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これで迷わない、心不全の薬物治療 ~機序とエビデンスから、明日の処方箋へ~

投稿者プロフィール
常見勇太

札幌ハートセンター/聖路加国際病院

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投稿した先生からのメッセージ

研修医・専攻医の先生へ。私自身、研修医の頃は「なぜこの4剤なのか」を聞けないまま、前医の処方を写していました。理由と数字がわかると、心不全の処方は一気に面白くなります。まずはSection 07の「4週間で4クラス」と、最後の症例だけでも読んでみてください。明日の退院サマリーが変わると思います。

指導医の先生へ。用量早見表・導入2週間のタイムライン・症例2問は、そのまま病棟レクチャーや回診の教材に使える構成にしています。数値はすべて一次文献で確認していますが、お気づきの点やアップデートがあればぜひコメントで教えてください。

概要

心不全の薬物治療を「機序→主要試験→実践」の3ステップで、薬剤別に通しで整理したスライドです(全69枚)。

前半は薬剤別。RAS系/ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬の4本柱に、利尿薬、ベルイシグアト・イバブラジン・ジゴキシン・静注鉄、急性期の強心薬(DOB・DOA・ミルリノン)まで。CONSENSUSからFINEARTS-HF・VICTORまで約75本の試験を、HR・NNT・国内の開始量→目標量つきで載せています。

後半は病態別。HFrEFの並行導入とSTRONG-HF、HFmrEF、HFpEF(2025年12月に国内適応追加となったフィネレノンまで)、腎機能低下・高K血症、低血圧・高齢者、AF合併、心不全を悪化させる薬。最後は症例で「退院まで3日、何をするか」を一緒に組み立てて、用量早見表で締めます。

試験の羅列にはしていません。PARADIGM-HFのrun-in、TOPCATの地域差、静注鉄の4連敗と読み方など、「割り引いて読む」批判的吟味も入れました。抄読会の元ネタにも、病棟で処方の根拠を確認するときにも使えるはずです。

急性心不全の初期対応(ABC・NPPV・Nohria-Stevenson分類)は、姉妹スライド『急性心不全 ~最初の1時間と、最初の2週間~』をご覧ください。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医/専門医

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テキスト全文

心不全の薬物治療の導入と疫学

#1.

聖路加チーフと学ぶ心不全 心不全の薬物治療 機序とエビデンスから、実践へ ── 薬剤別に読み、病態で組み立てる 札幌ハートセンター 循環器内科 / 元 聖路加国際病院 チーフレジデント 常見 勇太 / Yuta Tsunemi

#2.

● INTRODUCTION − WH Y D R UG S W ORK 予後を変えたのは、悪循環を断った薬 RAAS 交 感神 経 系 う っ血 ・ 代 謝 低心拍出 → 腎低灌流 血圧維持のための代償が Na・水の貯留がうっ血をつくり レニン・AngII・アルドステロン活性化 慢性化すると心毒性に転じる 残存うっ血は再入院に直結する 血管収縮・Na貯留・線維化で 頻拍・アポトーシス・不整脈で エネルギー代謝・腎保護への介入が リモデリングがさらに進む 突然死のリスクを上げる EFを問わず予後を改善した ACE阻害薬 / ARB / ARNI / MRA β遮断薬 / イバブラジン 神経体液性因子の遮断 ── 強心薬で「押す」のではなく、悪循環を「断つ」薬だけが生命予後を変えてきた 変力薬の慢性経口投与(ミルリノン: PROMISE)はむしろ死亡を増やした ── 押す治療の限界 SGLT2阻害薬 / 利尿薬 / ベルイシグアト

#3.

● INTRODUCTION − EPI DEMI OL OGY 心不全の予後は、多くの「がん」より悪い 5年生 存率 国内 患者数 1年以 内の再 入院 約50% 約120万人 約1/4 診断後の生存は大腸がん・ 高齢化で増加が続く 入院のたびに心機能と 前立腺がんなどを下回る “心不全パンデミック” 予後が階段状に落ちる この予後を動かせるのが薬物治療 ── 4本柱を揃えると死亡リスクは推定6割減。外来の処方箋1枚が予後を規定する Stewart S, et al. Eur J Heart Fail 2001;3:315(がんとの予後比較) / 国内推計・JROADHFレジストリ

心不全の分類と治療の基本方針

#4.

● INTRODUCTION − UNI VER SA L DEFI NIT IO N 2 0 21 EFで4つに分ける ── ただしEFは変化する HFrEF ≤40% エビデンスの本丸 ── 4本柱がフル装備で使える。この講義の主戦場 HFmrEF 41-49% “軽度低下” ── 実態はHFrEFへの移行帯。SGLT2阻害薬を軸にHFrEFに準じて考える HFpEF ≥50% 最多かつ最難 ── SGLT2阻害薬を土台に、肥満・アミロイドなど表現型で個別化 HFimpEF 治療でEFが40%超へ改善 ── “治った”ではない。GDMTは中止しない(TRED-HF) EFは“いま”の断面にすぎない ── 初発時のEFと軌跡(改善/悪化)をセットで読み、薬は軌跡に合わせて動かす Bozkurt B, et al. Universal Definition and Classification of Heart Failure. J Card Fail 2021;27:387

#5.

● ROADMAP Agenda 01 RAAS阻害薬 ACE阻害薬・ARB・ARNI ── CONSENSUSからPARADIGM-HFへ 02 β遮断薬 実証3剤で死亡3割減 ── 少量から、乾いてから 03 MRA RALES・EMPHASIS-HF、そしてフィネレノン 04 SGLT2阻害薬 EFを問わず一貫 ── DAPA-HFからDELIVERまで 05 利尿薬 うっ血の完全解除 ── 抵抗時の次の一手まで 06 第2列の薬剤 ベルイシグアト・イバブラジン・ジゴキシン・静注鉄 07 病態で組み立てる HFrEF・HFmrEF・HFpEF・急性期・腎障害・高齢者 各薬剤は「機序 → 主要試験 → 実践」の3ステップで統一

RAAS阻害薬のメカニズムとエビデンス

#6.

● SE CTI O N 01 01 RAAS阻害薬 ACE阻害薬・ARB・ARNI ── 心不全治療の出発点

#7.

● RAAS − MECHA NI SM 過剰なRAASを、2段階で断つ 遮 断す る も の ─ ─ Ang I Iの 害 温 存す る も の ─ ─ ARN Iの 上乗 せ 血管収縮 ── 後負荷を上げ、心拍出をさらに削る サクビトリルがネプリライシンを阻害 アルドステロン分泌 ── Na・水貯留でうっ血へ ANP・BNPの分解が止まり、内因性の利尿・血管拡張・抗線維化を温存 線維化・リモデリング ── 心筋の構造そのものを壊す バルサルタンでAngII側も同時に遮断 ACE阻害薬はAngII産生を、ARBは受容体を断つ 「悪玉を断ち、善玉を残す」1剤2役 ACE阻害薬の空咳はブラジキニン蓄積 ── 同機序で血管性浮腫も ※BNPは分解されず上昇しうる ── 効果判定はNT-proBNPで ネプリライシンはAngIIも分解するため、単独阻害は成立しない ── RAAS遮断との併用が必須(ARNIの設計思想)

#8.

● RAAS − BEFOR E A CE I NHI BI TO RS 前史 ── 血管拡張薬の系譜(V-HeFT) V-HeFT I 1986 ヒドララジン+硝酸薬 ── プラセボ比で死亡減の最初のシグナル。“血管拡張が慢性心不全に効く”ことを初めて示した V-HeFT II 1991 エナラプリルがヒドララジン+硝酸薬を上回る ── 血管拡張なら何でも良いのではなく、RAAS遮断こそ本質と判明 A-HeFT 2004 自認黒人・標準治療に上乗せで死亡43%減・早期中止 ── NO系反応性の個体差に基づく個別化の先駆け 現在の位置 ARNI/ACE阻害薬/ARBが腎不全・高Kで使えない例の代替として現役 ── 系譜は途切れていない 1980年代の問い「なぜ血管拡張薬で死亡が減るのか」 ── その答えの探索が、神経体液性因子仮説とACE阻害薬時代を開いた V-HeFT I: N Engl J Med 1986;314:1547 / V-HeFT II: N Engl J Med 1991;325:303 / A-HeFT: N Engl J Med 2004;351:2049

#9.

