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中京病院 熱傷プロトコールの概要と目的
#1. 中京病院 熱傷プロトコール 2026 独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院 救急科 大須賀 章倫,⿊⽊ 雄一,中島 紳史,宮尾 大樹,大⻄ 伸也, 二神 紘美,堀場 篤 ,⻄尾 純霞, 2026年04月 作成
#3. はじめに 熱傷患者に初めて向き合ったとき,多くの若手医師はこう感じるのではないだろうか. 「何から手をつければいいのか分からない」 「一つ判断が遅れれば,取り返しがつかないのではないか」 熱傷は,受傷直後から全身管理が要求され,しかもその判断の多くが“待ってくれない”医療である. 経験豊富な先輩が自然に行っている判断や手順も,初学者にとっては見えにくく,言語化されないま ま現場が進んでいくことも少なくない. 中京病院における熱傷診療は,1970年代より形成外科と救急科が協働し,多くの広範囲熱傷患者を 救命してきた.その過程で蓄積された知識や⼯夫は,⻑く「現場で覚えるもの」「背中を見て学ぶも の」として受け継がれてきた.しかし,それでは若手が安心して学ぶには不十分である. この反省から,2021年に「中京病院 熱傷プロトコール」を初めて公開した. 本書「2026年改訂版」は,若手医師が“見ながら動ける”ことを強く意識して改訂されたものである. 最大の変更点は,診療の流れをToDoリスト形式で示したことである. 「このフェーズで最低限やるべきことは何か」 「今は判断しなくてよいことは何か」 を明確にし,経験の浅い医師でも,チームの一員として迷わず行動できることを目指した.本書は “丸暗記する教科書”ではなく,ポケットに入れて確認するための実践書である. また本改訂では,NexoBrid,RECELL,プロントザンといった比較的新しい治療ツールについても言 及した.これらは使い方を誤れば効果を発揮しない一方で,正しく理解すれば治療の選択肢を大きく 広げる.本書では,若手が「名前だけ知っている」で終わらないよう,位置づけと考え方を整理して いる. 広範囲熱傷患者の診療は,手術の巧拙だけで決まるものではない.呼吸管理,循環管理,栄養,感染 対策,その一つ一つが患者の予後を左右する.そしてそれらは,重症外傷や敗血症など,あらゆる重 症患者管理の基礎でもある.熱傷診療は,若手にとって最高の集中治療の教科書である. このプロトコールは完成形ではない. 若手が疑問を持ち,指導医と議論し,各施設で改良されていくことで初めて意味を持つ. 本書が,熱傷診療に踏み出す第一歩となり,やがて次の世代へと手渡されていくことを,私たちは強 く願っている. お問い合わせ先 : 独立
初期診療における重要な手順と情報収集
#5. 目 次 1. 初期診療 ……………… 1 2. 呼吸管理 ……………… 5 3. 循環管理 ……………… 7 4. 栄養管理 ……………… 8 5. 感染管理 ……………… 9 6. 熱傷手術 ……………… 11 7. 熱傷創処置 ……………… 15
#6. 1. 初期診療 熱傷患者 来院情報 紹介 の 有無 あり なし 情報収集・評価 受傷機転・受傷時間 推定TBSA・部位 気道症状の有無 実施済み処置・輸液量 前医・救急隊への指示 ・必要最小限の輸液 ・酸素投与(CO中毒疑い) ・保温 ・除染(化学熱傷の場合) 受け入れ準備 ・形成外科/麻酔科への連絡 ・手術室/ICUベッド調整 ・必要物品・人員の確保 ・エコー ・気管支鏡 ・カメラ ・創培養 当院到着 Primary Survey Secondary Survey 治療戦略の設計・共有 ・挿管方針 ・減張切開の要否 ・初回手術のタイミング 入 院 1 前医との連絡 熱傷搬送用紙送付 搬送手段確認 ヘリ搬送の場合交換台, 警備に到着時間を連絡
