#4.
Karen E Joynt Maddox, et al. Circulation. 150(4):e65-e88, 2024. 心血管イベント予防のための重要因子 この8つの基本的な項目の中に脂質の項目は含まれており、脂質管理は基本的で重要な因子となっている。 米国心臓学会(AHA)が心血管の健康を改善・維持するための主要な指標である「Life‘s Essential 8」(生命に不可欠な8項目)を2022年に定めている。
#5.
LDL値と心筋梗塞イベント Marcello Tonelli, et al. J Am Soc Nephrol. 24(6):979-86, 2013. LDL-C, mg/dL ※LDL-C 1 mmol/L = 38.7 mg/dL 39 0 77 116 155 193 232 271 309 100 カナダのアルバータ州の人口データベースで2002年から2009年の間にCrを測定された836,000人の解析結果中央値で48か月追跡された。 eGFRが90 mL以上で腎機能障害のない群ではLDLが190 mg/dLでHRが3.01となり、心筋梗塞と非常に強く相関していることが分かる。 ※透析患者や腎移植患者は除外 ※網掛けは95%信頼区間
#6.
脂質改善による心血管イベント予防 ◆対象
45~64歳までの男性で、中等度の高コレステロール血症を有する心筋梗塞の既往のない患者
◆研究デザイン、参加人数
Double-blind, randomized, placebo-controlled multicenter trial.
6000人
◆介入
プラバスタチン40 mg投与かPlacebo
◆エンドポイント
非致死的な心筋梗塞、または冠動脈性心疾患(CHD)による死亡のいずれか
◆期間
平均値 4.9年 J Shepherd, et al. N Engl J Med. 333(20):1301-1307, 1995. 3302人 3293人 West of Scotland Coronary Prevention study
#7.
脂質改善による心血管イベント予防 スタチン投与によりLDLは大きく低下し、冠血管イベントは有意に低下することが示された。 192 140 7.6% 5.3% 31%の低下!
#8.
脂質改善による心血管イベント予防 スタチン投与によりLDLは大きく低下し、冠血管イベントは有意に低下することが示された。 その後の21のランダム化Placebo比較試験ののべ13万人のメタアナリシス1)でLDL-Cが1 mmolL (38.7 mg/dL)低下するごとに冠動脈イベントが28%、脳卒中イベントが15%減少した。 1) Lancet. 376:1670-81, 2010. 192 140 7.6% 5.3% 31%の低下!
#9.
CKDでのLDL値と心筋梗塞イベント Marcello Tonelli, et al. J Am Soc Nephrol. 24(6):979-86, 2013. Hazard ratio 20 10 5 2 1 eGFR = 15 mL/min/1.73m2 LDL-C, mg/dL ※LDL-C 1 mmol/L = 38.7 mg/dL 39 0 77 116 155 193 232 271 309 100 カナダのアルバータ州の人口データベースで2002年から2009年の間にCrを測定された836,000人の解析結果中央値で48か月追跡された。 eGFRが15 mL/min/1.73m2の群ではLDLと心筋梗塞との相関関係が腎機能正常者のように認められなくなっている。 ※透析患者や腎移植患者は除外 ※網掛けは95%信頼区間
#10.
透析患者での脂質改善の意義 透析患者で脂質への治療介入が心血管イベント予防に効果があるか不明であった。 ◆対象
50歳から80歳までの末期腎不全で、3ヶ月以上維持血液透析を受けている患者
◆研究デザイン、参加人数
Double-blind, randomized, placebo-controlled multicenter trial.
2776人
◆介入
ロスバスタチン10 mg投与かPlacebo
◆エンドポイント
心血管死、非致死的な心筋梗塞および脳卒中
◆期間
中央値 3.8年 Bengt C Fellström, et al. N Engl J Med. 360(14):1395-1407, 2009. 1389人 1384人 AURORA study
#11.
透析患者での脂質改善の意義 スタチン投与によりLDLは大きく低下しているが、透析患者では心血管イベントは有意に低下しないことが示された。
#12.
