テキスト全文
熱傷専門施設への送付準備と情報収集
#1. 熱傷専門施設に送るまでに何をすればいいのか? 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)
中京病院 救急科
黒木 雄一
熱傷の評価方法と治療法
#4. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#5. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#6. 熱傷の分類 火炎熱傷 flame burn:火によるヤケド
高温液体熱傷 scald burn:熱湯によるヤケド
高温固体熱傷 contact burn:アイロン,アスファルトなど
化学熱傷 chemical injury:酸,アルカリ,クロム,フッ化水素酸など
電撃傷 electrical injury:電線,コンセントなど
気道熱傷のリスクと症例報告
#9. Smoke inhalation injury during enclosed-space fires: an update
J Bras Pneumol. 2013;39(3):373-381 屋内での火炎熱傷:気道熱傷↑
#10. 西村ら.広範囲熱傷にAeromonas hydrophilaによる壊死性軟部組織感染症を合併した一例.
熱傷 2022 48(5): 174-7 汚染水曝露の例
野焼きでヤケド→農業用水で消火/冷却
バーベキューでヤケド→川の水で消火/冷却
小児における高温液体熱傷の特徴
#13. 電気ケトルの湯による熱傷は,手術が必要になる頻度が他の原因と比較して約6倍であった.
電撃傷の基礎知識と評価方法
#18. 電撃傷の基礎知識 電圧1000V以上は高電圧電撃傷と呼ばれ,重篤な損傷を起こす頻度が高くなる(高圧線:6600V,低圧線:200V,家庭用電源:多くは100V 一部200V)
直流より交流のほうが危険(持続的な筋収縮によるフリーズを起こす)
周波数が低いほうが危険(40~100Hzで心室細動が起こりやすい)
#19. 小児熱傷患者の虐待スクリーニング(BuRN tool)
Burns Risk assessment for Neglect or abuse tool 合計3点以上で児相への介入依頼を考慮する
虐待スクリーニングと熱傷評価
#20. 症 例 呈 示 1歳5ヶ月男児 ミャンマー国籍.
ミャンマー人の両親,姉(3歳)と同居
生育発達に問題なし.
部屋の加湿のため,熱湯の入った洗面器を床に置いていたところ,患児が洗面器をひっくり返し,転倒して受傷.
背部,臀部,両下肢など22%TBSAのII度熱傷を受傷.
#21. BuRN Toolによる評価 児相に連絡する前に,②~⑦の項目を評価.→5点
②~⑦の評価後に,児相に連絡し,通報歴がないことを確認.
#22. 経 過 明らかな虐待やネグレクトは疑わないが,BuRN Toolによる評価や母親の育児ストレスが強い様子を踏まえ,児相の支援が必要と判断された.
児相への第一報は担当医が行い,以後のやり取りはケースワーカーに依頼した.
入院3日目からは,児相から養母が派遣され,付添いを代行してもらえたため,母親は3歳の姉の育児に専念することができた.
熱傷はほとんどが上皮化したが,腰部に1%程度の潰瘍が残ったため,16病日に分層植皮術が施行された.
術後経過は良好で,22病日に元気に退院した.
#23. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
熱傷の深度分類と治療方針
#24. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#26. I度熱傷 表皮にとどまる
日焼けと同程度
※ 熱傷面積に含めない
#27. 浅達性II度熱傷(IIsまたはSDB) 真皮浅層までにとどまる
手術なしで治る
#28. 深達性II度熱傷(IIdまたはDDB) 真皮深層に及ぶ
浅達性II度熱傷がピンク色であるのに対し,深達性II度熱傷は紅色になる
手術が必要になることが多い
#29. III度熱傷 表皮だけでなく真皮も壊死する
白くなる(「なめし皮様」と表現される)
手術が必要となる
#30. IV度熱傷 筋肉や骨まで壊死する
切断せざるをえないことがある
熱傷面積の評価方法と法則
#31. ヤケドの深さ=温度×時間+患者因子 温度
火>湯
電気ケトルの熱湯>カップに入ったお茶
時間
熱からの逃避が遅れる→深くなる
例)高齢者
受傷時の意識障害(てんかん,CO中毒,脳卒中など)
患者因子
皮膚が薄い→ヤケドが深くなりやすい(高齢者・小児)
血流が悪い→ヤケドが深くなりやすい(高齢者)
#32. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#33. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#36. 手掌法 熱傷が飛び地状に散在する場合
10%前後の熱傷
に使用しやすい
#37. Lund & Browder 法 玄人向け
#38. Kamolz L.P. et al. SMARTPHONES AND BURN SIZE ESTIMATION: “RAPID BURN ASSESSOR”
Annals of Burns and Fire Disasters 2014; 27(2): 101-4
気道熱傷の診断と治療アプローチ
#39. 【症例】
2歳 男児
テーブルの上のカップに入った熱湯がこぼれ,下にいた患児にかかり受傷.