● RAAS − EVI DENCE 19 8 7-2 00 3 重症例の死亡を減らした、最初のクラス CO NSENSUS 1987 SOLVD 199 1 CH ARM -Alt erna tive 40%減 RR 0.84 HR 0.77 エナラプリル / NYHA IV(n=253) エナラプリル / EF≤35%(n=2569) カンデサルタン / ACE阻害薬不耐 6ヶ月死亡26% vs 44% 死亡35.2% vs 39.7% CV死亡+心不全入院を抑制 ARBはACE阻害薬の代替 ── 咳・血管性浮腫で使えないときの選択肢。上乗せ併用は害(高K・腎障害)が上回る CONSENSUS: N Engl J Med 1987;316:1429 / SOLVD: N Engl J Med 1991;325:293 / CHARM-Alternative: Lancet 2003;362:772

#10.

● RAAS − DOSE & AR B TR IA LS 用量とARB ── 先行研究が引いた線 ATLAS 1999 リシノプリル高用量vs低用量 ── 死亡は有意差なし、死亡+入院は12%減。まず土台、増量はその後 HEAAL 2009 ロサルタン150mg vs 50mg ── 死亡+心不全入院HR 0.90(P=0.027)。ARBでも用量依存性を確認 Val-HeFT 2001 ACE阻害薬にバルサルタン上乗せ ── 死亡は中立(RR 1.02)、複合はRR 0.87。β遮断薬併用例では悪化シグナル CHARM-Added ACE阻害薬にカンデサルタン上乗せ ── HR 0.85と有効だが高K・腎障害が増加。以後ARNI登場で役割消失 結論: ACE阻害薬+ARBの2剤併用はしない ── 用量は「届く範囲で高く」、ただし網羅が先(Section 07) ATLAS: Circulation 1999;100:2312 / HEAAL: Lancet 2009;374:1840 / Val-HeFT: N Engl J Med 2001;345:1667 / CHARM-Added: Lancet 2003;362:767

ARNIの効果と実践的な使用法

#11.

● RAAS − PA RAD IGM-HF 2 0 14 ARNIは、ACE阻害薬を超えた サク ビトリ ルバル サル タン エナ ラプリ ル ハザ ード比 21.8% 26.5% 0.80 主要評価(CV死亡+心不全入院) 実薬対照 ── プラセボではない 95%CI 0.73-0.87 / P<0.001 HFrEF 8442例・中央値27ヶ月で早期中止 ── 全死亡もHR 0.84。NNT 21で、標準治療の置き換えを決めた試験 McMurray JJV, et al. N Engl J Med 2014;371:993-1004 ── 症候性低血圧は増加、血管性浮腫は0.4% vs 0.2%

#12.

● RAAS − CR IT I CA L AP PR AI S AL PARADIGM-HFを深読みする 設 計の 強 さ 批 判的 吟 味 ─ ─ 割 り引 い て 読む 点 実薬対照 ── プラセボではなくエナラプリル10mg×2と勝負 run-in期間で両薬に忍容の約88%だけを組入れ ── 集団は選抜済み n=8442・47ヶ国 ── 心不全試験として最大級の検出力 早期中止(中央値27ヶ月) ── 効果の過大評価リスクは常につきまとう 全死亡HR 0.84・CV死0.80・突然死0.80と、硬い指標で一貫 対照の目標用量20mg/日は妥当か ── SOLVDと同じだが議論は残る 有害事象での中止はエナラプリル群より少ない 症候性低血圧は14.0% vs 9.2%と明確に増える McMurray JJV, et al. N Engl J Med 2014;371:993-1004 ── 割り引いてもなお、全死亡0.84は実薬対照として異例の差

#13.

● RAAS − PR AC TI C E 実践 ── 切り替え・増量・許容範囲 切 り替 え の ルー ル 国 内用 量 ACE阻害薬 → ARNIは36時間あける(血管性浮腫の重複回避) サクビトリルバルサルタン 50mg×2回/日から開始 血管性浮腫の既往は禁忌 ── ARBからの切替は休薬不要 2〜4週毎に増量し目標200mg×2回/日(忍容性に応じて) Cr ・Kの 許容 範 囲 低 血圧 へ の 対応 開始・増量後1〜2週でCr・K再検 無症候なら継続 ── 先に利尿薬・硝酸薬を減らす Cr上昇30%までは想定内 ── 血行動態性で、慌てて中止しない どうしても難しければ減量して残す ── ゼロにしない 入院中の開始も安全 ── PIONEER-HF: 血行動態安定後の院内ARNI開始でNT-proBNPがより低下し、安全性は同等 PIONEER-HF: N Engl J Med 2019;380:539-548

#14.

● RAAS − DRUGS & DOS ES RAS系 ── 具体的な薬と、開始量→目標量 エナラプリル 2.5mg/日から → 目標10mg/日 ── CONSENSUS・SOLVDの実証薬。1〜2週毎に忍容性を見て倍量 カンデサルタン 4mg/日から(低血圧・腎機能低下は2mg) → 目標8mg/日 ── ACE阻害薬不耐時の選択(CHARM-Alternative) サクビトリルバルサルタン 50mg×2回から → 100mg×2回 → 目標200mg×2回 ── 2〜4週毎に血圧を見ながら倍量 原則 開始量は“お試し”ではなく開始した瞬間から効いている ── 低用量で4クラスを揃え、増量は揃えてから 新規発症・ACE阻害薬未使用なら最初からARNIでよい ── 切替の36時間ルールが不要になり、導入が1手早い 用量は国内添付文書ベースの目安 ── 血圧・K・腎機能で個別調整。用量依存性の根拠はATLAS・HEAAL(前掲)

#15.

● RAAS − ARN I BEYON D PAR ADI GM ARNIの守備範囲 ── 効く場所と効かない場所 PIONEER-HF 2019 急性心不全の院内開始 ── NT-proBNP低下はエナラプリル比29%大きく、安全性は同等。導入の起点を入院中に前倒しした PARAGON-HF 2019 HFpEFでバルサルタンと比較 ── HR 0.87(P=0.059)で惜敗。事前サブ解析ではEF<57%と女性で効果 ── EF連続体説の 根拠に LIFE 2022 進行期(NYHA IV)でバルサルタンと比較 ── NT-proBNP低下に差なく、低血圧・忍容性の問題が前面に。末期では優位性を 示せず 効果の中心はEFが下がった症候性心不全 ── 早すぎる末期でも、保たれたEFでも、PARADIGMの再現はない PIONEER-HF: N Engl J Med 2019;380:539 / PARAGON-HF: N Engl J Med 2019;381:1609 / LIFE: JAMA Cardiol 2022;7:17

β遮断薬のメカニズムと臨床試験

#16.

● SE CTI O N 02 02 β遮断薬 交感神経の慢性刺激を断つ ── 少量から、乾いてから

#17.

● BE TA-BLOCKER − ME CHANI S M 代償のはずの交感神経が、心臓を壊す 慢 性刺 激 の 毒性 遮 断で 得 る もの β1受容体のダウンレギュレーション ── 予備能が枯れる 逆リモデリング ── 数ヶ月かけてEFが改善 心筋アポトーシス・線維化を直接誘導 突然死の抑制 ── MERIT-HFで突然死41%減 頻拍は拡張期充満と冠灌流の時間を削る 受容体感受性の回復 致死性不整脈 ── 突然死の主要ドライバー ただし急性効果は陰性変力 ── 効果は「あとから」来る 急性期に入れれば悪化させ、慢性期に入れれば命を延ばす ── 導入タイミングがすべての薬

#18.