呼吸管理の方法と気管挿管の適応
#7. 受け入れ前 □ 情報収集:熱傷搬送用紙FAX(紹介ありの場合) □ 救急科スタッフ召集 □ 物品準備 ⃝ 気管支鏡 ⃝ 処置物品 : ⃝ ⃝ □ 連 絡 カメラ : 麻薬 : ⃝ 手術室 ⃝ 形成外科 ⃝ ⃝ 創部写真撮影 温生食,メディマット,プロペト+サラフィット,包帯 ケタラール,フェンタニル 麻酔科 J-TEC : DDB+DBが30%以上の可能性がある場合, 培養表皮の準備のため一報 (TEL:0533-67-3682 または直接担当者へ) Primary survey ★ 外傷初期診療のABCDEアプローチに加え,熱傷患者におけるプラスアルファとして, 次の項目をチェックする. □ A:気 道 〇 顔面熱傷 □ B:呼 吸 〇 頸部熱傷 □ C:循 環 〇 初期輸液 〇 〇 〇 〇 鼻毛のスス : 挿管を要する率が高い 全周性胸部熱傷 : 減張切開を要する可能性 第一印象で20%TBSA以上ありそうなら細胞外液を急速輸液 (13歳以上:500mL/hr,6-12歳:250mL/h,0-5歳:125mL/h) 全周性四肢熱傷の有無と末梢循環 : 減張切開を要する可能性 乳酸値(血ガス) 8mmol/L(72mg/dL)以上でシアン中毒の可能性→シアノキットの投与 □ D:中枢神経 〇 CO-Hb(血ガス): 5%以上でCO中毒疑い → 高濃度酸素投与を継続する. □ E:脱衣と 〇 化学熱傷では早期脱衣が予後を左右する. 体温管理 〇 (できれば病院前で脱衣を完了させるよう救急隊に指示する) 低体温になりやすいので,尿カテは,必ず体温センサー付きのものを 使用する. 2
#8. Secondary Survey □ AMPLE ★情報収集として特に次の項目を忘れずに聴取する. 〇 高齢者 : ADLと介護度 〇 小児熱傷 : 受傷場所(テーブル?キッチン?),原因(電気ケトルなど), 〇 : 〇 汚染水曝露 : 〇 電撃傷 : 〇 〇 □ 火炎熱傷 化学損傷 : 外傷合併の可能性 : 熱傷創評価と処置 閉鎖空間での受傷かどうか(吸入損傷のリスク) 児相通報歴,⺟⼦手帳チェック(ワクチン接種歴など) 淡水ではエアロモナス感染,海水ではビブリオ感染 薬品名,安全データシート 1000ボルト以上か?交流か?直流か? 「高所から飛び降りた」「転倒した」など 〇 熱傷面積 : 〇 創培養採取(持ち込み感染があるかどうかを調べる目的) 〇 〇 〇 撮影 : 洗浄 : Lund & Browder法を用いる PDAだけでなく,カメラでの撮影も忘れずに 温めた生食を用いる プロペト+サラフィットでの被覆 : どんな深度でも最初はこれでよい □ 気管支鏡 ★挿管の可能性があるときは必ず気管支鏡での観察を行う. □ CT ○ 外傷合併の可能性や,受傷前からの内因性疾患の存在も考え,Panscan CTを撮影する 〇 PLBA分類を用いて評価する. (CTは単純でも良いが,外傷合併を疑う場合は急速造影で). □ 破傷風対策 □ 予防的抗菌薬投与 ○ 破傷風トキソイド ○ テタノブリン:汚染創の場合 ○ 汚染水曝露の可能性があるときは,エアロモナスなどの感染予防の目的で,キノロンの投 与を考慮する. ○ 小児では,TSS予防目的に第1世代セフェム(CEZなど)の投与を考慮する. 3
