#4.
⾼齢者救急って・・・ なんか難しいよね 疎通取れないし訴えがよくわからない ⾝体所⾒とれない 病気多すぎ かかりつけ多すぎ 飲んでいるお薬多すぎ 搬送断られる たらい回しされがち 1ヶ⽉前からの⾷欲低下・・・どうして今救急⾞でくるの︖ 意識悪いけどよくわからん また転倒か・・・ 帰れそうなのに家族に⼊院させてと⾔われる なぜACPされていないんだ ↓結果 やりがいがない 陰性感情が湧く いったん上記のような現場でのイメージを否定せず 「⾼齢者救急」に携わることを前向きに捉え、 診療の質を向上していくこと が今回のウェビナーの⽬的です︕
#5.
症例を通して⾼齢者救急を⾒直そう ・ちょっと学び ・ちょっと視野広く ・ちょっとやりがい
#6.
症例提⽰ 70代⼥性 <主訴>転倒 <現病歴>夫と2⼈暮らしの70代⼥性。もともと3年前まで2型糖尿病に対して投 薬治療を受けていたが、認知機能の低下やADLの低下により通院を⾃⼰中断され ていた。ここ最近頻回の転倒歴があった。受診当⽇の昼までは普段通り。夫が仕 事から帰ると⼣⽅に⾃宅の庭先で誤って転倒して顔⾯を受傷された。絆創膏を 貼って処置してその後夫と2⼈で⼣⾷に出かけたが、⼊った居酒屋の店員が前額 部から出⾎し続けているのを⾒て救急⾞を呼ぶよう助⾔あり、タクシーで⾃宅に 帰ってから救急要請されて夜間ER搬送となった。 <既往歴>糖尿病(治療⾃⼰中断) <内服薬>なし <⽣活歴>ADL⾃⽴ 夫と2⼈暮らし
#7.
来院後経過 <来院時バイタルサイン> BP134/80 HR100 RR24 SpO2 98%(RA) BT37.1 GCSE4V4M6(⾒当識障害あり) <⾝体所⾒>※外傷初期診療に基づいて対応 右頭頂部に23cmの⽪下⾎腫あり 右前額部に6cm⼤の挫創あり ⿐出⾎・⽿出⾎・⼝腔内出⾎なし う⻭あり 頸部圧痛なし 呼吸⾳清 ⼼雑⾳なし 腹部圧痛なし 四肢は絆創膏多数貼っており擦過傷や⽪下⾎腫多数 <静脈⾎液ガス>pH7.46 pCO2 28 HCO3 19.6 Glu323 乳酸19.6mg/dl <⾎液検査>WBC8300 Hb13.6 Plt18.2 Na132 K3.8 BUN19 Cr0.44 アルコール基準 感度未満 <⼼電図>ST-T変化なし <エコー>E-FAST1回⽬、2回⽬陰性 ⼼電図︓特記異常なし
#8.
傷の写真 <頭部CT>明らかな出⾎や⾻折なし <頸椎CT>明らかな⾻折や脱⾅なし
#9.
ERでのアセスメント&プラン #.前額部挫創 #.頭頂部⽪下⾎腫 四肢の擦過傷・⽪下⾎腫 #.糖尿病(治療⾃⼰中断) #.軽度認知症の疑い(⾒当識障害あり) ⽣⾷洗浄、40ナイロンで縫合 ⼊院加療を要する外傷なし。 帰宅の⽅針。 抜⽷、糖尿病のフォローは近医に依頼。紹介状を作成してお渡し。
#10.
帰宅後経過 息⼦の⾃宅で暮らすこととなった。 ・・・が動けない︕⾷事とれない︕
#11.
帰宅した翌々⽇ 意識も悪くなり救急外来を受診。 収縮期⾎圧60台︕
#12.
