テキスト全文
SGLT2阻害薬の基本情報と使用経験 #1.
糖尿病専門医の よく使う薬剤シリーズ② SGLT2阻害薬 舞浜太郎 日本糖尿病学会専門医 #2.
SGLT2阻害薬の使用経験が少ない 方の不安を解決します SGLT2阻害薬は どんな薬? SGLT2阻害薬の 副作用は何に 注意する? SGLT2阻害薬を 開始するとき、 どんな指導が必要? SGLT2阻害薬は 1型糖尿病にも 使えるって聞いた けどどうして? SGLT2阻害薬は 心不全、慢性腎臓病 にも使える? SGLT2阻害薬は 高齢者でも 安全に使える? #3.
SGLT2阻害薬で知っておきたい 5つのポイント ① ② ③ ④ ⑤ インスリンを介さない血糖降下薬で「くせがすごい」薬 1型糖尿病にも使用可能だが、専門医が望ましい 心不全、慢性腎不全にも使用できる 頻尿や尿路感染症、性器感染症など副作用が多い 高齢者に投与するときにはADL低下がある場合は要注意 SGLT2阻害薬の機序と効果 #4.
①-1 SGLT2阻害薬とは・・・ インスリン インスリン 分泌非促進系 分泌促進系 ビグアナイド薬 血糖依存性 インスリン 基礎インスリン製剤 DPP-4阻害薬 チアゾリジン薬 α-グルコシダーゼ阻害薬 GLP-1受容体作動薬 血糖非依存性 グリニド薬 血糖値をよくするだけでなく 心不全や腎不全にも良い効果がある 追加インスリン製剤 混合型インスリン製剤 スルホニル尿素(SU)薬 SGLT2阻害薬 一言でいうと糖を尿に排出する薬 良い効果も多いけど、知っておかないと いけない副作用も多い 配合溶解インスリン製剤 「くせがすごい」薬 #5.
SGLT2阻害薬一覧 用量 エンパグリフロジン (ジャディアンス®︎) ダパグリフロジン (フォシーガ®︎) カナグリフロジン (カナグル®︎) トホグリフロジン (デベルザ®︎、アプルウェイ®︎) ルセオグリフロジン (ルセフィ®︎) イプラグリフロジン (スーグラ®︎) 10mg、25mg 5mg、10mg 100mg 20mg 2.5mg、5mg 50mg、100mg 2型糖尿病 2型糖尿病 2型糖尿病 2型糖尿病 適応病名 2型糖尿病 1型糖尿病 慢性心不全 慢性心不全 2型糖尿病 1型糖尿病 慢性腎臓病 半減期 9.9-11.7時間 12.1時間 10.6時間 5.4時間 11.2時間 11.7時間 SGLT2/SGLT1選択性 2680倍 610倍 290倍 2900倍 1770倍 860倍 なし なし DPP4阻害薬との合剤 トラディアンス®︎ (リナグリプチン) なし カナリア®︎ (テネリグリプチン) スージャヌ®︎ (シタグリプチン) #6.
①-2 SGLT2阻害薬の機序、効果 腎尿細管のNa+/ブドウ糖共役輸送体を阻害 →本来再吸収されるブドウ糖を尿に排出(約200-300kcal/日) 同時にNaも排出されるが投与開始直後以外ではNaの排出上昇はないとされる インスリンに依存せずに高血糖を是正する薬剤(1型糖尿病にも使用できる) 効果:血糖改善、体重減少、血圧低下、尿酸値低下、脂質代謝改善 (内臓脂肪を減らすことでインスリン抵抗性が改善するため) 一部の薬剤では心血管保護効果や腎保護効果が確認され 慢性心不全、慢性腎臓病の適応がある(詳細は後述) 1型糖尿病におけるSGLT2阻害薬の使用 #7.
仮想症例1 50歳男性、172cm 95kg 健康診断で高血糖を指摘された。2か月の食事、運動療法の指導でHbA1c 8%→7.8%と 著明な改善はみられていない。薬物治療には納得しているが、内服回数が少ない薬剤を 希望している。 診察室血圧 145/90mmHg 空腹時採血 LDLコレステロール130mg/dL TG 170mg/dL HbA1c 7.8% Glu 170mg/dL このような場合は、SGLT2阻害薬単剤で 肥満の是正や血圧/脂質 コントロールの改善も見込めます #8.
①-3 SGLT2阻害薬のシックデイ対応 シックデイとは発熱、嘔吐、下痢などがあるときや 食事や水分が普段通り摂取できないとき SGLT2阻害薬は必ず休薬 一方的に糖が排泄されるためケトン体が上昇しケトアシドーシスのリス ク、そのほか脱水リスク、低栄養リスクも上がる #9.
