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子どもの睡眠障害の概要と目的
#1. どうして夜眠れず、朝起きられない︖︖ ⼦どもの睡眠障害とは どっと@⼩児科医
#2. はじめに 2 どっと@⼩児科医 です 今回は想像以上に⼩児科外来で出会うことの多い 「⼦どもの睡眠障害」に関するアプローチ⽅法 についてまとめます ー このスライドの主な対象者 ー ・初期研修医 ・⼩児科後期研修医 ・総合診療科医師
#3. 1. はじめに ⽬次 2. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 3. 眠れない、朝起きられないと相談されたら 4. 症例提⽰
子どもの不眠症とその原因
#4. ⼦どもの睡眠障害とは • 若年層の睡眠障害で最も多いのは ⼊眠障害 • 寝るのが遅いだけでなく、眠れないことで困っている児も多い • 睡眠相が後退することで、⽣活に⽀障が出ることもある • ⼩児期に関わらず、⽇本⼈の多くは睡眠時間が⾜りていないと 考えられており、睡眠時間を確保すること ⾃体も重要 • 睡眠衛⽣指導 とともに、睡眠⽇誌 をつけることは⽣活習慣を ⾒直すことにつながる可能性がある *DALL-Eで作成したイラストを使⽤ 4
#5. ⼦どもの不眠症・睡眠不⾜の問題点 5 ▶ 眠れないのは「原因」なのか「結果」なのか 「眠れないことが問題なのか」、不安や抑うつ、起⽴性調節障害など「結果として眠れないのか」 ▶ そもそも 10代が夜型化する ことは珍しくない 体内時計は⽣後徐々に夜型化し、30歳頃までは夜型の傾向が続くことが多い ▶ 睡眠不⾜や起床困難は 社会適応上の問題が⼤きい 集団⽣活では⽣活リズムの選択肢は少なく、合わせられない場合の損失が⼤きい ▶ ⽣活様式の変化により、夜に寝にくい社会 になってきている 電⼦機器の過剰使⽤や宿題・塾、家族の⽣活リズム後退などは注意が必要 悩んでいる⼈は多いものの、対応は悩ましい場合が多い
#6. 不眠の主な原因 ▶ 不眠の主な原因とされる 5つのP p Physical(⾝体的因⼦)︓疼痛、かゆみ、咳、頻尿など p Physiological(⽣理的因⼦)︓騒⾳、光、温度、転居、⽣活習慣など p Pharmacological(薬理的因⼦)︓薬物やアルコールの副作⽤など p Psychological(⼼理的因⼦)︓ストレス、緊張、不安など p Psychiatric(精神疾患)︓うつ病、統合失調症、不安症など 原因は⼀つということは少なく、様々な要因が重なっているものの 明らかに悪化因⼦になる要因 には対応が必要 6
日本の子どもたちの睡眠事情
#7. ⼦どもたちを取り巻く睡眠環境 7 ・どこでも⾒れる動画 ・⽇々の不安 ・どこでもできるゲーム ・ストレス 親も遅くまで動画みている ・家庭/学校の いざこざ ・勉強 ・進学塾の利⽤
#8. 1. はじめに ⽬次 2. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 3. 眠れない、朝起きられないと相談されたら 4. 症例提⽰
#9. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 平成26年 睡眠を中⼼とした⽣活習慣と⼦供の⾃⽴等との関係性に関する調査 Q︓ふだん何時頃に寝ますか︖ ⼩学⽣でも半数以上が午後10時より後に⼊眠 中学⽣の22%、⾼校⽣の47%は 午前0時以降 に⼊眠 9
#10. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 平成26年 10 睡眠を中⼼とした⽣活習慣と⼦供の⾃⽴等との関係性に関する調査 Q︓(⼊眠時刻別) なんでもないのにイライラしますか︖ (⼩学⽣) (中学⽣) ⼊眠時刻が遅くなるほど イライラすることが増える 傾向がある (各年齢における該当者が少ない⼊眠時刻においては評価は困難)