#9. 気道熱傷の評価(PLBA分類) 1.鼻腔・喉頭の評価(P;Pharynx) • 次のうち一つ以上あてはまれば,「Ps」と記載する. □ 喉頭の高度な腫脹 □ 口腔内の大量分泌物 • 次のような所見は,「Pm」と記載する. □ 鼻毛の焼失のみ 2.喉頭の評価(L;Larynx) • 次のうち一つ以上あてはまれば,「Ls」と記載する. □ □ 喉頭蓋や披裂部が腫脹し,声門上にまで及ぶ 声門が腫脹し,十分に開かない • 次のような所見は,「Lm」と記載する. □ □ スス付着のみ 軽度の浮腫や発赤 3.気管・気管支の評価(B;Bronchus) • 次のうち一つ以上あてはまれば,「Bs」と記載する. □ 浮腫,びらん,潰瘍,蒼白化,壊死などにより毛細血管が透見できない □ 大量のスス □ 大量の気管分泌 • 次のような所見は,「Bm」と記載する. □ □ 少量スス付着のみ 毛細血管が透見できる程度の軽度な充血や浮腫 4.肺胞損傷の評価(A;Alveolar) • 次のうち一つ以上あてはまれば,「A+」と記載する. □ 泡沫状痰 □ X線またはCTで肺水腫の所見が認められる. □ ※ ※ 肺酸素化障害(PaO2/FiO2<300) 所見がない場合は「P−」「L−」「B−」「A−」と記載する. 観察できず,評価不能の場合は「P?」「L?」「B?」「A?」と記載する. 空白は認めない. 記載例:PmLsBmA+,PmLmB?A−など 4
#10. 2. 呼吸管理 気管挿管 □ 気管挿管の適応 ★次のいずれかに該当するときは気管挿管を考慮する. ○ 気管支鏡所見:Ps,Ls,Bsのいずれか ○ 呼吸障害 ・頸部や胸部の熱傷があり努力性呼吸となっている. ・肺酸素化が不良である(P/F<300). ○ 広範囲熱傷(>30%)で,大量輸液を要し,肺水腫のリスクが高いと考えられる. ○ 意識障害:CO中毒などで意識障害(GCS≦8)となっている. □ 気管挿管の方法 ○ 顔面熱傷があるときは気管支鏡下に経鼻挿管を行う. ○ 顔面熱傷患者の挿管チューブ固定の方法については次ページを参照 吸入損傷患者の呼吸管理 □ 気管支鏡による観察と吸痰 ⃝ ICU入室中の吸入損傷患者は,原則として1日1回以上の気管支鏡をおこなう. ⃝ 粘液栓(mucosal cast)は,可及的に吸痰する. ⃝ ⃝ □ 患者の咳反射や体動が著しい場合は,観察困難であるばかりか,粘膜損傷のリスクが高く なるため,鎮静を深めるだけでなく,筋弛緩薬の投与を行う. 吸入療法 ⃝ □ 喉頭浮腫や気管・気管支粘膜障害の程度を観察し,抜管可能かどうかを評価する. PLBA分類でBsの場合は,N-アセチルシステインやヘパリンの吸入を考慮する. 去痰薬 ⃝ カルボシステイン内服をおこなう. 5
循環管理における輸液とモニタリング
#11. < 顔面熱傷患者の挿管チューブ固定(鼻中隔固定)> □ 準備 ○ 14Frのサクションチューブにタコ糸を ○ チューブコネクターは切除しておく. ○ 通したものが常備されている. 喉頭鏡とマギール鉗⼦も準備しておく. □ 両鼻腔からタコ糸を挿入して,口から出す ○ サクションチューブ付きタコ糸の両端を,それぞれ両鼻腔に ○ 喉頭鏡とマギール鉗⼦を用いて,両鼻腔から挿入されたタコ ○ 挿入する. 糸の両端を口から出す. 口から出たタコ糸の両端を結び合わせ,1本の輪を作る. □ 鼻の下のタコ糸を引っぱる ○ 鼻の下のタコ糸を引っぱると,口から出た部分が 喉の奥に引っこむ. ○ サクションチューブでコーティングされた部分が 鼻粘膜に当たるように,輪をグルグル回す. □ 結び目を切って,鼻の下に結びなおす ○ 鼻の下のタコ糸を挿管チューブに巻き付けて 固定する. ○ 鼻の下のタコ糸にゼロ絹糸を結び付ければ, EDチューブも固定できる. 6
