テキスト全文
熱性けいれんの概論とガイドラインの更新
#1. ぶ 学 で ス ー ベ 例 症 2023.09 update 熱性けいれん(熱性発作) 診療ガイドライン2023参照 → タイトルに「熱性発作」という⽤語が加わりました 熱性けいれん(熱性発作)の対応 ① ー 症例提⽰・概論 ー どっと@⼩児科
#2. はじめに どっと@⼩児科医 です 今回は2023年度にガイドラインがアップデートされた 「熱性けいれん(熱性発作)の対応」をまとめました 仮想症例の提⽰、新しい薬剤の紹介など参考になれば幸いです ー このスライドの主な対象者 ー 初期研修医 ⼩児科後期研修医 救急外来対応医師
熱性けいれんの対応における心構え
#3. 熱性けいれんの対応︖ 熱性けいれんは ”common disease” • ⼩児の救急対応をする施設であれば、どこでも必ず出会います • ⼩児科が First touch の施設も、当直医対応の施設もありますが、 けいれんの評価・抗けいれん薬の選択・家族への説明について、 ある程度の知識は求められます • コロナ禍以降は特に対応に悩む場⾯が増えています • この スライドで⼀通り予習 しておきましょう︕
#4. 熱性けいれん対応の⼼構え • 医療従事者でも⽬の前でけいれんすれば、必ず動揺します • 熱性けいれんで⼩児が搬送されてきたとき、⽌まっていても 家族の焦り・不安はかなり強いもの です • けいれんが続いていれば、対応するスタッフも焦ります まずはお互いに落ち着きましょう 良性疾患ではありますが、派⼿なのは事実です ⽌まっていても、何回⽬でも、⼼無い⾔葉かけは避けてください
症例提示と初期対応の重要性
#5. もくじ 1. 症例提⽰ 2. 症例のまとめ 3. 熱性けいれんとは 熱性けいれんの対応がやりやすくなっているのは、 予防接種による細菌性髄膜炎の激減が⼤きいです。 もちろん、それでも適切な評価が⼤切です。 コロナもオミクロン株流⾏期には、特に年⻑児の けいれんが頻発していたので、注意が必要です。 … 以降はスライド②に続きます 初期対応・フローチャート・薬物療法・家族への説明・その他Q&A
#6. part.1 症例提⽰︓1歳7か⽉ ⼥児 体重 10 kg ・既往歴︓特記事項なし ・周産期︓ 在胎 39週4⽇ 正常経膣分娩で出⽣ ・予防接種︓up to date ・服薬歴︓(X-1⽇から)ムコダイン、アスベリン、ペリアクチン ・家族歴︓⽗が幼少期に熱性けいれんを起こしたことがある ・現病歴︓X-1⽇より軽度の⿐⽔があり、近医で急性上気道炎と診断され、上記を 処⽅されていた。X⽇朝から体熱感があり、朝⾷は普段通り摂取したが、 9時にけいれんを起こし、救急要請した。 救急隊現着時にも四肢の強直間代性けいれんは持続し、眼球の上転、 ⼝唇チアノーゼを伴っていた。酸素投与を開始し、当院へ搬送された。
症例の詳細と検査結果の解釈
#7. 現症 <Vital sign> 体温 39.8 度、⾎圧 102/61 mmHg、⼼拍数 194 /分 呼吸数 -- 痙攣中で測定困難、SpO2 92%(酸素マスク 10L) <病着時所⾒> ・全⾝性の強直性けいれんが持続、左右対称(すでに発症から20分経過) ・四肢筋緊張亢進、左右差はなし ・両側眼球上転、瞳孔径︓両側 5mm、左右差なし、対光反射︓微弱 ・⼝唇チアノーゼあり ・明らかな外傷はなし → ミダゾラム⼝腔⽤液 5mg を頬粘膜に投与し、マスク換気を開始 ルートを確保し、⾎液検査を提出