推奨される睡眠時間と実態
#11. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 平成26年 11 睡眠を中⼼とした⽣活習慣と⼦供の⾃⽴等との関係性に関する調査 Q︓学校がある⽇の午前中、授業中にも関わらず Q︓あなたの寝る時間は⼗分だと 眠くて仕⽅がないことがありますか︖ 思いますか︖ 年齢とともに 授業中の眠気を訴える⼈ が増加し 睡眠時間が⼗分ではない ことを⾃覚している⼈も少なくない
#12. 推奨される睡眠時間と実際の睡眠時間 年代別の推奨される睡眠時間 National Sleep Foundation より 14 10-13 時間 8-9 幼児期 (3-5歳) 12 9-11 時間 7-8 ⼩学⽣ (6-13歳) 11 8-10 時間 7 中⾼⽣ (14-17歳) 12 ⽇本の⼦どもの平均睡眠時間 8.7〜9.2 8.3〜8.5 ⼩学校低学年 ⼩学校⾼学年 時間 時間 (6-10歳) (10-12歳) 7.2〜7.6 時間 中学⽣ (12-15歳) ⽇本⼩児保険協会︓⼦どもの睡眠に関する提⾔より
睡眠障害の相談と評価方法
#13. 1. はじめに ⽬次 2. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 3. 眠れない、朝起きられないと相談されたら 4. 症例提⽰
#14. 「眠れない」「朝起きられない」と相談されたら 睡眠障害の相談 p 睡眠時間の評価 ・就床時刻から⼊眠までにかかる時間 睡眠時間の評価 ・何時に起きようとして、何時に起きているのか ⽣活習慣の確認 ・睡眠時間として⾜りているのか 睡眠環境の確認 p ⽣活習慣の確認 基礎疾患の評価 ・学校や習い事など⽇常⽣活について 3つに分類 ・寝る前は何をしているか ・⾼カフェイン含有飲料の常⽤はしていないか p 睡眠環境の確認 ・部屋は暗くできているか 介⼊検討 ・デジタル機器の利⽤状況や家族の睡眠時間など 14
#15. 「眠れない」「朝起きられない」と相談されたら 睡眠障害の相談 睡眠時間の評価 ⽣活習慣の確認 睡眠環境の確認 基礎疾患の評価 3つに分類 介⼊検討 p 睡眠障害をきたす⾝体疾患 ・むずむず脚症候群 ・睡眠時無呼吸症候群 ・鉄⽋乏性貧⾎ ・アトピー性⽪膚炎 ・気管⽀喘息 ・アレルギー性⿐炎 ・肥満症 p 睡眠障害をきたす⾮⾝体疾患 ・起⽴性調節障害 ・うつ病 ・神経発達症 特に ⾃閉スペクトラム症 注意⽋如多動症 15
子どもの睡眠障害の分類と介入
#16. 「眠れない」「朝起きられない」と相談されたら 睡眠障害の相談 睡眠時間の評価 ⽣活習慣の確認 睡眠環境の確認 基礎疾患の評価 3つに分類 介⼊検討 ▶ ⼦どもの睡眠障害は3つに分けるとわかりやすい 星野恭⼦. ⼩児内科 5 3 : 7 8 4 -7 8 8 . 2 0 2 1 a. 寝ようと思っていない b. 寝ようと思っていても眠れない c. 早く寝ても起きることができない 特に家族や学校からの指摘で来院された場合 「a. 寝ようと思っていない」が背景のことも多く 介⼊⽅法が変わってくる 16
#17. 3つの分類の病態とアプローチ⽅法 17 ・なぜ眠りたくないのか を確認 a. 寝ようと思っていない ▶ 睡眠とは別の問題 ・いわゆる ⼊眠困難 ・デジタル機器や家族関係に 注⽬する必要がある ・勉強やスポーツが原因のことも ⽇中の活動が不⾜している 朝起きたくないが根底のことも 学校への不安が強い むずむず脚症候群など b. 寝ようと思って いても眠れない ▶ ⼊眠困難 c. 早く寝ているが 起きれない ▶ 睡眠の質が悪い OD︓Orthostatic Dysregulation SAS︓Sleep Apnea Syndrom e AD︓ Atopic Derm atosis AR︓ Allergic Rhinitis ・起床困難や睡眠の質を 低下させる疾患の評価 → OD、SAS、AD、ARなど