#12. 3. 循環管理 輸 液 □ 輸液公式 ○ 細胞外液製剤(ラクトリンゲル,ビカネイトなど)をABLS公式(上図 □ 輸液速度調節 ○ 尿量や他のパラメータを見ながら,3分の1ずつ増減する(上図参照). □ アルブミン ○ Alb≧2.5g/dLを目標に投与する(上図参照). 参照)にしたがって輸液する. 昇圧薬 □ ノルアドレナリン ○ 輸液に反応しない低血圧が持続するときには使用してもよい. ○ 成人では0.5mL/kg/hを目標とする. ○ KMAC値=[一定時間の輸液量]/[尿量]/[熱傷面積] 値が大きいほど ○ 鎮静薬による低血圧に対するカウンターとして用いることが多い. モニタリング □ □ 尿量 循環動態 (フロートラック) ○ 小児では1.0mL/kg/hを目標とする. (>0.33)熱傷が深く,予後が悪くなるといわれている. ○ CI>2.5(目安) ○ SVV<15(自発呼吸患者では参考値) ○ □ 乳酸 ○ □ エコー ○ SVI>30(目安) 絶対値だけでなく,トレンドとして低下してきているかどうかを 評価する. IVC径 ○ 心収縮 7
#13. 4. 栄養管理 経腸栄養 □ 経腸栄養開始時期 □ 経腸栄養剤の投与方法 □ ○ 開始できない理由(腸管穿孔の合併など)がない限り24時間以内に開始する. ○ 持続:昇圧剤を高流量要する,背景疾患が多いなど間欠栄養で循環動態悪化が予想される ○ 間欠:循環の不安定性がなく, もともとの予備能が高い(超高齢ではない,併存症がない)場 場合や,間欠投与で嘔吐や下痢を起こした場合におこなう. 合は間欠投与からの開始も考慮する. 経腸栄養剤の使い分け ○ 必要栄養量:目標カロリーは1.5〜2.0×BEEkcal/kg/dayまたは30kcal/kg/dayで設定する. 初回投与は必要量の30%程度から開始していく. ○ 広範囲熱傷患者では脂肪肝の発生に注意する. ○ 高たんぱくの経腸栄養剤を選択する.(メイバランス,ペプタメンAFなど) □ プロバイオティクス □ 排便コントロール ⃝ ⃝ ⃝ 腸内細菌叢が破綻することが多いので,乳酸菌製剤は原則として全例で使用する. フレキシシール:臀部に熱傷創があり,下痢による便汚染が著しい場合に用いる. ストマ造設:フレキシシールで便汚染がコントロールできないときに外科に依頼する. 静脈栄養 □ TPN ○ カテ感染が高確率で起こりうるため,できる限り行わない.腸管損傷,腹腔内圧上昇など で経腸栄養ができない場合のみに限定して行う. 微量元素 □ 銅と亜鉛 ○ 創部からの流出などにより欠乏しやすく,創治癒遷延や易感染の原因となるため,補充が ○ 亜鉛は酢酸亜鉛内服,銅は経腸栄養剤や栄養補助剤により補充する. ○ ○ □ 必要となる. 銅と亜鉛は消化管吸収で競合しあうため,特に亜鉛製剤の⻑期投与により,銅欠乏症とな ることに注意を要する. 広範囲熱傷患者では月に1回程度,銅と亜鉛の測定を行う(NST介入依頼すれば採血オー ダーを含めフォローしてもらえる). セレン ○ 広範囲熱傷患者で枯渇しやすく,心機能低下,甲状腺機能低下,易感染の原因となる. ○ 補充は経静脈的に行う.(アセレンド注) ○ セレン欠乏が疑われる重症例では,測定結果を待たずに補充することを考慮する. 8
感染管理の基本と抗菌薬の選択
