#4.
低Na血症とは? 血清ナトリウム<135 mEq/L未満の状態をいう。 *施設やガイドラインにより多少の違いはあります。当院での基準域は138-145 入院患者さんの何%くらいにある? はじめに 65歳以上の20%
入院患者の低Na血症患者の30%は心不全、50%は肝硬変か担癌患者。 その他の統計 JAMA. 328:280-291, 2022.
#5.
主に脳浮腫による症状
頭痛、嘔気、意識障害
重症例では嘔吐、けいれん、昏睡、死に至る。
明確な基準はないが125 mEq/L以下を
著明な低Na血症と考えていい。 低Na血症の症状 Edelmanの式 血液中のナトリウム濃度は体内のナトリウム+カリウムと体液量により規定される。 ■血清Na濃度の決定因子 TBW; total body water
E;exchangeable
PNa = Na+E + K+E TBW ※骨とか組織に取り込まれている以外
#6.
Normal state 低 Na 血症
急性期 神経細胞が
適応する 神経細胞の低Naへの適応には24時間から48時間を要する。 このことから48時間をカットオフとして急性・慢性の分類を行う。 主にKや有機物 慢性の低Na血症の場合、明らかな症状はないことが多い。 *重篤な低Naは1%程度で、日常診療では圧倒的に慢性の人をみることが多い。 低Na血症への適応 Cleve Clin J Med. 77:715-26, 2010.
#7.
Normal state 低Na血症
急性期 神経細胞が
適応する 浸透圧性脱髄症候群 急な補正で神経細胞が障害を受ける。 osmotic demyelination syndrome:ODS 神経細胞が低Naへ適応した後で、急にナトリウム濃度を補正(上昇)すると神経細胞は障害を受け浸透圧性脱髄症候群(ODS)を発症する。低Na血症の治療では最も重要で気を付けなければいけない病態。 ODSの症状としては、仮性球麻痺による構語障害、四肢麻痺、けいれん、意識障害などが生じ、重篤な場合は死に至る。。血清Na濃度の急速補正により一旦低Na血症の中枢神経症状が消失した数日後など、時間を置いて出現するケースが多い。 Cleve Clin J Med. 77:715-26, 2010.
#8.
明らかな症状がないなら、 慢性低Na血症の何が悪い?
#9.
鑑別診断の第一歩
#10.
症例1.糖尿病のある患者さん。450 mg/dLの高血糖で血糖コントロール目的に入院。入院時検査で血清Na 130 mEq/L であった。とくに低Na血症による症状はない。
症例2.脳梗塞にて入院加療中。脳浮腫に対し、マンニトールを投与している。定期検査で血清Na 133 mEq/Lであった。
症例3.高度肥満による睡眠時無呼吸症候群の精査目的に入院。既往に著明な高トリグリセリド血症(900 mg/dL)がある。入院時の検査で血清Na 133 mEq/Lであった。 まず何を考えますか? 低Na血症を見たら
#11.
まず、等浸透圧性と高浸透圧性を除外する。 低Na血症を見たら Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 低Na血症鑑別診断フローチャート
#12.
では、
どうやって除外しますか?
#13.
血清ブドウ糖を測定して、補正Na濃度を計算する。 浸透圧が<275 mOsm/kgであれば低浸透圧性低Na血症としてよい。 Table 10(次のスライド)に挙げられている非低浸透圧性低Na血症がなければ、低浸透圧性低Na血症とする。 非低浸透圧性低Na血症の除外 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014.
#14.
非低浸透圧性低Na血症の原因 (前述のTable 10) ① 細胞内外浸透圧格差を生じる浸透圧物質が上昇している。
(➡細胞内外で水の移動が起こるため低Na血症を生じる) ② 細胞内外浸透圧格差を生じない浸透圧物質が上昇している。
(➡細胞内外で水の移動が起こらないため低Na血症を生じない。
しかし急な補正で脳浮腫は起こる、ex.透析不均衡症候群) ③ 内因性の溶質が上昇し偽性低Na血症を生じる。 ブドウ糖、マンニトール、グリシン、ヒスチジンートリプトファン‐ケトグルタル酸、高浸透圧性造影剤、マルトースなど 尿素、アルコール、エチレングリコールなど 中性脂肪、コレステロール、蛋白、免疫グロブリン静注、単クローン性免疫グロブリン血症
#15.
糖尿病のある患者さん。450 mg/dLの高血糖で血糖コントロール目的に入院。入院時検査で血清Na 130 mEq/L であった。とくに低Na血症による症状はない。 高血糖による場合は、以下の式で補正Naを計算する。 この患者さんは、補正で138.4 mEq/Lとなり、低浸透圧性低Na血症はない。
高血糖の治療により低Naも治療されると考えられる。 症例1 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014.
#16.
脳梗塞にて入院加療中。脳浮腫に対し、マンニトールを投与している。定期検査で血清Na 133 mEq/Lであった。 症例2 マンニトールは細胞内外浸透圧格差を生じる浸透圧性物質のため、低浸透圧性低Na血症ではないと考えられる。血清浸透圧を測定するか、マンニトールの代謝を待つことでよいと考えられる。
#17.
ナトリウムを測定する前には多くの施設で、検体節約のため一定量で希釈して測定している。TGやコレステロール、蛋白量などが多いと、Solid-phaseに相当する割合が高くなり、実際には低くないのに低Na血症となる。これを偽性低Na血症という。(Laboratory artifact) トリグリセリド 460 mg/dL上昇で約1 mEq/L低下
総蛋白 1 g/dL 上昇で約1-1.5 mEq/L低下 高度肥満による睡眠時無呼吸症候群の精査目的に入院。既往に著明な高トリグリセリド血症(900 mg/dL)がある。入院時の検査で血清Na 133 mEq/Lであった。 症例3
#18.
