(副次分析)の
2種類の解析を施行
・基線特性と方針への遵守度は、各群(戦略群対対照群)で評価し
標準化差異(Stdiff)の絶対値を使用して比較した。
・カテゴリー変数は頻度と割合で、連続変数は正規分布の場合は平均と
標準偏差(SD)、そうでない場合は中央値と四分位範囲(IQR)で表示した
・各群(戦略群対対照群)でアウトカムを説明し、カテゴリー変数は頻度と割合
連続変数は中央値とIQR、生存率はKaplan Meier推定を使用した。
#18. 統計解析
Methods ・治療戦略の効果を評価するために、二次結果に対しては対数二項式または
修正ポアソン混合モデル(非収束の場合は変形ポアソン回帰)を使用した。
連続アウトカムに対してはゼロインフレーション混合モデルを使用した。
・ICUをランダム効果、RBAAの場合は2か月の期間効果をランダム効果に入れた
2レベルのクラウドモデルを使用し、介入グループを固定効果として使用した。
・不均衡な基線特性(年齢、SAPS II、McCabeスコア)を調整したモデルに
固定効果として入力した。
・結果は、95%信頼区間(CI)を伴うexp(パラメータ)として表された。
#19. 統計解析
Methods ・欠損データは最大バイアス仮説に基づいて補完した。
・多変量解析では、基線特性に基づいて複数の項目を用いた。
・p値は両側検定で、主要なアウトカムの主要解析および安全性アウトカムに
対しては0.05、その他の解析に対してはBonferroni補正を用いた。
・SAS© 9.4を使用して、すべての解析を実施した。
#20. サンプルサイズ計算
Methods ・クラスター無作為化解析では、
60日間の全因死亡率が37.5%の場合
→k係数0.26、α値0.05、パワー0.8
15%の絶対的な減少を最小限に抑える場合
→48クラスタ期間で917人の参加者が必要
研究結果の要約と患者背景の分析
#23. 患者背景
Result ●介入群は対照群と比較して
年齢が若い
SAPS IIが低い
McCabeスコアが低い
"SAPS II “
重症患者の予後を予測するために使用される
スコアリングシステム
"McCabe Score"
患者の入院時に予測される死亡リスクを
評価するために使用されるスコアリング 10272人がスクリーニング ランダム化前後解析
1361人 クラスター無作為化解析
905人 死亡
介入群129人 対照群160人
#24. Outcome のまとめ
Result 60日死亡率は両群で有意差なし
[30.5% 95%CI 26.2-34.8 vs. 33.9% 95%CI 29.6-38.2 p = 0.26] 介入群では高Na血症がより頻繁に発生
(5.3% vs. 2.3% p=0.01) Day7とDay0の平均±SD体重差
介入群1.2±6.1kg 対照群2.3±7.2kg
(平均差 - 1.1, 95% CI - 2.7 to 0.5, p = 0.70)
Discussion: 研究結果の解釈と考察
#26. ●Primary outcome
60日死亡率は両群で有意差なし
●Secondary outcome
低血圧、重大な虚血イベント、腎障害、VFDおよびRRTFDの期間も有意差なし
●Safety outcome
介入群では高Na血症がより頻繁に発生 本研究の結果のまとめ
Discussion
#27. ●当研究でも用いられた分析方法→群間の差が小さくなることがある
・ポジティブな結果が得られた場合、介入の効果を確実に証明することができるが、
ネガティブな結果の場合は効果を確実に否定できない
・POINCARE-2試験で有意差が出なかった理由として、
治療グループ間の切り替えが不完全であったことが考えられる
→そのため、POINCARE-2戦略は完全に否定される治療戦略ではない 「Intention-to-treat」に基づく分析方法
Discussion
#28. ・対照群の期間中にも日常的な体重測定が行われ、フロセミドとアルブミンも
標準治療の一環として処方されていたため、治療方針の混在が生じた可能性が
ある。
・CRAの結果、フロセミドの処方は介入群よりも対照群で多かったが、これは
水/塩分制限のない患者での利尿薬の必要性が高いからかもしれない。
・第1週間ではプロトコルへの適切な準拠が見られたが、第2週間では不十分で
あったため、介入群の治療戦略の準拠が不十分であった。 「Intention-to-treat」に基づく分析方法
Discussion
POINCARE-2 trialの限界と今後の展望
#29. ・水分制限戦略に対する集中治療医の臨床マインドが対照群における
介入群の混在の一部を説明できる可能性がある。
・水分制限戦略の有益な効果に納得していたため、試験中に計画より
早く実施した可能性がある。
・POINCARE-2戦略に従う遵守度に影響を与えた文脈的要因(体重測定計量に
