#4.
準備するもの 局所麻酔: 10 mLシリンジ, リドカイン, 21~23G針
尖刃メス
曲ペアン鉗子: 胸部皮下組織・肋間筋を剥離させ、ドレーンを
把持するに足るサイズや強度を持つもの!
縫合セット
消毒薬
滅菌シーツ
ドレナージチューブ: 以下は成人の場合のサイズ。
気胸・・・16~24 Fr
血胸・・・28〜36 Fr
持続ドレナージキット
#5.
挿入手順の実際 ① 術者は標準予防策(=清潔操作下で行う処置!)
1. 体位:仰臥位。ドレーン挿入側の上肢を挙上。
2. 切開部位の目安:’Triangle of Safety’(次のスライドに図示)
上の頂点・・・腋窩
前縁・・・大胸筋辺縁
後縁・・・広背筋辺縁
前側の頂点・・・第4・5肋間
3. 局所麻酔:切開部位の皮膚・皮下組織のみならず、肋骨上縁に沿って
骨膜・胸膜にも浸潤麻酔を行う。
4. 切開:ドレーン挿入部より1肋間下(第5〜6肋間)を約20 cm切開。
5. 切開創からドレーン挿入予定の肋間までの皮下組織と肋間筋を曲ペアンで
鈍的剥離し、挿入予定の肋間の胸膜も曲ペアンでこじ開ける。
肋骨下縁は肋間動脈が走っているので避けること(=肋骨上縁が目標!!)
#6.
#7.
挿入手順の実際 ② 6. 曲ペアンに沿って皮下から胸腔まで指を挿入することで、ドレーン挿入経路を
拡張する。また指先で胸腔内の肺や, 肺と胸膜の癒着を触知(癒着は指で剥離
するか, 挿入経路の変更を行う)
7. ドレーンは内筒(套管針)を抜いておく。ドレーンの先端を曲ペアンで把持して、
5.や6.で作った経路に沿って胸腔内までドレーンを挿入する。
8. ドレーンを進める方向は肺尖部・背側。ドレーンの側孔は完全に胸腔内へ入れる。
ドレーンが胸腔内にある場合、内腔に水滴が付く。
9. ドレーンを低圧持続吸引式ディスポーザブルドレナージキットへ接続。
10. チューブ固定と閉創:3-0以上の太さの絹糸で切開部を密に縫合(空気・液体が
漏れないようにするため)。チューブ固定は、近接する皮膚を縫合する際に糸を
何度もチューブに巻き付けることで行う。
(教科書的には8. の段階で)必ず胸部X線でドレーンが胸腔内に
入っているかどうか確認すること!
#8.
ドレーン挿入中の管理 ドレナージキットは-5~-15 cmH2Oの陰圧で管理。
貯留物の急激な吸引は肺水腫のリスクあり、注意!
ドレナージキット内でエアリークが見られる場合
咳・呼吸を止めるとエアリーク消失・・・肺損傷部からのエアリーク
咳・呼吸を止めてもエアリーク持続・・・チューブ挿入孔等から空気が侵入
抜去の目安 ※施設・文献により違いあり。
気胸:エアリーク消失時点で水封とする
24時間後に胸部X線を撮影し、気胸が無くなっていれば抜去。
血胸:排液量≦200 mL/日が2日以上続いた時点で抜去。
#9.
ドレーン抜去時の手順 ① 最もチューブに近い皮膚を縫合し、その糸でチューブを
跨ぐように反対側の皮膚をマットレス縫合。
② 抜去前に、患者に息を吐かせ, 呼気終末で息どめさせる。
③ マットレス縫合の糸を結紮しながらドレーンを抜去し、
ドレーン抜去と同時に糸で挿入孔を閉鎖。
④ 呼吸再開は挿入孔の完全閉鎖後。
⑤ 挿入孔の周囲を消毒後、ドレープで被覆。
#10.
② 陽圧換気(人工呼吸器管理)中に胸腔ドレーンを抜去していいのか
#11.
