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ドクターヘリによる迅速な医療介入により救命し得た 硫化水素中毒の1例

投稿者プロフィール
Dr.クルクル@救急&ICU

医療法人財団明理会行徳総合病院

17,656

33

概要

ドクターヘリで病院前診療を行ったり中毒ガス暴露症例に遭遇しうる救急科医、救急外来なら何でも診ます!の初期研修医、全国各地の温泉地で働く医療関係者の皆様にご覧いただきたいスライドです。硫化水素中毒への対応を症例をもとに解説します。

◎目次

・本スライド対象者

・世界からみた日本の温泉

・全国各地の硫黄泉

・硫化水素中毒の臨床症状

・高濃度硫化水素暴露の予後

・症例の緒言

・症例

・救急隊とドクターヘリの動き

・ヘリドクター診察時の身体所見

・ヘリドクターの方針

・当院搬送までのヘリドクターの動き

・病院到着時の身体所見

・血液ガス分析

・血液検査所見

・画像所見

・診断と治療方針

・乳酸値およびMet-Hbの推移

・入院後経過

・ドクターヘリによる早期医療介入

・硫化水素中毒の機序

・硫化水素中毒の治療

・メトヘモグロビンも油断ならない

・亜硝酸ナトリウムの投与法

・本症例の亜硝酸ナトリウム投与法

・亜硝酸ナトリウムの終了基準

・Take Home Massage

本スライドの対象者

研修医/専攻医/専門医

参考文献

  • 山村順次. 世界の温泉地: 発達と現状. 日本温泉協会, 2004.5.

  • 相馬一亥. 臨床中毒学 第1版第4刷. 医学書院, 2016.

  • Philippe H, Ann N Y Acad Sci. 2016 June ; 1374(1): 29–40.

  • Tvedt B, Am J Ind Med, 20: 91-101, 1991.

  • Ludlow JT, et al. StatPearls Treasure Island (FL), Aug 29, 2022.

  • Kyohei M, 日臨救急医会誌. 2017;20:69-73.

  • Yasuhisa F, 中毒研究. 2010;23:297-302.

  • Frederic JB, BMJ.1996;312:26-7.

  • 三浪 陽介, 日集中医誌.2012;19:219~223.

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テキスト全文

  • #1.

    ドクターヘリによる迅速な医療介⼊により 救命し得た 硫化⽔素中毒の1例

  • #2.

    本スライド対象者 ・ドクターヘリで病院前診療を⾏う ・中毒ガス暴露症例に遭遇しうる 救急科医 ・救急外来なら何でも診ます!の 初期研修医 ・全国各地の温泉地で働く 医療関係者の皆様

  • #3.

    世界からみた⽇本の温泉 ⽇本には 約3102か所の宿泊施設を有する温泉地があり 温泉地数は「世界No.1」である︕ (2位︓中国 約3000か所、3位︓トルコ 約500か所) ⼭村順次. 世界の温泉地: 発達と現状. ⽇本温泉協会, 2004.5. そして、⽇本の温泉の種類(泉質)は 約10種類(単純温泉、塩化物泉、炭酸⽔素塩泉など)と豊富

  • #4.

    全国各地の硫⻩泉 全国 約3102か所の温泉地のうち 硫黄泉は約500か所(16%)を占める 腐った卵のような匂い(腐卵臭)と 湯の花による白濁したお湯が特徴 硫黄泉はさらに2種類に分けられる ① 硫化水素が含まれる:硫化水素型 ② 硫化水素が含まれない:硫黄型 酸性度の高い硫黄泉は「硫化水素型」である

  • #5.

    硫化⽔素の特徴 無⾊透明で腐卵臭がする 構造式︓H2S 分⼦量︓34.08 g/mol(空気より重い) 低濃度でも嗅覚で感じることができる むしろ、⾼濃度になると嗅覚が鈍り匂いが分からなくなる︕ 硫化⽔素の危険性 硫化⽔素は⾮常に有毒な気体である 低濃度の硫化⽔素で⽬や⿐の痛み、嘔吐、頭痛が出現 ⾼濃度の硫化⽔素は致死的 (次ページ参照👉) 硫化⽔素の防護⽅法 匂いを感じたら、速やかに安全な場所へ移動し換気を⾏う 温泉地全体に匂いが漂っている場合は分かりづらいです(笑)

  • #6.

    硫化⽔素中毒の臨床症状 H2S濃度 臨床症状 0.025〜 100 100〜150 「腐った卵」の匂い 50〜200 ⾓結膜炎、⿐炎、咽頭炎、気管⽀炎 200< 頭痛、悪⼼嘔吐、錯乱、健忘、傾眠 300〜500 ARDS(急性呼吸窮迫症候群) 500< 痙攣発作、呼吸停⽌、循環不全、死亡 嗅覚神経⿇痺 750〜1000 ノックダウン現象:数回の呼吸で昏睡 相⾺⼀亥. 臨床中毒学 第1版第4刷. 医学書院, 2016.

  • #7.