#14. 5. 感染管理 抗菌薬 □ 抗菌薬選択 ○ 開始のタイミング:成人症例では通常予防的抗菌薬は使用せず,感染が起こった場合に投 ○ 初回抗菌薬の選択:膿の色や臭い,グラム染色を用いて初回抗菌薬を決定する. ○ □ 与を行う. 中断,終了について:漫然と投与せず,抗菌薬継続しており状態不変の場合24時間程度中 断し監視培養を提出し耐性化,菌量低下が起こっているかを評価する. 周術期 ○ ○ 抗菌薬の選択:過去の監視培養の結果から耐性菌のカバーを検討する. 期間:特に感染が懸念されない場合はほかの手術と同様に3日間となることが多いが,す でに感染している創部への植皮では感染によるグラフト脱落を避けるために開創まで抗菌 薬を継続する場合もある. □ 予防的 ○ 小児症例:小児においてはTSSが起こり致死的経過になりうるため受傷後3日間はブドウ 球菌に対する内服(当院においてはセファレキシン)or点滴加療を行う. ○ 汚染症例:汚染水で消火されている場合はAeromonasをターゲットとしLVFXまたは CTRXの投与を3日間行う. □ TSS:toxic shock syndromeの対応 ⃝ 概要:若年の熱傷例に多く軽傷熱傷例でも起こる,突然のショックや発赤が起こった場合 ⃝ 対応:MRSAを考慮に入れ抗MRSA薬+CLDM+免疫グロブリン投与をする場合が多い. にTSSを鑑別に上げる. MRSAの可能性が低い場合はCEZ+CLDM+免疫グロブリンを投与する. Cole&Shakespeare基準(小児) 39.0度以上の発熱 全身の発赤 ショック 下痢、嘔吐などの消化器症状 不機嫌 リンパ球減少 Probable TSS診断基準 3項目と落屑、または5項目と落屑のない場合をProbable TSSと診断 ① 38.9℃以上の発熱 ② びまん性の紅斑性発疹 ③ 発症から1-2週間後の落屑 ④ 血圧低下 ⑤ 筋症状:激しい筋肉痛あるいはCK上昇 ⑥ 消化器症状:嘔吐・下痢 ⑦ 粘膜症状:膣、口腔、咽頭、結膜などの充血 ⑧ 2臓器以上の障害 腎臓:BUNあるいはCreの上昇or尿路感染を伴わない膿尿 肝臓:T-bill or AST/ALTの上昇 中枢神経:発熱、血圧低下がない状態での失見当識、意識障害 血液:血小板数10万
#15. 発熱時ワークアップ □ 創部評価 ○ ○ □ 処置前の観察:鎮静をかける前に必ず安静時,動作時の疼痛の最強部位を確認する 処置時の観察:被覆材の浸出液の量,色,臭いに注意する. 創部培養 ○ ○ 抗菌薬の選択 培養をとるタイミング ・raw surfaceが広範囲残存しており抗菌薬使用していない場合,1週間に1回は創部培養 を確認する(監視培養) ○ ○ □ ・発熱した場合や膿性浸出液が増加してきた場合は積極的に検体を取る 培養をとる部位 ・基本的には2か所以上とる.熱傷が深いところ,焼痂が残存しているところは必ず提出 しておく 創部培養の評価:グラム染色を行う(夜間や休日は自身で染色して検鏡する). 術後の対応 ○ 植皮術後のTieOverについて:発熱が継続している場合TieOverの解除をためらわない.圧 迫や被覆でドレナージがされず炎症が助⻑されている場合がある □ 画像検索 ⃝ ⃝ 熱傷創がきれいな場合:集中治療上起こりやすい腹腔内,胸腔内の検索を行う 熱傷創が疑わしい場合:Ⅳ度熱傷が疑われる場合は筋,骨の壊死を評価する目的でCTま たはMRIで評価を行う. 10
熱傷手術の手法とデブリードマンの重要性
