テキスト全文
活動性ループス腎炎の概要と研究目的
#1. 名古屋市立大学病院
リウマチ・膠原病内科
磯谷 俊太郎
呼吸器免疫アレルギー内科学医局会抄読会: 活動性ループス腎炎寛解導入療法におけるタクロリムスの有効性無作為化非盲検第三相試験について.
#3. 本日の論文1) JAMA Network Open: Impact Factor: 13.37
ループス腎炎の治療ガイドラインと推奨薬剤
#4. プログラム §1 § §2 §3 Introduction Methods Results §4 Discussion
#5. プログラム §1 § §2 §3 Introduction Methods Results §4 Discussion
#8. (参考)ループス腎炎の寛解導入治療3) 日本リウマチ学会 診療ガイドライン(2019)
中等量~高用量ステロイドに加えシクロフォスファミド(CY)
もしくはミコフェノール酸モフェチル(MMF)の併用が推奨されている.
#9. (参考)ループス腎炎の寛解導入治療4-5) 米国リウマチ学会 診療ガイドライン(2012) (※代表例)
ステロイドパルス後の中等量~高用量ステロイドに加えミコフェノール酸モフェチル(MMF)
もしくはシクロフォスファミド(CY)の併用が推奨されている.
※EULAR/ERA-EDTA 2021(欧州 診療ガイドライン)も同様5)
#10. (参考)ループス腎炎の寛解導入治療6) KDIGO(国際的腎臓病ガイドライン機構) ガイドライン2021
MMF, CY以外にもカルシニューリン阻害薬(CNI), B細胞を標的として生物学的製剤の使用
を推奨.
タクロリムスの作用機序と臨床試験の結果
#11. (参考)ループス腎炎の寛解導入治療7) 中国リウマチ学会 SLE診療ガイドライン 2020
CY, MMFの併用が推奨される.
#12. (参考)ループス腎炎の寛解導入治療8) APLAR 2021 recommendation
第一選択はCY, MMF. 第二選択にCNIが推奨されている.
#13. ループス腎炎の寛解導入治療3-8) CY MMF カルシニューリン阻害薬
TAC, CyA 生物学的製剤 日本(JCR), 中国(CCR), 欧米(ACR/EULAR) 国際腎臓学会(KDIGO) アジア太平洋(APLAR)
#14. ループス腎炎の寛解導入治療 シクロホスファミド(CY)には細胞毒性が存在し,
早期卵巣機能不全を含む深刻な副作用を認める. タクロリムス(TAC)がループス腎炎寛解導入治療の
CY代替治療に有用であることが報告されている3-8).
#15. タクロリムス(TAC)9-12) TACの作用機序
免疫学的機序10):
T細胞の活性化を阻害
⇊
自己抗体の産生を抑制
⇊
長期にわたる腎臓の損傷を予防
腎病態生理学的機序11)
①免疫複合体の糸球体への沈着を軽減②アクチン細胞骨格の安定化
③足細胞のアポトーシス阻害
☞腎機能維持に関係 寛解達成補助+ステロイド漸減効果12)を示す
#16. Pilot study 単一施設非盲検前向き試験13)
P: 活動期LN(Ⅳ) 9名, I : PSL+TAC
O: 有効性, 安全性
☞蛋白尿改善. 副作用発生に差なし
多施設共同非劣勢無作為化比較試験14)
P: 活動期LN(Ⅲ~Ⅴ) 81名,
I : PSL+TAC 42名 , C: PSL+IVCY 39名
O: 寛解達成・安全性☞有意差なし.
単一施設非盲検前向き試験15)
P: 活動期LN(Ⅲ~Ⅴ) 60名,
I : PSL+TAC20名, O: PSL+IVCY20名, +MMF20名
O: 寛解率, 安全性☞3群とも有意差なし
単一施設非盲検前向き試験16)
P: 活動期LN(Ⅳ~Ⅴ) 40名,
I : PSL+TAC20名, O: PSL+IVCY20名
O: 寛解率, 安全性
☞TACの方が良好な成績
試験概要と患者の組入基準
#17. Pilot study 単一施設非盲検前向き試験13)
P: 活動期LN(Ⅳ) 9名, I : PSL+TAC
O: 有効性, 安全性
☞蛋白尿改善. 副作用発生に差なし
多施設共同非劣勢無作為化比較試験14)
P: 活動期LN(Ⅲ~Ⅴ) 81名,
I : PSL+TAC 42名 , C: PSL+IVCY 39名
O: 寛解達成・安全性☞有意差なし.