● BE TA-BLOCKER − EV IDE NCE 1 9 99 -2 00 1 実証された3剤 ── いずれも死亡3割減 CI BIS -I I MERI T-HF CO PERNI CUS HR 0.66 RR 0.66 HR 0.65 ビソプロロール(n=2647) メトプロロールCR/XL(n=3991) カルベジロール / EF<25%(n=2289) 全死亡11.8% vs 17.3% 全死亡7.2 vs 11.0/100人年 重症例でも死亡35%減 3試験とも有効性で早期中止 ── ただしクラス効果ではない(ブシンドロールは陰性)。実証された薬剤を使う CIBIS-II: Lancet 1999;353:9 / MERIT-HF: Lancet 1999;353:2001 / COPERNICUS: N Engl J Med 2001;344:1651 / BEST: N Engl J Med 2001; 344:1659

#19.

● BE TA-BLOCKER − BE YOND THE BI G T HRE E 3試験の外側 ── 高齢・順序・AF・クラス効果 SENIORS 2005 70歳以上・ネビボロール ── 死亡+CV入院HR 0.86。高齢でも効くが、効果量は現役世代の試験より控えめ CIBIS-III 2005 ビソプロロール先行vsエナラプリル先行 ── 非劣性。どちらから始めても良い ── 今の並行導入の伏線 AF合併メタ解析 個票メタ(Kotecha) ── 洞調律HR 0.73、AF合併HR 0.97と効果消失。ただし害はなく継続は妥当 BEST 2001 ブシンドロール ── 死亡減少を示せず。“クラス効果”ではない ── 実証薬を使う根拠になった試験 AF合併HFrEFでも中止はしない ── 予後効果は薄れても、レート調節と虚血抑制の道具として残る SENIORS: Eur Heart J 2005;26:215 / CIBIS-III: Circulation 2005;112:2426 / Kotecha D, et al. Lancet 2014;384:2235 / BEST: N Engl J Med 2001;344:1659

#20.

● BE TA-BLOCKER − P RA CT I CE 実践 ── 少量から、乾いてから 開 始の タ イ ミン グ 国 内用 量 カルベジロール 2.5 → 20mg/日 / ビソプロロール 0.625 → 5mg/日 うっ血解除後(“dry”)に少量から ── 非代償期の新規導入はしない 開始は最小量0.625mg、または貼付のビソプロロールテープ(剥がせば中止できる 内服中の急性増悪では原則継続(B-CONVINCED: 中止に利益なし) ) 忍容性を見ながら2週毎を目安に倍量 増 量中 の 一 時的 悪 化 使 い分 け 体液貯留なら利尿薬を一時増量して乗り切る 気管支喘息 → β1選択性のビソプロロール すぐ中止・減量に戻さない ── 到達用量が予後を規定する 頻脈性AF合併・高血圧合併はレート/降圧の性格も加味して選ぶ 目標は「用量」と「心拍数」の両方 ── 洞調律なら安静時60〜70/分を目安に、届く範囲の最大用量へ B-CONVINCED: Eur Heart J 2009;30:2186

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の役割

#21.

● SE CTI O N 03 03 MRA ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 ── NYHA IVからEF≥40%へ

#22.

● MR A − ME CHANI S M ブレークスルーを、受容体で断つ ア ルド ス テ ロン ・ ブレ ー ク スル ー 3剤 の性 格 ACE阻害薬・ARB投与下でも、アルドステロンは数ヶ月で再上昇 スピロノラクトン ── 非選択的。安価で最も歴史が長い 心筋線維化・血管障害・K/Mg喪失が持続する 性ホルモン受容体にも作用し女性化乳房10%(RALES) だから産生ではなく受容体で断つ エプレレノン ── 選択的。内分泌系副作用が少ない 利尿作用は弱い ── 主役は抗線維化・抗リモデリング フィネレノン ── 非ステロイド型。CKD・EF≥40%で新しいエビデンス K保持作用は、利尿薬による低K・不整脈リスクの相殺にも働く 高K血症のリスクは3剤共通 ── モニタリングの作法は同じ RALES設計の根拠: 標準治療下でもアルドステロンが抑制しきれないという観察から

#23.

● MR A − EVI DEN CE 1 99 9-2 02 4 NYHA IVからII、そしてEF≥40%へ RA LES 19 99 EMPHA SIS-HF 20 11 FI NEARTS -HF 20 24 30%減 HR 0.63 RR 0.84 スピロノラクトン / NYHA III-IV エプレレノン / NYHA II(n=2737) フィネレノン / EF≥40%(n=6001) 全死亡35% vs 46%で早期中止 軽症例へ適応を広げた CV死亡+心不全イベント抑制 TOPCAT(HFpEF・スピロノラクトン)は主要評価中立 ── ただ米大陸ではHR 0.82と地域差が大きく、解釈は割れたまま RALES: N Engl J Med 1999;341:709 / EMPHASIS-HF: N Engl J Med 2011;364:11 / TOPCAT: N Engl J Med 2014;370:1383 / FINEARTS -HF: N Engl J Med 2024;391:1475

#24.

● MR A − C RI TI C AL A PP RA IS AL TOPCATの解剖 ── 試験の質が結果を決める 地 域差 の 中 身 フ ィネ レ ノ ンが 来 た道 全体はHR 0.89(P=0.14)で中立 FIDELIO-DKD: 腎複合HR 0.82(DM+CKD) 米大陸: HR 0.82で有意 ── ロシア・ジョージア: HR 1.10 FIGARO-DKD: CV複合HR 0.87 ── 心不全入院の抑制が主体 露・ジョージアのプラセボ群イベント率は米大陸の約1/4 ── 本当にHFpEF 腎・CVでの実績を土台に、FINEARTS-HFでEF≥40%の心不全へ だったのか 高K血症は増える ── “非ステロイド”でもKの作法は同じ 血中カンレノン非検出が検体の約30% ── 服薬への疑義 HFrEFでの直接エビデンスは未確立 ── 現時点は既存MRAで 教訓: 組入れの質と遵守が、薬の評価そのものを歪める TOPCAT地域解析: Circulation 2015;131:34 / FIDELIO-DKD: N Engl J Med 2020;383:2219 / FIGARO-DKD: N Engl J Med 2021;385:2252

#25.

● MR A − FIN ERE NONE − NOW A PP RO VED フィネレノン ── HFpEFで使える新しいMRA 国 内承 認 2025 年12月 用量 位 置づ け eGFR≥60は20mg・eGFR<60は10mgから 「慢性心不全」の適応追加を取得(標準治療下) EF≥40%でSGLT2阻害薬に次ぐ2剤目 1日1回 ── 4週間を目安に20mgへ増量 根拠はFINEARTS-HF ── LVEF≥40%でRR 0.84 K・腎機能のモニタリングは既存MRAと同じ作法 増量の前後でK・eGFRを確認 MRAとしてHFpEF/HFmrEFへの適応は初 HFrEF(EF<40%)は従来のMRAで eGFR25未満では開始しない(禁忌) TOPCATで止まっていたHFpEF×MRAが、10年でここまで来た ── 非ステロイド骨格が突破口になった 国内承認2025年12月22日(バイエル薬品) / FINEARTS-HF: N Engl J Med 2024;391:1475

SGLT2阻害薬の心不全における位置づけ

#26.

● MR A − PRACT ICE 実践 ── KとeGFRで線を引く 開 始の 条 件 モ ニタ リ ン グ K≥5.0mEq/Lでは開始しない 開始・増量後1週間でK・Cr再検、以後も定期的に eGFR<30は原則回避 ── 高K血症リスクが急増する K5.5超で減量、6.0超で中止を検討 歴 史の 教 訓 副 作用 へ の 対応 RALES公表後、実臨床では高K血症入院と死亡が急増(Juurlink) 女性化乳房・乳房痛 → エプレレノンへ切替 試験の安全性は、モニタリングあっての数字 用量はスピロノラクトン・エプレレノンとも25〜50mg/日 高K血症は「やめる理由」ではなく「管理する対象」 ── K吸着薬の併用でMRA継続を図る選択肢も(Section 07) Juurlink DN, et al. N Engl J Med 2004;351:543-551

#27.