    ⾼濃度硫化⽔素暴露の予後 ⾼濃度硫化⽔素に暴露したラットは 75%が死亡 25%が⽣存 ⇨ その25%に神経学的後遺症 Philippe H, Ann N Y Acad Sci. 2016 June ; 1374(1): 29–40. ⾼濃度硫化⽔素に暴露したヒトは 6名中5名が神経学的後遺症が残存した Tvedt B, Am J Ind Med, 20: 91-101, 1991. ⾼濃度硫化⽔素暴露症例の神経予後は⾮常に悪い

  • #8.

    症例の緒⾔ ドクターヘリシステムによる 迅速な治療介⼊ 特異的治療 により (亜硝酸ナトリウム持続投与) 神経学的後遺症なく、救命した1例を報告

  • #9.

    症例 患者︓ 30代⼥性 既往歴・内服歴︓ 特記事項なし 現病歴︓ 温泉地(硫⻩泉)の峠をサイクリング中 1m下の窪地にぬいぐるみが落下 ぬいぐるみを回収するため窪地へ下りた直後に卒倒

  • #10.

    救急隊とドクターヘリの動き 12:04 ⼊電︓友⼈が⽬の前で倒れた︕ 12:07 救急隊出動 12:21 現場到着 12:25 患者を⾞内収容 12:26 現場出発 ⼭道を下り RPを⽬指す 12:37 道の途中で合流 緊急性が⾼い通報の時は ドクターヘリにもすぐ連絡が届く 12:08 ヘリ要請 12:13 ヘリ離陸 12:32 RP着陸 RPの救急⾞に乗って現場へ 12:37 道の途中で合流 ※RP = ランデブーポイント︓ドクターヘリが着陸できる場所 現場に最も近い場所が選ばれるが、⼭奥では離れた場所になる

  • #11.

    ヘリドクター診察時の⾝体所⾒ 強い腐卵臭あり 呼吸数 36回/分 SpO2 100%(BVM 10L/min) ⾎圧 130/68 mmHg, ⼼拍数 100回/分 GCS E1V2M4, 瞳孔不同なし, 四肢⿇痺なし 簡易乳酸値測定︓12.5 mmol/L

  • #12.

    ヘリドクターの⽅針 腐卵臭があるため硫化⽔素中毒を疑った 現場からの情報で濃度800ppmと判明︕ 『除染』⽬的に全⾝脱⾐ 経⼝気管挿管し100%酸素投与を開始 基地病院に情報提供し 特異的治療の準備を要請した

  • #13.

    当院搬送までのヘリドクターの動き 12:37 ⼭道の途中で患者のいる救急⾞に乗⾞ ⼭道を下りながら、その場で出来る診療を実⾏ RPに到着し、ドクターヘリに患者を収容 13:03 ヘリ現場離陸 13:19 基地病院着陸

  • #14.

    病院到着時の⾝体所⾒ SpO2 100%(吹き流し10L/min) 呼吸数 20回/分 ⾎圧 98/64 mmHg, ⼼拍数 89回/分 GCS E2VTM5, 瞳孔不同なし, 四肢⿇痺なし 髪が濡れ硫⻩臭著明, 左前額部に⽪下出⾎斑あり 左⾜関節内側から⾜底に⽪下出⾎斑あり 左⾜背に⽪下剥離あり

  • #15.

    ⾎液ガス分析 pH pCO2 7.37 30.4 mmHg Anion Gap 14.6 mmol/L Lac 5.26 mmol/L pO2 440 CO-Hb 0.4 % HCO3 17.2 mmol/L Met-Hb 0.3 % Base Excess -6.9 mmHg mmol/L 【⾎ガス分析のアセスメント】 ⾼濃度酸素投与中のため pO2⾼値 硫化⽔素中毒による乳酸値上昇 呼吸代償された乳酸アシドーシス

  • #16.

    WBC 127 Hb ⾎液検査所⾒ 102/μL Na 147 mEq/L 11.7 g/dL K 3.5 mEq/L plt 24.7 104/μL Cl 113 mEq/L INR 1.09 BUN 21 mg/dL APTT 24.5 秒 Cre 0.58 mg/dL D-dimer 0.7 μg/mL CK 250 U/L T-Bil 0.6 mg/dL ⾎糖 133 mg/dL AST 47 U/L アンモニア 24 μg/dL ALT 27 U/L エタノール 3.0 mg/dL 【⾎液検査のアセスメント】 ⾝体的ストレスによる⽩⾎球上昇(︖) ⾎管内脱⽔に伴うNaおよびBUN上昇 ⾎液検査では意識障害をきたす原因なし

  • #17.

    画像所⾒ 頭部CT︓ 頭蓋内病変なし, 脳浮腫なし 胸部CT: 肺炎像なし, 胸⽔なし 腹⾻盤部CT︓明らかな異常所⾒なし

  • #18.