単一施設非盲検前向き試験15)
P: 活動期LN(Ⅲ~Ⅴ) 60名,
I : PSL+TAC20名, O: PSL+IVCY20名, +MMF20名
O: 寛解率, 安全性☞3群とも有意差なし
単一施設非盲検前向き試験16)
P: 活動期LN(Ⅳ~Ⅴ) 40名,
I : PSL+TAC20名, O: PSL+IVCY20名
O: 寛解率, 安全性
☞TACの方が良好な成績
大規模な無作為化臨床研究のエビデンスは不足している.
#18. (参考)Multi-Target Therapy MMFとHD-IVCY(NIHS)の有効性を比較した複数のRCTおよびそのメタアナリシス17)においても寛解導入率、末期腎不全移行率に両者の間に差がないかむしろ優れている.
MZBとMMF or LD-IVCY(EURO LUPUS)の比較試験では24週時点の有効率合併症発症率に差はなかった18)
LNⅢ-Ⅴ362名においてHD-IVCYとMMF+TACで比較19)
マルチターゲット療法は、LN の導入療法として、静脈内シクロホスファミドと比較して優れた有効性を示し, 副作用に差はなかった.
#19. プログラム §1 § §2 §3 Introduction Methods Results §4 Discussion
主要評価項目と副次評価項目の設定
#21. 試験概要/PICO+Estimand P
I
C
O
Estimand 活動性ループス腎炎 TAC IVCY Primary outcome: 24週目の腎奏効率
Secondary outcome: 疾患活動性マーカー 有効性/対象は完遂した患者のみ. 無作為化(1:1)非盲検第三相試験
#22. Patients(組入基準) 活動性ループス腎炎
診断はACR1997年基準
腎生検でⅢ, Ⅳ, Ⅴ, Ⅲ+Ⅴ, Ⅳ+Ⅴのいずれか
18-60歳の患者
外来患者
BMI18.5-27
24時間尿蛋白≧ 1.5g
血清クレアチニン<2.94 mg/dl
#23. Patients(除外基準) Ⅱ or Ⅵの腎炎
免疫抑制剤で1週間以上
すでに治療開始
TAC or CYでの治療歴
透析患者
重度の腎機能障害
その他の重篤臓器病変
妊婦
などなど
#24. (参考)ACR1997分類基準20) 11項目中4項目に該当すればSLEと分類する.
感度83%, 特異度96%
#25. (参考)I/C 試験開始前: 全例にステロイドハーフパルス 3日間
ステロイド後療法:
プレドニゾロン(PSL) 0.8mg/kg/日(最大45mg/日)
4週間継続し2週毎に5mgずつ漸減.
20mg/日に達したら2週毎に2.5mg/日ずつ減量.
24週時点で10mg
#27. (参考)I/C TAC群:
4mg/日 分2で開始.
14日目以降 Trough 4-10 ng/mlを目標に調整.
IVCY群:
0.75 g/m2 BSAで開始(以降0.5-1.0 g/m2を目標)
4週毎にWBC 2500-4000/μl以上になるように調整
NIH regimen(HD-IVCY)の寛解導入期の治療
#28. Outcome/Follow up 【主要評価項目】
24週時点での完全奏功/部分奏功達成率
完全奏功: 蛋白尿<0.5/24hr, 血清alb≧3.5 g/dl, 血清Cre基準内(もしくはベースラインからの上昇が15%以下)
部分奏功: 蛋白尿<3.5g/24hでベースラインから50%以上減少, 血清alb≧3.0 g/dl,血清Cre基準内(もしくはベースラインからの上昇が15%以下)
【副次評価項目】
①SLEDAI(SLE全体の疾患活動性評価指標)
②免疫パラメーター(C3・C4, 抗dsDNA抗体)
③腎機能(24時間蛋白尿, 血清アルブミン, 血清Cre, eGFR)
【安全性評価】
治療に起因する有害事象(TEAE)
試験登録患者の特徴とベースラインデータ
#29. (参考)SLEDAI 臨床個人調査表
“全身性エリテマトーデス”
#30. (参考)統計解析 サンプルサイズ:
奏効率 プラセボ 2.9%, TAC 46.4%21)に基づいて計算.