緊急時の診断と治療
#19.
緊急で治療が必要かどうか 急性(48時間以内)もしくは重症の低Na血症かを判断し、高張食塩水投与を検討する。 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 低Na血症鑑別診断フローチャート
#20.
治療のアルゴリズム Severe symptoms
➡嘔吐、心肺機能不全、深い傾眠、痙攣、意識障害(GCS<8) Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 低Na血症の約2%が緊急の治療を必要とするという報告があり、注意が必要。 JAMA. 328:280-291, 2022.
#21.
重症の低Na患者の治療 3%NaCl 100~150 mLを20分以上かけてBolus投与。 ① 5 mEq/Lのナトリウム濃度上昇を目指して、複数回投与。
② 症状が良くなった、または5 mEq/L上昇したら高張は中止し等張へ。
③ 5 mEq/L上昇しても症状改善しない場合は他の原因を探す。
④ ODS予防のため、補正速度はNa<130のときは8 mEq/day、それ以上なら10 mEq/dayまで。計算上は5 mEq/dayの速度で補正するように計算する。 ※Bolus投与の理由として
① 持続投与で行うと過補正になりやすいリスクがあること
② および重篤な低Na血症には迅速に脳浮腫に対する対応が必要なこと ■注意点 3%食塩水の作り方:10%NaCl 30 mL + 5%Glc 70 mL
#22.
Bolus投与での補正予測 輸液1L投与による血清Na濃度の変化を予測した式 中年男性 体重:60 kg (➡60x0.6=体液量36L)血清Na:110 mEq/L 3%NaCl (Na 513 mEq/L) 1L 投与したら? ΔNa = (513 – 110)/(36 + 1) = 403/37 = 10.9
➡10.9 mEq/L上昇する。
3%NaCl 100 mLで約1.1 mEq/L上昇する。 Adrogue-Madiasの式
#23.
治療のアルゴリズム Moderately severe symptoms
➡嘔吐を伴わない嘔気、混乱、頭痛 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 低Na血症の原因検索・鑑別診断を行う。
低Na血症の原因となる薬剤を中止。
Bolus投与も1回行ってもよい。
#24.
低浸透圧性低Na血症の鑑別診断
#25.
低浸透圧性低Na血症の鑑別診断 等浸透圧もしくは高浸透圧性低Na血症が除外できたら低浸透圧性低Na血症となるが、低浸透圧性低Na血症の鑑別診断はアメリカとヨーロッパで異なる。
アメリカの低Na血症のガイドラインはいわゆる伝統的な鑑別診断の方法である。鑑別診断アルゴリズムは作られていないが、低張性低Na血症の最初の評価項目は細胞外液量となる。
一方、ヨーロッパの低Na血症ガイドラインでは、細胞外液量評価の前に尿中浸透圧および尿中ナトリウム濃度が来る。
※低浸透圧性低ナトリウム血症までは同じ
#26.
USガイドラインの低Na血症の鑑別診断 (伝統的) JAMA. 328:280-291, 2022.
#27.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014.
#28.
両ガイドラインの比較 Am J Med. 123:652-7, 2010. ■ヨーロッパガイドライン 一方アメリカガイドラインの最初のステップは体液量で変わらないのは、尿のデータは手に入らないことも多く、また尿のパラメーターはさまざまな修飾を受けるため、アルゴリズムの最初のステップにするべきではなく参考所見とするべきで汎用性を重視する、というスタンス。 ■アメリカガイドライン ➡正確に診断にたどり着く、というスタンス。 JAMA. 328:280-291, 2022.
#29.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 今回はヨーロッパガイドラインに沿って、鑑別診断の解説を進めていきます。
#30.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 最初のステップは尿浸透圧で分類 心因性多飲症 溶質摂取不足 溶質摂取不足 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014.
#31.
腎での尿浸透圧調整 通常の食事摂取により、1日約600 mOsmの溶質を尿中に排泄している。 腎臓では対向流系により、腎髄質の浸透圧は1200 ~1400 mOsmまで上昇しており、集合管での水の再吸収をADH(antidiuretic hormone)により調整することで尿浸透圧を50~1200 mOsm/kg・H2O程度までコントロールすることが可能である。 ※尿中に溶質として排泄されるのは電解質、たんぱく質で、脂肪や炭水化物は溶質負荷とはならない。 https://byjus.com/question-answer/what-is-the-osmolarity-in-mosmol-l-1-in-the-outer-cortex-and-inner-medulla/
#32.
腎での尿浸透圧調整 最大でも1200 mOsmまでしか濃縮できないため、排泄する必要のある溶質(約600 mOsm)を尿として排泄するには最低でも約0.5 L必要となる。したがって400 mLを乏尿と定義している。 溶質の問題で体に水が貯まる原因は以下が考えられる。
尿を最大限に希釈しても排泄すべき水を尿として出せないほど排泄する溶質が少ない、または水分摂取が多い。
#33.
腎での尿浸透圧調整 ■溶質が少ない場合 溶質摂取が極端に少ない、例えば50 mOsmであると最大限希釈しても1 L程度の尿しか排泄できず、それ以上飲めば低ナトリウム血症を発症する。(溶質摂取不足、beer potomania、tea and toast) ■水分摂取が多い場合 600 mOsm摂取していても、最大限希釈しても12 L程度となるためそれ以上飲水すると低ナトリウム血症を発症する。(心因性多飲症) したがって、これらの時は最大限希釈してい状況なので尿浸透圧は100 mOsm未満となる。
#34.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 次のステップは
#35.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 次のステップは尿Na濃度で分類
#36.