なぜ、腎不全患者では脂質異常改善が心血管イベント抑制につながらないのか、さまざまな理由が想定されている。 1.すでに透析患者では血管石灰化が高頻度で高度に認められるため。
2.LDL-C低下が適切な介入対象ではない。透析患者ではTG、HDL-Cなどの指標がCVDと有意に関連している報告もある。
3.血清リンや慢性炎症のように他の強力なリスク因子が結果をマスクしている。 2022年にAURORA studyの血清リン値でのサブ解析結果が報告された。 庄司哲雄.臨牀と研究 102(1)36-40, 2025. 腎不全患者で示せない理由
#13.
血清リンの影響 腎不全患者でも血清リンをしっかりコントロールしていれば、脂質異常症に対する治療介入は腎機能が正常な群と同じように重要である。 結果としては、血清リンが概ね5 mg/dL以上では、スタチンによる心血管イベント抑制効果は認められなかったが、リンが低い値、3.5 mg/dLではHR:0.7とされ、腎機能が正常な患者で観察される効果に近い結果となった。 Ziad A Massy, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 17(4):546-554, 2022.
#14.
Fish oilの心血管イベントへの評価
#15.
Fish oilとは 魚油は、n-3系多価不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)を多く含む脂質で、主成分はEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)である。オメガ3脂肪酸としては他に植物由来のαリノレイン酸がある。 えごま油、亜麻仁油 魚油 サラダ油、コーン油 オリーブ油、なたね油
#16.
Fish oilの効果 1970年代にイヌイットがアザラシやクジラの脂肪(動物性脂肪)を大量に摂取しているにもかかわらず、心血管疾患による死亡率が非常に低いという報告※された。調査の結果、イヌイットの食事はEPA(エイコサペント酸)などが非常に豊富であることを発見した。 現在知られているFish oilの効果として 血圧の低下: 血圧を低減させる作用。
脂質プロファイルの改善: 特に血清中のトリグリセリド(中性脂肪)濃度を低下させる効果。
抗不整脈作用: 心拍の乱れ(不整脈)を抑える効果。
抗炎症作用: 体内の炎症反応を抑制する効果。 血栓形成の抑制: 血液が固まりやすくなる(血栓ができる)傾向を軽減する作用。
血管機能の改善: 血管内皮機能の向上。
プラークの安定化: 動脈硬化の原因となるプラーク(隆起)を安定させ、破綻を防ぐ作用。 その他: インスリン感受性の向上、動脈のリポタンパク質リパーゼレベルの調節、パラオキソナーゼ(酸化を抑える酵素)レベルの上昇など。 ※これは後に統計解析上の疑問が指摘されています。
#17.
Fish oilの副作用 1. 出血リスクの増加
オメガ3脂肪酸には血栓形成を抑制する作用があるため、出血時間を延長させる。米国心臓協会(AHA)は、1日3gを超えるEPA/DHAの摂取について、過剰な出血の潜在的なリスクがあるとして警告を出している。
2. 不整脈(心房細動など)のリスク
EPA/DHAの摂取増加は不整脈のリスクをわずかに高める可能性が示唆されている。心房細動のリスクは容量依存性とされ、高容量EPA製剤使用時は心房細動の発症に注意が必要である。(1.8gEPAで発症率3.1%(対照1.6%)と有意に高くなったなど)
3. 消化器系の副作用
下痢、嘔気、腹痛や不快感、胃食道逆流のリスクが増加する。
4. がんリスク(特に前立腺がん)
前立腺がんとの関連;システマティック・レビュー(Hanson 2019)によると、EPA/DHAの摂取を増やすことで、男性の前立腺がん診断リスクがわずかに高まる可能性が指摘されている。 Asmaa S Abdelhamid et al. Cochrane Database Syst Rev. 3(3):CD003177, 2020.
#18.
Fish oilの臨床試験結果 Fish oilに関する臨床研究結果に関しては一定していない。
#19.