再度評価したところ・・・ <動脈⾎液ガス> pH7.186 pCO2 16.5 HCO3 6.1 Lac41.0mg/dl Glu669mg/dl AG21.9 →著明なAG開⼤性代謝性アシドーシス <⾎液検査> WBC18800 CRP10.79 BUN76 Cr2.00 HbA1c11.7% ⾎中ケトン6.7 →炎症反応上昇 腎機能障害 HbA1c⾼値 ⾎中ケトン上昇 糖尿病性ケトアシドーシス AKIでICUに⼊院
#13.
⼊院後 翌朝にはDKAは寛解し⾷事再開。経⼝⾎糖降下薬2剤でコントロールできるように <判明したこと> ・夫も認知症(関係性は良いとは⾔えない) ・う⻭あり ⾷事摂取不良であった ・⼊浴は週1回 ・⽣活は荒廃し、介護体制不⼗分 ・⼦供(近隣の息⼦、遠⽅の娘)は週1回様⼦を⾒にいく程度 ・本⼈は数年前まで医療系の仕事をしていた。仕事をやめて免許も返納して認知症が進⾏した ・介護保険未申請 ・リハビリ評価では外出できるかは際どい 当院で介護申請を⾏い、転院先での社会資源調整を進めて 施設⼊所を⽬指すことに。
#14.
症例を通して⾼齢者救急を⾒直そう ・ちょっと学び ・ちょっと視野広く ・ちょっとやりがい
#15.
症例を通して⾼齢者救急を⾒直そう ・ちょっと学び ・ちょっと視野広く ・ちょっとやりがい
#16.
Canadian CT Head Rule(CCHR) 成人・GCS 13–15 + 頭部外傷後の 意識消失 / 健忘 / 見当識障害(confusion) まず適⽤対象を確認 HIGH RISK ※ 単なる「頭をぶつけた⼈」全員に適⽤するルールではない → 神経学的介⼊リスク ① 受傷 2時間後も GCS <15 ② 開放性 / 陥没性頭蓋⾻⾻折を疑う ③ 頭蓋底⾻折徴候(Battle sign、raccoon eyes、髄液漏、⾎⿎室) MEDIUM RISK → CT上の脳損傷リスク ⑥ 受傷前の逆⾏性健忘 >30分 ⑦ Dangerous mechanism 歩⾏者 vs ⾞ / ⾞外放出 / 3 ft超(≈1 m)または5段超の転落 ④ 嘔吐 ≥2回 ⑤ 年齢 ≥65歳 注意 1項⽬でも該当 → 頭部CTを強く考慮 抗凝固薬使⽤・出⾎性素因、痙攣、局在神経症状などは原法CCHRの適⽤外/別途評価が必要。 臨床判断や施設プロトコルを優先する。 Stiell IG, et al. Lancet. 2001;357:1391–1396. | NICE NG232 Head injury (2023, updated guidance).
#17.
軽度頭部外傷(GCS 14点)を帰宅させてよいか︖ ① GCS 14 は“異常” • ABC / ⾎糖 / 低酸素・低⾎圧 • 飲酒・薬剤・認知症など交絡因⼦ • 神経所⾒・瞳孔・頭蓋底⾻折徴候 成⼈の初診時 GCS <15 → NICE︓頭部CTを1時間以内 Canadian CT Head Ruleでも 「受傷2時間後も GCS <15」は 神経学的介⼊を予測する ⾼リスク因⼦ 観察中に⾒るもの GCS推移 / 頭痛・嘔吐 局在神経症状 / 痙攣 バイタル・⾏動変容 ② CT後︓点数ではなく“回復”で決める 頭部CT︓clinically important injury ? なし あり ⼊院 脳外科相談 必要時転送 CT正常でも… ③ 帰宅させない状況 • GCS 14が持続 / 再低下 • CT異常、局在神経症状、痙攣 • 反復嘔吐・増悪する頭痛 • intoxication等で評価が不確実 • 多発外傷・ショックなど 他の⼊院理由 • ⾃宅での⾒守りが確保できない GCS 15 / baselineへ 回復するまで観察 帰宅を検討できる条件 ✓ GCS 15 / baseline、神経所⾒安定 ✓ 症状改善、他の⼊院理由なし ✓ 信頼できる成⼈が24時間⾒守れる ✓ 書⾯+⼝頭で再受診基準を説明 「CT正常」≠「GCS 14で帰宅可」 意識が15点へ戻ることが 安全な帰宅判断の重要条件 参考︓NICE NG232 Head injury (2023; updated 2025) / ACEP Clinical Policy: Mild Traumatic Brain Injury (2023) / Stiell IG, et al. Lancet. 2001;357:1391–1396.