有効循環血流量の評価 尿ナトリウムはRAA系のコントロールを受けており、有効循環血液量(effective arterial volume)の低下により再吸収が増加する。 スポット尿で30 mEq/Lをカットオフとしており、それ以下で有効循環血液量が低下していると判断する。
その後に細胞外液量で鑑別を進めていく。 心不全 ネフローゼ症候群 肝硬変 嘔吐、下痢 サードスペースへの移行 過去の利尿薬使用 利尿薬使用時は有効循環血液量が減少していても、尿Na濃度は上昇する。そのため、FEUA>12%であればSIADを示唆することが言える可能性があるが、確定している方法ではない。
#37.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 次のステップは
#38.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 次のステップは利尿薬使用or腎臓病の有無で分類
#39.
利尿薬・腎臓病と低Na血症 フロセミド等ループ利尿薬の使用で排泄される尿はhalf salineと言われ、尿中Naは70-90 mEq/L程度になる。したがって、低張輸液、もしくはそれに準じるような摂取の場合は低ナトリウム血症となる。
逆に尿中Na以上の輸液をしていればループ利尿薬投与でも低Na血症の原因とはならない。
※サイアザイド利尿薬に関してはコラム的に後述。 利尿薬使用 腎臓病 その他 利尿薬使用 腎臓病
#40.
利尿薬・腎臓病がない場合 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目
#41.
利尿薬・腎臓病がない場合 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目 AVPが分泌されていないにもかかわらず,SIADH様の所見を呈する症例が2005年に報告された。ホルモン分泌を伴わない病態も含めるため、不適切抗利尿症候群(syndrome of inappropriate antidiuresis:SIAD)という病名になった。
#42.
利尿薬・腎臓病がない場合 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)は基本的に除外診断。
#43.
利尿薬・腎臓病がない場合 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目 SIAD(H)は基本的に除外診断。
#44.
ADHの生理
#45.
ADHの作用 主細胞. 集合管 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. 間在細胞.
#46.
ADHの作用 頂側膜 基底側膜
#47.
ADHの作用 Vasopressinが基底側膜のV2受容体に結合 2. 細胞内cAMPが上昇 3. 頂側膜へのAQP2の発現が増加 4. 尿からの水の再吸収が増加する。 3‘. AQP2のタンパク合成が増加
#48.
ADHの分泌調整 ADHの分泌は通常血漿浸透圧でコントロールされている。
血清浸透圧が280 mOsm/kg未満ではADHは検出されない。
288-294 mOsm/kgまで血漿浸透圧が上昇すると口喝を自覚してくる。 口喝
閾値 AVP
分泌
閾値 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014.
#49.
ADHの分泌調整の修飾因子 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 血圧や細胞外液量により分泌閾値に修飾を受ける。
これはAng IIが浸透圧受容体の感受性を変化させているためと考えられている1)。 1) J Neurosci. 28:9536-44, 2008.
#50.
推測式 尿および血清浸透圧、AVPの検査を提出しても結果が出るには時間がかかる。
臨床ではこれらの値を推算し、不適切にADHが作用しているのか判断していく。 ■尿浸透圧の推算
尿比重:1.0▲■の「▲■」×35 例えば尿比重1.010なら尿浸透圧350 mOsm/kg ■血清浸透圧の推算
2×[Na+] + 血糖値/18 + 尿素窒素/2.8 ■ADHの推定分泌量:理論値
0.38 × (血清浸透圧-280) ■ADHの分泌の予測値
1.7 × 尿浸透圧/血清浸透圧 酸塩基平衡、水・電解質が好きになる 今井雄一 羊土社 2007
#51.
SIAD(H)をきたす病態 肺がん
中咽頭がん
消化器がん(胃がん、十二指腸がん、膵がん)
尿管がん、膀胱がん、前立腺がん
内分泌性胸腺腫
悪性リンパ腫
ユーイング肉腫、嗅神経芽細胞種 悪性腫瘍 肺疾患 細菌性肺炎、ウィルス性肺炎
肺膿瘍、肺結核、肺アスペルギルス症
喘息
陽圧喚起使用下の呼吸不全 神経系疾患 脳炎、髄膜炎、脳膿瘍
AIDS、マラリア、ロッキー山脈紅斑熱
硬膜下血腫、くも膜下出血、脳卒中
脳腫瘍、頭部外傷
水頭症、多発性硬化症
ギランバレー症候群、シャイドレーガー症候群
海綿状静脈洞血栓症
アルコール中毒による幻覚 その他 遺伝性V2R機能亢進性変異
特発性
運動誘発性低ナトリウム血症
全身麻酔
嘔気・嘔吐
疼痛
ストレス 入院患者ではSIAD(H)を来しやすい。
#52.
SIAD(H)をきたす薬剤 SSRI
SNRI
三環系抗うつ薬
MAO阻害薬 カルバマゼピン
オクスカルバゼピン
バルプロ酸ナトリウム
ラモトリギン 抗うつ薬 抗てんかん薬 抗精神病薬 フェノチアジド
ブチロフェノン(ハロペリドールなど) 抗腫瘍薬
ビンカアルカロイド(ビンクリスチンなど)
プラチナ製剤
シクロフォスファミド、メトトレキサート 抗腫瘍薬 血糖降下薬 クロルプロパミド(ダイアビニーズ🄬SU剤)
トルブタミド(ラスチノン🄬SU剤) その他 オピエイト(モルヒネなど)
NSAIDs
アミオダロン
PPI
クロフィブラート NSAIDs、PPIは使用頻度が高いので注意
#53.
