#4.
陰性感情はよく起こる • ” D if f ic ult e nc o unte r(臨床的に困難な現場に 遭遇す ること )” は、医師の陰性感情を起こす • 診療の15~30% はD if f ic ult e nc o unte rと⾔われる この頻度は家庭医療のセッティングなので、夜間救急の セッティングであればもっと⾼頻度かもしれませんね Cannarella Lorenzetti R, et al. Managing difficult encounters: understanding physician, patient, and situational factors. Am Fam Physician. 2013 Mar 15;87(6):419–25.
#5.
陰性感情を引き起こす患者要因 患者の⾏動 患者の状況 精神科疾病 • 怒り・喧嘩腰・無礼 • 薬物・アルコール中毒 • 境界性⼈格障害 • 要求が多い・特権意識がある • 慢性疼痛症候群 • 依存性パーソナリティ障害 • 薬物を求めて来院している • 機能性⾝体症候群(訴えが客 • 気分障害が背景にある • 不安が強い・感覚過敏 • 他⼈を操作しようとする • 慢性的な症状への無理解 • 負の感情を制御できていない • ⾃らの健康問題に責任を持ち • 観的指標より⼤きい) • 患者と治療者で来院⽬的が対 ⽴している • 経済的制約のため治療アドヒ アランスを損なう たがらない • リテラシーが低い ⾃⼰破壊的な⾏動 • 主訴が複数ある(4つ〜) 難しい患者・困った患者 (Difficult patient) Cannarella Lorenzetti R, et al. Managing difficult encounters: understanding physician, patient, and situational factors. Am Fam Physician. 2013 Mar 15;87(6):419–25.
#6.
陰性感情の原因は患者だけではない 医師 状況 複数の要因が 影響している 患者 Hull SK, Broquet K. How to manage difficult patient encounters. Fam Pract Manag. 2007 Jun;14(6):30–4.
#7.
陰性感情を引き起こす医師要因 医師の態度 医師の状況 • 燃え尽き症候群 • 不安症・抑うつ • ⾃信がない • 強い疲労・過労 • 診断の不確実性を受け⼊ • 健康問題を抱えている れられない • 睡眠不⾜ • • 医師の知識 • 精神科領域のトレーニン グが不⾜している • 患者の健康状態に関する 知識が限定的である 特定の健康状況に負のバ イアスを持っている 医師の技術 時間的なプレッシャーを • 共感の表現が苦⼿ 感じている • 簡単にイライラする • コミニケーション⼒不⾜ Cannarella Lorenzetti R, et al. Managing difficult encounters: understanding physician, patient, and situational factors. Am Fam Physician. 2013 Mar 15;87(6):419–25.
#8.
陰性感情を引き起こす環境要因 • ⾔語やリテラシーに障壁がある • ⽂化の違いがある • 診察室にたくさんの⼈がいる(患者の付き添い) • 悪い話を伝えなければならない • 周囲がうるさい • プライバシーが確保されていない Hull SK, Broquet K. How to manage difficult patient encounters. Fam Pract Manag. 2007 Jun;14(6):30–4.
#9.
なぜ陰性感情を持つとダメなのか︖ 認知資源の減少 陰性感情に⽬がいってしまい認知に関する脳の資源が消費されてしまい、 思考や理解などの認知活動に投⼊されるべき資源が減る 認知の偏り ネガティブな情報に注意が向いてしまい必要な情報を得られない 考え⽅の偏りが起き、判断の柔軟性が低下する ➡診療の質が低下する Difficult patientは医師の診断精度を低下させるという研究がある 三宮真智⼦. メタ認知あなたの頭はもっとよくなる(電⼦書籍版). 中央公論新社. 2022年 Schmidt HG, et al. Do patientsʼ disruptive behaviours influence the accuracy of a doctor's diagnosis? A randomised experiment. BMJ Qual Saf. 2017 Jan;26(1):19–23.
#10.
医師は患者を治療する⽴場 1. Difficult patientに⼈間として好意を持つ必要はないけれど、医 師として適切な治療を届ける必要はある 2. 医師は患者のよしあしをジャッジしたり、患者の⾏動を裁いたり する⽴場ではない 3. 陰性感情のコントロールは、適切な診療を届けるためのノンテク ニカルスキルといえる
#11.
陰性感情を乗り越える2つの⽅法 1.メタ認知(認知について認知する) 2.受診の根本的な原因を特定する
#12.
1.メタ認知(認知について認知する) 本当にこれでいいの だろうか︖軽症化 バイアスだろうか ほかの考え⽅はある だろうか 軽症なのに 深夜に受診するなよ メタ認知 認知 • メタ=「より上位の」という意味の接頭語 • ⼀段上の視座から⾃分を客観視するもう⼀⼈の⾃分
#13.
Difficul t encounterにおけるメタ認知⼿順 1. いま⾃分が直⾯しているのはDifficult encounterであるこ とに気づく 2. 困難さの原因は、患者だけにあるわけではないと思い出す 3. なにが診療を困難にし、陰性感情を引き起こしているのかを 評価する(患者・⾃分・環境) 4. 陰性感情は診療の質を低下させることを思い出す 5. 現状を打開する⽅略に⽬を向ける(特に環境要因は対処しや すい) 「認知が感情を⽣む」という特性を利⽤して陰性感情を制御しよう 三宮真智⼦. メタ認知あなたの頭はもっとよくなる(電⼦書籍版). 中央公論新社. 2022年
#14.