本邦のLNに対するTACの無作為化PBO第三相
非劣勢マージン:
TACはIVCYと同等の効果(治療効果43.5%)と仮定し, 15%と設定した. TACがIVCYの期待される効果の少なくとも2/3を保持できるようにした(保持率).
既報:初回TAC, IVCYの奏効率は70-100%14, 15)
☞本研究では80%と設定.
各グループ125名で非劣性を示す検出力が80%
15%の減少を考慮し, 294名の登録を計画した.
#32. (参考)統計解析 安全性評価:
完全解析セット(FAS)にはすべての患者を含めた.
ただしFASは非劣性試験で有利に働いてしまう.
☞FAS患者を含むプロトコル毎のセット(PPF)で評価.
有効性の欠如による早期の中止を含む.
有効性解析:
Cochran-Mantel-Haenszel検定を使用
主要評価項目はTACとIVCYの奏効率の差の95%Cl下限が-15%以上であれば非劣性を成立.
検定は両側. 有意水準は0.05
#34. プログラム §1 § §2 §3 Introduction Methods Results §4 Discussion
#35. 試験登録患者のフローダイアグラム (Figure1) ITT FAS PPS
#36. 試験登録患者のベースライン特徴 (Table1) FAS
2群で大きな差はない.
女性優位, 平均年齢34.2歳
※MMFを使用していないため出産可能年齢が多い
腎生検ClassⅣ+Ⅴが最多.
SLEDAI 平均11.9
(参考)難病申請は4以上
主要評価項目の結果と腎機能の変化
#37. (参照)各群の薬剤投与(eTable3)
#38. 主要評価項目: 腎奏効率(table2)① 24週時点での主要評価項目 TAC群は腎奏効率に関して
IVCY群に対して非劣性であった. >-15% TACの奏効率は既報とほぼ同様であった22.
(参考): 6か月奏効率TAC 89% MMF 80%☞TACはMMFに対して非劣性
#39. 主要評価項目: 腎奏効率(table2)① 24週時点での主要評価項目 >-15% 介入群の非奏功率(EER):0.17
対照群の非奏効率(CER):0.25
相対リスク(RR):0.68
相対リスク減少率(RRR):0.32
絶対リスク減少率(ARR)0.08
治療必要数(NNT):12.5
#40. 主要評価項目: 感度分析(eTable3)② 24週時点での主要評価項目 欠損値対応 PPS
#41. 主要評価項目: 層別解析(eTable5)③ 24週時点での主要評価項目(PPS/LOCF)
LN組織型別 Ⅳ+Ⅴ以外ではTACの方がIVCYより奏効率が高い.
Ⅳ+Ⅴでは非劣性を証明できなかった.
#42. 副次評価項目①:SLEDAI(eFigure1) 両群とも低下. 24週時点ではTAC群の方が低い 10週時点:両群とも10を下回る.
12週時点:最小二乗平均変化(LSM) TAC -6.7, IVCY -5.7 差-1.0 95%Cl -1.8~-1.0 p=0.02
24週時点:LSM TAC -8.6, IVCY -6.4 差-2.2 95%Cl -3.1~-1.3 p<0.001
#43. 副次評価項目②:免疫学的指標 (eFig2) 両群とも改善するが, 有意差なし. 補体 DNA抗体 24週陰転化 TAC 37例(26.2%), IVCY 26例(21.0%), p=0.33
Figure, Table not shown
#44. 副次評価項目③: 腎機能①(Fig2) 24時間蛋白尿 蛋白尿はTAC群で有意に改善. 24週時点の蛋白尿のベースからの変化 TAC群-4534.8mg vs IVCY -3632.5mg
差 -902.3mg 95%Cl -1382.2~-422.3mg p<0.001
副作用と安全性評価の結果
#45. 副次評価項目③: 腎機能②(Fig2) 血清アルブミン 血清Albは改善傾向だが, 有意差なし. eGFR 24週時点のeGFR LSM変化 TAC -8.8, IVCY 4.3
差 -13.1 95%Cl -17.9~-8.4, p<0.001 eGFRはTACで低下, CYで上昇
#46. 副次評価項目③: 腎機能③(Fig2) 血清クレアチニン TACの方がCreが上昇しやすい(基準内) TAC 0.12 mg/dl, IVCY -0.06 mg/dl
差 0.18 mg/dl 95%Cl 0.076-0.28 mg/dl, p<0.001
#47. 安全性評価(Table3) 有害事象に関して両群で同程度の割合で認めた.
