テキスト全文
Bio-Psycho-Social modelの概要と重要性
#1. Bio-Psycho-Social model とは?
器質疾患のピットフォール
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
Common disease の非典型的症状
Psycho-Social のスクリーニング
common disease & factor
問診の型 内科一般外来に必須! Bio-Psycho-Social model
#2. 初期研修で“一般”外来研修が必修化 多くの疾病のマネジメントが入院医療から外来医療に移行しつつあること、地域包括ケアをはじめとする医療提供体制の変化が起こりつつあること、また診断のついていない患者での臨床推論を的確に行う能力の重要性が高まってきていることなどから、医師の外来診療能力を一層高めるために一般外来における研修が必修とされた。 医師臨床研修指導ガイドライン-2020年度版-
#3. Bio-Psycho-Social model とは?
器質疾患のピットフォール
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
Common disease の非典型的症状
Psycho-Social のスクリーニング
common disease & factor
問診の型
#4. Bio-Psycho-Social model とは?
器質疾患のピットフォール
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
Common disease の非典型的症状
Psycho-Social のスクリーニング
common disease & factor
問診の型
Bio-Psycho-Social modelの実践とアプローチ
#5. Bio-Psycho-Social model 精神科医のEngelが1977年にbiomedical modelに対比する疾患モデルとして、Bio-Psycho-Social modelを提唱したのが始まり。
それまでは「病気のせいで症状が起きる」という直線的な因果関係モデルが基本だったが、慢性疾患を複数抱えている場合など、そのモデルでは説明しきれない状況が増えてきた。
そこで、生物・心理・社会という3つの要因のそれぞれから患者の真の問題点を探ろうというのがBio-Psycho-Social model 。
#6. Bio-Psycho-Social model 一般外来ではこれらの問題が併存していることが多い。
Bioだけの視点では主訴を解決できないことがある。
#7. Bio-Psycho-Social model 二次性高血圧の精査?降圧剤増量?
それも1つの手ではあるが、同時にストレス軽減、うつスクリーニング、睡眠の改善などのPsycho-Social approach がより本質的かつ効果的。
例)の最後の1行の情報をclosed questionで聞き出すことがポイント! 例)55歳男性 血圧コントロール不良
高血圧で通院中だが、最近になって血圧高めに
禁煙も指導しているが成功していない
話を聞くと、仕事のストレスから不眠となり、喫煙本数も増えたとのこと
#8. 多方面からのアプローチ 一方で、器質疾患を見逃さないことばかり注力すると俗に言う「たらい回し」状態になってしまう。
それを防ぐには、Bio, Psycho, Social それぞれのcommon disease & factor を優先して除外していくことが大切。
内科医がPsycho-Social factor をスクリーニングできれば、速やかな診断・治療に繋がりうるので、患者へのメリットが大きい。 原因不明の症状において
「Biomedical factor が見つからないから
Psycho-Social factor が原因だ!」
という早期閉鎖は誤診に繋がる。
器質疾患のピットフォールと非典型的症状
#9. Bio-Psycho-Social model とは?
器質疾患のピットフォール
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
Common disease の非典型的症状
Psycho-Social のスクリーニング
common disease & factor
問診の型
#10. 器質疾患のピットフォール ①
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
解剖学的に大きく3つ
内分泌疾患(甲状腺機能異常、副腎不全 など)
電解質異常(高/低Ca など)
頭蓋内疾患(腫瘍、血腫、脳卒中 など)
Common diseaseで3つ
パーキンソン病(便秘・活気低下・慢性疲労・・・)
SAS(頭痛・めまい・倦怠感・・・)
頚髄症(めまい・ふらつき・しびれ・・・)
#11. 器質疾患のピットフォール ②
Common disease の 非典型的症状
緩徐進行性片側肩・頚部痛 → パーキンソン病
繰り返すめまい → 片頭痛(前庭性片頭痛)
発熱・頭痛だけ → 異型肺炎
左下腹部痛 → 虫垂炎
下痢20回/日 → 虫垂炎
以上は全て自験例。このようなストックを増やしていくことが診断力向上のカギ。
Common disease はrare diseaseよりも圧倒的に検査前確率が高いので、
陰性尤度比小さめの情報が得られても鑑別疾患1位の座は揺るがないことが多い。
Rare diseaseを閃いたとしても、まずはcommon diseaseで説明できないか検索すべし。
#12. Bio-Psycho-Social model とは?
