#4.
【症例】 80歳 男性 【主訴】 呼吸困難 【現病歴】 3カ月くらいで呼吸困難が徐々 に進行。乾性咳嗽も出るとのこと で受診。近医でのX線で胸部異 常陰影を認めたため、当院呼吸 器内科外来を紹介受診された。 【職業歴】 工場40年勤務
#5.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 1 「悪性胸膜中皮腫」とは ○胸膜、腹膜、心膜(稀に精巣漿膜)の中皮細胞に発生する悪性腫瘍 ○男女比 4:1 ○胸膜発生 85% ○年間死亡者 1410人(2013年 ICD-10による) 1995年の2.8倍 ○自然史は上皮型 11カ月、二相型 10カ月、肉腫型 5カ月 ○「中皮腫」と「アスベスト曝露」の関連は明らか 職業歴、アスベスト工場の近くの居住歴→検診を!(推奨グレードA) ○中皮腫患者の6%にBAP1遺伝子変異。若年発症。 ○放射線治療後の電離放射線による報告もあるが、因果関係は不明。 ○病初期は無症状。呼吸困難、胸痛を自覚し、進行性。 ○胸水穿刺や手術創から高率に播種。
#6.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 1 アスベスト(石綿) ○きわめて細い線維。熱、摩擦、酸/アルカリに強く丈夫。現在は原則製 造や使用が禁止されている。 ○蛇紋石族 -クリソタイル(白石綿):ほぼ全ての石綿製品の原材料。石綿の9割。 ○角閃石族 -アモサイト(茶石綿):各種断熱保温材。吹き付け石綿。 -クロシドライト(青石綿):石綿セメント高圧管。吹き付け石綿 -その他(アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト) 独立行政法人 環境再生保全機構HPより
#7.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 1 アスベスト(石綿) ○発癌性:クリソタイル(白)<アモサイト(茶)<クロシドライト(青) 独立行政法人 環境再生保全機構HPより
#8.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 1 アスベスト(石綿) 輸入量 独立行政法人 環境再生保全機構HPより
#9.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 ○臨床情報、画像、病理を総合して診断を行う(A) ○細胞診で陰性/判定困難な場合、胸膜生検が勧められる(A) ○胸膜生検は可能であれば胸腔鏡で十分に採取する(A) ○経皮針生検では盲目的でない方法が勧められる(B) ○経皮的針生検でAbram’s/Cope’s針での盲目的針生検は、感度2143%と低い。 Cancer 1993;72:389-93 Chest 2001;120:1798-802 Chest 2006;129:1549-55
#10.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 胸膜腫瘍の分類 中皮系腫瘍 びまん性悪性中皮腫 上皮型中皮腫 肉腫型中皮腫 線維形成型中皮腫 二相型中皮腫 限局性悪性中皮腫 上皮型中皮腫 肉腫型中皮腫 二相型中皮腫 高分化乳頭状中皮腫 アデノマトイド腫瘍 リンパ球増殖疾患 原発性滲出液リンパ腫 慢性炎症関連びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 間葉系腫瘍 類上皮血管内皮腫 血管肉腫 滑膜肉腫 孤在性線維性腫瘍 悪性孤在性線維性腫瘍 デスモイド型線維腫症 石灰化線維性腫瘍 線維形成性小円形細胞腫瘍
#11.
2 診断 ①上皮型 ②肉腫型 -線維形成型 ③二相性 →胸水では 上皮型と二相性の鑑別はできず 肉腫型の診断もできない
#12.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 抗体検査 陽性抗体 Calretinin WT1 (Wilms' tumor 1) D2-40 (Podoplanin) 陰性抗体 CEA (carcinoembryonic antigen) TTF-1 (thyroid transcription factor-1) Napsin A surfactant apoprotein A ER (estrogen receptor) p63 p40 claudin 4 MOC-31 BerEP4
#13.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 抗体検査 ○全ての中皮腫に陽性で、全ての癌に陰性の抗体はない。その逆もない。 ○上皮型中皮腫の診断は ①中皮腫マーカー2種類 陽性 ②組織像にあった癌腫のマーカー2種 陰性 で診断する。 ○肺に浸潤するとTTF-1やNapsin Aが陽性になるのでHEと対比が重要
#14.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 抗体検査 ○Calretinin:上皮型中皮腫 55-100%で陽性 ○D2-40(podoplanin):上皮型中皮腫 86-100%で陽性 腺癌は陰性 ○WT1:上皮型中皮腫の43-100%で陽性 腺癌、扁平上皮癌陰性 腎細 胞癌でも陰性 ○claudin4:癌腫91%陽性、中皮腫全例で陰性 ○肺多型癌もcalretinin、D2-40、WT1が陽性になることがあるが、 肉腫型中皮腫はGATA3が発現し鑑別に有用
#15.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 補助診断マーカー① ○胸水ヒアルロン酸>10万ng/ml:感度44%、特異度96.5% ○血清ヒアルロン酸は中皮腫、肺癌、感染、心不全、腎不全、肝不全で 差はないので診断的価値はない。 ○胸水ヒアルロン酸高値でも膿胸、結核、咽頭癌、良性石綿胸水の可能 性あり。 Respir Investig 2013;51:92-7 ○血清可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)>2.0nmol/L 感度19-68%、特異度88-100%(肉腫型は上昇しない) ○胸水SMRP上昇 感度67%、特異度95% →①石綿曝露+胸水/腹水貯留、②細胞診で中皮腫疑い、③画像で胸膜/腹膜腫瘍を認める場合に保険適応 JCO 2012;30:1541-9
