拡散強調像(DWI)は脳梗塞の画像診断に欠かせないシーケンスですが,その意味を正しく理解できていますか? 拡散強調像を使いこなすと脳梗塞画像診断のレベルがグッと上がります.「拡散強調像で光っているから脳梗塞!」というパターン化された診断から脱出して,拡散強調像を自在に使いこなせるようになりましょう.
このプレゼンテーションでは,①拡散の意味と急性期脳梗塞の病態,②DWI と ADC の基本的原理,③脳梗塞の病期と画像の変化,について解説しています.
リクツが理解できると画像診断は楽しくなります.一緒に画像診断を楽しく学びましょう。
テキスト全文
千葉大学医学部附属病院放射線科 和田武
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このプレゼンテーションを作った人 和田 武(わだ たけし) 所属: 千葉大学病院放射線科 略歴: 2011年 千葉大学医学部卒 2013年 聖路加国際病院 (チーフレジデント) 2017年 がん研有明病院(医員) 2019年 千葉大学病院(特任助教) 専門: 画像診断一般・IVR
4.
このプレゼンテーションの対象 医学生〜初期研修医〜放射線科専攻医 DWI を正しく解釈して,脳梗塞画像診断をレベルアップさせたい人
5.
ある日の MRI DWI ADC map FLAIR 若手 Dr. 「先生,これって脳梗塞ですか?」 DWI: diffusion weighted image, ADC: apparent diffusion coefficient, FLAIR: fluid-attenuated inversion recovery 5
6.
DWI イマイチ 光ってない... うーん... このプレゼンテーションを学ぶ前のあなた 6
7.
Question さきほどの症例の診断は? A B 超急性期脳梗塞!! 亜急性期脳梗塞!!
8.
Question さきほどの症例の診断は? A B 超急性期脳梗塞!! 亜急性期脳梗塞!!
9.
このプレゼンテーションを学んだ後のあなた 拡散強調像では信号変化が不明瞭 ですが,ADC mapを見ると右MCA 皮質枝領域に一致して信号上昇が あり、同領域にはFLAIRでの信号上 昇が認められます. すなわち拡散強調像ではちょうど pseudonormalization の時期にあ り,発症から2週間程度が経過した 亜急性期早期の梗塞と考えられます.
10.
このプレゼンテーションを学べば, 君も DWI についてドヤ顔が出来るかも!!
11.
Table of contents 1 拡散の意味と急性期脳梗塞の病態 2 DWI と ADC の基本的原理 3 脳梗塞の病期と画像の変化
12.
Table of contents 1 拡散の意味と急性期脳梗塞の病態 2 DWI と ADC の基本的原理 3 脳梗塞の病期と画像の変化
13.
MRIにおける拡散とは?
14.
H2O 水分子のブラウン運動が最も重要.
15.
H2O 障害物がなければ,水分子は3次元的に自由に拡散する.
16.
H2O 障害物があると拡散に制限が加わる
17.
生体内において,拡散の程度は組織によって異なる.
18.
拡散の違いをコントラストとして画像化 拡散強調像(DWI)
19.
拡散制限に関する表現(放射線科医がよく使用する) 拡散制限(+) 拡散制限あり,拡散制限が強い,拡散が低下している 拡散制限(−) 拡散制限なし,拡散制限が弱い,拡散が亢進している 19
20.
なぜ DWI が脳梗塞の診断に重要なのか?
21.
急性期脳梗塞の病態
22.
① 脳血管閉塞・灌流圧低下 アテローム血栓や塞栓により閉塞. →脳動脈の灌流圧が低下する. 22
23.
② 循環予備能による代償 脳動脈の灌流圧が低下. →毛細血管が拡張. →局所脳血液量(rCBV)の増加. rCBV: regional cerebral blood volume →局所脳血流量(rCBF)を代償. rCBF: regional cerebral blood flow 循環予備能による代償 23
24.
② 循環予備能による代償 脳動脈の灌流圧が低下. →毛細血管が拡張. →局所脳血液量(rCBV)の増加. rCBV: regional cerebral blood volume →局所脳血流量(rCBF)を代償. rCBF: regional cerebral blood flow 循環予備能による代償 24
25.
③ 循環予備能による代償が破綻 さらに脳動脈の灌流圧が低下. →循環予備能が破綻し, 局所脳血流量(rCBF)も低下. 25
26.