#16. 6. 熱傷手術 減張切開 □ □ 適応 方法 ○ 考慮すべき箇所:頸,体幹,四肢,手指足趾 ○ 末梢循環障害,胸郭運動制限,換気障害を認める場合はためらわずに施行する. ○ ○ ○ 上記部位それぞれ全周性またはそれに準ずる3度熱傷では積極的に考慮する. 鎮静鎮痛は必要であり,多くの場合ケタラールのみで可能である. イソジンなどの一般的な消毒をし,電気メスを用いて真皮まで確実に切開する. 皮下組織の圧が上昇している場合は切開直後に創部が離開するので,それを もって適切な深度まで切開できているかを確認する. ○ ○ 創部辺縁は数mm程度正常皮膚に至るまで切開を行う.切開部位は成書を参照. 皮下組織圧測定は必須ではないが,他覚的評価として測定してもよい. この時点での筋膜切開はほとんどの場合不要である. デブリードマン □ 時期 ○ 広範囲3度熱傷では,受傷後24時間以内の初回デブリ,1週間以内の全焼 ○ 創辺縁部は2度熱傷が混在している事が多く,全身状態に余裕がある場合 ○ 痂切除を原則とし,待つ必要はない. は混在部位に対してはデマルケーションがはっきりするまで待っても良 い. 壊死ではなく変性組織(皮膚,脂肪,筋肉)の場合は,全身状態が許せ ば,初回デブリはある程度変性組織は残存させておき,1週間程度時間を おいて再評価し,必要あればその後追加デブリードマンを行う. □ 筋膜上切除 ○ 皮下脂肪にもいくつか層がある.どの層でデブリードマンを行うかは術 中に組織の色調や血流を評価しながら行う.選択肢としては血管穿通枝 の視認性から浅筋膜上もしくは深筋膜上である.初回デブリでは,壊死 組織の総量を減らし全身状態を安定化させることが目的であり,関節周 囲や深部動静脈周囲,手指足趾などの機能部位に関してはある程度の変 性疑い組織の残存は許容する. □ 真皮温存切除 ○ 全身状態が許せば考慮する.特に手指足趾や顔面などの機能部位に関し ○ これは手技時間がかかり,出血量も多くなる.創部全体と全身状態を鑑 ○ ては,ADLを考慮して可能なら温存できる組織は温存を試みる. みて,適応する部位とタイミングを考える必要がある. 電気メスのみでは止血が困難であるため,創面にトロンビンを散布し, エスアイエイドで
#17. 植 皮 □ 一期的植皮(immediate grafting)か,二期的植皮(delayed grafting)か ○ 広範囲熱傷の場合には,基本的には二期的植皮を選択する.確実に壊死組織が除去できて いるかが分からないからである.ただし,ADLを考慮して顔面や手指に対しては,一期的 植皮もしくは早期二期的植皮を行う. ○ デブリ後の⺟床を日々評価し,良好な肉芽増生もしくは壊死組織の残存が否定されたら段 階的に植皮を計画する. □ 分層植皮 ○ 採皮 ・頭を第一選択とする.次に大腿が選択肢に挙がる. ・厚さは年齢性別,栄養状態によって様々で,各患者別に微調整されるべ きである. ○ ・まず6~8/1000inchで小範囲採皮し厚さを確認微調整して進める. 加⼯ ・メッシュ:3倍を基本として,関節部は1.5倍を考慮する.CEAを用いるよ うな超広範囲であれば6倍を用いる.メッシャーの刃の通り具合を確認し メスなどで微調整する.水圧でメッシュをのばすなどきっちりと作成す るためにはコツがある. ・パッチ:基本的には2cm四方程度で作成する. ・MEEK:確実に設定した数値倍になることがメリットである.付属してい る台紙ごと固定しなければならないことが時にデメリットになる. □ RECELL ○ 表皮を細胞レベルまで分解し,スプレーで創面に噴霧する.少ない採皮で ○ 適応:顔面熱傷,手足熱傷,15%TBSA以上の熱傷 ○ 早期に創閉鎖できるメリットがある. 