器質疾患のピットフォール
Psycho-Social と間違いやすい器質疾患
Common disease の非典型的症状
Psycho-Social のスクリーニング
common disease & factor
問診の型
心理的要因と社会的要因の重要性
#13. Common (& critical) psychological factor 内科外来で見落とせないのは「うつ病」
うつ病はcommon かつ critical(自殺)なので
スクリーニングの仕方を覚える!(たった2つの質問)
1.抑うつ(mood)
「この1ヶ月間で気分が沈んだり、憂うつな気分になることはよくありましたか?」
2.興味(enjoyment)
「この1ヶ月間で物事に興味がわかなくなり、以前は楽しめていたことが楽しめなくなっていませんか?」
2つとも「いいえ」ならば90%以上の感度でうつ病を除外できる。
1つあれば、食欲・睡眠、ストレス要因など更に確認を。
#14. Common social factorの例 食思不振 → 認知症+独居で食事を準備できない
慢性胃痛 → 対人関係ストレス
不眠 → 不規則な勤務形態
糖尿病増悪 → 貧困・介護などによるself neglect
頻回転倒・外傷 → DV、虐待
些細な症状での検査希望 → 身内を亡くした
#15. 問診の型 まず確認すること
生活への支障度合い
症状への対処法(受療行動も含めて)
解釈モデル
聞いていて腑に落ちない、違和感がある時には心理・社会的要因があるのかもしれない。
ただし、これらの問診は「器質疾患ではなさそう」というバイアスがかかった状態で行うことが多いので、初学者は容易に早合点してしまう傾向(※)にあることは知っておくべき。
(※)器質疾患らしくない情報が少しでも得られると「やっぱりね」と早期閉鎖してしまうという認知バイアスのこと。
問診の型と患者へのアプローチ
#16. 問診の型 まず確認すること
生活への支障度合い
症状への対処法(受療行動も含めて)
解釈モデル
「生活への支障は?」とただ曖昧に聞くのではなく、
「何が一番困りますか?」「この症状のせいで出来なくなったことはありますか?」
例)「仕事を休むようになった」→ 元々辞めようと思ってた仕事か、自分がいないと
業務が止まってしまうような個人経営の仕事か、など詳細次第で情報の価値は全く変わる。
心理・社会的要因に飛びつくのではなく、まずは病歴が不正確なのかもと疑う。
病歴は聞き方次第で正確さが変わる!大事な情報は必ず自分で確認!
#17. 問診の型 まず確認すること
生活への支障度合い
症状への対処法(受療行動も含めて)
解釈モデル
「症状のピークはいつでしたか?ピーク時にはどう対処しましたか?」
症状の程度によって当然対処行動も変わるため、何点の症状がどれ位続いて、その時にどうしたのか?と定量化して聞き出すのがポイント。
「お薬手帳を見せて下さい」
経過の長い患者では、時系列的で受療行動を全て問診すると時間がかかるので、薬手帳の受診歴を元に話を進めるとスムーズ。
「この症状のことで他の病院に受診したことはありますか?」
同じ科に紹介なしで受診している場合には理由を確認してみる。
#18. 問診の型 まず確認すること
生活への支障度合い
症状への対処法(受療行動も含めて)
解釈モデル
「症状の原因に心当たりはありますか?」
「何か心配な病気はありますか?」
すでに検査で否定されている疾患を過剰に心配して受診するケースもある。
心理・社会的要因を疑っていない場合でも、必ず問診の最後に解釈モデルを確認する習慣をつけると患者ニーズを外しにくくなる。
患者が何となくこれっぽいという診断が正しいこともある。インターネットを上手に使えたり、以前にも似た症状を経験した場合などは特に。
#19. 終わりに 心理・社会的要因が背景にありそうな患者の診察は、初学者にとってハードルが高く時間もかかる。問診は外科手技同様に診療スキルの一種なので、それは当然のこと。ただ、外科手技よりも実践練習の機会が多いため、コツを学び繰り返し練習すれば、研修医・専攻医でも上級医と張り合える。
習熟してもある程度の時間は必要(1回15分が目安)。緊急性を要する疾患に配慮しつつ、経過観察や場合によっては診断的治療など行いながら、難解症例の本質に迫っていくのが外来診断学の醍醐味。
謝辞と学びのまとめ
#20. 謝辞 このスライドは2023年度で千葉大学総合診療科教授を退官される生坂政臣先生の元で学んだ内容が基礎になっています。
問診時の間合い・視線の向け方、診断学に対するスタンス、他科専門医への接し方など、生坂先生の姿勢を見て非常に多くのことを学ばせて頂きました。本当にありがとうございました。
この学びを日々の診療に活かし、周囲に広めていければ、最終的に多くの患者さんの幸せに繋がるはずであり、それこそが最大の恩返しになるかなと思っています。