イランの研究(Abbasi HR.ら, Bull Emerg Trauma 2013; 1(1):17-21) 2011年3月〜12月の間, Martyr Rajaei病院に入院した92名の患者
が被験者。
いずれも外傷患者であり, 胸腔ドレーン挿入と人工呼吸器管理をされていた。
患者を以下の2グループへランダムに組分けした。
“Case group”(45名): 5~7日間、胸腔ドレーンを留置
“Control group” (47名): 人工呼吸器離脱まで胸腔ドレーンを留置
肺の占拠性病変のある患者, 間質性肺疾患患者, 胸部重症外傷患者,
肺炎患者は対象外。
#12.
イランの研究 − 続き① 胸腔ドレーン抜去前の手順
Case: ①胸部X線撮影後にドレーンを24時間クランプ。
→ ②気胸・血胸の有無を確認する為に2回目のX線を撮影後に
クランプ解除。
Control: ①胸腔ドレーン抜去前に胸部X線を撮影し、6時間
ドレーンをクランプ。 → ②2回目のX線を撮影し、正常なら
ドレーンを抜去。
胸腔ドレーン抜去の目安
24時間エアリークなし
24時間で排液量<300 mL
#13.
イランの研究 − 続き② 被験者の内訳
男性: 80名(87%), 女性: 12名(13%)
平均年齢: case groupは33.3±11.5歳, control groupは33.8±15.7歳
ドレーン挿入の理由: 血胸 41名(44.6%), 気胸 28名(30.4%), 血気胸 23名(25%)
気管挿管の理由: 意識障害 33名(35.9%), 意識障害と呼吸不全 16名(17.4%)
合併症(=気胸・肺の虚脱の再発?)あり
Case group: 2名(4.4%); 血胸と気胸で各1名
Control group: 2名(4.3%); 血胸と気胸で各1名
p値: 0.862 (p値が<0.05なら「統計学的有意」)
#14.
イランの研究 − 続き③ 結論
「『胸腔ドレーン挿入後5~7日目に、人工呼吸管理下で
ドレーン抜去』と『人工呼吸器離脱直後に抜去』の間で、
血胸・気胸といった合併症の統計学的有意差はない」
「陽圧換気は、気胸・肺虚脱の再発に影響しない」
※: 被験者数が92名と少ないこと, 除外対象とされた『胸部重症外傷』・
『肺の占拠性病変』の定義が明記されていないこと, 『合併症』の定
義が明示されていないこと(考察では「血胸・気胸」とか「気胸・肺
虚脱」とか書いてあるが…)等が個人的には引っかかる。
#15.
アメリカの研究 (Tawil I.ら, J Trauma. 2010, 68(4)818-821) 2004年1月〜2006年12月の間に、ニューメキシコ保健科学センター大学
附属病院・外傷センターの外傷・外科ICUに入院し, 血胸, 気胸, or 血気胸
の為胸腔ドレーンを挿入された患者の医療記録を見直した。
ドレーン留置目的が膿胸or胸水, ドレーン抜去前に死亡, or ドレーン事故抜去の患者
は対象外。
気胸再発率は、ドレーン留置の理由, 抜去時の陽圧換気の有無, 重症度, ICU滞在期間
等との関連性により分類された。
「ドレーン抜去可能」の判断基準
24時間で排液量<20 mL
-20 cmH2Oの陰圧管理を中止(=水封のみ?)後の6時間でエアリーク無し
#16.
アメリカの研究 − 続き① − 抜去の手順
水封のみで6時間経過観察後に胸部X線を撮影し、その所見により抜去可否
を判断(気胸が大量であればドレーン陰圧管理を再開し, 24時間後に再度
胸部X線を撮影)
医師の判断次第では、少量の気胸が残存していても抜去された。
呼気or吸気終末で息止めと同時にドレーンを抜去し, ワセリンガーゼor
被覆剤を創部に圧着?した。
抜去6時間後に胸部X線を撮影し、気胸が再発していないか確認した。
#17.
アメリカの研究 − 続き② − 被験者: 190名(胸腔ドレーン抜去は234件)
内訳
男性: 141名(74%)
平均年齢: 43.0歳
死亡: 10名(5%)
ドレーン挿入の理由: 気胸 113名(59%), 血胸 26名(14%), 血気胸 51名(27%)
ドレーン挿入の理由, 年齢, 性別, 重症度, ICU滞在期間, 人工呼吸器使用
期間は、抜去後の気胸再発率に対して統計学的に有意な影響を与え
なかった。
#18.
