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腎臓内科の基本的な理解と目次
#2. はじめに Ø 新入院時には他の診療科同様、主訴、病歴、家族歴や既往・内服歴などは しっかり把握しよう! 特に腎臓内科では病態が急性か慢性か把握することは重要だ Ø 腎機能の変化はもちろん、毎日の尿量・体重・浮腫・血圧の変化にも 敏感になろう! Ø 腎臓内科特有で把握すべき項目にはvolume、貧血、K/Cre/eGFR/BUN/HCO3-、 CKD-MBD(mineral and bone disorder)、アシドーシス、尿毒症、 栄養、腎代替療法など多数あるので網羅的に情報収集しよう!
#3. 目次 1. 入院時に把握すべき事柄 2. 毎日チェックすべき項目 3. 腎臓内科特有の項目 4. 番外編 5. Take Home Message
入院時に把握すべき事柄と急性腎障害の対応
#4. 目次 1. 入院時に把握すべき事柄 2. 毎日チェックすべき項目 3. 腎臓内科特有の項目 4. 番外編 5. Take Home Message
#5. 1.入院時に把握すべき事柄 入院時チェックリスト p Ø Ø Ø Ø 主訴・現病歴 発症時期 経過:急性か慢性か 腎生検歴とその結果 検診歴とその結果 p 既往歴 Ø 糖尿病・高血圧・脂質異常症など いわゆる生活習慣病の有無 Ø 心疾患 p Ø Ø Ø 身体所見 バイタルサイン 扁桃腫大の有無 皮疹の有無 p Ø Ø Ø Ø 検査所見 尿所見異常の有無、尿蛋白定量 これまでの腎機能推移 K/HCO3-/P/Ca/I-PTH 抗核抗体やANCAなどの抗体価 p 家族歴 Ø 腎疾患や透析の有無 p Ø Ø Ø 内服薬 レニンアンギオテンシン系阻害薬や利尿薬 NSAIDs 抗菌薬や抗凝固薬など腎機能に応じた用量調整の必要なもの などなど項目はたくさん…
#6. 1.入院時に把握すべき事柄 急性か慢性か u 急性腎障害(AKI):数時間〜数日の経過で出現した腎障害 原因 脱水、感染症、薬剤性、糸球体腎炎・尿細管障害、脱水、血流障害など… 主に腎前性、腎性、腎後性に分けられる(成書参照) 対応 原因に対する介入がメイン 緊急透析が必要かを判断 u 慢性腎臓病(CKD):数ヶ月〜数年の経過で進行性に増悪 原因 糖尿病、高血圧などなど 生活習慣病が多いがIgA腎症など慢性腎炎もある 対応 根本的な治療は困難 血圧管理などによる保存的加療で進行を抑えることがメイン
#7. 1.入院時に把握すべき事柄 急性腎障害 よくある急性腎障害の鑑別表: 尿浸透圧 腎前性 >500mOsm/L 腎性 <350mOSm/L BUN/Cre比 >20 <20 FENa <1% >1% 尿中Na <20mEq/L >40mEq/L 上記はあくまで参考所見であり 明らかな症例以外は結局は病歴や上記所見に加えて加療での経過をみていくことになる
#8. 1.入院時に把握すべき事柄 1.緊急で透析が必要? 緊急透析の適応 腎障害をみたら緊急透析の適応がないかをチェック!!! Acidosis 高度の代謝性アシドーシス(pH<7.2) Intoxication 透析で除去可能な中毒 Uremia 意識障害や心筋炎を伴う尿毒症 Electrolyte 高K血症(>6.5)、高Mg血症、高Ca血症 Overload 利尿薬で管理できない溢水
#9. 1.入院時に把握すべき事柄 1.緊急で透析が必要? 腎生検の適応 主な適応 絶対的禁忌 ü 尿蛋白のみ陽性 ü 患者の不同意 →尿蛋白定量で0.5g/日以上 ü 尿路感染症 ü 尿蛋白・尿潜血両方陽性 →0.5g/日以下でも考慮 ü コントロールできない出血傾向 ü ネフローゼ症候群 相対的禁忌 ü 尿潜血のみ陽性 (Dysmorphic/変形赤血球) ü 水腎症 ü 片腎 合併症 ü 馬蹄腎 出血(最多)、疼痛、感染など 長澤先生 など… Antaaスライド 「腎生検の実臨床への生かし方」参照
#10. 目次 1. 入院時に把握すべき事柄 2. 毎日チェックすべき項目 3. 腎臓内科特有の項目 4. 番外編 5. Take Home Message
毎日チェックすべき項目と腎性貧血の管理
#11. 2.毎日チェックすべき項目 尿量と体重 このスライドからは毎日チェックすべき項目について記載する p 尿量 ü 尿量が日に日に増えてきているのか、減ってきているのか ü 利尿薬反応性がありそうか ü 下記に当てはまってないか 乏尿<400ml/日 無尿<100ml/日 ü 測定は正確か(バルン留置しているなら正確と推察されるが、カップなどで自己測定している場合 は不正確?) p 体重 ü 外来時・入院時の体重からの推移(減少か増加か) ü 最も痩せている時からの体重の変化 ü 尿量測定が正確でない患者では特に体重をチェック