#8. ミダゾラム⼝腔⽤液投与後 <VBG>pH 7.11, pCO2 68.0, HCO3 21.1, BE -9.3, Glu 133, Lac 1.6 5分で四肢の筋緊張は和らいだものの残存し、瞳孔の散⼤・頻脈は変わらず → けいれんは持続していると判断し、ロラゼパム 0.5 mg 静注 ・四肢の筋緊張は改善し、瞳孔も縮瞳した ・⾃発呼吸が安定し、補助換気なしでもSpO2 100%を維持 ・寝ている様⼦だが、⼼拍数は 180-190 /分の頻脈が続く → 頻脈が続いており、ホスフェニトイン 225 mg を静脈内投与 ・徐々に⼼拍数が落ち着き、150 /分程度となる *ホスフェニトインの適応が2歳以上であることを ご家族に説明し、同意を得た上で投与している ・経過観察中に頭部CTを実施するも、明らかな異常所⾒なし ・投与終了後から20分程度で覚醒し、⺟を認識できることを確認した → 初発の熱性けいれん、けいれん重積状態として経過観察⽬的で⼊院
#9. 検査結果 VBG ⾎算・⽣化学 pH 7.11 PCO2 68 HCO3- 21.1 BE -9.3 Lac 1.6 Glu 133 mmHg WBC 12000 Neu 35.2 /μL % TP 7.3 g/dL ALB 4.2 mg/dL ALP 352 U/L AST 35 U/L ALT 14 U/L LDH 320 U/L U/L Lym 40.2 % Hb 11.8 g/dL mg/dl Plt 32.1 万/μL mg/dl Na 133 mEq/L CK 212 K 3.6 mEq/L BUN 12 mg/dL Cl 102 mEq/L Cr 0.26 mg/dL Ca 9.9 mg/dL CRP 0.27 mg/dL mmol/L
#10. 追加検査 <追加検査の適応に関する判断> 頭部MRI 意識の回復は良好であり 現時点では不要と判断 髄液検査 予防接種は順調で、髄膜刺激徴候も ないため 現時点では不要と判断 脳波 意識の回復は良好であり 現時点では不要と判断 *同じ症例でも施設や担当医の判断で追加検査を⾏うことは、もちろんあります
AESDリスク評価と入院時の説明
#11. AESDのリスク評価 AESD︓痙攣重積型(⼆相性)急性脳症 Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion ⽇本の⼩児で頻度の⾼い、けいれん重積から始まる急性脳症 特異的な治療はなく早期診断も難しいが、予測スコアが提唱されており、診療時に参考にしている Yokochi らの臨床スコア Tada らの臨床スコア pH < 7.014 1点 ALT ≧ 28 IU/L 2点 ⾎糖値 ≧ 228 mg /dL 2点 年齢 < 18か⽉ 1点 覚醒するまでの時間 ≧ 11時間 2点 けいれん時間 > 40分 1点 Cr ≧ 0.3 mg /dL 1点 ⼈⼯呼吸器管理 1点 アンモニア ≧ 125 μg /dL 2点 AST > 40 IU/L 1点 ⾎糖値 > 200 mg /dL 1点 Cr > 0.35 mg /dL 1点 * 4点以上で感度 93% 特異度 91% → 本症例ではリスクは⾼くないものと判断した けいれん 12-24時間後の意識レベル JCS 0 0点、JCS 1-30 2点、JCS 100-300 3点 * 4点以上で感度 88.7% 特異度 90%
#12. ⼊院時の説明 お⼦さんが突然けいれんされ、とても不安だったと思います。病院に着いたときにも けいれんが続いていたので、けいれんを⽌める薬を使⽤して、今は落ち着いています。 1歳台のお⼦さんは、熱性けいれんといって、発熱時にけいれんすることは珍しくあ りません。ほとんどの場合は⼤きな問題はありませんが、まれに脳炎・脳症などの病気 が隠れていることがあります。今回は⻑いけいれんだったので、⾎液検査や頭部CTの 検査を⾏っていますが、今のところは⼤きな異常は認められませんでした。 幸い意識の回復はよく、お⺟さんのこともしっかり認識できているので、ひとまずは またけいれんを起こさないか、このまま意識に問題はないか⼊院して経過をみさせてい ただきます。 今の時点では熱性けいれんと考えていますが、⼊院後にけいれんを繰り返した場合や 意識状態が安定しない場合は、MRIや髄液検査など検査を追加して、再度評価します。 突発性発疹にかかられたことがないようですので、熱源は突発性発疹症などのウイルス 感染症が疑わしいものと考えています。