#18. 3つの分類への介⼊⽅法 18 ・眠ることの⼤切さを説明する a. 寝ようと思っていない ▶ 睡眠とは別の問題 ・睡眠衛⽣指導 ・やむを得ない事情があることは 否定せず、妥協点を相談する ・家族関係や学校関係などの調整 ・睡眠障害のポイント指導 ・睡眠導⼊剤の使⽤ ・鉄剤投与(RLS) *R LS:r estless legs syndr ome b. 寝ようと思って いても眠れない ▶ ⼊眠困難 c. 早く寝ているが 起きれない ▶ 睡眠の質が悪い ・背景疾患の評価、治療
睡眠衛生指導とその重要性
#20. 睡眠衛⽣指導 ① 太陽の光で体内時計をリセット 朝起きて光を浴びた15時間後に眠くなる カーテンは開け、できれば直接浴びる ② ⽇中に⾝体を動かす よい睡眠には疲労が必要 昼寝は15〜30分まで その他にも 20 *DALL-Eで作成したイラストを使⽤ ② 朝ごはんを⾷べる 体温上昇・⾎圧上昇の効果 ④ 夜は暗くして、静かに寝る 夜は強い光・刺激を避けること 家庭内でルールの統⼀が⼤切 熱くも寒くもない温度設定も ⼊眠のためのルーチン を作る、 アプリ などを使うことも⼿段の⼀つ
#21. 睡眠障害対処の12の指針 21 1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分 2. 刺激物を避け、寝る前には自分なりのリラックス法 3. 眠たくなってから床につく、就寝時間にこだわり過ぎない 4. 同じ時刻に毎日起床 5. 光の利用でよい睡眠 6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣 7. 昼寝をするなら、15時前の20-30分 8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起き 9. 睡眠中の激しいいびき・呼吸停止や足のむずむず感は要注意 10. 十分に眠っても日中の眠気が強いときは専門医に 11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと 12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全 睡眠相談のための12の指針
睡眠日誌の活用と薬物療法
#22. 睡眠⽇誌の活⽤ 22 まずは睡眠・覚醒を 2週間 を⽬安に記録する ⾃⾝の傾向を把握した上で どう対応するかを考える 「すいみんにっし」 ノーベルファーマ ⼦どもの健やかな眠りのための総合情報サイトより
#23. 薬物療法 23 第⼀選択は 睡眠衛⽣指導や基礎疾患、環境への介⼊ ただし、不眠によって基礎疾患や環境が悪化しているケースでは 薬物療法により 悪循環を抑える ことが可能 ü メラトニン受容体作動薬︓サーカディアンリズムの調整 ・メラトニン(メラトベル®) 神経発達症の合併例では第⼀選択 ・ラメルテオン(ロゼレム®) ⼣⾷後に服⽤ ü オレキシン受容体拮抗薬︓⼩児適応なし・・・レンボレキサント(デエビゴ®) ü ⾮ベンゾジアゼピン系睡眠薬︓⼩児適応なし・・・ゾルピデムなど ü 漢⽅薬︓抑肝散や⽢⻨⼤棗湯、柴胡加⻯⾻牡蛎湯など
#24. 1. はじめに ⽬次 2. ⽇本の⼦どもたちの睡眠事情 3. 眠れない、朝起きられないと相談されたら 4. 症例提⽰
症例紹介と生活習慣のチェック