● SE CTI O N 04 04 SGLT2阻害薬 糖尿病治療薬から、心不全の基盤薬へ

#28.

● S GLT 2 IN HIB IT OR − MECHAN ISM 血糖降下では、説明できない 血 糖以 外 で 効い て いる 根 拠 候 補機 序 (複 数が 並 走) 浸透圧利尿・Na利尿 ── 間質のうっ血を選択的に軽減 糖尿病の有無で効果が変わらない(DAPA-HF: 非DMでもHR 0.73) ケトン体利用 ── 不全心の“燃費”を改善 効果の立ち上がりが数週間と早い ── 動脈硬化改善では説明不能 Na+/H+交換系(NHE)阻害 ── 細胞内Ca過負荷を抑える HbA1c低下はわずか ── 血糖の寄与は小さい 腎保護・Ht上昇 ── 心腎連関ごと立て直す 単一の機序では説明できず、複数経路の合算と考えられている ── だからこそEF・DMを問わず効く

#29.

● S GLT 2 IN HIB IT OR − EV IDE NCE 2 0 19-2 02 2 EFを問わず一貫した、唯一のクラス DAP A-HF EMPEROR -Re duced EMPEROR -Pres erved DELIVER HR 0.74 HR 0.75 HR 0.79 HR 0.82 ダパグリフロジン エンパグリフロジン エンパグリフロジン ダパグリフロジン EF≤40%(n=4744) EF≤40%(n=3730) EF>40%(n=5988) EF>40%(n=6263) 主要評価(CV死亡+心不全悪化)をEF全域で2〜3割抑制 ── 迷ったら最初に入れる基盤薬 DAPA-HF: N Engl J Med 2019;381:1995 / EMPEROR-Reduced: NEJM 2020;383:1413 / EMPEROR-Preserved: NEJM 2021;385:1451 / DELIVER: NEJM 2022;387:1089

#30.

● S GLT 2 IN HIB IT OR − T HE E MPER OR TW IN S EMPEROR ── EFの上下を、双子で制した EMPE ROR -Red uced 2020 ─ ─ EF ≤40% EMPE ROR -Pre se rv e d 2021 ─ ─ E F >40% エンパグリフロジン / n=3730・平均EF27%の重症寄り集団 エンパグリフロジン / n=5988 ── HFpEF試験として最大級 主要評価(CV死亡+心不全入院) HR 0.75(0.65-0.86) 主要評価 HR 0.79(0.69-0.90) ── HFpEFで初の明確な勝利 eGFR低下の傾きも緩やか ── 腎複合イベントHR 0.50 効果は心不全入院の抑制が主体(HR 0.71) eGFR≥20まで組入れ ── 低腎機能への拡大の根拠 EF≥65%では効果減弱のシグナル ── EF依存性は残る DAPA-HF・DELIVERと合わせ2剤4試験で再現 ── プール解析では全死亡もHR 0.87(Zannad)。この再現性がクラスの信頼を作った EMPEROR-Reduced: N Engl J Med 2020;383:1413 / EMPEROR-Preserved: N Engl J Med 2021;385:1451 / Zannad F, et al. Lancet 2020;396:819

利尿薬の使用法とその限界

#31.

● S GLT 2 IN HIB IT OR − BE YOND HEA RT FAI LUR E 心・腎・急性期 ── 領域をまたいで同じ向き SOLOIST-WHF 2021 ソタグリフロジン(SGLT1/2) ── 非代償入院中〜退院直後に開始してHR 0.67。“悪化直後”でも早期開始を支持 DAPA-CKD 2020 CKD(DM有無問わず) ── 腎複合HR 0.61。糖尿病薬から腎保護薬への転換点 EMPA-KIDNEY 2023 より広いCKD ── 腎進行+CV死HR 0.72。eGFR20台・蛋白尿なしまで対象を拡大 読み方 心不全・CKD・DMの3領域、10本超のRCTで点推定が全て同方向 ── クラスとして堅牢 心不全患者の多くはCKDを併存 ── 1剤で心と腎を同時にカバーできることが、最初に入れる根拠を補強する SOLOIST-WHF: N Engl J Med 2021;384:117 / DAPA-CKD: N Engl J Med 2020;383:1436 / EMPA-KIDNEY: N Engl J Med 2023;388:117

#32.

● S GLT 2 IN HIB IT OR − P RA C TI CE 実践 ── 入院中から、eGFR20まで い つか ら 腎 機能 入院中・血行動態安定後すぐでよい(EMPULSE: 臨床的利益が上回る) eGFR≥20まで開始可 ── 長期には腎保護的 用量調整不要の1日1回 ── 導入ハードルが最も低い 開始直後の一過性eGFR低下(initial dip)は中止しない 注 意す べ き 合併 症 性 器・ 尿 路 感染 正常血糖ケトアシドーシス ── シックデイ・絶食・周術期は休薬 性器真菌感染が増える ── 清潔指導とともに処方 1型糖尿病では原則使わない 重症尿路感染・フルニエ壊疽はまれだが説明しておく 利尿薬との併用開始時は体液量に注意 ── 脱水傾向ならループ利尿薬を先に減らす EMPULSE: Nat Med 2022;28:568-574

#33.

● SE CTI O N 05 05 利尿薬 うっ血の完全解除 ── 予後の薬ではなく、症状の薬

#34.

● DI URET ICS − LOO P DIUR ET ICS 予後の薬ではなく、うっ血の薬 位 置づ け と 弱点 DOS E試 験 ─ ─ 急 性期 の 使 い方 生命予後を改善したRCTはない ── それでもうっ血には必須 高用量vs低用量・持続vsボーラス ── 主要評価に差なし 経口フロセミドの吸収率は10〜90%とばらつく(浮腫時はさらに低下) 高用量(内服量の2.5倍静注)で除水・症状改善は多い トラセミドへの切替は死亡を減らさなかった(TRANSFORM-HF: HR 1.02) Cr上昇は一過性 ── 恐れて過小投与にしない 長期・高用量は電解質異常とRAAS賦活の裏面も 反応は投与2時間後の尿中Naで早期評価できる 目標は“うっ血の完全解除” ── 残存うっ血は再入院の最大の予測因子。体重・頸静脈・NT-proBNPで確認して退院へ DOSE: N Engl J Med 2011;364:797 / TRANSFORM-HF: JAMA 2023;329:214

#35.

● DI URET ICS − PR AC TI C E 実践 ── 換算・剤形・効果判定 換 算の 目 安 国 内の 長 時 間型 フロセミド経口40mg ≒ 静注20mg(経口の吸収は不安定) アゾセミド ── J-MELODIC: フロセミド比でCV死+心不全入院HR 0.55 トラセミド10〜20mg・アゾセミド60mg ≒ フロセミド経口40mg 急峻な利尿によるRAAS賦活を避ける発想 ── 慢性期の選択肢 静 注化 の 判 断 効 果判 定 浮腫腸管では経口吸収がさらに低下 ── 効かない時はまず静注 投与2時間後の尿中Na>50〜70mEq/Lと尿量で早期に判定 静注量は内服量の2〜2.5倍相当を目安に(DOSE高用量群) 不十分なら同量追加ではなく倍量で ── 閾値を超える設計に 体重・尿量・Naで“今日効いたか”を毎日判定 ── 翌日に持ち越さないことが、うっ血解除を最短にする J-MELODIC: Circ J 2012;76:833 / DOSE: N Engl J Med 2011;364:797

第2列の薬剤とその適応

#36.

