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健康格差と健康の社会的決定要因

投稿者プロフィール
横田雄也

岡山家庭医療センター

360,231

130

概要

本スライドの対象者

研修医/専攻医

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テキスト全文

健康格差と社会的決定要因の概要

#1.

病気になるのは 本当に自己責任? 〜健康格差と健康の社会的決定要因〜 S D H 岡山家庭医療センター 専攻医 Team SAIL 所属 横田雄也 2020.03.20

#2.

Scope to upstream and Action with Interprofessional Investigating and Learning! Satoshi Suzuki Toshihiro Terui Masanari Komatsu Yukinori Harada Akira Ohya Haruki Imura Saori Horo Daisuke Sugihara Yumi Otaka Junki Mizumoto Kota Ochiai Kenta Sato DaisukeNishioka YuyaYokota AtsuyaKawaguchi ToshiyaHarasawa Team SAIL

#3.

本日の目標 身近に潜む、健康格差の存在を知る 健康格差を生む 健康の社会的決定要因(SDH)を知る 臨床でSDHを意識してスクリーニングすることができるSocial Vital Signs(SVS)を知る

スティグマと自己責任の理解

#4.

「心が弱いから、 薬物依存やアルコール依存になるんだよな。」 「好きなように食べてばっかりだから、 糖尿病になったんだよ。自己責任だよ。」 「生活保護のくせに文句ばかりいってくる。 医療費払ってもないのに何様だよ。」

#5.

スティグマ 特定の属性を持つ人に ネガティブなレッテルをはる行為のこと 意思の力や努力によって乗り越えられると勘違いされやすい属性はスティグマを向けられやすい(帰属理論) 「アルコール・薬物依存」 「生活保護」 「精神疾患」 「低学歴」 Team SAIL 井村先生スライドより引用

#6.

もやもや・・・

糖尿病患者のケーススタディ

#7.

自己責任

#8.

あなたはとある病院の内科医です

#9.

40歳 男性 【現病歴】 ・月に1回,〇〇病院に通院中で本日受診 ・1年前、2型糖尿病と診断され 運動療法とメトホルミン500mg内服中であった ・HbA1cの経過 7.0%(X-5ヶ月) → 7.2%(X-4ヶ月) → 7.6 %(X-3ヶ月) → 8.0%(X-2ヶ月) → 8.4%(X-1ヶ月)→ 8.8% (本日) ・2ヶ月前からメトホルミンを1000mgに増量 草場鉄周/編. 家庭医療のエッセンス. カイ書林. 2012 を参考に作成

#10.

身長:170cm 体重:75kg(X-5ヶ月) → 80kg(本日) 【基礎疾患】2型糖尿病,高血圧症,脂質異常症 【家族歴】特記事項なし 【既往歴】特記事項なし 【内服薬】メトホルミン1000mg,アムロジピン5mg アトルバスタチン10mg 【嗜好歴】 飲酒:ビール350mL缶 3〜4本+焼酎2杯/日 喫煙:20 pack-year(20本/日×10年) 【職業】 事務職員(派遣社員) 草場鉄周/編. 家庭医療のエッセンス. カイ書林. 2012 を参考に作成

健康問題と社会経済的要因の関連

#11.

【バイタルサイン】 血圧:130/80,脈拍数:70回/分 呼吸数:12回/分,SpO2:99% 【血液検査】 空腹時血糖値:180mg/dl 空腹時血中インスリン濃度:15.0μg/mL HbA1c:8.8% LDLコレステロール:115mg/dL AST:45U/L,ALT:35U/L,γ-GTP:100U/L,ALP:500U/L 総ビリルビン:0.9mg/dL,直接ビリルビン:0.4mg/dL 草場鉄周/編. 家庭医療のエッセンス. カイ書林. 2012 を参考に作成

#12.

なんで最近、血糖コントロール悪いんだろう?どうしてあげたらいいのだろう?

#13.