④ 脳細胞でのグルコース代謝 O2 グルコース ピルビン酸 O2 O2 解糖系 O2 脳の活動には持続的なグルコース と酸素供給が必要. グルコースを ATP (エネルギー源) に代謝する過程で酸素が必要*. *嫌気的解糖はエネルギー効率が低い. TCAサイクル 電子伝達系 ATP 安静覚醒時の酸素摂取率(OEF) は40-50%程度と余裕がある. 26
27.
④ 代謝予備能による代償 O2 グルコース 解糖系 ピルビン酸 O2 O2 O2 局所脳血流量(rCBF)が減少. →ATP の産生が低下. →酸素摂取率(OEF)を上昇させる. OEF: oxygen extraction fraction TCAサイクル 電子伝達系 →嫌気的解糖(低効率)の活用. ATP 代謝予備能による代償 27
28.
④ 代謝予備能による代償 O2 グルコース 解糖系 ピルビン酸 O2 O2 O2 →ATP の産生が低下. →酸素摂取率(OEF)を上昇させる. O2 OEF: oxygen extraction fraction TCAサイクル 電子伝達系 O2 局所脳血流量(rCBV)が減少. →嫌気的解糖(低効率)の活用. ATP O2 代謝予備能による代償 28
29.
④ 代謝予備能による代償 O2 グルコース 解糖系 ピルビン酸 O2 O2 O2 TCAサイクル 電子伝達系 O2 O2 →ATP の産生が低下. →酸素摂取率(OEF)を上昇させる. 乳酸 嫌気的解糖 ATP 局所脳血流量(rCBV)が減少. OEF: oxygen extraction fraction →嫌気的解糖(低効率)の活用. O2 代謝予備能による代償 29
30.
④ 代謝予備能による代償が破綻 O2 グルコース 解糖系 ピルビン酸 O2 O2 O2 TCAサイクル 電子伝達系 代謝予備能が破綻し,ATP産生が 低下. 乳酸 嫌気的解糖 ATP 3Na →脳細胞は壊死に陥る. →Na+-K+の能動輸送も停止. 2K 30
31.
④ 代謝予備能による代償が破綻 Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na Na 細胞内に Na が貯留. Na Na Na 3Na 2K 31
32.
⑤ 細胞性浮腫 細胞は腫大し,細胞性浮腫に至る. →細胞間隙は狭小化する. 32
33.
この時,水の拡散は??
34.
急性期脳梗塞における水の拡散 梗塞部 拡散制限(+) 非梗塞部 拡散制限(-) 34
35.
拡散強調像(DWI)ではどう見えるか 拡散制限の強い部位では,拡散強調像(DWI)で高信号を示す. → 拡散の違いをコントラストとして画像化したのが拡散強調像 (DWI) !! 35
36.
まとめ ① DWI は拡散の違いをコントラストとして 画像化したシーケンス. ② 急性期脳梗塞では水分子の拡散制限が生じる. ③ 組織における拡散の程度を評価することで 脳梗塞を診断することができる. 36
37.
Table of contents 1 拡散の意味と急性期脳梗塞の病態 2 DWI と ADC の基本的原理 3 脳梗塞の病期と画像の変化
38.
何の画像でしょう? DWI (b = 1000) DWI (b = 0) ADC map 38
39.
b 値ってなに? 画像の違いは? ADCってなに?
40.
どうやって拡散の違いを画像化しているのか?
41.
まずは MRI の基礎を復習
42.
MRI は水のプロトンから 信号を取得して画像化する技術
43.
プロトンの自転 プロトンは自転している(スピン). プロトンは+の電荷を持ち,回転す ると電流が流れ,磁場が生まれる. MRIスキャナーのような強い外部 磁場の中では,プロトンの磁場は 外部磁場と平行な方向に整列する.
44.
プロトンの歳差運動 自転以外の運動として 歳差運動(回転しているコマの 首振り運動)がある. 回転軸が少し傾くと,傾きを一定に 保ちながら軸の上端が円を描く.
45.
歳差運動を上から見ると 磁化ベクトルが円を描く. このベクトルの向きを位相という. 45
46.
静磁場の中に入れただけでは 各プロトンの位相はバラバラ. 46
47.
90° RF(radio-frequency)パルスをかけると 各プロトンの位相が揃う. このときベクトルの総和は最大. 47
48.
時間が経過すると 歳差運動の周波数が異なるため, 位相は分散していく(dephasing). 48
49.