熱性けいれん重積の経過と今後の対応
#13. 経過 酸素投与 補助換気 酸素 頬粘膜投与 ②ロラゼパム 静注 軽度の強直 ・けいれんの再燃なし ・2⽇後に解熱し、体幹から 広がる細かい発疹が出現 ①ミダゾラム⼝腔⽤液 強直間代性けいれん ⼊院後経過 ③ホスフェニトイン 眼球上転・瞳孔散⼤ 10分間かけて投与 診断 ・熱性けいれん重積 ・突発性発疹症 今後は発熱時にジアゼパム坐剤を 予防的に投与していく⽅針 ⼼拍数 190 /分 程度の頻脈 ⼊院 現着 病着 発声あり ⺟を認識 (JCS 0〜1程度)
#14. part.2 症例のまとめ ・けいれんへの対応 病着時にも明らかなけいれんが続いており、迅速な抗けいれん薬の投与 が必要だった。 ロラゼパム 投与後に⽌まっていた可能性はあるが、過度な頻脈は治療対象と判断し、 ホスフェニトイン を投与して経過を観察した。 当院は⼩児科が1stタッチできない場⾯があるため、重積時は ミダゾラム⼝腔⽤液 を 第⼀選択薬として投与してから、ルートを確保するというフローで対応している。 ・今後の対応 熱性けいれん重積発作は、繰り返した場合に脳障害のリスクがあるため、1-2年単位で 発熱時にはジアゼパム坐薬による熱性けいれんの予防を⾏う⽅針とした。 かかりつけ医にペリアクチンなどの第⼀世代抗ヒスタミン薬の処⽅は控えていただくよう 診療情報提供書を作成した。
熱性けいれんの定義と年長児の対応
#15. part.3 熱性けいれんとは 主に⽣後6か⽉〜5歳までの乳幼児に起こる 38度以上の発熱 に 伴い けいれん や 意識障害 をきたす発作性疾患 <下記のような原因のあるものは除外> • 髄膜炎などの中枢神経感染症 • 低⾎糖、電解質異常、代謝異常など • てんかんの既往 熱性発作︖ ガイドラインのタイトルに 熱性発作 が加わった 熱性けいれんは ”febrile seizure” の訳語だが、 convulsion と混同されていることが多い ・convulsion︓運動発作としてのけいれん ・seizure︓⾮けいれん性の発作も含む 発作 (脱⼒や⼀点凝視、眼球上転のみなど) febrile seizure = 熱性発作 が望ましいようです ⽤語の理解は重要ですね
#16. 熱性けいれんとは ・有病率 およそ 7-11% (諸外国の2〜5%と⽐べて⾼い) 1-2歳頃の発症が多い ・原因 脳の未熟性に伴い、急な体温上昇でけいれんを起こすと考えられている 発症は遺伝的要因の関与が考えられているが、多因⼦が想定されている (両親・同胞での家族歴は約2倍の再発リスクがある) ・予後 基本的に 予後良好 であり、 ルーチンでの検査や治療は不要 てんかん発症は⼀般⼈⼝よりやや⾼いが9割以上は発症しない
#17. 年⻑児の有熱時発作 熱性けいれんの定義は「⽣後60か⽉までの発作」だが 年齢以外の定義を満たす場合には熱性けいれんと同様に対応する 特に インフルエンザ や COVID-19 などでは年⻑児の有熱時発作も多い ただし、 ・⽣後60か⽉以降で発作を反復した場合 ・無熱時発作を起こした場合 → 家族性熱性けいれんプラスやてんかんを念頭に専⾨医への紹介を考慮する
熱性けいれんの症状と診断ポイント
#18. 熱性けいれんの症状 *典型的なパターン (例︓1歳6か⽉・男児) 夜から38.5度の発熱、機嫌は良かったが、急に様⼦が変わり… ① 眼が上を向き、四肢を伸ばして突っ張った ② 次に、四肢を左右対称にガクガクとふるわせた 顔⾊は悪く、⼝からよだれと泡をふいていた ③ 救急⾞を呼び、ふるえは収まったが、反応はない ④ 救急⾞が着くと、急に泣き出し、抱っこをせがんだ 発熱・意識障害・眼球上転 ⼝唇チアノーゼ・嘔吐・失禁 四肢の強直 → 間代性けいれん *けいれんを伴わず、意識障害を呈するものも含む ⑤ 病院に着くと、⺟を認識し「ママー」と声が出た 通常は 2-3分 でけいれんは収まり、30-60分程 ぼーっとして、意識はもとに戻ることが多い