わかりました! 明日からお酒もタバコもやめて、 食事も野菜中心で糖分に気をつけた食事にしようと思います。 運動も時間を見つけて、 週に3〜4日はできるようにがんばります。 もしインスリン治療が必要になるなら、 入院もいつでも大丈夫です 理想は・・・

#14.

でも実際は・・・

#15.

数年前にようやく再就職したのですが、 安い給料でかつ残業続き・・・。 実は会社の業績が悪化して、 半年前に急にリストラされてしまいました・・・ 最近はカップラーメンばかりになってます。 お酒やタバコはストレスでやめられなくって・・・ 糖尿病も悪くなってきて 新しく職につけるかどうかもわかりません。 追加の治療をうけられるだけのお金もありません・・・ 女手一つで育ててくれた母とずっと2人ぐらしです。 認知症が最近ひどくなってきて、 介護が必要になってきて、入院は到底無理です・・・

生物-心理-社会モデルの重要性

#16.

生物-心理-社会モデル(Bio-Psycho-Social model:BPSモデル) 生物・心理・社会的な要素が 相互に作用しており 統合的な性質を持つ ジョージ・エンゲル (George Engel, M.D. ,1913–1999) 1977年に論文:The Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine, Science, New Series, Vol. 196, No. 4286 (Apr. 8, 1977), 129-136. で提唱したモデル

#17.

自己責任

#18.

自己責・・・ 任 ?

#19.

健康格差 地域や社会経済状況の違いによる 集団における健康状態の差 厚生労働省:健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料.2012.より https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf

各国の平均寿命と健康格差

#21.

各国の平均寿命(2015年時点) 最も長い国と最も短い国の差は約何年? A B C D 15 25 35 45

#22.

答え

#23.

各国の平均寿命(2015年時点) 最も長い国と最も短い国の差は約何年? A B C D 15 25 35 45

#24.

WHO. World Health Statistics 2016: Monitoring health for the SDGs. Geneva: World Health Organization, 2016. 国によって 最大 約35年も 平均寿命に 差がある

健康の社会的決定要因(SDH)の定義

#25.

日本では都道府県によっては 平均寿命に最大 約3年 の差がある Nomura S, et al. Population health and regional variations of disease burden in Japan, 1990- 2015: a systematic subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2015. Lancet. 滋賀県 : 84.7年 (84.4-85.0) 長野県 : 84.2年 (83.9-84.5) 青森県 : 81.6年 (81.4-81.8) 日本全体 : 83.2年 (83.1-83.2) 2015年時点 日本プライマリ・ケア連合学会の 健康格差に対する見解と行動指針.2018.

#26.

社会経済的格差が 明らかになった事項や疾患 ・がん ・冠動脈疾患 ・脳卒中 ・糖尿病 ・慢性腎臓病 ・歯科疾患 ・メタボリックシンドローム ・自殺 ・うつ ・認知症 ・転倒、骨折 ・高齢者の低栄養 ・子供の問題行動 近藤克則:健康の社会的決定要因ー疾患・状態別「健康格差」レビュー.日本公衆衛生協会,2013.より

#27.

厚生労働省 社会・援護局 生活保護受給者の健康管理に関する研究会 2014年10月6日 村山伸子:社会経済的要因と 健康・食生活 日本における実態と今後の生活保護受給者支援に向けて https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000064273.pdf より転載 ※絶対的貧困:生活に困難を生じる経済的困窮状態 相対的貧困:共同体の中で社会的活動を営む資源を欠く状態

#28.

なぜ健康格差は生まれるのか?

#29.

Social Determinants of Health

#30.

S D H 健康の社会的決定要因 個人ではコントロールできない、 健康リスクを規定する社会的要因のこと World Health Organization. Social determinants of health: The solid facts. 2nd ed. 2003.  ocial eterminants of ealth

健康問題のライフコースとSDH

#31.

健康の社会的決定要因 図:中山和弘(聖路加国際大学). 健康を決める力:ヘルスリテラシー 「社会経済的な格差と健康、それを知るのもヘルスリテラシー」より転載 http://www.healthliteracy.jp/senmon/post_25.html

#32.