SIAD(H)の参考所見 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目
#54.
SIAD(H)の参考所見 嘔吐 原発性副腎不全 腎性塩類喪失症候群 中枢性塩類喪失症候群 利尿薬隠れ使用 利尿薬隠れ使用 二次性副腎不全 甲状腺機能低下 不適切抗利尿症候群 SIAD(H)の診断基準 血清浸透圧<275 mOsm/kg
尿浸透圧>100 mOsm/kg
体液量正常範囲
尿Na濃度>30 mmol/L
副腎、甲状腺、下垂体のホルモン異常および腎機能障害がない。 血清尿酸値 <4.0 mg/dL
血清尿素窒素<21.6 mg/dL
生理食塩水で改善しない低Na血症
FENa>0.5%
FEUN>55%
FEUA>12%
飲水制限で改善 必須項目 補助項目 SIAD(H)での低尿酸血症は特徴的なので掘り下げて解説します。脱線気味なので読み飛ばし可
#55.
SIAD(H)での低尿酸血症
#56.
尿酸の排泄 ラジオアイソトープを用いた研究により、尿酸は腎臓から2/3、腸管から1/3が排泄されている。 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. 糸球体で尿酸は100%濾過をされ、10%程度が尿中に排泄される。
#57.
尿酸の排泄 ラジオアイソトープを用いた研究により、尿酸は腎臓から2/3、腸管から1/3が排泄されている。 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. 糸球体で尿酸は100%濾過をされる。 ここまでに73%が再吸収 近位曲尿細管末までに73±3%、 糸球体で尿酸は100%濾過をされ、10%程度が尿中に排泄される。
#58.
尿酸の排泄 ラジオアイソトープを用いた研究により、尿酸は腎臓から2/3、腸管から1/3が排泄されている。 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. ここまでに91%が再吸収 遠位曲尿細管始めまでにさらに18±1%、 近位曲尿細管末までに73±3%、 糸球体で尿酸は100%濾過をされ、10%程度が尿中に排泄される。
#59.
尿酸の排泄 ラジオアイソトープを用いた研究により、尿酸は腎臓から2/3、腸管から1/3が排泄されている。 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. ここまでに95%が再吸収 遠位曲尿細管始めまでにさらに18±1%、 近位曲尿細管末までに73±3%、 糸球体で尿酸は100%濾過をされ、5-10%程度が尿中に排泄される。 遠位曲尿細管では再吸収されず、終わりから最後までで4%程度再吸収される。
#60.
尿酸の排泄 ラジオアイソトープを用いた研究により、尿酸は腎臓から2/3、腸管から1/3が排泄されている。 N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. 遠位曲尿細管始めまでにさらに18±1%、 近位曲尿細管末までに73±3%、 糸球体で尿酸は100%濾過をされ、5-10%程度が尿中に排泄される。 遠位曲尿細管では再吸収されず、終わりから最後までで4%程度再吸収される。 尿細管での再吸収は主に近位尿細管が担っている。 腎と透析 95:626-630, 2023.
#61.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT 細胞内にSMCTを介してNa+とLactateが再吸収される。
近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate 尿側 間質側
#62.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 2 Na+ Lactate Lactate Lactate 尿酸 尿酸 細胞内にSMCTを介してNa+とLactateが再吸収される。
URAT1およびOAT10を介して再吸収されたLactateと尿酸が交換する形で尿酸が再吸収される。 近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. URAT1は2002年、OAT10は2008年に同定。 ベンズブロマン(ユリノーム🄬)、プロベネシド(ベネシッド🄬)、ドチヌラド(ユリス🄬)などの尿酸排泄促進薬はURAT1を阻害している。 尿側 間質側 ※細胞内にLactateがないと交換効率は下がる。
#63.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 ABCG2 Lactate Lactate 尿酸 尿酸 尿酸 細胞内にSMCTを介してNa+とLactateが再吸収される。
URAT1およびOAT10を介して再吸収されたLactateと尿酸が交換する形で尿酸が再吸収される。
再吸収と平行してABCG2を介して尿酸は尿細管腔へ分泌されている。 近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate ABCG2は2009年に尿酸分泌するものとして初めて報告された。
腸管にも存在し、腸内への尿酸排泄を担っている。
機能低下性変異を持っている患者が腸炎などで尿酸排泄ができない場合は、血清尿酸値は上昇する。 YAKUGAKU ZASSHI 144, 659–674, 2024. 尿側 間質側
#64.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 ABCG2 Lactate Lactate 尿酸 尿酸 尿酸 GLUT9 尿酸 細胞内にSMCTを介してNa+とLactateが再吸収される。
URAT1およびOAT10を介して再吸収されたLactateと尿酸が交換する形で尿酸が再吸収される。
再吸収と平行してABCG2を介して尿酸は尿細管腔へ分泌されている。
再吸収された尿酸は基底側膜のGLUT9を介して血管へ吸収される。
近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate ※GLUT9(URAT1v1)は最初は2000年にグルコーストランスポーターとして同定されたが、2008年に尿酸トランスポーターであることが判明した。 尿側 間質側
#65.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 ABCG2 Lactate Lactate 尿酸 尿酸 尿酸 GLUT9 尿酸 近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate J Am Soc Nephrol. 15:164-73, 2004. 腎性低尿酸血症の原因遺伝子としてURAT1をcodeしているSLC22A12、GLUT9をcodeしているSLC2A9がある。腎性低尿酸血症では血清尿酸値が2 mg/dL未満となり、FEUAは30-70%以上となる。日本人で見つかる変異のほとんどがSLC22A12にある。 尿側 間質側
#66.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 ABCG2 Lactate Lactate 尿酸 尿酸 尿酸 GLUT9 尿酸 近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate 日本の高尿酸血症患者のおよそ8割でABCG2の機能低下あるいは喪失型変異を有していた。 Sci Transl Med. 1:5ra11, 2009. 腎性低尿酸血症の原因遺伝子としてURAT1をcodeしているSLC22A12、GLUT9をcodeしているSLC2A9がある。腎性低尿酸血症では血清尿酸値が2 mg/dL未満となり、FEUAは30-70%以上となる。日本人で見つかる変異のほとんどがSLC22A12にある。 尿側 間質側 J Am Soc Nephrol. 15:164-73, 2004.