#16.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 2 診断 補助診断マーカー② ○血清オステオポンチン:中皮腫は中皮腫のない石綿曝露者より高値 ○血清/胸水フィブリン3:中皮腫は中皮腫のない石綿曝露者より高値 NEJM 2005;353:1564-73, NEJM 2012;367;1417-27 ○CEAは肺癌に多く、中皮腫では発現しない。血清CEA陰性は中皮腫診 断における感度73-100%。 ○血清、胸水のバイオマーカーだけでの診断は困難
#17.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 3 病期診断 ○中皮腫の治療方針決定のために病期診断は行う。(グレードA) ○胸部造影CTは病期診断のために行う。(グレードA) ○FDG-PET/CTは病期診断のために行う。(グレードB) ○CTで以下の1つ以上の所見で悪性の可能性が高い ①肺を取り囲む全周性の胸膜肥厚pleural rind ②縦隔胸膜浸潤 ③1cmを超える胸膜肥厚 ④結節状の胸膜肥厚 AJR 1990;154:487-92 Monaldi Arch Chest Dis 2005;63:17-22 Eur J Radiol 2002;41:1-9
#18.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 ①全周性の胸膜肥厚→a ②縦隔胸膜浸潤→d ③1cmを超える胸膜肥厚→c ④結節状の胸膜肥厚→b
#19.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 3 病期診断 病期分類 ステージ ⅠA T1a N0 M0 ステージ ⅠB T1b N0 M0 ステージ Ⅱ T2 N0 M0 any T3 N0-3 M0 T1-2 N1-2 M0 any T N3 M0 any T any N M1 T4 any N M0 ステージ Ⅲ ステージ Ⅳ
#20.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 3 病期診断 病期分類 T因子① TX:原発腫瘍の評価が不可能 T0:原発腫瘍を認めない T1:腫瘍が同側胸膜に限局し,臓側胸膜腫瘍の有無で亜分類する T1a:腫瘍が壁側胸膜に限局し,臓側胸膜に腫瘍を認めない T1b:壁側胸膜に腫瘍があり,臓側胸膜にも散布性腫瘍を認める T2:同側胸膜(壁側および臓側)に腫瘍があり、以下の何れかが認められる -臓側胸膜を満たす連続性腫瘍進展(葉間胸膜を含む) -横隔膜筋層浸潤 -臓側胸膜下肺実質浸潤
#21.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 3 病期診断 病期分類 T因子② T3:局所進行状態であるが切除可能なもので,全ての同側胸膜に腫瘍が進展し,以下 の何れかが認められるもの -内胸筋膜浸潤 -縦隔脂肪織浸潤 -完全に切除可能な壁側軟部組織の孤在性進展腫瘍巣 -心膜の非貫通性浸潤 T4:切除不能局所進行状態であり,全ての同側胸膜に腫瘍が進展し,以下の何れかが 認められるもの -胸壁へのびまん性浸潤または胸壁の多発性腫瘍巣(肋骨破壊の有無は問わない) -経横隔膜的腹腔浸潤 -対側胸膜への直接浸潤 -縦隔臓器浸潤 -脊椎浸潤 -心膜腔内への浸潤または臓側心膜浸潤(心囊液貯留の有無は問わない)
#22.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 3 病期診断 病期分類 N/M因子 NX:所属リンパ節の評価が不可能 N0:所属リンパ節に転移がない N1:同側気管支肺または同側肺門リンパ節に転移がある N2:気管分岐部,同側縦隔,または同側内胸リンパ節に転移がある N3:対側縦隔,対側内胸,同側または対側鎖骨上のリンパ節に転移がある M0:遠隔転移を認めない M1:遠隔転移を認める
#23.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 外科的治療 ○Ⅰ-Ⅲ期の選択された患者に手術を考慮(C1) ○手術適応は呼吸器外科医を含む集学的チームによって判定(A) ●システマティックレビューで胸膜肺全摘は生存率や症状コントロールに 寄与しなかった。 ●レトロの研究で1365例のうち予後良好群での内科的治療、胸膜切除/ 肺剥皮術、胸膜肺全摘のMSTは有意差なし。 Interact Cardiovasc Thorac Surg 2011;12:1040-5, JTO 2014;9:390-6 ○レトロの研究で5937例。手術群が非手術群に比較して良好な予後。 ○本邦の第Ⅱ相試験で42例のMST 19.9カ月、治療関連死9.5%。 JTO 2010;5:1649-54, Int J Clin Oncol 2016;21:523-30
#24.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 外科的治療 ○肉眼的完全切除を得る術式は ①胸膜肺全摘術(EPP) ②胸膜切除/肺剥皮術(P/D) があり、患者の状態と個々の外科医の経験と判断で選択して良い(C1) ○胸膜肺全摘術 extrapleural pneumonectomy (EPP) 壁側/臓側胸膜を含む肺、症例に応じ同側横隔膜、心膜も含めて一塊に切除 ○胸膜切除/肺剥皮術 pleurectomy/decortication (P/D) 壁側/臓側胸膜を含め肉眼的腫瘍の全てを完全に切除し、肺実質を温存
#25.