#12. 2.毎日チェックすべき項目 浮腫と血圧 p 浮腫 ü 浮腫の原因は多岐に渡るため参考程度 ü ただ、もともと浮腫がなかった方が腎障害とともに出現したりすると尿量が低下しているのか と考える ü 特にネフローゼ症候群では治療反応性の指標になる(本人のQOLに直結!) p 血圧 ü ü ü ü 普段の血圧との違いを確認 高血圧:血管内volume過多なのか、血管石灰化や動脈硬化なのか、単純に環境要因なのかを確認 低血圧:血管内脱水や感染など介入可能な病態がないかチェック 病院食は食事がしっかり減塩になっているので入院するだけでも血圧管理がよくなる
#13. 2.毎日チェックすべき項目 血液・尿検査 血液検査 Hb Alb 鉄欠乏の有無を確認しつつ腎性貧血への対応を検討 ネフローゼ症候群、栄養状態の確認 K/BUN/Cre/eGFR 溶質貯留を確認 CCr 薬剤調整の必要性を確認 (クレアチニンクリアランス) P/Ca/I-PTH pH/HCO3- CKD-MBDとしての介入が必要かを確認 炭酸水素ナトリウムの必要性を確認 尿検査 尿定性(蛋白、潜血など) 糸球体疾患かどうかの推定に使用 尿蛋白定量 一日尿蛋白排泄量に近似。ネフローゼ症候群の 診断やCKDの予後因子として測定 (g/gCre) =随時尿蛋白/尿Cre 尿沈渣 (赤血球、白血球、円柱など) 診断の補助として使用 一部の項目は 後のスライドで詳しく説明
#14. 2.毎日チェックすべき項目 腎性貧血 ü 腎不全患者ではエリスロポエチン(EPO)産生能の低下 赤血球寿命の短縮、EPO反応性の低下、栄養障害、回路内残血などの要因で貧血となる ü 開始基準:Hb 10g/dL以下 目標Hb:10-12 g/dL ü 治療の主体は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与 ü 皮下注射または静脈内投与 ü 副作用 ü 反応性のEPO濃度上昇が認められにくいため腎性貧血ではEPO濃度は Ø 高血圧 貧血の程度に比して低くなる (EPO<50mIU/mLが目安) Ø 血栓塞栓症 Ø 癌の進行 Ø 赤芽球癆 など ü ESA低反応性の患者では、鉄欠乏の有無の確認も重要である 鉄欠乏がなければHIF-PH阻害剤の使用を検討する
#15. 2.毎日チェックすべき項目 CKD-MBD 概要 ü CKD-MBDは腎臓の機能低下による代謝異常で、血管石灰化などに関与し、 心血管合併症や骨イベントを予防するために管理する ü 優先順位:P > Ca > I-PTH ü 主に透析量、食事、内服薬で管理 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療 ü あくまで長期的合併症の予防を目的とする ガイドライン2012 日本透析医学会 ü ü ü ü P 高P血症を引き起こすため、透析量調整、 食事療法、P吸着薬などで対応 P吸着薬は透析量調整や食事制限でも 低下が不十分な場合に使用される 目標値は3.5-6.0 mg/dL 代表的なP吸着薬には、 炭酸ランタン(Ca非含有)、炭酸カルシウム (Ca含有)などがある Ca ü 低Ca血症を引き起こすためVitDや Ca含有P吸着薬を使用する ü 目標値は8.4-9.5 mg/dL PTH ü 高I-PTHとなるため、VitDや カルシミメティクスを使用する ü 目標値は60-240 pg/mL
腎臓内科特有の項目と腎代替療法の選択
#16. 3. 腎臓内科特有の項目 カルテでの記載セット p 体液貯留 BNP値、胸部レントゲン、下腿浮腫 利尿薬の使用状況 p 腎代替療法選択 血液透析、腹膜透析、腎移植の希望 療法選択外来の受診の有無 p 溶質貯留 BUN、Cre、K、HCO3-の値 K吸着薬や炭酸水素ナトリウムの使用状況 p 食事・栄養指導 誰が食事を準備しているか 栄養士による指導の有無 p 尿蛋白 随時尿蛋白定量を行い、必要に応じて蓄尿検査も実施 p ブラッドアクセス 自己血管内シャントの作成の可否 他のブラッドアクセスの適応 p 腎性貧血 Hb、MCV、鉄動態(Fe、UIBC、TSAT、フェリチン)の値 ESAの使用状況 p CKD-MBD P、Ca、I-PTHの値 VitD製剤やP吸着薬の使用状況 p 心エコー 心収縮能、asynergyの有無、弁膜症の有無
#17. 目次 1. 入院時に把握すべき事柄 2. 毎日チェックすべき項目 3. 腎臓内科特有の項目 4. 番外編 5. Take Home Message