● DI URET ICS − DIURETIC RESIST ANCE 効かないときの、次の一手 サ イア ザ イ ド併 用 ア セタ ゾ ラ ミド ト ルバ プ タ ン V2拮抗 ── 電解質を失わない水利尿 長期ループ使用で遠位尿細管が肥大しNa再吸収が亢 近位尿細管に効く ── ADVOR試験でうっ血解除 長期予後は中立(EVEREST) ── 低Na・腎障害合併 進(braking現象) RR 1.46 のうっ血で 遠位を塞ぐ逐次ネフロン遮断で突破する 急性非代償例のループ静注に上乗せ 国内は3.75〜7.5mgで入院下に開始 ── 急速なNa 低K・低Naに注意して短期で 代謝性アルカローシス合併時に相性が良い 上昇に注意 ADVOR: N Engl J Med 2022;387:1185 / EVEREST: JAMA 2007;297:1319 ── まずは静注化と増量、次に部位の異なる薬を足す

#37.

● DI URET ICS − RECE NT TR IA LS 急性期利尿の周辺 ── 生理指標の改善≠予後 PUSH-AHF 2023 尿中Naガイドの利尿強化 ── Na利尿は確かに増えたが、180日の死亡・再入院は差なし ── 指標の改善≠予後 CLOROTIC 2023 ループにHCTZ上乗せ ── 体重減少は大きいが低K・腎機能悪化が増加し予後は不変 ── 併用は“短期の道具” ADVOR 2022 アセタゾラミド上乗せ ── 3日でのうっ血完全解除RR 1.46。予後試験ではないが“早く乾かす”ことへの直接エビデンス EVEREST 2007 トルバプタン長期 ── 短期の体重・呼吸困難・低Naは改善、死亡・心不全悪化は中立。症状の薬として位置づけが確定 利尿薬の試験は「うっ血をどう早く安全に取るか」の探索 ── 予後を動かすのはGDMT側という役割分担で読む PUSH-AHF: Nat Med 2023;29:2625 / CLOROTIC: Eur Heart J 2023;44:411 / ADVOR: N Engl J Med 2022;387:1185 / EVEREST: JAMA 2007;297:1319

#38.

● SE CTI O N 06 06 第2列の薬剤 ベルイシグアト・イバブラジン・ジゴキシン・静注鉄 ── 4本柱の“その先”

#39.

● S ECOND LI NE − VE RI CIGUAT / VI CTOR I A 2 0 20 ベルイシグアト ── 悪化した例に足す一手 機 序 ─ ─ NO に 頼ら な い V I CT ORI A ─ ─ 高 リス ク 集 団で の 試験 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を直接刺激 対象は最近悪化したHFrEF(入院/静注利尿薬歴+NT-proBNP高値) 内皮障害でNOが枯れていてもcGMPを回復できる 主要評価 HR 0.90(95%CI 0.82-0.98) 血管拡張・抗線維化・抗リモデリング 年間イベント率約35%の集団 → 絶対差4.2件/100人年 2.5mgから開始し10mgへ漸増(商品名ベリキューボ) 相対効果は控えめでも、高リスクでは実数が稼げる 出番: 4本柱を敷いた上で悪化イベントを起こした例 ── SBP<100mmHgでは慎重に。硝酸薬・PDE5阻害薬併用は避ける VICTORIA: N Engl J Med 2020;382:1883-1893

#40.

● S ECOND LI NE − VI CTOR 2 0 25 VICTOR ── 安定したHFrEFでは外れた 主要 評価 CV 死亡 (名目 ) 統合 解析 HR 0.93 HR 0.83 有意 18.0% vs 19.1% / P=0.22 292 vs 346例 ── 主要が外れたため VICTORIA+VICTOR(n=11155)では 悪化歴のない安定例n=6105で中立 あくまで仮説生成の位置づけ 複合エンドポイントを有意に抑制 使いどころは変わらず「悪化イベント後」 ── 安定例に広げる根拠はまだない。イベント率が高いほど働く薬 VICTOR: Lancet 2025(オンライン公開) / 統合解析: Lancet 2025 ── ESC 2025発表

心不全の合併症と治療戦略

#41.

● S ECOND LI NE − I VAB RAD INE / S HIFT 2 01 0 イバブラジン ── 心拍数だけを下げる 機 序 ─ ─ 洞 結節 に 限 局 S HI F T ─ ─ 入 院を 減 ら した 洞結節のIf電流(funny current)を選択的に阻害 洞調律・HR≥70/分・EF≤35%(n=6558) 血圧・収縮力に影響せず、心拍数だけを落とす 主要評価(CV死亡+心不全入院) HR 0.82 β遮断薬が増やせない低血圧例でも足せる 効果は入院減(HR 0.74)が主体 ── CV死亡は有意差なし 洞調律にしか効かない ── AFでは無効 ベースラインHRが高いほど効果大 適応: β遮断薬最大耐用量でも洞調律HR≥70/分 ── 光視症(約3%)とAF新規発症の増加に注意 SHIFT: Lancet 2010;376:875-885

#42.

● S ECOND LI NE − DI GOXI N / DI G 1 99 7 ジゴキシン ── 死亡は中立、入院は減る 全死 亡 心不 全入院 血中 濃度 RR 0.99 RR 0.72 0.5-0.9 n=6800 / 洞調律HFrEF 症状・入院には確かに効く ng/mL ── 事後解析で低濃度ほど良好 増やしも減らしもしない 強心薬で唯一“中立”を保った >1.2で死亡増の示唆 今の出番: 頻脈性AF合併のレート調節、GDMT下でも症状が残る例 ── 腎機能低下・アミオダロン併用で蓄積しやすい DIG: N Engl J Med 1997;336:525 / 濃度解析: Rathore SS, et al. JAMA 2003;289:871

#43.

● S ECOND LI NE − I V I RO N 静注鉄 ── 症状とQOLに効く 鉄 欠乏 の 定 義 エ ビデ ン ス 実践 フェリチン<100ng/mL または FAIR-HF: 症状・QOL・6分間歩行が改善 経口鉄は無効(IRONOUT) ── 静注で補う 100〜299ng/mL+TSAT<20% AFFIRM-AHF: 急性心不全後の心不全再入院を抑制 HFrEF/HFmrEFの症候例でスクリーニングして補充 貧血がなくても該当 ── 心不全の約半数に併存 死亡への効果は未確立 ── 詳細は次スライド カルボキシマルトース第二鉄は低リン血症に注意 FAIR-HF: N Engl J Med 2009;361:2436 / AFFIRM-AHF: Lancet 2020;396:1895 / IRONOUT-HF: JAMA 2017;317:1958

#44.

● S ECOND LI NE − I V I RO N − C RI TI C AL A PP RA IS AL 静注鉄の深読み ── 4連敗、でも同じ向き AFFIRM-AHF 2020 急性心不全後 ── RR 0.79・P=0.059で惜敗。COVID感度分析では有意。心不全再入院の単独では減少 IRONMAN 2022 デリソマルトース第二鉄 ── RR 0.82・P=0.070。これもCOVID解析で有意ライン HEART-FID 2023 米国の大規模試験 ── 階層的有意基準に届かず。効果量は小さい方向へ FAIR-HF2 2025 高用量戦略 ── 16.7% vs 21.9%(P=0.04)だが3つの主要評価の多重性補正で有意とならず。QOLは改善 点推定は4試験ともRR 0.8前後で同方向 ── 個々は外し続けたが、メタ解析では入院減が一貫。「死亡を減らす薬」ではなく「症状・QOL・再入院の薬」と読む AFFIRM-AHF: Lancet 2020;396:1895 / IRONMAN: Lancet 2022;400:2199 / HEART -FID: N Engl J Med 2023;389:975 / FAIR-HF2: JAMA 2025;333:1965

#45.

● S ECOND LI NE − L ES SO NS F ROM F AI L UR ES 届かなかった薬たち ── 失敗が教える設計図 PROMISE 1991 ミルリノン経口 ── 死亡28%増で中止。「収縮を押す」慢性治療の決定的な敗北。以後の強心薬開発の呪縛に MOXCON 1999 モキソニジン(中枢性交感神経抑制) ── 死亡増で早期中止。交感神経は“受容体で断つ”のが正解で、抑え方を間違えると害 OVERTURE 2002 オマパトリラト(ACE+NEP同時阻害) ── 優越を示せず血管性浮腫が壁に ── この失敗の再設計がARNI GALACTIC-HF 2021 オメカムチブ(ミオシン活性化) ── HR 0.92と小幅有効・CV死は不変。低EFほど効果は大きいが、承認には届かず 生き残った薬は例外なく「悪循環の遮断」 ── 失敗の系譜を知ると、4本柱がなぜこの4つなのかが見える PROMISE: N Engl J Med 1991;325:1468 / MOXCON: Eur J Heart Fail 2003;5:659 / OVERTURE: Circulation 2002;106:920 / GALACTIC -HF: N Engl J Med 2021;384:105

病態に基づく治療の組み立て方

#46.