#67.
近位尿細管での尿酸の排泄 SMCT URAT1 OAT10 ABCG2 Lactate Lactate 尿酸 尿酸 尿酸 GLUT9 尿酸 近位尿細管 Am J Physiol Renal Physiol. 316:F934-F947, 2019. 2 Na+ Lactate 腎性低尿酸血症の原因遺伝子としてURAT1をcodeしているSLC22A12、GLUT9をcodeしているSLC2A9がある。腎性低尿酸血症では血清尿酸値が2 mg/dL未満となり、FEUAは30-70%以上となる。日本人で見つかる変異のほとんどがSLC22A12にある。 日本の高尿酸血症患者のおよそ8割でABCG2の機能低下あるいは喪失型変異を有していた。 Sci Transl Med. 1:5ra11, 2009. J Am Soc Nephrol. 15:164-73, 2004. 図にないが他に尿細管頂側膜に存在し、尿細管腔に分泌するトランスポーターとしてGLUT9b、NPT1/4、MRP4が同定されている。 尿側 間質側
#68.
SIAD(H)と低尿酸血症 SIAD(H)では低尿酸血症をきたすことは1970年代から報告されていた1-2)。 1) Acta Med Scand. 189:69-72, 1971. 2) N Engl J Med. 301:528-30, 1979.
#69.
SIAD(H)と低尿酸血症 SIAD(H)では低尿酸血症をきたすことは1970年代から報告されていた1-2)。 1) Acta Med Scand. 189:69-72, 1971. 2) N Engl J Med. 301:528-30, 1979. 低ナトリウム血症患者のうちSIAD(n=31), non SIAD (n=55)の血清尿酸値とFEUAを比較。 J Clin Endocrinol Metab. 93:2991-7, 2008.
#70.
SIAD(H)と低尿酸血症 SIAD(H)では低尿酸血症をきたすことは1970年代から報告されていた1-2)。 低ナトリウム血症患者のうちSIAD(n=31), non SIAD (n=55)の血清尿酸値とFEUAを比較。 SIAD(H)ではFEUAが上昇し、12%をカットオフとすると感度87%、特異度100%とSIAD(H)の診断をする上では非常に有用な指標である。 SIADではnon SIADと比較して血清UAは低く、FEUAは上昇しており、尿からの排泄が増加して血清値が低くなっていることがわかる。 1) Acta Med Scand. 189:69-72, 1971. 2) N Engl J Med. 301:528-30, 1979. J Clin Endocrinol Metab. 93:2991-7, 2008.
#71.
バゾプレッシン受容体 バゾプレッシン受容体はV1a、V1b、V2受容体が存在する。
#72.
SIAD(H)による低尿酸血症とV受容体 J Am Soc Nephrol. 7:805-10, 1996. 水制限 あり なし 水制限 あり なし dDAVPによる
低ナトリウム血症 SIADHによる
低ナトリウム血症 dDAVP; l-deamino-8- D-arginine vasopressin、デスモプレシン
➡V2受容体に高い選択性を示し、昇圧効果を示さずに抗利尿効果が得られる。 血清Na濃度 [mEq/L] dDAVP、SIADHどちらも水制限により低ナトリウム血症は改善している。
#73.
SIAD(H)による低尿酸血症とV受容体 J Am Soc Nephrol. 7:805-10, 1996. 水制限 あり なし 水制限 あり なし dDAVPによる
低ナトリウム血症 SIADHによる
低ナトリウム血症 dDAVP; l-deamino-8- D-arginine vasopressin、デスモプレシン
➡V2受容体に高い選択性を示し、昇圧効果を示さずに抗利尿効果が得られる。 血清UA濃度 [mg/dL] SIADHでは水制限なしだと低尿酸血症を発症するが、dDAVPではあまり尿酸は下がらない。
#74.
SIAD(H)による低尿酸血症とV受容体 J Am Soc Nephrol. 7:805-10, 1996. dDAVP; l-deamino-8- D-arginine vasopressin、デスモプレシン
➡V2受容体に高い選択性を示し、昇圧効果を示さずに抗利尿効果が得られる。 SIADHでは水制限なしだとFEUAが上昇するが、水制限下ではFEUAは上昇しない。一方dDAVPではFEUAは全く変化がない。 dDAVPによる
低ナトリウム血症 SIADHによる
低ナトリウム血症 FEUA [%] ➡V2受容体は尿酸排泄増加に関与していない ➡ではV1受容体が関与しているのか? 水制限 あり なし 水制限 あり なし
#75.
SIAD(H)による低尿酸血症とV受容体 J Am Soc Nephrol. 7:805-10, 1996. V1受容体作動薬投与によりFEUAは上昇している。 TGLVP; triglycyl-lysine-vasopressin、
➡V1受容体に高い選択性を示す。 ベース 高用量TGLP投与後 低用量TGLP投与後 ➡V1受容体がFEUA増加に関与している
#76.