②-1 1型糖尿病でも使用できる 使用できる薬剤:ダパグリフロジン(フォシーガ®︎) イプラグリフロジン(スーグラ®︎) メリット:インスリン使用量の減少、体重増加抑制、血糖変動の抑制 気を付ける点:正常血糖ケトアシドーシス(詳細は副作用の項目で) インスリンは減らすだけで絶対にやめない #10.
②-2 1型糖尿病でも使用できるが・・・ 基礎インスリンの減量は治療前の20%を超えることは避ける HbA1c<7.5% HbA1c≧7.5% 基礎、追加インスリンを10-20% 前後を目安に減量することを検討 基礎、追加インスリンは減量しないか わずかな減量にとどめる インスリンの過度の減量でケトアシドーシスのリスクが高まる 可能性が指摘されているため専門医以外は行わない方が無難 慢性心不全と慢性腎臓病への適応 #11.
③-1 慢性心不全の適応追加 使用できる薬:ダパグリフロジン、エンパグリフロジン ダパグリフロジン (フォシーガ®) エンパグリフロジン (ジャディアンス®) 用量 10mg 10mg 適応 慢性心不全の標準的な治療を受けている方 慢性心不全の標準的な治療を受けている方 大規模臨床試験 DAPA-HF試験 EMPEROR-Reduced試験 腎機能 eGFR≧30 eGFR<30は腎機能障害が悪化する恐れがあり慎重投与 eGFR≧20 eGFR<20は腎機能障害が悪化する恐れがあり慎重投与 左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与 5mgは適応なし 左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与 25mgは適応なし 左室駆出率の保たれた慢性心不全患者でも効果があり 今後追加適応が期待される 備考 #12.
③-2 慢性腎臓病の適応追加 使用できる薬:ダパグリフロジンのみ (エンパグリフロジンが今後適応追加予定) ダパグリフロジン (フォシーガ®) 用量 10mg 適応 末期腎不全、透析施行中を除く慢性腎臓病 大規模臨床試験 腎機能 備考 DAPA-CKD試験 eGFR≧25 eGFR<25は腎機能障害が悪化する恐れがあり慎重投与 5mgは適応なし SGLT2阻害薬の副作用と注意点 #13.
③-3 適応追加の懸念点 シックデイ対策 食事がとれないときに内服を中止することを指導する 糖尿病薬としての認識がない分、シックデイに内服を続けることで ケトン体上昇のリスクが上がる 糖尿病の有無や治療状況の確認を 1型糖尿病やインスリン分泌低下している患者には要注意 処方前に糖尿病の治療内容を確認し医療連携してください 利尿薬使用していれば脱水に要注意 既に利尿薬が処方されているケースでは体液量減少が特に投与初期に起こるため注意 適切な水分補給を指導 やせ型ならばサルコペニア対策も 高齢者の場合は腎機能に応じたタンパク質摂取、レジスタンス運動の指導もお願いします #14.
④-1 SGLT2阻害薬の副作用 起こりやすい副作用 頻尿・脱水、尿路感染症・性器感染症、空腹感、皮疹 多くはないが見逃したくない副作用 正常血糖ケトアシドーシス、低血糖 高齢者で使用するときに特に注意が必要 サルコペニアなどの老年症候群 #15.
④-2 頻尿・脱水、空腹感 頻尿 多くの人は日常生活に支障はきたさない すでに頻尿がある、歩行が不安定などがみられる方は要注意 夜間頻尿は転倒、骨折のリスクになるためそのような患者には使用しない方が無難 脱水 SGLT2阻害薬の内服開始初期に体液量の減少が起こる→500ml程度摂取する水分(水やお茶など)を促す 利尿薬使用中の患者は特に体液量減少に注意する これまでの大規模臨床試験などからは脳梗塞の発症を増加させるエビデンスはみられていない 空腹感 症例によって内服1~3ヵ月頃より空腹感が強くなり、甘いものを欲することがみられる 食事が増えたら内服の意味がなくなってしまうため栄養指導などで注意を #16.
④-3 尿路感染症・性器感染症 女性に多い 大規模臨床試験から性器感染症の割合は増える(多いのは膣カンジダ症) 尿路感染症は変わらないという報告もある(膀胱炎や腎盂腎炎など) 投与初期に起こる例や2カ月程度経過して起こる例もある 脱水対策も含めて飲水を励行すること、陰部を清潔に保つことを指導する フルニエ壊疽(頻度はごくまれ) 外陰部、会陰部の壊死性筋膜炎が海外で報告されている 外陰部、会陰部、肛門周囲に発赤や疼痛、腫脹が見られる 対策:外科的な対応が必要なケースもあるため皮膚科や泌尿器科、産婦人科などに 速やかにコンサルテーションする 正常血糖ケトアシドーシスのリスクと対策 #17.