#18.
外傷診療のピットフォール もちろん外傷初期診療(primary survey+secondary survey)を忠実に︕ その上で、 ABCDの安定+病歴聴取(受傷機転や内服薬) +α 外傷に内的要因がないかどうかを 拾いにいくことが⼤事︕ JATECについて https://www.jtcr-jatec.org/index_jatec.html PTLSについて http://www.ptls.jp/information-sp.html
#19.
⾼齢者の転倒・外傷 -背景にある内的要因- 外傷そのものだけでなく、「なぜ転倒したのか︖」を考える ♥ ⼼⾎管系 ● • 不整脈 • 起⽴性低⾎圧 • ⼼不全・低⼼拍出 • 脱⽔・循環⾎液量減少 ◈ 神経系 ◆ • 脳卒中 / TIA • パーキンソニズム • てんかん・痙攣 • 不随意運動 代謝・内分泌 • 低⾎糖 / ⾼⾎糖 • 電解質異常 • 貧⾎ • 低酸素⾎症 ◎ 運動器系 ✚ • 変形性関節症 • 筋⼒低下・サルコペニア • ミオパチー • 歩⾏・平衡障害 感覚・認知 • 視⼒低下 • めまい・前庭障害 • 認知症 • せん妄 R x 感染症 • 肺炎 • 尿路感染症 • インフルエンザ / COVID-19 • 敗⾎症 薬剤 • 睡眠薬・ベンゾジアゼピン • 抗精神病薬 / 抗うつ薬 • 降圧薬・利尿薬 • ⾎糖降下薬 転倒 = 外傷 と決めつけない 転倒は、内科疾患の最初のサインかもしれない
#20.
症例を通して⾼齢者救急を⾒直そう ・ちょっと学び ・ちょっと視野広く ・ちょっとやりがい
#21.
プロブレムを⾒直してみる #.前額部挫創→縫合 後⽇近医外来フォロー #.頭頂部⽪下⾎腫→経過観察 #.糖尿病(治療⾃⼰中断) #.軽度認知症の疑い(⾒当識障害あり)
#22.
プロブレムを⾒直してみる #.前額部挫創→縫合 後⽇近医外来フォロー #.頭頂部⽪下⾎腫 四肢の擦過傷・⽪下⾎腫→経過観察 #.糖尿病(治療⾃⼰中断) #.軽度認知症の疑い(⾒当識障害あり) #.う⻭ ①医学的状況 ②暮らし #.⽼⽼介護 ③家族 #.KPが認知症 ④仕事 #.介護保険未申請 ⑤お⾦ #.家族サポート不⼗分 ⑥制度 #.ACP未 →社会的プロブレムもしっかり聴取
#23.
プロブレムを⾒直してみる #.前額部挫創→縫合 後⽇近医外来フォロー #.頭頂部⽪下⾎腫 四肢の擦過傷・⽪下⾎腫→経過観察 #.糖尿病(治療⾃⼰中断) #.軽度認知症の疑い(⾒当識障害あり) #.う⻭(未治療) #.⽼⽼介護 #.KPが認知症 #.介護保険未申請 #.家族サポート不⼗分 #.ACP未 救急的 →ERで 介⼊しやすい 内科的 (かつ緊急性の低い慢性疾患) 社会的→即座の介⼊は難しい
#24.