    診断と治療⽅針 診断︓硫化⽔素中毒 治療︓⼈⼯呼吸器管理+⾼濃度酸素投与 3%亜硝酸ナトリウム持続投与 《投与⽅法》 • 3%亜硝酸ナトリウム 10mlを6分間で急速投与後 同濃度の製剤を流速 5 ml/hrで持続投与 • メトヘモグロビン濃度(Met-Hb) 20%を⽬標 • 乳酸値の正常化を持続投与の終了指標とした

  • #19.

    乳酸値およびMet-Hbの推移 乳酸値が1.29mmol/Lまで改善したところで 亜硝酸ナトリウムの持続投与は終了 (計1時間56分投与) メトヘモグロビン濃度は最終的に14%まで上昇した 17.5時間で乳酸値とメトヘモグロビン濃度が十分低下したため 高濃度酸素投与終了→挿管チューブ抜管→その日の午後にICU退室

  • #20.

    ⼊院後経過 第2病⽇︓⾼濃度酸素投与を終了し、抜管 第5病⽇︓軽度の頭痛は残存していたが 神経学的後遺症なく, 独歩退院 1年後のフォローで後遺症なし めでたし、めでたし〜(次ページから考察👉)

  • #21.

    ドクターヘリによる早期医療介⼊ ドクターヘリシステムによって ①早期のABC(気道・呼吸・循環)安定化 ②標準的な中毒診療→『早期除染』 ③ 情報共有により早期から集中治療につなげる が可能となった。

  • #22.

    硫化⽔素中毒の機序 硫化⽔素は少量であれば速やかに毒性の低い物質へ 代謝/排出されるため、臓器障害は⽣じない。 しかし、 ⼤量に吸⼊され解毒が追いつかなくなると ミトコンドリア内のチトクロム・オキシダーゼに結合し 同酵素を失活させることで好気代謝を阻害する。 主にエネルギー代謝が活発な脳と⼼臓において症状が出現。 解糖系による嫌気代謝が促進することで乳酸値も上昇する。 重症例では意識障害と代謝性アシドーシスが出現する。

  • #23.

    硫化⽔素中毒の治療 ①100%酸素投与 チトクロム・オキシダーゼを介さない好気代謝を促す ②亜硝酸塩の投与 投与⽅法は亜硝酸アミルの吸⼊と亜硝酸ナトリウムの静注 ⾚⾎球のヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビンを⽣成 メトヘモグロビンは硫化⽔素との親和性が⾼く チトクロム・オキシダーゼに結合した硫化⽔素を解離させ チトクロム・オキシダーゼの酵素活性が復活︕

  • #24.

    メトヘモグロビンも油断ならない メトヘモグロビン(Met-Hb)は酸素を運ぶことができない ⾎中のメトヘモグロビン濃度が上昇すると有害事象が出現する Met-Hb濃度 < 15% 臨床症状 症状なし 15 - 30% チアノーゼ、不安、軽い頭痛、倦怠感 30 - 50% 頻呼吸、意識障害、失神 50 - 70% 痙攣、不整脈、昏睡、代謝性アシドーシス 70% < 死亡 Ludlow JT, et al. StatPearls Treasure Island (FL), Aug 29, 2022.

  • #25.

    亜硝酸ナトリウムの投与法 間⽋投与ではメトヘモグロビン濃度を 治療域で維持できなかった Kyohei M, ⽇臨救急医会誌. 2017;20:69-73. 概ね2時間毎に 3%亜硝酸ナトリウム 10mlの投与を要した 報告を踏まえ、亜硝酸ナトリウムの持続投与とした (5ml/hrを⽬安にメトヘモグロビン濃度を測定しながら投与) Yasuhisa F, 中毒研究. 2010;23:297-302.

  • #26.

    本症例の亜硝酸ナトリウム投与法 メトヘモグロビン濃度=20%前後を⽬標に 3%亜硝酸ナトリウム 10mlを6分間で急速投与 その後、5ml/hrで持続投与開始 Kyohei M, ⽇臨救急医会誌. 2017;20:69-73. 持続投与は珍しいものの参考となる報告あり 終了時期の指標に関する報告はなく 本症例の加療のために、独⾃に検討した

  • #27.

    亜硝酸ナトリウムの終了基準 シアン中毒でも亜硝酸塩の投与が同様の機序で効果を⽰す シアン中毒における⾎中シアン濃度の減衰曲線と 乳酸値の変化に相関があった Frederic JB, BMJ.1996;312:26-7. シアン中毒において乳酸値の低下が 全⾝状態改善の指標となった 三浪 陽介, ⽇集中医誌.2012;19:219~223. 硫化⽔素中毒でも乳酸値が治療効果の指標になるのでは︖ 「乳酸値の正常化」を終了基準とし 神経学的後遺症なく退院した

  • #28.

    Take Home Massage 硫化⽔素中毒において ドクターヘリシステムを⽤いた迅速な治療介⼊ および、亜硝酸ナトリウムの持続投与による 集学的治療で良好な転帰が得られた。 亜硝酸ナトリウム持続投与において 乳酸値が適切な終了時期の指標となり得る。 今後の症例蓄積が期待される。

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