#25. 症例 - 中学2年⽣ ⼥児 幼少期より不安を感じやすい児 - 中学校⼊学後 朝起きるのが⼤変になり、⾞で送ってもらうことが多かった 6⽉ 学校⾏事から寝付けなくなり、23時に就床するも ⼊眠は2-3時 に 9⽉ 夏休み中に昼夜逆転傾向となり、頑張って登校はしているが ⽇中に眠く 夜は眠れず、不安の訴えが増えた 11⽉ 起床困難から不登校となり、⽣活リズムの改善が難しく当院を受診 ⽣活︓13時に起床、⾃主学習はしている、塾も⾏っている 睡眠︓4-5時 - 13時 運動︓少しだけ散歩をしている ⾷事︓1⽇2⾷(14時・23時) スマホ︓23時以降は利⽤しない 25
#26. ⽣活習慣や⽣活環境のチェック 26 ü 就床から⼊眠︓3〜6時間 • ⾜はむずむずしない ü 起きたい時間︓6時半 • いびきの指摘なし 実際の起床時間︓13時 • 合計睡眠時間︓9時間程度 • ⾎液検査で貧⾎なし • 寝る前の⾏動︓じっとしている • アトピー性⽪膚炎なし ü 学校︓不登校 習い事︓学習塾 22時まで ü 軽度のアレルギー性⿐炎はあり • カフェイン︓お茶を少しのみ • 肥満ではない • 睡眠環境︓部屋は暗く静か、温度湿度は適切 • 覚醒後は概ね活動できている • デジタル機器利⽤︓23時以降は全く触らない ü ⼩学2年⽣時にASD疑いと指摘 • 家族の状況︓別室、23時ころに寝ている • 不注意や多動衝動は⽬⽴たず 本⼈・家族なりに⼯夫はしているがなかなか眠れない状況 「寝ようと思っていても眠れない」というタイプ
#27. 睡眠衛⽣指導のポイント 27 現在の状況 ・ 合計睡眠時間は⼗分に確保することができている ・学校へは⾏かないものの⾃主学習や学習塾などの活動ができている ・寝ないといけないが、寝られないことへの焦燥と不安が強い ▶ 指導のポイント *DALL-Eで作成したイラストを使⽤ Ø 眠くない状態を ベッドで耐えることは避ける 眠くなってからベッドに⾏くようにする、時間が経っても焦る必要はない Ø 覚醒したい時間を決めて 部屋を⼗分明るく し、起きる習慣をつける 遅寝早起き を意識することで、夜に寝付きやすくする Ø ⽇中の運動量をもう少し増やす Ø ⼊眠前のルーチンをつくる
介入後の経過とまとめ
#28. 病状説明(例) 28 10代の頃は夜型になりやすく、〇〇さんのように寝たい時間に寝られず、 困ってしまうことがあります。社会が夜型になってきているなどの要因も ありますが、⽣物学的に仕⽅がないというのも事実です。 今は起きて勉強もできていますので、実⽣活での困りというよりも 社会適応の困りが⼤きいと思いますが、“眠らないと” と考えるからこそ 眠れなく なります。まずは睡眠に関する⼯夫を説明しますので、少し⽣活 を調整してみてください。 それでも寝られないようでしたら〇〇さんは⾃閉スペクトラム症と指摘 されたことがあるので、寝るのが苦⼿なのかもしれません。その場合は、 薬物療法も検討できますので、また相談しましょう。 *DALL-Eで作成したイラストを使⽤
#29. 介⼊後の経過 1か⽉後 10時〜11時には起きられるようになるも、2-3時まで眠くならない 睡眠衛⽣指導のみでの対応は困難と判断し、メラトニンを開始 2か⽉後 23-0時に寝られるようになった ただ、覚醒は8時頃で学校は遅刻と⽋席を繰り返す 3か⽉後 “送ってもらえば遅刻しない時間”に起きることを習慣化 4か⽉後 メラトニンを服⽤せずとも寝られる⽇が増えてきた 6か⽉後 メラトニン内服中⽌ ▶ 本⼈が希望した ”6時半に起きる“ ことは難しいものの、社会⽣活との 妥協点を調整しつつ、リズムを安定させることができた 睡眠時間が安定してからは、不安感の⾼まりなどは軽減された 29
#30. 30 Take Home Message ▶ 睡眠障害はさまざまな要因が関与している ▶ 睡眠を阻害する基礎疾患の評価は重要だが、 寝たくない という背景因⼦にも注意が必要 ▶ 治療の基本は 睡眠衛⽣指導 であり、 環境を整えて 睡眠時間を確保する ことも⼤切 ▶ 難治性の場合は、⼩児でも薬物療法を検討する *DALL-Eで作成したイラストを使⽤