テキスト全文
非劣性試験の基本概念と目的
#1. 非劣性試験 勝負に勝ってはいないが,負けてはいない
#2. 非劣性試験 標準治療と比べて あまり劣っていないことを証明 近年急激な増加傾向 1980 2020
#3. 標準治療が確立している中で 効果では勝ちを狙わず 他の部分で勝ちにいく □安い □副作用が少ない □便利 □低侵襲 など
非劣性試験のガイドラインと批判的吟味
#4. 増えている一方 作成ガイドラインの基準に 満たない研究も多い BMJ Open 2016;6:e012594 批判的吟味の必要あり
#5. いつもの優越性試験 AがBよりも効果があることを証明 p値が有意水準を下回ると,AがBより効果あり イメージとしてはp値が小さいと2群に違いがある 非劣性試験 AがBに劣っていないことを証明 p値が有意水準を下回ると,AがBに劣っていない イメージとしてはp値が小さいと2群に違いがない ここがいつもと逆なので混乱しやすい
#6. 非劣性試験 標準治療と比べて あまり劣っていないことを証明 大きく見劣りしなければよい 目指すのは標準治療と同等ではないので 標準治療と比べてちょっと悪いのは許容される この「ちょっと悪い」けどOKという基準を 非劣性マージンと呼ぶ
優越性試験と非劣性試験の違い
#7. いつもの優越性試験 新治療が優れる RR 標準治療が優れる ←新治療が優れる(有意差あり) ←新治療が優れるかもしれない(有意差なし) ←新治療が劣るかもしれない(有意差なし) ←新治療が劣るかもしれない(有意差なし) ←新治療が劣る(有意差あり) 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 差がない ここを95%信頼区間が越えなければ有意差あり
#8. 非劣性試験:有意差ありのラインが変わる 新治療が優れる RR 標準治療が優れる ←新治療は劣らない(有意差あり) ←新治療は劣らない(有意差あり) ←新治療は劣らない(有意差あり) ←新治療が劣らないとはいえない(有意差なし) ←新治療が劣る(有意差あり) 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 ちょっと悪いけど,これくらいならほとんど一緒と言っていいよね (非劣性マージン) このマージンを95%信頼区間が越えなければ有意差あり
#9. 非劣性試験 有意差あり 劣ってはいない 同等とは言ってはいけない 有意差なし 劣ってはいないとは言えない 結局何も結論でず
#10. 非劣性試験の 吟味のポイント 非劣性マージンは適切? 標準治療は適切? パープロトコル解析? そもそも新治療はメリットある?
非劣性マージンの設定とその重要性
#11. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切?
#12. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? そもそも非劣性マージンはどうやって設定するか? ガイドラインでも推奨されているのは 固定マージン法
#13. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? 固定マージン法 標準治療が優れる プラセボが優れる 効果の差 -3.0% (95%CI -4.0~-2.0) -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0 1.0 2.0 3.0 (%) 標準治療のプラセボに対する効果が上記だったとする このときの95%信頼区間の上限に着目(ここでは-2.0%) これはこの治療の最小効果の見積もりとなる(一番効かなくてもこのくらい) この治療は一番効かなくてもプラセボと比べて,イベントが-2.0%になる
#14. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? 固定マージン法 新治療が優れる 標準治療が優れる プラセボと同効果 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0 1.0 2.0 3.0 (%) 非劣性マージン 標準治療のプラセボに対する効果の最小が-2.0 %だった場合 新治療は標準治療に比べて+2.0%のイベント発症ならプラセボと同じ効果といえる でも,さすがにプラセボと同じだと治療の意味がないので, 標準治療とプラセボの間くらいのところを「ちょっと劣っていても大目に見てやるライン」 =非劣性マージンとする.ちょうど半分くらいのことが多いが決まりはない.ここでは+1.0%.
#15. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? マージンを決めるための標準治療はプラセボ対照か? マージンは臨床的には「大目に見てやれるか」?
標準治療の適切性とその影響
#16. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? マージンを決めるための標準治療はプラセボ対照か? 先程の説明のように標準治療の効果はプラセボに 対するものでなければならない 特に非劣性試験を標準治療の先行研究とすることはご法度 (プラセボよりも悪い結果なのに非劣性になることがある: bio-creep)
#17. 非劣性試験の吟味のポイント 非劣性マージンは適切? マージンは臨床的には「大目に見てやれるか」? 固定マージン法はあくまで方法論に過ぎない そのマージンだと臨床的に例えば「えっ,死亡が5%増えるのはさすがに 大目に見れない!」と思うのなら不適切 そのマージンギリギリで非劣性が証明されたときに, その害の可能性を大目に見て処方できるかがポイント マージンを大きくとると必要症例数が少なくて済むため, コスト削減のためにマージンを変えてある場合もあり,要注意
#18. 非劣性試験の吟味のポイント 標準治療は適切? 標準治療は確立したものか? 標準治療のポテンシャルは出せているか?
#19. 非劣性試験の吟味のポイント 標準治療は適切? 標準治療は確立したものか? 非劣性試験の目的は確立した標準治療に対して 効果以外のメリットがある新治療を検討することにある 非劣性試験の62%は標準治療がそもそも効果が確立していないものだった Journal of Clinical Epidemiology 2019;110: 82
#20. 非劣性試験の吟味のポイント 標準治療は適切? 標準治療のポテンシャルは出せているか? 標準治療に不利な状況になると,両群の治療効果の差がなくなり, 非劣性の有意差が不当に出やすくなる アドヒアランスの低下,薬剤投与経路がおかしい,早期中止などの 不利な状況にないかどうかチェック 標準治療の先行研究と,今回の研究での標準治療の効果を比較して, 大きく違わないことをチェック
パープロトコル解析とITT解析の比較
#21. 非劣性試験の吟味のポイント パープロトコル解析? Intention-to-treat(ITT)解析以外に, Per-protocol(PP)解析を行っているか
#22. 非劣性試験の吟味のポイント パープロトコル解析? Intention-to-treat(ITT)解析以外に, Per-protocol(PP)解析を行っているか 通常の優越性試験の場合,割付が遵守できなかった患者では,RCTの [両群は介入以外は同じ集団]という原則を生かすためにITT解析を行う ITTは両群の治療効果の差が出づらくなるため過大評価も防げる これが非劣性試験では問題になる. 非劣性では治療効果の差がないほうが非劣性を証明しやすくなるため, ITTでは有意差が出やすくなってしまう
#23. 非劣性試験の吟味のポイント パープロトコル解析? Intention-to-treat(ITT)解析以外に, Per-protocol(PP)解析を行っているか そのため,非劣性試験では実際の治療内容に準拠したPP解析も行い ITTの結果と大きな違いがないかを確認する PPとITTで結果が同様なら非劣性を強く示唆 もし食い違うのなら非劣性の根拠は弱くなる
#24. 非劣性試験の吟味のポイント そもそも新治療はメリットある? 非劣性試験の目的は確立した標準治療に対して 効果以外のメリットがある新治療を検討することにある 非劣性を証明したい治療法は,効果以外のメリットがあるか? □安い □便利 □副作用が少ない □低侵襲 など
非劣性試験の実践的応用と考慮点
#25. 非劣性試験を実践に生かすためには マージン 新治療が 優れる 0.8 RR 1.0 標準治療が 優れる 1.2 結果の95%信頼区間上限を 許容できるか 患者とともに Step4で検討する ひょっとすると アウトカムが1.1倍に増えてしまう可能性がある そのアウトカムとは?それを許せるか?