危険水域

#33.

個人ではコントロールできない要因が 相互的・多層的 に関わり合っている 公益財団法人医療科学研究所自主研究委員会.自主研究事業.「医療科学推進のための情報統合による知の構造化」:健康の社会的決定要因に関する国内外の調査研究動向. 2014

#34.

ライフコース(生涯)とSDH 健康問題は 生涯に渡って蓄積 + 次世代にも連鎖 健康問題が 次世代へ連鎖 健康問題は 生涯に渡って 蓄積していく World Health Organization. Review of social determinants and the health divide in the WHO European Region: final report. Copenhagen: World Health Organization, 2013.

#35.

笑わない人は、脳卒中に1.6倍なりやすい Hayashi K, Kawachi I, Ohira T, Kondo K, Shirai K, Kondo N. Laughter is the Best Medicine? A Cross-Sectional Study of Cardiovascular Disease Among Older Japanese Adults. J Epidemiol. 2016;26(10):546–552. Tani Y, Sasaki Y, Haseda M, Kondo K, Kondo N: Eating alone and depression in older men and women by cohabitation status: The JAGES longitudinal survey. Age Ageing 44 (6): 1019-1026, 2015 一人暮らしの男性がひとりで食事をしていると 2.7倍 うつ病になりやすい アルコール消費量が多いのは富裕層だが アルコール問題が多いのは貧困層 Collins SE. Associations Between Socioeconomic Factors and Alcohol Outcomes. Alcohol Res. 2016;38(1):83–94.

SDHの意識とその重要性

#37.

健康を規定する要因のうち、 社会的要因が占める割合はいくらか? A B C D 20% 30% 40% 50%以上

#38.

答え

#39.

健康を規定する要因のうち、 社会的要因が占める割合はいくらか? A B C D 20% 30% 40% 50%以上

#40.

社会的要因が占める割合 Canadian Medical Association. What Makes Candians Sick? Health Care Transformation 2013 June 25;Available from: URL: http://healthcaretransformation.ca/infographic-social- determinants-of-health/

#41.

なぜSDHを意識するべきなのか 生物学的な側面だけ注目しても 健康問題の原因はみえてこない ↓ 個人の健康を規定する要因の 半分以上は社会的要因 ↓ SDHに注目することが重要

#42.

わたしたちにできることは?

実践的なアプローチと参考文献

#43.

三重宣言2018 https://www.primary-care.or.jp/sdh/fulltext-pdf/pdf/flyer.pdf Team SAIL 小松先生スライドを転載

#44.

丸山 泉 先生 開始から4年間をかけて議論し三重宣言2018を可能にしたのは、 『この問題を日本プライマリ・ケア連合学会がやらないでどうするのだ』 というプライマリ・ケアの現場にいる会員の、 まさにアドボカシーの結実なのである。 正論や正義を振りかざすことは、そう難しいことではない。 言語化することも同じである。そのためにわれわれは行動指針に 強くこだわり続けた。 今、私たちの世代が解決し得なかった諸問題に、 果敢に立ち向かっている若者が医療界にも多くいる。 少なくとも、私たちは彼らの未来構築への 障害となってはならない 治療 2019; 101: 1351-55. Team SAIL 小松先生スライドを転載

#46.

日本プライマリ・ケア連合学会: 日本プライマリ・ケア連合学会の健康格差に対する見解と行動指針 https://www.primary-care.or.jp/sdh/fulltext-pdf/pdf/fulltext.pdf

#47.

生涯(ライフコース)にわたる健康を脅かす上流因子(SDH)に目を向ける 本人や家族、周囲の方々や組織と認識を共有して健康に影響する生活環境を整えるように関係する人や組織に働きかける さまざまな社会背景をもった人が受診しやすく適切にケアされる診療体制を構築する 患者や家族が健康のみならず生活に関する困りごとを相談しやすい環境をつくる 社会的な困難を抱える人に対して医療者に生じる陰性感情への対応法を学び、実践する

#48.