V1a受容体と尿酸排泄 ラットを使用した実験 terilpressin;V1a受容体に高い選択性を示す。 Terilpressin投与によりFEUAは上昇し、血清UAは低下している。 ➡V1a受容体がFEUA増加に関与している Clin Exp Nephrol. 20:845-852, 2016.
#77.
V1a受容体と尿酸排泄 terilpressin;V1a受容体に高い選択性を示す。 ■ラットにTerilpressin投与すると… Clin Exp Nephrol. 20:845-852, 2016.
#78.
V1a受容体と尿酸排泄 terilpressin;V1a受容体に高い選択性を示す。 Clin Exp Nephrol. 20:845-852, 2016. 近位尿細管でのUA再吸収を担うURAT1は減少、基底側膜でUAを吸収するGLUT9は減少、 ■ラットにTerilpressin投与すると
#79.
V1a受容体と尿酸排泄 terilpressin;V1a受容体に高い選択性を示す。 Clin Exp Nephrol. 20:845-852, 2016. 近位尿細管でのUA再吸収を担うURAT1は減少、基底側膜でUAを吸収するGLUT9は減少、 ■ラットにTerilpressin投与すると UAを尿細管に分泌するABCG2とNPT1は上昇していた。
#80.
V1a受容体と尿酸排泄 terilpressin;V1a受容体に高い選択性を示す。 Clin Exp Nephrol. 20:845-852, 2016. UAを尿細管に分泌するABCG2とNPT1は上昇していた。 近位尿細管でのUA再吸収を担うURAT1は減少、基底側膜でUAを吸収するGLUT9は減少、 ■ラットにTerilpressin投与すると 余談だがSGLT2投与による尿酸低下作用はURAT1が抑制されることによる。
Terilpressinは2022年9月に腎機能の急速な低下を伴う成人の肝腎症候群(HRS)の腎機能改善薬としてFDAで認可されており、今後日本でも販売されるかも・・・。
#81.
なぜSIADHで水制限をすると尿酸が上昇するのか?
#82.
疫学で高血圧と高尿酸血症に関連があることは知られていた。
RA系と尿酸の関連を調べるため、ヒトにアンギオテンシンIIを投与して尿酸排泄を見た実験。 Ang IIと尿中尿酸排泄 投与後
0-1時間 投与後
1-2時間 投与前 Metabolism. 51:893-5, 2002.
#83.
Ang IIと尿中尿酸排泄 FEUAは減少している。 疫学で高血圧と高尿酸血症に関連があることは知られていた。
RA系と尿酸の関連を調べるため、ヒトにアンギオテンシンIIを投与して尿酸排泄を見た実験。 投与後
0-1時間 投与後
1-2時間 投与前 Metabolism. 51:893-5, 2002. アンギオテンシンIIは尿中尿酸排泄を低下させる。
水制限によりRAA系が賦活化されることが関与している可能性がある。
#84.
ではACEi/ARBを投与すると尿酸値が下がるのか?
#85.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 ACEi/ARBと尿酸値の関係に関してはロサルタンは尿中尿酸排泄を亢進し、血清尿酸値を低下させることは以前より言われていた。しかしほかのARBでは低下が認められないなどクラスエフェクトではないと考えられていた。 2010年にアフリカツメガエルの卵細胞にURAT1を発現させて、ARBがURAT1をどの程度阻害するかを調べた研究がある。
カンデサルタンにはURAT1を阻害する効果は認められず、各ARBでその阻害効果には差が認められた。
GLUT9に関しても調べられており総合して筆者らはイルベサルタンが最も尿酸低下作用があると結論している。 J Cardiovasc Pharmacol. 28:259-63, 1996. J Pharmacol Sci. 114:115-8, 2010.
#86.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 2020年にACEi/ARB開始にともなうUAの変化に関して韓国から大規模な臨床研究の結果が報告された。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020.
#87.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 2020年にACEi/ARB開始にともなうUAの変化に関して韓国から大規模な臨床研究の結果が報告された。 Total 22293人の解析ではACEi、ARBともに有意な低下は認められなかった。しかしイルベサルタン、オルメサルタンでは有意な低下が認められている。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020.
#88.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 尿酸値が高い人(7.2-8.9 mg/dL)に限るとACEi、ARBともに有意に血清尿酸値が低下している。
カンデサルタンは低下幅は弱く、イルベサルタンは尿酸低下作用は強い傾向にあった。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020.
#89.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 さらに尿酸値が高い人(>9.0 mg/dL)でも同様の結果だが、低下幅は増加している。
カンデサルタンは低下幅は弱く、イルベサルタンは尿酸低下作用は強い傾向も変わらず。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020.
#90.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 eGFRが60未満の人に限ってもACEi、ARBともに有意に血清尿酸値が低下している。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020.
#91.
ACEi/ARBと尿酸値の関係 eGFRが60未満の人に限ってもACEi、ARBともに有意に血清尿酸値が低下している。 J Clin Pharm Ther. 45:1264-1270, 2020. ただ有意とはいっても低下幅はわずかであり、治療の主体にはなりえない。尿酸高値の人はイルベサルタンを選択するのも検討できる可能性がある。
#92.
低浸透圧性低Na血症の治療
#93.
治療のアルゴリズム Moderately severe symptoms
➡嘔吐を伴わない嘔気、混乱、頭痛 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 低Na血症の原因検索・鑑別診断を行う。
低Na血症の原因となる薬剤を中止。
Bolus投与も1回行ってもよい。 再掲
#94.
細胞外液量とNa Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 細胞外液量の程度で治療を検討する。
#95.