影響を与えるICU環境、水分制限に対する集中治療医の臨床マインド)を
解明するには、より正確な評価方法で解釈する必要がある。 「Intention-to-treat」に基づく分析方法
Discussion
#30. ・Day0-7における各症例の平均の体重差と平均体液バランスは、
SilversidesらのMAに含まれる試験と比較して、予想よりも低かった。
→群間の体液バランス差
1試験:1500 mL未満 4試験:1500-4000 mL 2試験:7000 mL以上 先行研究との比較
Discussion
#31. ・体液制限の程度とアウトカムの間には明確な関連性はなかった。
・群間の体液バランス差が7000 mLに達した試験は、
保守的戦略を好む群で60日の死亡率が3%低くなったが、有意差はなかった。
・死亡率に対する保守的戦略の効果は、BMIや血圧の効果と同様に
J字型曲線に従う可能性があり、体液バランスの制御に関して制限が
厳しすぎるもしくは寛容すぎる戦略は、死亡リスクが高くなる可能性がある。 水分制限とoutcomeの関連性
Discussion
#32. ・体液過剰や過剰な水分制限による有害事象は、循環動態の不安定化、腎機能低下
電解質異常などがある
・本研究では低血圧、重大な虚血性イベント、腎障害、VFDおよびRRTFDの日数に
差は見られなかった。
・これらの結果は、介入群の管理は血行動態および腎機能において
比較的安全であった可能性を示唆している。
・重度の高Na血症は介入群でより頻繁に見られた。
→血清Na値が145 mmol/Lを超えると死亡率が上昇する可能性があり
・高Na血症の有害な影響の原因は不明であるが、高Na血症の矯正は
独立して生存率が改善することが示されている。 水分バランスによる有害事象について
Discussion
#33. ・手順的に、臨床的に重症な患者の数が計画通りに前向きに実施
→当初の試験の設計が損なわれる可能性がない。
・ISO 9001認定を受けた研究室(CIC、Epidémiologie clinique)による
データの徹底的なモニタリングにより、その正確性が保証された。
・予め計画された追加のプロセス評価、治療時、およびサブグループ分析は、
提示された結果に関するPOINCARE-2戦略の実際の有効性、実装の背後にある
メカニズム、実装の文脈、および議論を深めるのに役立つ。 POINCARE-2 trial の良い点
Discussion
#34. 本研究の限界
Discussion ・60日間死亡率で15%の差を検出することができるように設計された
→実際には3%しか観察されなかったため、統計的なパワー不足が懸念される
・群間相関係数よりも群内相関係数の方が低かったため、CRAの妥当性が
脅かされたが、RBAAの結果はCRAの結果と一致しており、影響は低いと
考えられる。
・治療方針の混在が意図した分析の妥当性に影響を与えた可能性がある。
結論と今後の研究の方向性
#35. 本研究の限界
Discussion ・治療方針を準拠すべきという固執性が、研究に参加したいというスタッフの意志や
治療方針の実施に影響を与えた可能性がある。
・輸液制限戦略は一般的にICUで実施されており、それを対照群において完全に
防ぐことはできない。
・戦略に対する遵守度の評価は、グループ間の体液バランスに差があることを
示唆していたが、これらの差は統計学的に有意なものではなかった。
・wedge cluster非盲検ランダム化比較試験は、検討中の介入の傾向を
扱うために最適であるが、完全に予想された実施を施行することはできない。
#36. Conclusion POINCARE-2の戦略は、重症患者の死亡率を減少させなかった
ただし、wedge cluster非盲検ランダム化比較試験のため
intention-to-treat analysesはこの戦略への実際の露出を反映しない
可能性があり、さらなる分析が必要かもしれない
Conclusion
#38. 外的妥当性 ●対象はアジア人でないことや、ベースのBMIなどが不明であるが
多施設研究ではある
●呼吸不全の重症患者の割合が一般的なICUと比較すると高そう(35%程度)
#39. 私見 ●体液過剰は避けるべきであると主張されて久しいが、単純に体重を減らせば
いいわけではなさそう→過剰な水引きによる虚血エピソードは良く経験した
●Day2からの除水は病態によっては時期尚早…? より個別化した循環管理が必要か
●体液過剰の害に関する知見がこれだけ蓄積された以上、このような介入研究が今後
もありそうだが、アウトカム改善につながる除水戦略を見出すには
適切な水分制限や除水のタイミングを見分ける指標が必要そう
→除水のタイミングにも輸液反応性のような指標が生まれると良い
●エコーや循環動態を評価するパラメーター、バイオマーカーなどによる血行動態の評価と
除水のプロトコールを混ぜたバンドル治療など、より除水のタイミングの
標準化ができるとよさそう