180° RF パルスをかけると 歳差運動の向きが逆転し, 位相が再収束する(rephasing) . 49
50.
各プロトンの位相が再び揃い, 信号を得ることができる. 50
51.
SE (spin echo) sequence のパルスシーケンス図 ここまでの経過が最も基本的な SE 系シーケンス. DWI ではこのシーケンス*に工夫を加えることで,拡散を強調する. * 実際は高速撮像のできる EPI (echo planar imaging) を用いることがほとんど. 51
52.
SE-DWI のパルスシーケンス図 反対方向の傾斜磁場を2回かける. この傾斜磁場を MPG (motion probing gradient) という.
53.
プロトンが完全に静止している場合 1度目の傾斜磁場で 位相は分散していく(dephasing). 53
54.
プロトンが完全に静止している場合 2度目の傾斜磁場で, 位相が再収束する(rephasing) . 54
55.
プロトンが完全に静止している場合 各プロトンの位相が再び揃い, 傾斜磁場が信号の取得に及ぼす影響はない. 55
56.
プロトンが拡散している場合 1度目の傾斜磁場で 位相が分散していく(ここは同じ). 56
57.
プロトンが拡散している場合 別部位のプロトン(位相が異なる)と 位置が入れ替わってしまう. 57
58.
プロトンが拡散している場合 元々いたプロトンを rephase する強さで 2度目の傾斜磁場をかける(不適切). 58
59.
プロトンが拡散している場合 位相が再収束せず,ベクトルの総和が減少する. → DWI での信号が低下する. 59
60.
b値とは? G δ Δ b 2 (sec/mm ) = 2 2 Gδ 2 γ (Δ-δ/3) γ: 磁気回転比(定数), G: 傾斜磁場強度, δ: MPG 印可時間, Δ: MPG 間隔
61.
b値とは? b値は MPG の強さ,と感覚的に理解しておけばOK*. * MPG印可時間(δ)やMPG間隔(Δ)を長くすると,echo time (TE) が延長してしまうので, 実際は傾斜磁場強度(G)が最もb値の調整に重要. b値が大きくなると,位相分散がより強く生じる. 静止している組織と拡散している組織の信号差が大きくなる (コントラストが強くなる). 61
62.
b値の違いによる画像の違い b=0 b = 1000 CSF (拡散制限−)が高信号 CSF の信号は低下 急性期梗塞部に淡い高信号 急性期梗塞部に明瞭な高信号 *信号そのものは全体で低下しており,あくまで相対的. 62
63.
脳 MRI での b 値 b 値はある程度大きくしないと,微小灌流(perfusion)の影響が混入する. 脳 MRI では,b ≧ 400 (sec/mm2) の高い b 値が必要とされ, 通常は b = 0, 1000 2 (sec/mm ) の2回の撮影が用いられる. 63
64.
なんで2回撮影するの? b = 1000 だけじゃだめ?
65.
どちらも脳梗塞ですか? b = 1000 脳梗塞 (拡散制限+) b = 1000 多発性硬化症(拡散制限-) 65
66.
b 値を変化させた時の信号変化 EPI-DWI は T2* コントラスト(+). →水っぽい組織が高信号を示す. b 値を大きくすると,信号は低下. 拡散制限が強い組織( )は拡散 制限が弱い組織( )より信号が 低下しにくく,b 値を大きくするほど 信号差は明瞭になる. 0 1000 b この信号差が DWI のコントラスト. 66
67.
b 値を変化させた時の信号変化 EPI-DWI は T2* コントラスト(+). →水っぽい組織が高信号を示す. b 値を大きくすると,信号は低下. 拡散制限が強い組織( )は拡散 制限が弱い組織( )より信号が 低下しにくく,b 値を大きくするほど 信号差は明瞭になる. 0 1000 b この信号差が DWI のコントラスト. 67
68.
b 値を変化させた時の信号変化 EPI-DWI は T2* コントラスト(+). →水っぽい組織が高信号を示す. b 値を大きくすると,信号は低下. 拡散制限が強い組織( )は拡散 制限が弱い組織( )より信号が 低下しにくく,b 値を大きくするほど 信号差は明瞭になる. 0 1000 b この信号差が DWI のコントラスト. 68
69.