#18. 3. 腎臓内科特有の項目 心エコー 心腎連関が叫ばれている昨今 CKD患者では可能であれば心エコーをチェック p 心収縮力(EF) 冠動脈狭窄の精査加療の必要性 シャント作製には一般的にEF 20-30%以上が望ましい HFrEFとしての管理が必要かどうか レニン・アンジオテンシン系阻害薬などなど… p 左心室肥大 長期の高血圧があると肥大しやすい p 拡張障害 E/A ratioやE/eʼ ratio(本スライドで説明は割愛) HFpEFとしての管理が必要かどうか 利尿薬などなど… p 弁膜症 外科的加療や経過観察の必要性 今後の心不全の経過に重要 p 肺高血圧
#19. 3. 腎臓内科特有の項目 腎代替療法 血液透析 腹膜透析 腎移植 代替できる腎機能 10% ホルモンの異常は残る 5% ホルモンの異常は残る 50% ホルモンの異常はある 程度 生命予後 心血管合併症 悪い 悪い 優れている 通院 週3回 月1-2回 安定すれば月1回 費用 40万円/月 30〜50万円/月 デメリット バスキュラーアク セスの問題 腹膜炎 EPS 初年度 400万 その後月10万程度 免疫抑制 拒絶反応
#20. 3. 腎臓内科特有の項目 療法選択外来 ü 腎代替療法それぞれの治療法にはメリットやデメリットがあり、 それぞれの特徴を知ってもらう ü 医療者は、エビデンスに基づいた選択肢を提示し 患者と共に治療法を選択するようにサポートする ü 患者の価値観やライフスタイル、生活環境に合わせた治療法を 選ぶことが重要 ü 看護師が主に対応することが多いが、理想的には医師も話をすることが 望ましい ü 日本腎臓学会の「腎不全 治療選択とその実際2022」が参考になる ü 条件付きではあるが500点の保険点数がある
栄養管理と腎臓内科の仕事内容
#21. 3. 腎臓内科特有の項目 栄養 p 減塩が最も重要 Ø 高血圧の要因として大きい→CKD進行のリスク Ø 6g/日が理想 血圧推移を見ながら調整 (日本人の平均塩分摂取量は10g/日) p Ø Ø Ø Ø カリウムは個別に判断 高K血症の患者にはしっかりカリウム制限を指導 特にレニン・アンギオテンシン系阻害薬内服中の方では注意 ただ、野菜や果物の摂取自体は重要なため過度な制限は禁物 むしろ摂取を励行することでCKD進行を抑えれるという報告もあり p 低蛋白食も症例ごとに検討 Ø 若い方で食事摂取が多い人には制限してもいいかもしれないが、腎障害患者の多くは 高齢者でありサルコペニアの方が怖い Ø むしろカロリーを摂取することを促す方が重要
#22. 3. 腎臓内科特有の項目 バスキュラーアクセス p 血液透析には高血流が要求され、そのためにバスキュラーアクセスが必要である p バスキュラーアクセスの条件:十分な血流と穿刺の容易さを確保する p 合併症の少なさや簡便さなどから主に自己血管内シャントを作成する 自己血管内シャント p 手術前に問診、身体検査、超音波検査で患者を評価し、心機能も考慮する必要がある p 血清Creが5〜7mg/dL程度でシャント作製を行うことが多い p 局所麻酔で1-2時間程度の手術 p 橈側皮静脈静脈と橈骨動脈の吻合である p タバコ窩または手首で、可能であれば非利き手で行う 自己血管内シャント以外 p 人工血管内シャント(AVG)は末梢静脈がはっきりしない例に使用され、感染や開存率が問題 p 動脈表在化は、動脈を皮下に持ち上げてシャント作製する方法で、シャント音やスリルは認めない p 長期留置型カテーテルは、AVF/AVG 作製が困難な場合に中心静脈に留置 皮下トンネルとカフを使用し、事故抜去になりにくい。
#23. 4. 番外編 腎臓内科の仕事内容 糸球体疾患 尿細管間質性疾患 遺伝性腎疾患 膠原病関連の腎疾患 その他の全身疾患 透析困難症や に伴う腎疾患 透析患者の合併症 血管炎 これらの疾患を治せるものは治し なんとか腎機能を維持できるように保存的治療を行い 腎機能が残念ながら廃絶してしまったら腎代替療法をうまく導入し 保存的治療・腎代替療法のトラブルシューティングに対応する
#24. 5. Take Home Message Take Home Message Ø 新入院時には他の診療科同様、主訴、病歴、家族歴や既往・内服歴などは しっかり把握しよう! 特に腎臓内科では病態が急性か慢性か把握することは重要だ Ø 腎機能の変化はもちろん、毎日の尿量・体重・浮腫・血圧の変化にも 敏感になろう! Ø 腎臓内科特有で把握すべき項目にはvolume、貧血、K/Cre/eGFR/BUN/HCO3-、 CKD-MBD(mineral and bone disorder)、アシドーシス、尿毒症、 栄養、腎代替療法など多数あるので網羅的に情報収集しよう!