#48. プログラム §1 § §2 §3 Introduction Methods Results §4 Discussion
#49. Discussion: Limitation 非盲検下, かつ追跡期間が24週と短い 一部の病理組織型は症例数が少ない ループス腎炎以外の病変の活動性が不明
#50. Discussion: Limitation 人種差 アジア人のみ
ただし研究集団は出産可能年齢の女性で構成されており,
一般的なLN患者の集団とみなせる. 投与方法 IVCYはEuro lupus regimenではなく, NIH regimenに近い投与方法
ステロイドの漸減速度が遅い. 主要評価項目 主要評価項目が6か月後のCRではない.
#51. (参考)HD-IVCY vs LD-IVCY: ELNT trial ……… 観察期間中央値 41.3か月
HD-IVCY 46例, LD-IVCY 44例
主要エンドポイント: 治療失敗(初期奏功が6か月で認めない/再燃/Cre倍化)
結果: 低用量群と高用量群で治療失敗に差を認めない.
#52. Discussion: 全体 活動性ループス腎炎の寛解導入療法においてTACはIVCYと比較して治療開始24週後の腎奏効率に関して非劣性を証明した.
TACは24時間蛋白尿量がIVCYと比較して有意に改善した.
☞TACはLN患者の長期的な腎予後の転帰が良好な可能性がある.
☞TACの免疫学的機序, 腎病態生理学的機序による腎保護効果10-11)
Creの上昇はIVCY群と比較してTAC群の方が高い.
平均ベースラインの15%を超えず, いずれのvisitでも基準範囲内に収まった.
このCre上昇は既報21, 23)でも報告されている.
☞TACによる影響>SLEの病勢.
TACによるCre変化は薬物投与量と血中濃度に影響する.
☞本研究での平均trough濃度は5.3 ng/mlであり,
血中濃度が至適範囲内でも腎機能のモニタリングが必要である.
ディスカッション: TACの有効性と今後の展望
#53. Discussion: 層別化 Ⅳ+Ⅴを除いて奏効率はTAC群の方が高い傾向にある.
特にⅤにおいては群間差が24%と大きく, 膜性腎症への有効性が期待される(今後の大規模試験に期待).
TACの足細胞に対する保護効果によりサイズバリア障害を軽減することで蛋白尿量が減少すると考えられる.
#54. (参考)Discussion 24) サイズバリアー チャージバリアー
#55. Discussion: 副作用 TACはIVCY群と比較して副作用発症率が少なかった.
ただし前述のようなCre上昇もあり, 長期腎毒性の評価が必要.
本邦の5年における観察研究では忍容性が担保されている25).
#56. Discussion: 展望 SLEは妊娠可能年齢の女性に好発する疾患である27).
LNの寛解導入治療薬の多くは妊孕性関連の問題点が存在する.
IVCY: 性腺機能低下, MMF: 催奇形性
TACは挙児計画時, 妊娠中, 授乳中でも使用できる薬剤26).
#57. Discussion: 展望 SLEは妊娠可能年齢の女性に好発する疾患である.
LNの寛解導入治療薬の多くは妊孕性関連の問題点が存在する.
IVCY: 性腺機能低下, MMF: 催奇形性
TACは挙児計画時, 妊娠中, 授乳中でも使用できる薬剤26).
ただし重要なのはあくまでも「事前の妊娠計画」と「疾患活動性の安定」である.
TACはこれらのリスクを軽減した治療選択肢として
提案できるかもしれない.
#58. (参考)SLE合併妊娠に関わる問題27)
#59. (参考)妊娠許容基準28) 1-4すべてを満たす場合は妊娠を許容できる.
その他の場合はリスクを十分に説明した上で, 患者の意思を尊重し,
高次医療機関で管理する.
ただし重症の肺高血圧(肺動脈収縮圧>50mmHgあるいは有症状), NYHA分類Ⅲ~Ⅳ度の心病変がある場合は, 原則として推奨されない.
#60. 結語 TACはLNの寛解導入においてHD-IVCYに対して非劣性であった.
特にⅤ型では効果が高い可能性がある.
副作用に関して大きな差はなかった.
使用に際してCreの定期的なモニタリングが必要.
長期毒性に関しての検討が必要.
妊娠可能年齢女性のLNにおいてリスクを軽減した治療選択肢として提案できる可能性がある.
参考文献と研究の限界
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28. 「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成」 研究班: 全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針