Fish oilの結果に影響を及ぼしている因子 2021年にEPAに限った場合や、2024年に処方薬に限った場合などのメタアナリシスではオメガ3脂肪酸の効果は示されている報告もある。
Fish oilの効果を解釈するためには、EPA、容量、Placebo、患者対象に注意する必要がある。 Shujie Dong. et al. Nutr J. 2024 23(1):157, 2024. Safi U Khan, et al. EClinicalMedicine. 38:100997, 2021.
#20.
Fish oilのメタアナリシス結果 2023年 NICE ガイドラインではCVD予防(一次予防および二次予防)を目的として、オメガ3脂肪酸化合物を提供してはならないとされている。
唯一の例外としてスタチン療法を併用しており、トリグリセリド値が高い、高リスク患者の心血管イベントリスクを低減するために二次予防で使用される場合に限り認められる。 Cardiovascular disease: risk assessment and reduction, including lipid modification. NICE guideline . 2023 透析患者は心血管イベントが非常に多く、死亡率の高い特異な患者集団であり、加えて、一般人口よりも血中のn-3系脂肪酸レベルが低いことが知られている。
#21.
透析患者でFish oilへの期待 ◆対象
18歳以上で週に3-4回血液透析を受けている患者
オーストラリアとカナダの2か国26施設
◆研究デザイン、参加人数
Double-blind, randomized, placebo-controlled trial.
13970人
◆介入
Fish oil 4 g(EPA1.6 gとDHA0.8 g)かコーン油
◆エンドポイント
心血管死(突然死、非突然心臓死、致死的な心筋梗塞および脳卒中)、非致死的な心血管イベント(非致死的な心筋梗塞および脳卒中、切断に至った末梢血管疾患、)
◆期間
3.5年 610人 618人 PISCES trial Charmaine E Lok, et al. N Engl J Med. 394(2):128-137, 2026. ※PISCESはラテン語で魚(うお座)を意味する
#22.
患者背景 Table 1
#23.
結果 ー重篤な心血管イベント※ー 43%抑制!! ※心血管死(突然死、非突然心臓死、致死的な心筋梗塞および脳卒中)、非致死的な心血管イベント(非致死的な心筋梗塞および脳卒中、切断に至った末梢血管疾患、) Figure 1
#24.
結果 ー重篤な心血管イベント※ー 1次予防 2次予防 一般集団においては一次予防としてのフィッシュオイルの効果が限定的であることが多いが、この結果から、維持血液透析患者においては過去に心血管イベントを起こしたことがない患者に対する一次予防としても、Fish oilの補充が非常に有効であることが示された。 Table 2
#25.
結果 -イベント別発生率- 心血管イベント別の発生率を、Fish oil群とプラセボ群で比較したグラフ。
すべてのイベント項目において、Fish oil群の方がプラセボ群よりもイベント発生率が低いことが示されている。特に 突然死・心筋梗塞 で抑制効果が大きい。 心臓死 致死的・非致死的心筋梗塞 切断に至る末梢動脈疾患 致死的・非致死的脳卒中 Figure 2
#26.
注目すべき副作用 重篤な有害事象が発生しなかった参加者の割合は、Fish oil群で50.8%(610人中310人)、プラセボ群で51.1%(618人中316人)であり、両群で同程度であった。
消化器症状、出血、癌などもPlaceboに比べ、Fish oil群で高い項目は認められなかった。 Table 3
#27.
まとめ 透析患者では心血管イベントリスクは一般人口と比べ10-20倍と非常にハイリスク集団である。一般人口で効果の認められるスタチンによるLDL低下が透析患者群では集団として効果が明らかではなく、サブ解析をしてようやく関連が認められる。
Fish oilに代表されるオメガ3脂肪酸は、一般人口での心血管イベント抑制効果は認められない。臨床研究では相反する結果が多いが、これは介入薬剤の種類と量、プラセボ薬の種類、研究対象群によると思われる。スタチン使用下で高TGがあり心血管イベントハイリスク患者では使用が推奨される。 血液中EPA・DHA濃度が低く、心血管イベント超ハイリスク集団である透析患者を対象にした本研究で、Fish oil投与により心血管イベントを約40%と大幅に低下させた。副作用もPlaceboと比較して同等であり、今後透析患者の標準治療が変わる可能性がある。