前医で熱傷面積20%と評価され,当院に転送.
#40. 5%TBSAと評価
入院の必要なしと判断され帰宅
翌日外来診察した形成外科医は2%程度と評価
#41. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#42. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#43. 気道熱傷とは? 火災現場において,煙や熱気を吸入することによる気道の損傷
上気道(喉頭)の損傷により,気道閉塞が起こる
下気道(気管支・肺胞)の損傷により,肺炎が起こる
CO中毒により,低酸素血症となる
シアン(CN)中毒により,細胞呼吸障害が起こる
近年では,吸入損傷 inhalation injuryとも呼ばれる
気道熱傷の挿管基準と注意点
#45. 気道熱傷の診断_気管支鏡 喉頭の腫脹 気管内のスス
気管粘膜壊死
#46. 気道熱傷の診断_CT 気管支壁の肥厚 山村らの文献(Crit Care 2013)からの引用
#47. 気道熱傷の診断_血液検査 COヘモグロビン:CO中毒
乳酸(≧8mmol/L):シアン中毒
#50. 気道熱傷を疑ったら全例に挿管するわけではない!
気管支鏡検査の意義とリスク
#52. 気管挿管の目的 気道閉塞の回避
確実な酸素投与
効率の良い吸痰
#53. 挿管・人工呼吸器による害 鎮静薬使用による循環抑制
陽圧呼吸による循環抑制
人工呼吸器関連肺炎
#54. 喉頭の腫脹 気管内のスス
気管粘膜壊死 本当に挿管が必要かどうか,気管支鏡で厳しく評価する
#55. Burns 2019 年齢,熱傷面積と深達度,COヘモグロビンによるマッチングで2群に分けて比較
入院時に気管支鏡検査を受けると肺炎発症率,死亡率,入院日数,ICU日数,人工呼吸器装着期間が有意に増加 気管支鏡にも害がある!
#56. 気管支鏡よりも,より侵襲が少ない方法で,
挿管が必要な患者を判別できないか?
挿管の必要性に関する考察
#57. 対象は,当院に直送された熱傷患者
熱傷面積,顔面・頸部熱傷の有無,身体所見,COヘモグロビンなどを挿管の有無で比較
気管支鏡所見以外で挿管を予測できないか?
#58. 挿管の有無で比較
熱傷面積,顔面熱傷,頸部熱傷,呼吸補助筋使用,COHbで有意差
気道熱傷所見の代表格ともいえる「鼻毛の焼失」は有意差なし
#59. 統計解析により作成された最適ツリー
(%は挿管率を示す)
#60. ツリー第1分岐(熱傷面積≧27% or <27%)
#61. ツリー第2分岐:CO-Hb≧4% or <4%
#64. つまりは 熱傷面積<27%
COHb<4%
頸部熱傷なし
嗄声なし
すべて満たせば挿管なしでOKだった
#65. 考察1熱傷面積と挿管 Q1.熱傷面積が大きいと,なぜ挿管が必要?
A1.熱傷面積が大きいほど,気道も含め全身が浮腫みやすくなる(血管透過性亢進による体液シフト)
#66. 考察2COヘモグロビンと挿管 Q2.COヘモグロビンが高いと,なぜ挿管が必要?
A2.CO中毒により,意識レベルが低下すると,気道が閉塞しやすくなる
#67. 考察3頸部熱傷と挿管 Q3.頸部に熱傷があると,なぜ挿管が必要?
A3.頸部の浮腫により喉頭が圧排される
熱傷患者の初期輸液とドレッシング
#68. 考察4嗄声と挿管 Q4.嗄声があると,なぜ挿管が必要?
A4.嗄声があるということは,喉頭浮腫により,声帯の運動が制限されていることが示唆される
#69. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#70. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#71. 熱傷重症度にかかわる因子
熱傷面積(%)
BI:Burn index(熱傷指数)=III度熱傷面積+II度熱傷面積÷2
PBI:Prognostic Burn Index(熱傷予後指数)=年齢+BI
気道熱傷:挿管が必要な場合 一般的に重症と考えられている数値
熱傷面積≧30%
BI≧15
PBI≧100
#72. PBIと死亡率 2011-20 中京病院
#73. 救命救急センター評価における重症熱傷の定義 II度30%以上
III度10%以上
顔面/手/足の熱傷
気道熱傷が疑われる
軟部組織の損傷や骨折を伴う これらに当てはまれば、救命救急センターへの入院が妥当とされている
#74. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#75. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
予防的抗菌薬投与の方針とエビデンス
#76. 熱傷輸液公式 Baxter公式
輸液量(mL)=4×熱傷面積(%)×体重(kg)
半分を8時間で,残りの半分を16時間で投与する
ABLS公式
輸液量(mL)=2×熱傷面積(%)×体重(kg)
半分を8時間で,残りの半分を16時間で投与する 【参考】小児の場合
輸液量(mL)=3×熱傷面積(%)×体重(kg) (半分を8時間で,残りの半分を16時間で投与)
上に加えて,維持輸液量(4-2-1法則で計算)も加算する
#77. 88歳女性. 仏壇のロウソクで受傷し,1時間後に来院.