使用法:真皮が欠損している場合は,分層植皮(3倍〜6倍メッシュまたは MEEK)とともに用いる.真皮が温存できている場合は,単独使用での上皮 化も期待できる. □ CEA ○ 適応:DDB+DB≧30%TBSAの熱傷 表皮 ○ 使用方法:培養期間が最短3週間であるため,基本的に二期的植皮で高倍率 自家培養 ○ CEA用の採皮:可能な限り早期に行う(受け入れ準備時にJ-TECに一報) 分層植皮(6倍メッシュ)との併用を行う. □ 全層植皮 ○ 関節部や小範囲部位に対して行う事もある.形成外科と相談しながら行う. □ 人⼯真皮 ○ 関節部や機能部位に用いる場合がある.また,背中や臀部など植皮後に仰 臥位でずれやすい部位に対して,植皮の上
#18. 手術中の低体温対策 ★熱傷面積が広範囲であるほど低体温となりやすいため,低体温対策は必須となる. ○ 室温:30-36℃とする. ベアハッガー:患者の上と下からはさむようにして使用する.術野が上半身のときは下半 身に,下半身のときは上半身を被覆する. ○ サーモガード:術中低体温への適応はないが,院内倫理委員会での承認は済んでいるため, 低体温必至と考えられる症例には使用を考慮してよい. ○ 手術時間:手術時間が⻑くなるほど低体温になりやすいため,1回の手術時間は4時間以内 とする.膀胱温≦35.0℃となったら手術は中断または中止とする. 植皮後の固定 □ トップドレッシング ○ ○ □ ソフラチュール:細かな部位に対する固定性が優れるため,手指や足趾に用いる. セカンドドレッシング ○ ○ □ エスアイメッシュ:ドレナージ力や適度な固定性から基本的にはこれを用いる. サラフィット:ドレナージ力や手軽性から基本的にこれを用いる. ガーゼ:凹凸部や浸出液が多い場合に用いる. タイオーバー ○ ネット:広範囲に均一に圧着する事や,一時開創および再閉鎖ができることがメリットで ある. ○ 縫合:比較的狭い範囲を強固に圧着するのに優れている. □ オルソグラス ⃝ 四肢や関節のグラフトずれ予防に用いる ⃝ 神経圧迫による麻痺は日々チェックする必要がある. ⃝ オルテックスを用いて創部への圧迫ができるだけかからないようにする. 術後管理 □ 開創 ○ 5〜7日を目安にして開創をする. ○ wetな状態であれば一時開創して,セカンドドレッシングを交換し再閉鎖する. ○ □ 熱傷ベッドの使用(エアベッド) ○ 適応:背部や臀部の植皮後 ○ 使用上の注意:・温度調節をあやまると,低体温になる.・絶えず送風しつづけるため, ○ □ 全身状態より植皮部の感染が疑われる場合は,開創をためらわない. 使用期間:術後3−5日 不感蒸泄が増加し,脱水におちいりやすい. 安静度とリハビリ ○ 植皮部位を描き込んだ身体図を病室の前に掲示し,接触禁止部位が看護師にわかるように しておく. ○ グラフトのズレを予防するため,リハビリ再開は術後3日以降とする. 13
熱傷創処置の手順と使用する薬剤
#19. < DB+DDB≧30%TBSAの手術戦略 > 0–1週 デブリードマン 24時間以内の初回デブリ 1週間以内の全焼痂切除 1–3週 3 週以降 メンテナンスデブリ 主にベッドサイドでの残存壊死組織・感染組織除去 顔面・手足はNexoBridによる デブリ 入院後なるべく早期に自家培 養表皮(CEA)用の採皮 植 デブリした部位の⺟床構築 皮 (人⼯真皮・スキンバンク) 恵皮面積に余裕があれば,最 CEAと分層植皮(高倍率メッ 小限の分層植皮(高倍率メッ シュ)の併用により早期創閉 シュor MEEK+RECELL使 鎖を目指す 用) 2回目以降のCEA完成までの 間に最小限の分層植皮(高倍 恵皮面積に余裕があれば,最 小限の分層植皮(高倍率メッ 率メッシュor MEEK+ シュ・MEEK・RECELL使 RECELL使用) 用) 14