アメリカの研究 − 続き③ − 抜去後の気胸再発は全体で31名(13%)
抜去時に陽圧換気中だったのは136名(58%)
そのうち、気胸再発は15名(11%): ドレーン再挿入は6名(4%)
画像上小さな気胸あり・再挿入せずは10名(7.4%)
抜去時に自発呼吸中だったのは98名(42%)
そのうち、気胸再発は16名(16%): ドレーン再挿入は3名(3%)
画像上小さな気胸あり・再挿入せずは25名(25.5%)
合計再発率の差: -5.3% (95%信頼区間: -14.8~3.5) ,
再挿入率の差: 1.35% (95%信頼区間: -4.7~6.6)
#19.
アメリカの研究 − 続き④ − 気胸再発は、抜去時に吸気か呼気か, 患者年齢, 重症度, 受傷機転, 開胸術,
胸腔ドレーン留置期間, 胸腔ドレーン数, または 抜去時の少量気胸 と
無関係だった。
「陽圧換気が気胸再発と関連していない」とする今回の知見は、陽圧
換気のみを理由として胸腔ドレーン抜去を遅らせる必要がないことを
示唆している。
「全体の再発率=13%」は過去の研究における再発率(2.5~ 12%)と一致
している。
自発呼吸群と人工呼吸器群の再発率差=5.3%は統計学的有意でない。
胸腔ドレーン入れ替え率は低く、過去の研究で示された4%に近かった。
また、自発呼吸群と人工呼吸器群で統計学的有意差は無かった。
#20.
まとめ 少なくとも外傷性の気胸・血胸については、人工呼吸器
管理(陽圧換気)中に, エアリーク消失・排液量減少と
いった目安を満たした患者の胸腔ドレーン抜去が安全で
あると示す研究データは2件存在している。
他の原因(特発性など)による気胸に関する、同じテーマ
の研究は今回見つけられなかった。
結局のところ、個々の患者の状態等に応じて柔軟にやる
しかないのかもしれない。
#21.
補足①:気胸への根治療法 参考文献
‘UpToDate’
MacDuff A. ら, Management pf spontaneous pneumothorax:
British Thoracic Society pleural disease guideline 2010.
Thorax 2010;65(Suppl 2): ii18-ii31
#22.
胸部外科へ紹介が必要なもの 再発リスクが高い初発の特発性気胸
エアリーク持続が5日<
パイロット, 潜水士といった再発リスクの高い職業
ドレナージを要する巨大, 両側性, or 致死的な気胸
肺嚢胞が大きい, 再発予防を希望している, or 他の目的
(e.g. 血胸, 肺生検など)で胸腔鏡検査を予定
初発の続発性気胸
何かしらの肺疾患が背景にあって気胸になったもの
再発した気胸
妊婦
特発性の血胸
#23.
気胸の『根治療法』とは VATS(Video Assisted Thoracic Surgery)
胸腔鏡下で胸膜癒着術とブレブ/ブラ切除術を行う。
化学的胸膜癒着術
胸腔鏡/VATSを希望しない, or できない患者が適応。
胸腔内へドキシサイクリン等の刺激物質を注入する。
e.g.)テトラサイクリン 1,500 mgと1%リドカイン 25 mLを
胸腔ドレーンへ注入
#24.
補足②: 「人工呼吸器+気胸」の患者で胸腔ドレーン留置が長期化した場合のデメリットとは?
#25.
台湾の研究 − 「人工呼吸器管理中+気胸」の患者で、胸腔ドレーン留置長期化の影響や, 長期化のリスクファクターを検証 − 台北退役軍人総合病院へ2004年5月〜2011年12月の間にICUへ入院した患者から、
人工呼吸器開始後に気胸を発症し, 28Fr胸腔ドレーンを留置されて-10~20cmH2O
で治療された患者を対象とした。
対象外: 胸腔ドレーン留置期間不明, 膿胸・血胸等を発症後に胸腔ドレーン留置, 患者
家族の希望で、主治医の助言に反してICUから退室
この研究での『胸腔ドレーン長期留置』の定義は、18日<。
被験者集団全体のドレーン留置期間中央値を求めた後、被験者を『長期留置群』
と『非長期留置群』へ分類した。
↔︎留置期間中央値より前に死亡し, ドレーンを抜去されていない患者は対象外となった。
Kao JH.ら, Respiratory Care. 2013. 58(12)2093-3100
#26.