#19. 乳幼児のJCS 乳幼児の 意識レベルの評価 Ⅲ. 刺激をしても覚醒しない Ⅱ. 刺激をすると覚醒する 30. 呼びかけ反復で開眼 熱性けいれんの対応では 乳幼児⽤ JCS・GCS をチェック 20. 呼びかけで開眼 10. 飲み物・母乳を飲もうとする Ⅰ. 刺激しないでも覚醒している ほぼ意識清明 JCS 0-2 3. 母親と視線が合わない 脳症を疑う基準 2. 視線は合うが笑わない JCS 20 以上 1. あやすと笑うが声は出ない GCS 11 未満 0. あやすと声を出して笑う *JCS・GCSは扱いやすい⽅でOK 乳幼児のGCS E . 開眼(Eye Opening) 自発開眼 声かけで開眼 痛み刺激で開眼 開眼せず 4 3 2 1 V . 発語(Verbal Response) アーウーなどの喃語をしゃべる 不機嫌 痛み刺激で泣く 痛み刺激でうめき声 声を出さない 5 4 3 2 1 M . 運動(Motor Response) 正常な自発運動 触れると逃避反応 痛み刺激で逃避反応 異常な四肢の屈曲反応 異常な四肢の進展反応 動かさない 6 5 4 3 2 1
#20. 熱性けいれんの診断 - ポイント - 発熱+けいれん のある患者で、 他に 原因のあるけいれんを除外する こと • 髄膜炎・脳炎/脳症・胃腸炎関連けいれん・低⾎糖や脱⽔ など 鑑別疾患は少なくない • その中で、熱性けいれんと判断する主な基準は以下の5つ ① 年齢 ② けいれんのタイミング(発熱早期) ③ 持続時間 ④ 意識障害が遷延しない ⑤ 神経学的異常所⾒を認めない
単純型と複雑型の違い、けいれん重積状態
#21. 単純型︖ 複雑型︖ 研修中にもよく聞かれ、気になるところだが… 重症度や治療介⼊の基準ではなく、救急対応では必ずしも重要ではない 複雑型の意義︓将来のてんかん発症リスクが⾼い 基準は、以下いずれかの⼀つ以上を満たすもの 焦点性の発作・15分以上持続・24時間以内の反復 *焦点発作︓体の⼀部や半⾝のけいれん、けいれんを伴わない意識障害など 治療介⼊の⽬安は t1(time 1)= 5分 を覚えておくことが⼤切
#22. けいれん重積状態 けいれんが… 5分以上続く or 複数回の発作 発作の間に意識回復がない • けいれんが 30分以上続く場合 、脳障害が引き起こされる可能性が⾼まる • けいれんが 5分 以上続く場合や発作間で意識回復がない複数回のけいれんは ⾃然に⽌まりにくく、介⼊するべきである → 5分以上 が operational definition (実地⽤定義) • 発作後に強直や体の⼀部の動き、眼球偏位が続いている場合も、発作時脳波の 記録なしで焦点発作が続いているかの判断は困難であり、治療介⼊を考慮する
#23. time point 2023年ガイドラインで発作の持続時間に2段階の定義が設定されました 強直間代性の発作であれば t1(time point 1)︓5分 → 薬物治療の開始を考慮する t2(time point 2)︓30分以上 → ⻑期的後遺症に注意する *意識減損を伴う焦点発作では t1=10分 、t2=60分 とする 実際の介⼊に関しては以前と変化はなく 治療介⼊の⽬安は t1= 5分 を覚えておくことが⼤切 *現実では、仮想症例のように病着時にはすでに5分を経過していることが多い
#24. Take Home Message • 基本的に 良性疾患 であり、慌てずに対応しよう • time point 1=5分 5分以上続くけいれんは 治療介⼊が必要 だと理解する • けいれん重積時の流れは、頭の中で予習しておこう
後半スライドの概要と今後の内容
#25. 後半スライドに続きます 本スライドは仮想症例と熱性けいれんの概要についてまとめました 後半は初期対応からフローチャート、薬物療法、患者説明についてです 熱性けいれんの対応は施設や医師に よって思った以上に幅があります… 本スライドは、⼀つの参考として ご確認いただければ幸いです。