④-4 皮疹 掻痒症~紅斑、発疹がでるなど非重篤な場合がほとんど 1日~14日以内(投与初期)に発症することが多い 別のSGLT2阻害薬でも生じる可能性がある 対策:内服中止、皮膚科にコンサルト、別系統の薬剤へ変更 特に粘膜(口唇や外陰部など)に発赤やびらんが見られる場合は 重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群など)となる ケースがあるため皮膚科医にコンサルトしましょう #18.
④-5 正常血糖ケトアシドーシスとは 通常の糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と異なり血糖値は そこまで上昇せず(正常~やや高値)、高ケトン体血症、 アシドーシスを起こす病態 通常のDKAではインスリン作用の極度の低下、グルカゴンの過剰 などから高血糖、高ケトン体血症が起こり、緩衝機能の破綻で アシドーシスを起こす SGLT2阻害薬内服中の場合はグルコースが尿に排出されているため 血糖値は正常でもケトアシドーシスが起こることが特徴 自覚症状は嘔気・嘔吐、腹痛、頻呼吸などDKAと同様である #19.
④-6 正常血糖ケトアシドーシスの対策 シックデイの対応などを徹底 一番大切! 処方時に患者指導しましょう 嘔吐、腹痛、全身倦怠感などの症状がないか 症状の聞き取りも行いましょう 尿ケトン測定 強陽性の場合は注意 血中ケトン体測定 気をつける患者像 アルコール多飲者 感染症や脱水 非肥満(BMI<25) 極端な糖質制限 小型で迅速に測定できる機器もある 糖尿病性ケトアシドーシスではβ-ヒドロキシ酪酸が増加します 尿ケトンではβ-ヒドロキシ酪酸よりアセト酢酸を中心に 検出するため早期に検知するに不向きなことは知っておきましょう! #20.
④-7 低血糖 作用機序を踏まえると単剤では低血糖を起こしにくい薬剤 ただしインスリン併用例、インスリン分泌促進薬(SU薬、 グリニド薬)併用例で重症低血糖がみられることがある インスリン併用例では②-2を参考にインスリン減量 SU薬使用例ではDPP4阻害薬の場合に準じて減量 グリメピリド2mg/日を超えている場合は2mg/日以下に減量 グリベンクラミド1.25mg/日を超えている場合は1.25mg/日以下に減量 グリクラジド40mg/日を超えている場合は40mg/日以下に減量 高齢者におけるSGLT2阻害薬の使用とサルコペニア #21.
⑤-1 高齢者ではサルコペニアに注意 高齢者の糖尿病では老年症候群(サルコペニア、フレイル、 認知症、転倒・骨折など)を合併しやすいとされる SGLT2阻害薬は強制的に糖を排出させる薬のため、 過度にエネルギー制限を行っていることになる 対策:高齢者で食事摂取が不十分な場合には処方しない 運動療法(特にレジスタンス運動)を指導し 筋力増加を促す #22.
⑤-2 サルコペニアのスクリーニング サルコペニアとは加齢に伴う筋力・筋量の低下により 身体能力が低下している状態 栄養不足や内分泌変化や神経系の機能低下などの 要因が関与する 外来で簡易にスクリーニングする場合は 下腿周囲計 男性<34cm 女性<33cm 握力 男性<28kg 女性<18kg 5回椅子立ち上がりテスト≧12秒 #23.
Q&A Q. 周術期のSGLT2内服は中止、再開の基準は? A. 周術期のストレスや絶食でケトアシドーシスリスクが上がります 手術前は3日前から休薬がすすめられています 再開は食事が十分に行えていることを確認して再開しましょう Q. 高齢者でおむつの患者は避けた方がよい? A. 個人的には避けています 陰部を清潔に保てず尿路感染症を引き起こすリスクになります 心不全や慢性腎臓病の場合でも使用するときは注意を! #24. 参考文献 Sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors improved time-in-range without increasing hypoglycemia in Japanese patients with type 1 diabetes: A retrospective, single-center, pilot study Daisuke Suzuki et al; J Diabetes Investig 2020 1230-1237 The Impact of Nocturia on Falls and Fractures: A Systematic Review and Meta-Analysis. Pesonen JS et al. J Urol. 2020; 674-683. SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=48(参照 2022-02-15)