● SE CTI O N 07 07 病態で組み立てる HFrEF・HFmrEF・HFpEF・急性期・腎障害・高齢者 ── 同じ薬を、違う順番で

#47.

● HFrEF − GDMT S TR AT EGY HFrEF ── 順番に最大化、から並行導入へ 従 来 ─ ─ 逐 次法 現 在 ─ ─ 低 用量 で 並 行導 入 1剤を最大用量まで増やしてから次へ 4クラスを低用量で4週間以内に揃える 4クラス揃うまで数ヶ月〜半年 各薬の効果は低用量でも早期(30日以内)から現れる その間のイベントを取りこぼす 機序が違う4剤は効果が積み上がる ── 併用で死亡リスク推定6割減 途中の低血圧・腎機能変化で脱落しやすい 増量は“揃えてから” ── 順序より網羅 例: SGLT2阻害薬+β遮断薬少量 → 数日でARNI → 1〜2週でMRA ── 血圧・K・腎機能を見ながら患者ごとに並べ替える 併用効果の推定: Vaduganathan M, et al. Lancet 2020;396:121 ── 4剤併用で従来治療比イベントフリー生存を6.3年延長(55歳時)

#48.

● HFrEF − ST R ONG-HF 2 0 22 退院後2週間で、フル用量まで 高強 度ケア 群 通常 ケア群 やっ たこと 15.2% 23.3% 2週間 退院前に半量 → 2週でフル用量 180日の死亡+心不全再入院 リスク差-8.1%で早期中止 6週間で4回の対面フォロー 安全確認はSBP・心拍数・K・Cr・NT-proBNP ── 「様子を見てから」の外来ペースこそが最大のリスクだった STRONG-HF: Lancet 2022;400:1938-1952(急性心不全退院例・n=1078)

#49.

● HFrEF − A CO NCRE TE TI ME LI NE モデルケース ── 日付で計画する2週間 入院Day1-3 うっ血解除と並行してSGLT2阻害薬を開始 ── 血行動態が安定したらARNI(新規ならACE阻害薬経由不要) Day4-退院 “乾いた”らβ遮断薬を少量で・MRAも開始 ── 退院前に4クラス着地、利尿薬は最小量へ 退院後Week1-2 対面フォローでBP・HR・K・Cr・NT-proBNPを確認 ── 問題なければ各薬の増量を開始 Week3-6 フル用量(または最大忍容量)へ到達 ── 以後は安定なら3ヶ月毎のフォローに移行 これはSTRONG-HFの臨床翻訳 ── 「次の外来で考える」ではなく、カレンダーに日付を書いて退院させる 個々の順序は血圧・K・腎機能・うっ血の残り具合で並べ替える ── 固定処方ではなく設計図として

#50.

● HFmrEF − EF 4 1-4 9% HFmrEF ── 確度が高いのはSGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬 EMPEROR-Preserved・DELIVERがEF41〜49%を包含 ── このEF帯で最も直接的なエビデンス ARNI / MRA / β遮断薬 PARAGON-HF・TOPCAT・β遮断薬メタ解析ともEFが低いほど効果 ── “HFrEFの延長”として考慮 フィネレノン FINEARTS-HF(EF≥40%)で有効 ── HFmrEFを正面から含む新しい選択肢 考え方 軽度低下は“軽症”ではなくHFrEFへの移行帯 ── EF改善後(HFimpEF)もGDMTは中止しない(TRED-HF) TRED-HF: 回復した拡張型心筋症で治療を中止すると6ヶ月で4割が再発 ── 「治った」ではなく「抑えている」 TRED-HF: Lancet 2019;393:61-73

急性心不全の初期対応と治療法

#51.

● HFpEF − 20 YEA RS OF NEUTR AL T RI ALS HFpEFの敗戦史 ── 20年、勝てなかった PEP-CHF 2006 ペリンドプリル ── 1年時点では入院減の示唆も、全体では中立。組入れとイベント不足に苦しんだ CHARM-Preserved カンデサルタン ── HR 0.89(P=0.118)で惜敗。入院は減る方向だが死亡は動かず I-PRESERVE 2008 イルベサルタン ── n=4128でHR 0.95、完全に中立。RAAS遮断への期待がここで一度尽きる TOPCAT 2014 スピロノラクトン ── 中立(ただし地域差)。ステロイド型MRAも決め手にならず 転換点 2021- EMPEROR-Preserved 0.79が初の明確な勝利 ── 全身病と捉え直した薬が突破口に PEP-CHF: Eur Heart J 2006;27:2338 / CHARM-Preserved: Lancet 2003;362:777 / I-PRESERVE: N Engl J Med 2008;359:2456 ── 敗因の共通項: 不均一な集団に単一機序で挑んだこと

#52.

● HFpEF − E F≥ 50 % HFpEF ── SGLT2阻害薬を土台に、表現型で足す 土 台 ─ ─ S G LT 2阻 害薬 フ ィネ レ ノ ン 肥 満表 現 型 セマグルチド ── STEP-HFpEF EMPEROR-Preserved 0.79 / DELIVER 0.82 FINEARTS-HF: RR 0.84(EF≥40%) 症状スコア+7.8点・体重-10.7% HFpEFで初めて一貫して勝ったクラス SGLT2阻害薬に次ぐ2剤目の候補 チルゼパチド ── SUMMIT 肥満・CKD・DMが多いHFpEFと好相性 K・腎機能のモニタリングはMRA同様 CV死亡+心不全悪化 HR 0.62 まず全例で検討する 開始・増量後1週間でK再検 肥満は“併存症”ではなく治療標的 うっ血には利尿薬、背景の高血圧・AF・肥満の管理が治療の本体 ── 薬の一覧より、表現型の見極め STEP-HFpEF: N Engl J Med 2023;389:1069 / SUMMIT: N Engl J Med 2025;392:427

#53.

● HFpEF − MIMICS 「HFpEF」と呼ぶ前に、除外する ATTRアミロイドーシス 左室肥厚なのに低電位・両側手根管症候群・脊柱管狭窄の既往が手がかり ── ピロリン酸シンチで非侵襲診断。タファミジス で死亡3割減(ATTR-ACT: HR 0.70) 肥大型心筋症 閉塞性ならマバカムテンなど疾患特異的治療がある ── 壁厚と流出路圧較差を必ず確認 収縮性心膜炎・弁膜症 心膜切除や介入で“治せる”心不全 ── 薬を積む前に構造を疑う 高拍出性心不全 貧血・甲状腺機能亢進・シャント ── 原因の治療がそのまま心不全の治療になる HFpEFは診断名ではなく入り口 ── 特異的治療のある疾患を見逃すと、GDMTを積んでも報われない ATTR-ACT: N Engl J Med 2018;379:1007-1016

#54.

● HFpEF − A TT R- C M UPDA TE ATTRは「治療できる病気」になった タ ファ ミ ジ ス ブ トリ シ ラ ン ア コラ ミ ジ ス ATTRibute-CM 2024: win比1.8 ATTR-ACT 2018: 全死亡HR 0.70 HELIOS-B 2024: 複合HR 0.72 次世代の安定化薬 TTR四量体の安定化薬 siRNAで肝のTTR産生自体を止める 延長試験で全死亡HR 0.64 ── 選択肢は増え続け 進行例(NYHA III)では効果減 ── 早期診断が全て 42ヶ月の全死亡36%減 ── 皮下注・3ヶ月毎 る 見逃しのコストが跳ね上がった ── 高齢+左室肥厚+HFpEF様なら、ピロリン酸シンチを一度は考える ATTR-ACT: N Engl J Med 2018;379:1007 / HELIOS-B: N Engl J Med 2025;392:33 / ATTRibute-CM: N Engl J Med 2024;390:132

#55.