2.受診の根本的な原因を特定する 頻繁に受診をする患者との⽣産的な対話のファーストステップは受診の根本的な理由を特 定することです。 まずは頻繁な受診にはパターンがあることを知りましょう。そしていろいろな理由で頻繁 に受診する患者を診たことがある(未診断の症状への不安、安⼼感を得たい、慢性疼痛か ら解放されたいなど)と説明してください。 いずれかの理由に当てはまるものはあるか、あるいは他に理由があるかを尋ねましょう。 患者さんが持つ受診理由に理解を⽰すことで「理由の背後にある理由」についてオープン に話し合えるように発展するかもしれません。 Hull SK, Broquet K. Fam Pract Manag. 2007 Jun;14(6):30–4.より引⽤ これは頻回受診の患者に関する引⽤だが「理由の背後にある理由」について 検討することは、救急外来におけるDifficult encounterの対応に広く活⽤できる
#15.
軽症患者の「理由の背後にある理由」 22時に⾼齢⼥性が受診 昨⽇から両⼿が震えて 動悸もして頭もぼーっとして… それから肩も… • 受診の理由︓ 脳卒中が⼼配 • 理由の背景にある理由︓ 昨⽇から同居家族が全員旅⾏に⾏き留守番をしていた 同じ症状は頻繁にあり開業医から安定剤をもらっている が、今回は相談相⼿がいなかった
#16.
なんで今きたんだよ︕ なんでこの症状で こんな時間に、受診するんだよ︕ • 認知資源の減少 • 認知の偏り なんでこの症状で この時間に受診したのだろうか︖ • アセスメントの 姿勢 「なんで︖」と感じたら、怒りから疑問の形にスイッチし 陰性感情をアセスメントの契機に変化させよう
#17.
質問にバリエーションを どうして夜に来たんですか︖ 夜に来院しようと決めた契機はありますか︖ 痛みに変化があったということでしょうか︖ 明⽇まで経過を⾒るのが⼼配だったんですね︖ 不適切に感じるような受診にもパターンあり 質問のバリエーションを増やしていこう
#18.
不適切受診︖と感じたら理由を探ろう • 不適切︖と感じる理由には、患者の「⾝体」と「⾮⾝体」的な影響がある • たとえば発症後しばらく時間が経った症状で夜間救急を受診する⽅がいる が、不適切受診と断罪せず原因を検討してみよう(以下に⼀例を⽰す) ⾝体 エピ ソード 背景例 先⽉からたまに胸が苦しい 今⽇の昼から胸が苦しく、深夜の救急外来を受診 • • • 原因 ⾮⾝体 ⾎管リスクが⾼い中年男性 以前から労昨時の胸苦があったが ⾃然軽快していた 今回は経時的に悪化し受診 進⾏性の重症病態 (今回は急性冠症候群) • • • ⾼齢独居の⼥性 家族は遠⽅に在住している 毎⽇のように救急を受診し、⼼電図検査を 受けいつも正常 不安や、軽微な⾝体変化への 忍容性の低下が⼀因 独居、判断⼒低下が影響
#19.
夜は⾮⾝体的な問題への対応は難しい • ⾮⾝体的な問題には社会的側⾯や精神的側⾯などが含まれる e.g. ⽼⽼介護、⾼齢独居、未診断の精神疾病、貧困など • 夜間救急において、⾮⾝体的問題をかかえる患者にできることは 多くないが善処しよう e.g. 地域包括⽀援センターや病院のソーシャルワーカーについて案内、介護申請 を案内、家族が遠⽅の場合でも都度きちんと電話説明、翌朝にケアマネージャーに 電話し状況整理を依頼、かかりつけ医への受診報告書など やってあげられることが少ないときに、医療者は陰性 感情をもちやすいです
#20.
Bio-Psycho-Social model 「重症感のない患者のER受診」は忙しいERの悩みの種であるが、これを理解するのに有 ⽤なのが、「既存の医療システムの中で解決できなかった問題が『急ぎ』という顔をして やって来ている」という捉え⽅である。 ERで対応するときに、その場の対応も⼤事だが(中略)、ERとそうでない場をつなぐこ とで、救急受診を含めた医療システム全体としての成功体験をコーディネートすることは、 医療制度に対する信頼度を上げる。 荒隆紀. 京都ERポケットブック(第1版). 医学書院.2018年.より引⽤ • 救急外来は、シンプルに医学的問題のみを解決する場所ではないため、医師 は「⽣物学的/医学的な(Biomedical)課題を解決する仕事である」と認識 すると現実との不協和からストレスを抱えやすくなる • 医師を含む医療者は⽣物学的/⼼理的/社会的な課題を解決する仕事であると 理解するとよい(Bio-Psycho-Social model, BPSモデル) Engel GL. The need for a new medical model: a challenge for biomedicine. Science. 1977 Apr 8;196(4286):129–36.
#21.
病歴の4つのフェーズ 4. 救急外来を受診する 「もう無理︕」 3. 経過を⾒る 受診閾値 「なんか変…」 がまんする、薬を飲む • フェーズ1の状態が悪い⼈も多い • フェーズ2〜3の厚さがどれくらいかは 2. ある⽇、体調変化が起こる 「あれ︖これは困ったぞ」 1. いつも通りの状態 ⼈間には体調の波はあり Bio-Psycho-Socialに規定される • 医師が診察するのはフェーズ4の状態だが フェーズ1~3の状況ついて聴取したり 推し量ったりすることが⼤切 不調の⽇もあるが異変は感じない 図は、荒隆紀. 京都ERポケットブック(第1版). 医学書院.2018年.より引⽤改変
#22.
Take home message イライラの原因は患者以外にもある 患者要因、医師要因、環境要因が相互に関わっている 陰性感情で、診療の精度を下げないために 「メタ認知」と「理由の背景にある理由」を理解しよう 「なんで︖」は、怒りの⾔葉ではなく、疑問の⾔葉 「BPSモデル」「病歴の4つのフェーズ」を活⽤しよう