低Na血症の細胞外液量とNaのパターン 正常 体内水分量 体内Na+K量 低ナトリウム血症だからといって、体内総Na+Kが少ないとは限らない。
体内水分とのバランスで血清Na濃度は決まる。 正常 パターン1 パターン2 パターン3 水 水 水 水 Na+K Na+K Na+K Na+K
#96.
治療のアルゴリズム Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. まずは細胞外液量減少の補正
#97.
細胞外液量低下の補正法 細胞外液(生理食塩水、もしくは乳酸リンゲル液)を0.5‐1.0 mL/kg/hrで投与を行う。 この際に注意しなければならないことは、尿中のNaとKの値である。 Edelmanの式 血液中のナトリウム濃度は体内のナトリウム+カリウムと体液量により規定される。 ■血清Na濃度の決定因子 TBW; total body water
E;exchangeable
PNa = Na+E + K+E TBW ※骨とか組織に取り込まれている以外 再掲
#98.
細胞外液量低下の補正法 基本的な考え方として 尿中(Na++K+) < 血清Na+
の場合は血清Naは上昇していく。 尿中(Na++K+) > 血清Na+
の場合は血清Naは低下していく。 したがって著しく尿中( Na++K+)が低い場合は、生食であっても過補正になる恐れがある。
補正速度は最初の24時間は10 mEq/Lを超えない、平均8 mEq/L/dayを超えないこと。
#99.
治療のアルゴリズム Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 細胞外液量増加か正常か
#100.
細胞外液量増加の補正法 細胞外液量が増加している患者の場合の原則は水分制限。
低ナトリウム血症の原因として肝硬変や心不全、ネフローゼ症候群などが多いため、利尿薬使用している場合が多い。原疾患に対する治療を行いつつ、輸液や利尿薬調整(高張輸液+利尿薬など)を行っていく。
難治性であることが多く、肝硬変では注意が必要であるがトルバプタン使用も考慮してよい。トルバプタン使用時は尿量に注意し、急な増加がある場合は過補正に注意が必要。不安であれば採血検査をためらわない。 ※ アメリカのガイドラインではトルバプタンに使用は挙げられているが、ヨーロッパガイドラインではトルバプタンの使用は推奨されていない。理由としてはSystematic reviewでトルバプタン使用群で死亡率が上昇したため。
※ 肝硬変の浮腫に対してもトルバプタンは保険適応が通っている。
#101.
SIAD(H)の補正法 120 mEq/L未満では禁食管理も妥当(私見)。 補正後Naの設定は5 mEq/L上昇する程度で設定する。 SIAD(H)に対する治療も原則は水分制限。 その上で130 mEq/L未満では高張輸液により、補正を図っていく。 高張輸液といっても3%一律ではなく、必要な水分量と塩分量で濃度を決定する。必要な水分量は尿量1L程度になるくらいに投与する水分量を計算。塩分量は次のスライドの式で計算する。
#102.
補正後Na+ 血清(Na+)*TBW +(投与するNa+)ー 尿中( Na++K+ )*尿量 TBW + 輸液量 ー 尿量 = 低ナトリウム血症の補正式 ※Edelmanの式を変形すると体内総(Na+K)= PNa × TBW もともとの
体内総(Na+K)※ 体から出ていくもの 体に入ってくるもの Kidney360. 3:2183-2189, 2022.
#103.
SIAD(H)の補正のTIPs (私見) 尿中の電解質は高張輸液で補正を始めていくと上昇してくることが多いので注意が必要。130 mEq/L以上に落ち着くまでは、毎日計算して修正していく。
135 mEq/L付近になれば、じょじょに輸液量を減量していく方向で調整。
SIADHの原因除去が不可能で、輸液量減量により再びNaが低下してくる(もしくは予想される)場合は、経口摂取可能なら食塩を使用する。
食塩投与しても低下してくる場合、もしくは経口摂取不可の場合はトルバプタン使用も考慮する。
SIADHにトルバプタン使用するときは、著効して血清Naが急上昇することがあるので3.75 mg隔日で使用開始する方が無難。
SIADHにトルバプタン使用した場合、心不全と違って保険上単剤投与可能だが外来では増量不可。肝障害の副作用に注意する。
#104.
サイアザイドによる低Na血症 脱線気味なので読み飛ばし可
#105.
サイアザイドによる低Na血症 古典的なTIHに対する説明はサイアザイドはNCCを阻害することにより尿希釈能が障害されるためとされてきた。 Thiazide-induced hyponatremia, TIH しかし、Gitelman症候群患者は遺伝的にNCC活性が減少しているにも関わらず、典型的には低ナトリウム血症を発症しない。 ➡NCCの機能低下と低Na血症は関係がない? ※NCC:NaCl共輸送体, 遠位曲尿細管に存在しNa再吸収を担う。
機能低下の遺伝病はGitelman症候群、機能亢進性の遺伝病 偽性低アルドステロン症II型 サイアザイドは広く高血圧の治療に用いられているが、低Na血症の副作用がある。薬剤誘発性低Na血症の中で最も頻度の高い薬剤の一つであり、サイアザイド使用者の約15%に低Na血症を認めるという報告もある。
#106.
サイアザイドによる低Na血症 Thiazide-induced hyponatremia, TIH サイアザイドはバソプレシンを欠いている実験ラットの髄質内層の集合管で水透過性を増す。さらに、TIHの患者では血漿バソプレシン濃度は低下していることが分かっている。 ➡サイアザイドはバソプレシン作用とは独立に水の再吸収を亢進させる。 サイアザイド投与により、尿中PGE2が増加する。
尿中のPGE2はV2Rを介さずに細胞内cAMPを上昇させ水の再吸収を増加させる。
腎性尿崩症にサイアザイドが効く理由でもある。 J Clin Invest. 127:3367-3374, 2017. 図ではEP4は基底側膜にあるが、頂側にも存在するので尿中のPGE2に反応できる。 基底側膜 頂側膜
#107.