複数の b 値で撮影すると b = 1000 での信号 > > 一見すると が拡散制限強い? b = 0 での信号 信号の減少幅 >> > > >> は元々の信号が高いために,b = 1000 でも高信号を示している. 0 1000 b → 単独の b 値では拡散制限の 評価は出来ない. 69
70.
複数の b 値で撮影すると b = 1000 での信号 > > 一見すると が拡散制限強い? b = 0 での信号 信号の減少幅 >> > > >> は元々の信号が高いために,b = 1000 でも高信号を示している. 0 1000 b → 単独の b 値では拡散制限の 評価は出来ない. 70
71.
複数の b 値で撮影すると b = 1000 での信号 > > 一見すると が拡散制限強い? b = 0 での信号 信号の減少幅 >> > > >> は元々の信号が高いために,b = 1000 でも高信号を示している. 0 1000 b → 単独の b 値では拡散制限の 評価は出来ない. 71
72.
と どちらの拡散制限が強い? → 拡散の程度(拡散係数)を計測すればよい. 72
73.
拡散係数 (D) D: diffusion coefficient 73
74.
拡散係数(D)の違い Dが大きい → 自由に拡散 Dが小さい → 拡散に制限あり 74
75.
拡散は3次元的にランダムに生じる. → D値を直接計測するのは難しい. 75
76.
ADC 見かけの拡散係数(ADC)を計測する. ADC: apparent diffusion coefficient 76
77.
ADC の計算 b 値を増加 → 信号は減衰していく. グラフの信号強度を対数変換する. この傾きから得られる値が ADC. 信号の減衰が少ない(拡散制限が 強い)ほど,ADC 値は小さくなる. 0 1000 b ADC 値は複数の b 値で計算する とより正確になる. 77
78.
ADC の計算 b 値を増加 → 信号は減衰していく. グラフの信号強度を対数変換する. この傾きから得られる値が ADC. 信号の減衰が少ない(拡散制限が 強い)ほど,ADC 値は小さくなる. 0 1000 b ADC 値は複数の b 値で計算する とより正確になる. 78
79.
ADC の計算 b 値を増加 → 信号は減衰していく. グラフの信号強度を対数変換する. この傾きから得られる値が ADC. 信号の減衰が少ない(拡散制限が 強い)ほど,ADC 値は小さくなる. 0 1000 b ADC 値は複数の b 値で計算する とより正確になる. 79
80.
ADC map 各ピクセルの ADC 値を計測し, 画像化したのが ADC map. ADC 値が低いピクセルは ADC map で低信号を示す. 80
81.
DWI と ADC による拡散制限の解釈 : high b で高信号,ADC 小さい → 拡散制限強い(パンパン) : high b で低信号,ADC 大きい → 拡散制限弱い(スカスカ) : high b で高信号,ADC 大きい → T2 shine through(ジュクジュク) 0 1000 b : high b で低信号,ADC 小さい → T2 dark through(カピカピ) 81
82.
DWI と ADC による拡散制限の解釈 : high b で高信号,ADC 小さい → 拡散制限強い(パンパン) : high b で低信号,ADC 大きい → 拡散制限弱い(スカスカ) : high b で高信号,ADC 大きい → T2 shine through(ジュクジュク) 0 1000 b : high b で低信号,ADC 小さい → T2 dark through(カピカピ) 82
83.
DWI と ADC による拡散制限の解釈 : high b で高信号,ADC 小さい → 拡散制限強い(パンパン) : high b で低信号,ADC 大きい → 拡散制限弱い(スカスカ) : high b で高信号,ADC 大きい → T2 shine through(ジュクジュク) 0 1000 b : high b で低信号,ADC 小さい → T2 dark through(カピカピ) 83
84.
DWI と ADC による拡散制限の解釈 : high b で高信号,ADC 小さい → 拡散制限強い(パンパン) : high b で低信号,ADC 大きい → 拡散制限弱い(スカスカ) : high b で高信号,ADC 大きい → T2 shine through(ジュクジュク) 0 1000 b : high b で低信号,ADC 小さい → T2 dark through(カピカピ) 84
85.
DWI と ADC まとめ ADC DWI high low high low T2 shine through 拡散制限(+) 拡散制限(ー) T2 dark through 85
86.
さきほどの症例 拡散制限(+) 拡散制限(−) 86
87.
2) 拡散制限を示す病態 細胞性浮腫 急性期脳梗塞,神経細胞・グリアの急性障害,ニューロンの興奮 粘調度上昇 脳膿瘍, epidermoid cyst 細胞密度増加 脳腫瘍など 87
88.