Antaa 呼吸器勉強会 Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 外科的治療 ○肉眼的完全切除を得る術式は ①胸膜肺全摘術(EPP) ②胸膜切除/肺剥皮術(P/D) があり、患者の状態と個々の外科医の経験と判断で選択して良い(C1) ○EPP:手術死亡率 0-11.8%、MST 9.4-27.5カ月。 ○P/D:手術死亡率 0-11%、MST 7.1-31.7カ月。 ○EPP vs P/Dを比較するランダム化前向き試験はないので、いずれが 適切な術式化は不明であり、個々の症例で検討すべき。 JTO 2010;5:1692-703, Lung Cancer 2013;81:240-5
#26.
4 治療 化学放射線療法 ○術前/術後の化学療法を行うことを考慮してもよい(C1) ○手術可能Ⅰ-Ⅲ期例は術前/術後に化学療法を行ってもよい。 ○三者併用療法trimodality therapy:手術、全身化学療法、片側胸郭照射 ○二者併用療法bimodality therapy:手術、全身化学療法 ○CDDP+PEMの術前化学療法を用いた三者併用療法を完遂した場合 OS中央値 29.1カ月、2年生存率 61.2% JCO 2009;27:3007-13 ○周術期化学療法の術前か術後かの前向き試験はない。 ○術中胸腔内温熱化学療法が有効との報告あり。 J Thorac Cardiovasc Surg 2013;145:955-63
#27.
Antaa 呼吸器勉強会 Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 化学放射線療法 ○胸膜肺全摘術が施行された例に対する片側胸郭照射はPS良好例に行う ことを考慮して良い(C1) ○胸膜切除/肺剥皮術後の症例に対する片側胸郭照射を行うように勧める だけの根拠はない(C2) ○放射線療法として3次元原体放射線治療(3D-CRT)または強度変調放射 線治療(IMRT)を行うことを考慮してもよい(C1)
#28.
4 治療 化学療法 ○PS0-2、臓器機能OK、切除不能胸膜中皮腫に1次化学療法を行う。(A) ○CDDP+PEM (ORR 41.3%、PFS 5.7カ月、OS 12.1カ月) ○CBDCA+PEM (PFS 6.5カ月、OS 12.7-14カ月) JCO 2003;21:2636-44, JCO 2006;24:1443-8, Ann Oncol 2008;19:370-3 ○1次治療でPEMが有効であった場合にPEM再投与を考慮。DCR、PFS、 OS共に有意に良好。 Lung Cancer 2012;75:360-7
#29.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 CheckMate 743 Niv+Ipi Lancet 2021;397:375
#30.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 化学療法 2次治療 ○PEM未使用の場合、PEM単剤を推奨する 〇PEM単剤の再投与を提案する 〇VNR単剤、GEN単剤、VNR+GEM併用療法を提案する 〇ニボルマブ単剤を推奨する ○MERIT試験:日本人34例の報告 奏効率: 上皮型 26%、肉腫型 67%、二相型 25% 全生存期間 17.3カ月 無増悪生存期間 6.1カ月 Clin Cancer Res 2019;25:5485
#31.
Antaa 呼吸器勉強会 Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 4 治療 胸膜癒着術 ○胸水貯留の症状軽減を目的とした治療として胸膜癒着術を行う(C1) ○タルクによる胸水コントロールは85%。 ○タルク成功例の生存期間中央値19.4カ月。 Ann Thorac Surg 2015;99:1177-83, Respirology 2005;10:649-55 ○胸腔鏡下タルク噴霧の84例の検討では、癒着施行前の酸素投与、2週 以内の化学療法、四肢浮腫がタルクによる肺合併症の予測因子。 Ann Thorac Surg 2006;82:1976-81 ○ピシバニールによる報告はほぼないが、本邦ではピシバニールが臨床 的に用いられている。
#32.
4 治療 緩和的放射線照射 ○疼痛緩和目的の放射線治療は行うように勧められる(B) ○胸膜中皮腫の疼痛緩和目的で放射線治療を施行した約60%で成功。 Res Pract Oncol Radiother 2012;18:82-6 Eur J Cancer 2011;47:2143-9 ○主に「40Gy/20Fr」または「36Gy/13Fr」が主流。 ○「20Gy/5Fr」の照射で35%で疼痛緩和効果あり。 JTO 2015;10:944-50
#33.
Antaa 呼吸器勉強会 『悪性胸膜中皮腫のキホンのキ』 Take Home Message 悪性胸膜中皮腫は… ▶アスベスト曝露に関連 ▶診断は細胞診と胸膜生検が重要 ▶治療は手術・放射線・化学療法 ▶免疫治療ニボルマブ+イピリムマブが承認