● ACUT E HF − S EE CO MPANI ON DECK 急性心不全 ── 初期対応は、この1本へ → そ ちら の 1本 で扱 う 内 容 初期評価 ── A・B・Cの安定化とNPPVの数字 Nohria-Stevenson分類 ── 4タイプ別の治療方針 急性期のFantastic Four ── 入れる順番と条件 退院基準・Red Flags・退院後2週間の設計 『深夜の急性心不全 ── 最初の1時間と最初の2週間』 初期評価からRed Flags・症例演習まで、急性期の実務はすべてこちらに 本デッキが受け持つのは ── 薬の位置づけとエビデンス SGLT2阻害薬は即日(EMPULSE)・ARNIも院内から(PIONEER-HF) 退院時が生涯で最もGDMTが入りやすい瞬間 ── 初期対応は参照デッキ、薬の設計はこのデッキ。出口は同じ「退院時4クラス着地」 参照: 常見勇太『深夜の急性心不全 ── 最初の1時間と最初の2週間』── 初期評価→うっ血解除→Fantastic Four→退院後フォロー

強心薬と昇圧薬の使用法

#56.

● ACUT E HF − NEUT RA L VAS ODI LA TOR T RI AL S 急性期の血管拡張薬 ── ことごとく中立 TRUE-AHF 2017 ウラリチド(合成ANP) ── 48時間の血行動態は改善、CV死亡HR 1.03で中立 ── 早期介入仮説は不発 RELAX-AHF-2 2019 セレラキシン ── 第2相の死亡減シグナルは大規模第3相(n=6545)で再現されず。180日CV死亡は中立 GALACTIC 2019 早期からの積極的血管拡張戦略 ── 通常ケアと180日アウトカムに差なし。戦略ごと検証しても結果は同じ 読み方 短期の血行動態・症状の改善は長期予後に翻訳されない ── 主役はうっ血解除と退院前に敷くGDMT 硝酸薬は今も道具ではある ── 高血圧性肺水腫の血圧管理・症状緩和に使い、予後改善は期待しない TRUE-AHF: N Engl J Med 2017;376:1956 / RELAX-AHF-2: N Engl J Med 2019;381:716 / GALACTIC: JAMA 2019;322:2292

#57.

● ACUT E HF − IN OTR OP ES & VA SO PR ES SO RS − P HAR MA C OLO GY 強心薬・昇圧薬 ── 受容体と用量で読む ドブタミン(DOB) β1主体(+β2) ── 2〜10γ。収縮力↑と軽い血管拡張。頻脈・不整脈が用量依存に増え、β遮断薬内服中は効きが鈍る ドパミン(DOA) 用量で顔が変わる ── 1〜3γ:D1(腎血管)、3〜10γ:β1、10γ〜:α1。“腎保護量”は神話と判明 ── 今あえて選ばない ノルアドレナリン(NAD) α1主体+β1 ── 0.05〜0.3γ。低血圧を伴うショックの昇圧の主役。頻脈を起こしにくく心筋酸素需要の増加も比較的小さい アドレナリン β1+β2+α1の全部盛り ── 乳酸上昇・不整脈・難治化(OptimaCC)。心停止・アナフィラキシー以外では原則使わない ミルリノン/オルプリノン PDE3阻害 ── 受容体を介さずcAMPを直接上げるためβ遮断薬下でも効く。血管拡張が強く血圧は下がる・腎排泄で蓄積 γ=μg/kg/分 ── OptimaCC: J Am Coll Cardiol 2018;72:173(心筋梗塞後ショックでアドレナリンは難治性ショックを増やした)

#58.

● ACUT E HF − CAR DIOGE NI C SH OCK 低灌流の薬 ── 強心薬・昇圧薬の使い分け 昇 圧の 第 一 選択 強 心薬 の 選 択 ノルアドレナリン ドブタミン vs ミルリノン 出 口戦 略 強心薬は“橋渡し” SOAP-II: ドパミンは不整脈が多く DOREMI: 直接比較で複合アウトカムに差なし 数日で反応を見切り、補助循環・移植評価へ ショック群では死亡も増えた β遮断薬内服中はPDE3阻害のミルリノンに理 漫然と続けない ── PROMISEの教訓 ドパミンをあえて選ぶ場面はもうない ミルリノンは腎排泄と血管拡張に注意 使う前に、外せる薬を外す ── β遮断薬・血管拡張薬を整理し、原因(虚血・弁・不整脈)の是正を並行する SOAP-II: N Engl J Med 2010;362:779 / DOREMI: N Engl J Med 2021;385:516

#59.

● ACUT E HF − IN OTROPES − EV IDE NCE 強心薬の試験 ── 使うほど分が悪い OPTIME-CHF 2002 ショックのないうっ血にミルリノン48時間をルーチン投与 ── 利益なく、遷延性低血圧(10.7% vs 3.2%)と新規AFが増加 ROSE-AHF 2013 利尿薬に低用量ドパミン2γを上乗せ ── 尿量も腎機能も改善せず。“腎保護ドパミン”はここで終了した SURVIVE 2007 レボシメンダンvsドブタミン ── 180日死亡に差なし(26% vs 28%)。Ca感受性増強薬も突破口にならず(国内未承認) 読み方 RCTで生存を改善した強心薬はひとつもない ── 適応は“低灌流の橋渡し”だけ。うっ血だけの症例には使わない OPTIME-CHFの教訓 ── 「念のための強心薬」は害。使う前に低灌流(冷たい末梢・乳酸・尿量・意識)を確認する OPTIME-CHF: JAMA 2002;287:1541 / ROSE-AHF: JAMA 2013;310:2533 / SURVIVE: JAMA 2007;297:1883

#60.

● ACUT E HF − IN OTR OP ES − P RA CT I CE 実践 ── γ・半減期・併用・離脱 開 始量 の 目 安 半 減期 と 調 整 DOB 2〜3γから最大10γ / NAD 0.05γから漸増 カテコラミンは半減期約2分 ── 数分で定常、切れも早い ミルリノンは維持0.25〜0.75γ ── ローディングは低血圧のため省略が実務 ミルリノンは約2.5時間+腎排泄 ── eGFR低下では減量し遷延に注意 組 み合 わ せ 離 脱と 出 口 低血圧を伴えばNAD+DOB(またはNAD+ミルリノン) 乳酸・尿量・末梢温・意識で灌流を再評価 単剤の増量で埋めない ── β遮断薬内服中はPDE3阻害薬に理 24〜72時間で漸減 ── 切れなければMCS・移植評価へ進む 強心薬を始めた瞬間から、やめる計画を立てる ── 毎日「まだ要るか」を問い、漫然投与(PROMISEの害)に戻らない γ=μg/kg/分。体重50kgでDOB 3γ ≒ 9mg/時 ── 希釈規格に合わせて換算表を院内で統一しておく

心不全患者における合併症の管理

#61.

● COMORB IDI TY − CKD & HYPERK ALEMIA 腎機能低下 ── やめる前に、続ける工夫 eGFR 20 SGLT2阻害薬の開始下限 ── CKDでは腎保護がむしろ追い風(DAPA-CKD・EMPA-KIDNEY) eGFR 30 MRAは原則ここまで ── ARNI/ACE阻害薬は減量しつつ可能な限り継続 Cr上昇30% RAAS阻害薬開始後の上昇はここまで許容 ── 血行動態性で、中止すると長期の腎・心保護を失う K 5.5 MRA減量ライン ── K吸着薬併用でMRA継続を図る(DIAMOND: パチロマーで継続率改善) 心腎は運命共同体 ── 「腎機能が悪いから中止」の前に、減量・吸着薬・SGLT2阻害薬への置き換えを尽くす DIAMOND: Eur Heart J 2022;43:4362 / DAPA-CKD: N Engl J Med 2020;383:1436

#62.