台湾の研究 − 続き① − 「気胸あり+呼吸不全あり」の患者は106名だったが、対象外の患者を除いた結果、合計88名が登録された。
そのうち胸腔ドレーンが問題なく抜去されたのは51名(57.9%); 留置期間中央値: 18日間
18日間より前に死亡した27名は除外された。
→最終的に、61名が解析対象となった。
長期留置群: 34名
非長期留置群: 29名
長期留置した被験者では(非長期留置群と比較して)
気胸発症後のICU滞在期間, 入院期間, 人工呼吸使用期間が長く,
ICU内死亡率, 入院中死亡率が高かった。
#27.
台湾の研究 − 続き② − 胸腔ドレーン長期留置は、(非長期留置群と比較して)
高い CT撮影率, 多い CT撮影数
多い 胸腔ドレーン数
高い ピーク吸気内圧最高値
高い 胸腔ドレーン挿入後の皮下気腫発症率
長期間留置後の皮下気腫増加傾向
と有意に関連。
CTを撮影した被験者内では、非長期留置群と比べて長期留置群にて
ドレーン位置不良の発生率が高い傾向が見られた。
#28.
台湾の研究 − 続き③ − 胸腔ドレーン留置長期化の予測因子
胸腔ドレーン挿入後24時間以内のピーク吸気内圧: ピーク吸気内圧最高値
25 cmH2Oがcutoff値
胸腔ドレーン挿入後の皮下気腫
皮下気腫無し or ピーク吸気内圧が高値でない被験者と比較すると、
皮下気腫・ピーク吸気内圧高値両方ありの場合では、
胸腔ドレーン抜去の可能性は有意に低く,
胸腔ドレーン抜去は遅れる。
#29.
台湾の研究 − 続き④ − この研究の被験者の平均年齢は78歳で、併存疾患も多様(COPD含む)。
胸腔ドレーン長期留置(18日<)は高い死亡率, 長いICU滞在期間・入院期間,
長い人工呼吸使用期間と関連しており、気胸による胸腔ドレーン留置が長期化
している患者で、集中治療に伴う負荷が増えていることを示唆している。
人工呼吸器開始後に気胸を発症した患者において、皮下気腫出現はドレーン
留置長期化と関連している。皮下気腫は、ドレーンの機能不全ないしドレーン
位置不良を反映している可能性がある。
ドレーン留置長期化は、胸腔ドレーン挿入後24時間以内における高い吸気内圧
最高値と関連している。
皮下気腫あり・吸気内圧>25 cmH2Oの両因子がある患者の胸腔ドレーン留置後28
日目におけるドレーン抜去率は、この2因子が無い患者の抜去率の半分だった。
#30.
補足③:重症患者の鎮痛について 参考文献
『救急診療指針 第5版』日本救急医学会 監修, へるす出版
『ICU/CCUの薬の考え方, 使い方 ver.2』 大野博司 著, 中外医学社
#31.
麻薬系鎮痛薬について 重症患者鎮痛の第一選択=静注オピオイド
非オピオイド系鎮痛薬(e.g. アセトアミノフェン等)も用いてオピオイド投与量を減らす
『バランス鎮痛』という概念もある
オピオイド系に共通する合併症: 呼吸抑制, 意識レベル低下, 低血圧, 腸管蠕動低下,
嘔吐・吐き気
#32.
鎮痛の評価方法 ① 患者本人が意識清明・意思疎通可能な場合
VAS(Visual Analog Scale)
痛みを『長さ』で表現
FPS(Face Pain Scale)
痛みを『表情』で表現
NRS(Numeric Rating Scale)
痛みを数字で表現
#33.
鎮痛の評価方法 ② 患者が意思疎通困難な場合
BPS(Behavioral Pain Scale)
挿管中の場合とそうでない場合の2通り
CPOT(Critical-care Pain Observation Tool)
#34.