まとめ ① b値を変化させると,DWI のコントラストを 変化させることができる. ② 単独のb値では,拡散制限の評価はできない. ③ 複数のb値で撮影し,ADC を計測することで 拡散制限の程度を評価することができる. 88
89.
Table of contents 1 拡散の意味と急性期脳梗塞の病態 2 DWI と ADC の基本的原理 3 脳梗塞の病期と画像の変化
90.
2) 脳梗塞の病期と信号強度の変化 病期 病態 DWI ADC T2WI 発症直後 閉塞直後: 灌流低下 所見なし 変化なし 所見なし 超急性期 細胞性浮腫 高信号 低下 所見なし 急性期 高信号 低下 高信号 高信号 ⇒ 低下 ⇒ 高信号 pseudonormalization pseudonormalization fogging effect* 浮腫軽減 ⇒ 低信号 ⇒ 上昇 高信号 壊死、吸収 ⇒ 瘢痕化 低信号 上昇 高信号 細胞性浮腫+血管性浮腫 マクロファージ遊走浸潤 亜急性期 血管新生 慢性期 *一般的にはCT所見の用語として用いられることが多い. 90
91.
脳梗塞の病期と信号強度の変化 病期 病態 発症直後 閉塞直後: 灌流低下 DWI 所見なし ADC 変化なし T2WI 所見なし 超急性期 細胞性浮腫 高信号 低下 所見なし 急性期 高信号 低下 高信号 高信号 ⇒ 低下 ⇒ 高信号 pseudonormalization pseudonormalization fogging effect* 浮腫軽減 ⇒ 低信号 ⇒ 上昇 高信号 壊死、吸収 ⇒ 瘢痕化 低信号 上昇 高信号 細胞性浮腫+血管性浮腫 マクロファージ遊走浸潤 亜急性期 血管新生 慢性期 91
92.
発症直後 脳動脈の灌流圧低下は生じるが, 細胞性浮腫には至っていない. この時点では,DWI/ADC map/T2WI で異常所見がない. →発症直後は脳組織ではなく, 血栓や血流の低下を評価すべし. 92
93.
発症直後: 血栓や血流低下を評価 TOF-MRA FLAIR T2*WI 右ICA〜MCA が消失. MCA が描出される* 血栓が低信号 ICA: internal carotid artery → intraarterial signal →susceptibility sign* MCA: middle cerebral artery TOF: Time-Of-Flight *通常 flow void により描出されない. *hyperdense sign (CT) と類似所見. 93
94.
脳梗塞の病期と信号強度の変化 病期 病態 発症直後 閉塞直後: 灌流低下 DWI ADC T2WI 所見なし 変化なし 所見なし 超急性期 細胞性浮腫 高信号 低下 所見なし 急性期 細胞性浮腫+血管性浮腫 高信号 低下 高信号 高信号 ⇒ 低下 ⇒ 高信号 pseudonormalization pseudonormalization fogging effect* 浮腫軽減 ⇒ 低信号 ⇒ 上昇 高信号 壊死、吸収 ⇒ 瘢痕化 低信号 上昇 高信号 マクロファージ遊走浸潤 亜急性期 血管新生 慢性期 94
95.
超急性期〜急性期: 細胞性浮腫と血管性浮腫を評価 超急性期 急性期 BBB破綻 BBB: Blood-brain barrier 細胞性浮腫 (DWI 高信号) 細胞性浮腫+血管性浮腫 (T2WI や FLAIR でも高信号化) 95
96.
急性期梗塞(穿通枝領域) DWI ADC map DWI 高信号 FLAIR ADC 低下 FLAIR 高信号 96
97.
脳梗塞の病期と信号強度の変化 病期 病態 DWI ADC T2WI 発症直後 閉塞直後: 灌流低下 所見なし 変化なし 所見なし 超急性期 細胞性浮腫 高信号 低下 所見なし 急性期 高信号 低下 高信号 高信号 ⇒ 低下 ⇒ 高信号 細胞性浮腫+血管性浮腫 マクロファージ遊走浸潤 亜急性期 血管新生 慢性期 pseudonormalization fogging effect* 浮腫軽減 ⇒ 低信号 ⇒ 上昇 高信号 壊死、吸収 ⇒ 瘢痕化 低信号 上昇 高信号 97
98.