右上肢,頸,体幹に20%TBSAの熱傷あり.身長150cm,体重50kg.
既往歴:高血圧 問1. 初期輸液に用いる製剤として,適切なものはどれか?
A 3号液(ソリタ3号,ソルデム3Aなど)
B 高張乳酸加食塩水(HLS)
C 細胞外液(ヴィーンF,ラクテック,ハルトマンなど)
D ヒドロキシエチルデンプン溶液(ボルベンなど)
E 5%ブドウ糖液
#78. 88歳女性. 仏壇のロウソクで受傷し,1時間後に来院.
右上肢,頸,体幹に20%TBSAの熱傷あり.身長150cm,体重50kg.
既往歴:高血圧 問1. 初期輸液に用いる製剤として,適切なものはどれか?
A 3号液(ソリタ3号,ソルデム3Aなど)
B 高張乳酸加食塩水(HLS)
C 細胞外液(ヴィーンF,ラクテック,ハルトマンなど)
D ヒドロキシエチルデンプン溶液(ボルベンなど)
E 5%ブドウ糖液
#79. 88歳女性. 仏壇のロウソクで受傷し,1時間後に来院.
右上肢,頸,体幹に20%TBSAの熱傷あり.身長150cm,体重50kg.
既往歴:高血圧 問2.初期輸液速度として,最も適切なものはどれか.
A 20mL/h
B 40mL/h
C 75mL/h
D 140mL/h
E 1000mL/h
#80. 88歳女性. 仏壇のロウソクで受傷し,1時間後に来院.
右上肢,頸,体幹に20%TBSAの熱傷あり.身長150cm,体重50kg.
既往歴:高血圧 問2.初期輸液速度として,最も適切なものはどれか.
A 20mL/h
B 40mL/h
C 75mL/h
D 140mL/h
E 1000mL/h ABLS公式を用いる.
2×体重×熱傷面積=2×50×20=2000mL
半分の1000mLを8時間で入れるのだが,すでに受傷後1時間が経っているので,7時間で入れることになる.初期輸液速度は,
1000÷7=143mL/h となる.
#81. 簡易法(ABLS) 5歳以下・・・125mL/h
6~13歳・・・250mL/h
14歳以上・・500mL/h
#82. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#83. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#84. ドレッシングの分類 II度熱傷でもIII度熱傷でも,初期はガーゼ被覆でよいが,創面に固着してはがすとき痛いので,ワセリンを伸ばすとさらによい.
ガーゼ以外の開放性ドライドレッシングも同様に,ワセリンを伸ばして用いる.
開放性ウェットドレッシングは,適度に浸出液を吸収し,かつ固着せず,単独使用できる.
閉鎖性ウェットドレッシングは,初期の短時間の被覆にはよいが,閉鎖空間の中で細菌が増殖することに注意する.
#85. 夏井睦先生のHP 「新しい創傷治療」より
#86. 外用剤について 初期はII度でもIII度でも,ワセリンでOK.
ワセリン基材の軟膏(アズノール,バラマイシン)もOKだが,フラジオマイシン(バラマイシン軟膏に含まれる抗菌薬)が耐性緑膿菌を誘導したという報告あり.
エキザルベもワセリンが添加されているが,含有物が意味不明 (混合死菌浮遊液 0.166mL:大腸菌死菌 約1.5億個,ブドウ球菌死菌 約1.5億個,緑膿菌死菌 約0.15億個,レンサ球菌死菌 約0.15億個)
ゲーベンクリームはIII度熱傷が適応である.II度熱傷に使うと治癒を遷延させると言われている.
#87. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#88. 内容 熱傷患者来院時の情報収集
熱傷深度の評価
熱傷面積の評価
気道熱傷と挿管
熱傷重症度評価
熱傷初期輸液
ドレッシングと外用剤
予防的抗菌薬投与について
#89. 予防的抗菌薬投与について 熱傷に対する予防的抗菌薬を支持するエビデンスはなく,当科では原則として行っていない.
小児は一般的に感染に弱いこと,予防的抗菌薬投与が小児熱傷患者のToxic shock syndromeの発生を抑えたという単施設研究があることなどから,小児熱傷に対しては予防的抗菌薬投与(セファゾリン,ケフレックス)を行っている.
汚染水曝露が疑わしければ,Aeromonas感染のリスクマネージメントとして,ニューキノロン系抗菌薬を投与している.