● COMORB IDI TY − AT RI AL FI BR IL LA TI ON AF合併 ── 薬物はアブレーションまでの橋 AF-CHF 2008 薬理的リズムvsレート ── 死亡に差なし。アミオダロン主体のリズム維持に上乗せはなかった CASTLE-AF 2018 カテーテルアブレーション ── 死亡+心不全入院HR 0.62。薬理で越えられなかった壁をリズム介入が越えた EAST-AFNET 4 発症1年以内の早期リズムコントロール ── CVアウトカム改善、心不全合併サブでも一貫 薬の役割 レートはβ遮断薬±ジゴキシン ── 非DHP Ca拮抗薬はHFrEF禁。リズム維持薬で使えるのは実質アミオダロンのみ HFrEF+AFは「アブレーションを検討する病態」 ── 頻拍誘発性心筋症なら劇的に改善しうる。抱え込まず不整脈チームへ AF-CHF: N Engl J Med 2008;358:2667 / CASTLE-AF: N Engl J Med 2018;378:417 / EAST-AFNET 4: N Engl J Med 2020;383:1305

#63.

● COMORB IDI TY − HYPOT ENSIO N & ELDERLY 低血圧・高齢者 ── 削る順番を決めておく 血 圧が 下 が った ら ─ ─ こ の順 で 削 る 高 齢者 ・ フ レイ ル 1. うっ血がなければ利尿薬を減量(最も多い原因) 無症候ならSBP90mmHg台でも継続 ── 数字ではなく症状で判断 2. 予後に効かない降圧薬(Ca拮抗薬・硝酸薬など)を外す 1剤の最大化より4クラス低用量の網羅を優先 3. それでもならARNIを減量、またはACE阻害薬へ 起立性低血圧・転倒・ポリファーマシーを定期レビュー 4. 削っても“ゼロ”にしない ── 低用量で残す 年齢だけを理由に見送らない ── 高齢サブグループでも効果は一貫 SGLT2阻害薬・MRAは血圧への影響が小さい ── 最後まで残す 症候性低血圧の評価: 起立時測定・うっ血所見・併用薬の棚卸しをセットで

#64.

● COMORB IDI TY − D R UG S T O A VOI D 足す前に引く ── 心不全を悪化させる薬 NSAIDs Na貯留+腎血流低下 ── 増悪入院の代表的な誘因。整形・市販薬を含め“痛み止め”の服薬歴を必ず洗う チアゾリジン 体液貯留で心不全入院が増加 ── 症候性心不全では使わない サキサグリプチン SAVOR-TIMI 53: 心不全入院HR 1.27 ── DM合併ならDPP-4より心不全に実績のあるSGLT2阻害薬を先に 非DHP Ca拮抗薬・I群 ベラパミル・ジルチアゼムは陰性変力でHFrEF不可 ── I群抗不整脈薬はCAST(器質的心疾患で死亡増)の教訓 薬剤性の増悪は、最も防ぎやすい増悪 ── 入院のたびに“悪化させた薬はないか”をお薬手帳ごと監査する SAVOR-TIMI 53: N Engl J Med 2013;369:1317 / CAST: N Engl J Med 1991;324:781

#65.

● S UMMA RY − DOS IN G QUI CK R EF ER ENC E 国内用量の早見表 ── 開始量→目標量 ACE阻害薬/ARB エナラプリル2.5 → 10mg/日 / カンデサルタン4 → 8mg/日(ARNI不使用時) ARNI サクビトリルバルサルタン 50mg×2回 → 200mg×2回(2〜4週毎に倍量) β遮断薬 カルベジロール2.5 → 20mg/日 / ビソプロロール0.625 → 5mg/日(貼付テープ可・2週毎に倍量) MRA スピロノラクトン・エプレレノン25 → 50mg/日 / フィネレノン10〜20mg(EF≥40%) SGLT2阻害薬 ダパグリフロジン10mg/エンパグリフロジン10mg ── 増量不要の1日1回 ベルイシグアト 2.5 → 5 → 10mg/日(2週毎・SBP≥100を確認しながら) イバブラジン 2.5mg×2回から ── 安静時HR 50〜60/分を目標に最大7.5mg×2回 添付文書ベースの目安 ── 実際は血圧・心拍数・K・腎機能・体液量で個別調整

心不全治療のまとめと今後の展望

#66.

● S UMMA RY − TH E FAN TA ST IC FO UR まとめ ── 4本柱の数字を、手元に ARNI HR 0.80 PARADIGM-HF ── ACE阻害薬に対して。切替は36時間・Cr30%上昇まで許容 β遮断薬 HR 0.65-0.66 CIBIS-II / MERIT-HF / COPERNICUS ── 少量から、乾いてから、2週毎に倍量 MRA HR 0.63-0.70 RALES / EMPHASIS-HF ── K≥5.0で開始しない・1週間で再検 SGLT2阻害薬 HR 0.74-0.82 DAPA-HF〜DELIVER ── EFを問わず。入院中から・eGFR20まで 4週間で4クラス ── 増量よりまず網羅。悪化したらベルイシグアト、洞調律頻拍にイバブラジン、鉄欠乏に静注鉄 各薬剤の詳細は該当セクションを参照

#67.

● CASE − PU T TI NG I T TO GE THE R 症例 ── 退院まで3日、何をするか 7 2歳 男性 ─ ─ 初 発心 不 全 ・入 院 5日 目 考 える ポ イ ント EF 28%(虚血性) ── PCI済み Q1. 4本柱のうち、入っているのはいくつか うっ血は解除: 体重-4kg・頸静脈怒張なし・ラ音なし Q2. BP 102/64は導入の障害になるか BP 102/64mmHg・HR 78/分(洞調律) Q3. eGFR 48・K 4.4で使えない薬はあるか K 4.4mEq/L・eGFR 48・NT-proBNP 2800pg/mL Q4. 退院までの3日間の具体的な手順は 現行処方: フロセミド20mg・エナラプリル2.5mg ── 次のスライドの前に、自分の処方を組んでみてください 架空症例 ── ここまでのスライドの内容だけで組み立てられます

#68.

● CASE − MOD EL ANS WE R 解答例 ── 血圧102でも4クラスは並ぶ 今日 エナラプリル中止 → 36時間後にARNI 50mg×2回へ ── 同時にダパグリフロジン10mg開始(eGFR48は全く問題ない) 明日 乾いていてHR78 → カルベジロール2.5mg開始 ── K4.4・eGFR48ならスピロノラクトン25mgも開始できる 退院時 フロセミドは最小量(または中止)へ ── 退院サマリーに4クラスの用量と増量計画を明記 退院後2週間 Week1に採血(K・Cr)と血圧・体重 ── 問題なければ増量開始、Week2に対面で忍容性を確認 血圧が低めでも削るのは利尿薬から ── うっ血が取れていれば利尿薬を絞ることで、4本柱を入れる“血圧の余白”が生まれる 無症候の収縮期血圧90mmHg台は継続・増量の障害にならない ── 数字ではなく症状で判断

#69.

● T A KE H OM E MESSA GE Take Home Message 01 予後を変えるのは4本柱 ── 順番より網羅 ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬を低用量で並行導入し、4週間で揃える 02 うっ血は“完全”に取る ── 利尿薬は症状の薬 残存うっ血は再入院の最大の予測因子。体重・頸静脈・NT-proBNPで確認して退院へ 03 やめる前に、続ける工夫 Cr上昇30%までは許容・K吸着薬でMRA継続・血圧が下がったら削るのは利尿薬から 04 入院はGDMTの起点 ── 退院処方が予後を規定 SGLT2阻害薬は即日、ARNIも院内から。退院後2週間の予定を日付で決めて帰す 明日から、ひとつだけ ── 次の退院サマリーで、4クラスそれぞれ「入っているか・入っていない理由」を1行ずつ書く。 空欄が埋まらない患者が、次に手を打つべき患者です。

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