亜急性期 亜急性期早期 亜急性期後期 壊死・貪食 細胞の壊死とマクロファージによる貪食が進行し,スカスカに. 水分子の拡散は強く制限された状態から自由な状態へと移行していく. 98
99.
亜急性期梗塞(右中大脳動脈皮質枝領域) DWI ADC map FLAIR DWI で等信号〜淡い高信号,ADC 軽度上昇,FLAIR 高信号 DWI では pseudonormalization (拡散が一見正常化)している. 99
100.
pseudonormalization の時期 DWI (high b): 約14日 > ADC: 約10日 ADC の方が少し早く pseudonormalizaion する. 10 0
101.
脳梗塞の病期と信号強度の変化 病期 病態 DWI ADC T2WI 発症直後 閉塞直後: 灌流低下 所見なし 変化なし 所見なし 超急性期 細胞性浮腫 高信号 低下 所見なし 急性期 高信号 低下 高信号 高信号 ⇒ 低下 ⇒ 高信号 pseudonormalization pseudonormalization fogging effect* 浮腫軽減 ⇒ 低信号 ⇒ 上昇 高信号 壊死、吸収 ⇒ 瘢痕化 低信号 上昇 高信号 細胞性浮腫+血管性浮腫 マクロファージ遊走浸潤 亜急性期 血管新生 慢性期 10 1
102.
慢性期 亜急性期 慢性期 徐々に CSF に置換されていき,水分子の拡散はさらに亢進していく. 10 2
103.
慢性期梗塞(右中大脳動脈皮質枝領域) DWI ADC map FLAIR 水分子が自由に拡散 → CSF の信号に近づいていく. *FLAIR では IR (inversion recovery) pulse により CSF の信号は抑制される. 10 3
104.
脳梗塞の病期と画像の変化まとめ 信号強度 ADC 時間 1〜数時間 病期 拡散 1〜2週間 超急性期〜急性期 亜急性期 拡散制限 PN 数ヶ月 DWI 慢性期 拡散亢進 10 4
105.
Table of contents 1 拡散の意味と急性期脳梗塞の病態 2 DWI と ADC の基本的原理 3 脳梗塞の病期と画像の変化
106.
冒頭の症例 DWI ADC map FLAIR 若手 Dr. 「先生,これって脳梗塞ですか?」 今のあなたならどう答えますか? 10 6
107.
拡散強調像では信号変化が不明瞭 ですが,ADC mapを見ると右MCA 皮質枝領域に一致して信号上昇が あり、同領域にはFLAIRでの信号上 昇が認められます. すなわち拡散強調像ではちょうど pseudonormalization の時期にあ り,発症から2週間程度が経過した 亜急性期早期の梗塞と考えられます.
108.
ナイスドヤです!! ありがとうございました!
109.
参考文献 1. 和田 武,坂本壮. 救急画像ただいま読影中, J-COSMO. 2020年8月号(予定) 2. 井田 正博(2013).ここまでわかる頭部救急のCT・MRI, メディカルサイエンスインターナショナル
110.
より深く学ぶ 作者が J-COSMO 誌に寄稿している定期連載「救急画像ただいま読影中!」では,救急外来におけるコモンな疾患の 画像診断について,放射線科医と救急医双方の視点から解説しています. 救急外来での画像診断に自信をつけたい初期研修医・若手医師の方々にオススメです. 中外医学社のnote (https://note.com/chugaiigaku/m/m1ef818a57b7f or 上記QRコード)から購読できます. 11 0
111.
みんなで学ぶ 「画像診断クラブ」 医師同士の質問解決プラットフォーム「AntaaQA」上のグループ. 画像診断を学ぶ医師・医学生のための,知見を共有して切磋琢磨する限定コミュニティ. 実際の症例画像の共有や解説を行っています. 詳しくは https://med.antaa.jp/gazousindannclub へ!!
112.
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脳再プログラミング療法で激変する神経内科・脳外科・小児科医の役割
#VR #難治疾患 #脳再プログラミング
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最終更新:2023年2月1日
内科的脳梗塞診療の基本を押さえる。
#神経内科 #総合診療 #脳梗塞 #脳卒中 #動画あり
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最終更新:2022年9月18日
敗血症に合併した血小板減少症の鑑別診断等について
#血小板減少 #敗血症性ショック #造影剤 #救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン #急性腎傷害
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最終更新:2022年8月22日
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