#20. 7. 熱傷創処置 □ PPE □ 処置時鎮痛・鎮静(PSA; procedural Sedation and Analgesia) ○ ○ ケトフォール(ケタラール0.5mg/kg+プロポフォール0.5mg/kg) ○ 非挿管のときは酸素投与忘れずに ○ □ ○ 温生食:浴室に移動できない状態のときに使う(主にICU) ○ 石鹸:必要に応じて使用する シャワー:浴室に移動できる状態のときに使う(主に一般病棟) 被覆 ○ ○ □ モニター装着忘れずに 洗浄 ○ □ 帽⼦,マスク,エプロンの装着が原則 基本はプロペト+サラフィット(プロサラ) サンドガーゼ:ポリマーを含み,浸出液のドレナージ能力に優れ,かつ固着しにくい,サ イズが小さいため広範囲の被覆に難点がある.主に採皮創に用いる. 外用剤 ○ プロペト(白色ワセリン) ○ ゲーベン:サルファ剤(サルファジアジン)と銀を含む局所抗菌剤.DDB〜DBが主な適 SDB,採皮創,焼痂切除後のraw surfaceなど最もよく使用される 応.焼痂融解作用があるとされる.ケラチノサイトなど皮膚細胞の増殖を阻害し,II度熱 傷創の治癒を遷延させるといわれているため注意.銀はNexoBridの作用を減弱させるた ○ め,酵素デブリードマンを考えている場合は使用しない. ソルカデ:吸湿性軟膏ソルベース(マクロゴール含有)とカデックス(ヨウ素とカデキソ マー含有)の合剤で,当院オリジナルの局所抗菌剤.ジュクジュクした感染創が主な適応 となる.強力な吸湿作用があるため,広範囲に使用する場合は高張性脱水に注意.ヨウ素 はNexoBridの作用を減弱させるため,酵素デブリードマンを考えている場合は使用しな ○ ○ ○ い. エキザルベ:ステロイド(ヒドロコルチゾン)と殺菌・組織修復作用のある混合死菌浮遊 液を含む.過剰肉芽創,痒みが強い創(熱傷創治癒過程で生じることが多い)が主な適応. ハチミツ:古代から創の治療に用いられてきた.高浸透圧,低pH(3-4),ペロキシダー ゼ産生作用などにより,抗菌,抗バイオフィルム,肉芽形成促進作用など,多彩な作用を 有する.患者によっては激痛を訴えることがあるので注意 プロントザン:両性界面活性剤であるベタインと,多くの細菌や真
お問い合わせ先とプロトコールのまとめ
#21. □ メンテナンスデブリードマン ★外科的デブリードマンが完了したつもりでも,時間とともに,創部の壊死や変性が明らかに なることがあり,主にベッドサイドでデブリードマンを行うことを指す. ○ ○ 外科的デブリードマン:残存壊死組織や感染組織を電気メス,鋭匙,剪刀などで除去する. ガーゼデブリ:焼痂切除完了後の肉芽創や植皮創の表層に膿や偽膜形成が認められる場合 に行う.創面に1枚ガーゼを置き,汚染物質をガーゼに吸着させる.抗バイオフィルム作 用のあるプロントザンやハチミツを使うとより効果的である. 16
#24. お問い合わせ先 : 独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院 救急科 ⿊⽊ 雄一 メールアドレス : yuichi.kuroki@gmail.com 電 話 番 号 : 052-691-7151(代表) © 2026 中京病院 救急科 Supported by J-TEC Download PDF