社会的な問題を「診断」する 社会的 Social Diagnosis Team SAIL HP:SDH for all clinicians Tool kit https://sites.google.com/view/svstool/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/tool-kit?authuser=0

#49.

臨床現場で必ず測定するものといえば?

#50.

Vital Signs

#51.

社会的診断にも「Vital Signs」を!

#52.

Social Vital Signs 社会的バイタルサイン 人間は社会的存在であり、 その状況に関する情報や徴候のこと

#53.

バイタルサインの乱れ =医学的緊急事態 社会的バイタルサインの乱れ = 社会的緊急事態! Team SAIL HP:SDH for all clinicians Tool kit https://sites.google.com/view/svstool/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/tool-kit?authuser=0 Team SAIL 水本先生スライドを転載

#54.

Scope to upstream and Action with Interprofessional Investigating and Learning! Satoshi Suzuki Toshihiro Terui Masanari Komatsu Yukinori Harada Akira Ohya Haruki Imura Saori Horo Daisuke Sugihara Yumi Otaka Junki Mizumoto Kota Ochiai Kenta Sato DaisukeNishioka YuyaYokota AtsuyaKawaguchi ToshiyaHarasawa Team SAIL

#55.

SVSの項目:HEALTH+P Team SAIL HP:SDH for all clinicians Tool kit https://sites.google.com/view/svstool/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/tool-kit?authuser=0

#56.

原因を見つけて 必要な対応策を考える SVSの項目:HEALTH+P HEALTH+P の 各項目をチェック ↓ 本人の意向も重視

#57.

SVSを 多職種連携に

#58.

アクションシート Team SAIL HP:SDH for all clinicians Tool kit https://sites.google.com/view/svstool/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/tool-kit?authuser=0

#59.

by Team SAIL

#60.

by Team SAIL ①現在の状況をWhatに書き出す

#61.

by Team SAIL ②現状にいたった原因 (ライフコースなどの過去)をWhyに書く

#62.

by Team SAIL ③これからの対応(未来)を多職種で検討しHowに書く

#63.

by Team SAIL ★本人の意向は常に基盤として重視

#64.

「HEALTH+P」を意識してたずねることで・・・ 社会歴の問診がスムーズに行える 社会的要因を系統的かつ俯瞰的に把握できる 「アクションシート」を活用することで・・・ 様々な情報を整理し共有できる(多職種連携) 背景に存在するSDHに意識を向けることができる 次なるアクションを皆で検討できる SVSとアクションシートの利点

#65.

まとめ

#66.

健康格差 地域や社会経済状況の違いによる 集団における健康状態の差 健康の社会的決定要因(SDH) 個人ではコントロールできない、 健康リスクを規定する社会的要因のこと Social Vital Signs(SVS) 社会的要因をスクリーニング 「HEALTH+P」 アクションシートも活用

#67.

健康格差やSDHを知っていてよかったこと 患者の背景やライフコースに思いを馳せ「これは確かにしょうがないよね」と自分自身が納得できるようになった 介入が難しい部分がわかるからこそ、自分自身ができることは何かを考えられるようになった LEVEL UP!

#68.

まずは知ること、気がついてあげることからはじめてみよう

#69.

そして自分にできることをみつけてみよう

#72.

プライマリ・ケア連合学会学会誌

#74.

参考文献(おすすめ文献) 日本プライマリ・ケア連合学会 健康の社会的決定要因検討委員会 「日本プライマリ・ケア連合学会の健康格差に対する見解と行動指針」 https://www.primary-care.or.jp/sdh/fulltext-pdf/pdf/fulltext.pdf Team SAIL ホームページ 「SDH for all clinicians」 ★SDHの解説だけでなく、Social Vital SignsやアクションシートのPDFもあります! https://sites.google.com/view/svstool/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0?authuser=0 「医師のためのベストアドバイス」カナダ家庭医協会版 日本HPHネットワーク訳 https://www.hphnet.jp/download/1818/

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