実際の治療例
#108.
症例 86歳 男性 【主訴】
倦怠感、体動困難、食思不振
【現病歴】
入院3日前より倦怠感、食思不振があり、来院時は発熱はなく、SpO2:88%と酸素飽和度低下を認めた。血液検査でWBC:16750、CRP:33.2と高度炎症反応を認めた。胸部CTでは左下葉中心に浸潤影・左胸水貯留し膿胸を疑う液体貯留を認め、左下葉肺炎からの膿胸併発の疑いで同日入院となった。
入院時Na:132と軽度低下を認めていたが第3病日にはNa:139と軽快していた。
しかし、第11病日にNa:118と高度低下を認めたため当科コンサルトとなった。
【既往歴】
胆管癌術後、COPD、糖尿病
#109.
症例 86歳 男性 【内服薬】
ベルソムラ、トラゾドン、ランソプラゾール (第4病日から)
【身体所見】
150 cm 32.6 kg
やせ型、下腿浮腫なし [生化学]
BUN
Cre
UA
Na
K
Cl
Glu
ADH
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mg/dL
mg/dL
Pg/mL
6.1
0.92
1.3
118
4.5
84
167
2.3 [尿生化学]
比重
BUN
Cre
UA
Na
K
Cl
浸透圧
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mg/dL
mOsm/kg
1.021
250.3
73.5
28.1
109
52.4
76
423
#110.
症例 86歳 男性 ■第11病日までの経過
抗生剤はSBT/ABPC。
尿量
1200-1700 mL 第9病日は2700 mLと多量。
食事
第7病日から 全粥ハーフ開始。主食9-10割、副菜2-3割摂取
輸液
第1病日 NS 600 mL
第2病日 NS 1700 mL
第3-11病日 ソルデム3AG 1000 mL + NS 400 mL
#111.
病日 132 139 136 130 133 118 輸液を外液から3号液へ変更 全粥食事開始 症例 86歳 男性 血清Na濃度 「mEq/L] コンサルト
#112.
ヨーロッパガイドラインの低Na血症の鑑別診断 Eur J Endocrinol. 170:G1-47, 2014. 再掲
#113.
病態の解釈 血清浸透圧は計算上247と低浸透圧性低ナトリウム血症と診断。
体液量はうっ血、浮腫などもなく脱水もなく、正常細胞外液量と判断。
尿浸透圧は比重1.021で尿浸透圧は推算で735、実測で423 と低下は認めない。
尿中Na濃度は109であり、有効循環血液量減少はない。
腎臓病の既往なく、利尿薬使用もない。
ADH分泌理論値-12.16、ADH分泌予測値2.89とADHの不適合分泌が推定。
以上から暫定でSIAD(H)と診断。
除外目的に副腎、甲状腺は検査を提出。(のちに問題なしと判明)
SIADH発症の原因としては、肺炎、膿胸、入院ストレス、PPI内服などが挙げられる。
SIADHの状態に低張液の投与および摂取により低Na血症進行を認めたと考えられる。
#114.
治療アプローチ SIADHの原因になりうるPPIはH2Blockerへ変更。
尿Na+K=161であり、生食を輸液しても低Na血症は進行していく。
高度低Naではあるが、症状なく、コンサルトが金曜日であったこともありBolus投与はせず。 補正後Na+ 血清(Na++K+)*TBW +(投与するNa+)ー 尿中( Na++K+ )*尿量 TBW + 輸液量 ー 尿量 = 食事は全粥ハーフであり、全量摂取で1500 mL程度の水分量。主食全量、副菜は2-3割程度であり800 mL程度の経口よりの水分量と推定。
点滴は1400 mL/day ➡800 mL/dayに減量する(抗生剤300 mL メイン500 mL)。
体重は32.6kgで不感蒸泄は400-500 mL程度と推定。尿量は1200 mL/dayと推定する。(体重が一定と仮定して) ■投与水分量から尿量の推定 Kidney360. 3:2183-2189, 2022.
#115.
治療アプローチ 全粥ハーフ全量摂取で7 g塩分量。副菜は2-3割程度であり7 g * 0.2 = 1.4 g程度の摂取量とする。 ■経口塩分量 高度Na低下であり、緩徐に補正する。1日あたり5 mEq/Lの補正とする。 ■目標Na上昇 高齢でやせ型であり、体内水分量の係数は0.5とする。
32 kg*0.5 = 16 kg ■体内総水分量
#116.
治療アプローチ 補正後Na+ 血清(Na+)*TBW +(投与するNa+)ー 尿中( Na++K+ )*尿量 TBW + 輸液量 ー 尿量 = 123 118*16 +(投与するNa+)ー 161*1.2 16 = 273 投与するNa+ = 生食800 mLにNaは154*0.8 = 123、食事より1.4*17 = 24 であと126足りない。
生食500 mLに10%NaCl 40 mL追加(68)、経口でNaCl 3 g処方(51)した。
#117.
治療経過 132 139 136 130 133 118 123 134 134 135 病日 血清Na濃度 「mEq/L] 翌日には5 mEq/L上昇し、3日後には16 mEq上昇した。ほぼ予定通り補正することができた。
#118.
おわりに 低Na血症は臨床で最も多くみる電解質異常です。
軽度であっても患者さんには不利益となるため、病態生理からアプローチして対応をする必要があります。
疾患や状態など患者背景は頻度が多いゆえに多様です。鑑別診断、治療方法の原則にのっとって、個々の症例にあった対応をしていきましょう。