⾼齢者救急を連想させるキーワード 多疾患併存 ⾮典型的症状、病歴聴取困難、診断未確定、情報不⾜ 認知症、フレイル、ポリファーマシー、服薬管理困難、転倒、せん妄 ADL低下 独居、孤⽴、施設⼊所、介護サポート不⾜、⽼⽼介護、 キーパーソン不在、経済的困窮 ACP、代理意思決定 多職種連携 複雑性、⾮確実性
#25.
⾼齢者救急の構図 -救急(外傷診療、蘇⽣、初期対応) +内科(急性期病棟診療、臨床推論・診断スキル、他科との連携) +緩和ケア(終末期のACP) +多職種連携(社会制度の利⽤ +近隣医療機関(早期転院 環境調整 MSWやケアマネージャー) 下り搬送) 診療科・⼀病院を超えて ジェネラリストとしての複合的なマネジメントが求められる領域 施設によっては、複数の診療科をまたいで連携が必要
#26.
※以前ウェビナーより再掲 ジェネラリスト(Generalist)って︖ 【臓器によらず全⾝を診る医師︖】 【病院の規模に応じた役割】 ①家庭医 ②総合内科医 ③救急医 ④集中治療医 ⑤⿇酔科医 慢性期 急性期 隣り合う科は 多少のオーバーラップあり ⼤規模病院 • 診断特化ドクターG • 救急対応 • 全⼊院患者の主治医 • 不⾜科のカバー • ⼊院管理も⾏う家庭医 ⼩規模病院 病院のニーズに合わせられる
#27.
※以前ウェビナーより再掲 総合診療って︖ 総合診療医 家庭医療学的 診療OS 家庭医 病院総合医 病院家庭医 Palliative care 緩和ケア医 ⽣物医学的 内科的 診療所・在宅 診療セッティング 救急医と集中治療医、緩和ケア医もgeneralistの枠組みに ⼊れてみる 総合内科医 ER physician 救急医 Intensivist 集中治療医 病院 J Gen Fam Med. 2021 Nov; 22(6): 314–315. PMID︓34754709
#28.
症状を通して⾼齢者救急を⾒直そう ・ちょっと学び ・ちょっと視野広く ・ちょっとやりがい
#29.
⾼齢者救急はマイナー領域︖ ⼈⼝の構成以上に、救急現場では⾼齢者が中⼼になっている ⽇本⼈⼝に占める65歳以上 29.3% 3,624万⼈ 救急搬送患者に占める⾼齢者 → 63.3% 428万⼈超/年 ⾼齢者救急は、すでに「救急医療の主戦場」 2070年には 2.6⼈に1⼈が65歳以上、約4⼈に1⼈が75歳以上 出典:内閣府「令和7年版 高齢社会白書」/総務省消防庁「令和7年版 消防白書」(令和6年中の救急搬送)
#30.
主訴の“奥”を診るおもしろさ ⾮特異的な訴えほど、⾼齢者救急の総合⼒が問われる 不整脈・感染症・低⾎糖・薬剤・ 脱⽔… 転んだ ⾷べられない 敗⾎症・⼼不全・悪性疾患・ せん妄… 動けない 脳卒中・電解質異常・フレイル・ 疼痛… いつもと違う せん妄・低酸素・感染症・ 薬剤有害事象… 「外傷を診る」から 「なぜ転んだのか」を診る ⾼齢者救急は 救急医学 × 総合診療 × ⽼年医学 ⾮特異的だから“⾯倒”なのではない。 ⾮特異的だからこそ、臨床推論のスキル・教育が活きる
#31.
⾒逃されやすいものを拾うことの価値 ⾼齢者では、バイタル・採⾎・CTだけでは⾒えない重要な病態がある ⾼齢者救急が拾える“さらなるアウトカム” ADL 再受診・再転倒 元の⽣活に戻れるか 次の救急搬送を防げるか 意思決定 本⼈が望む医療につなげられるか 社会背景 独居・介護⼒・服薬・環境まで ⾒られるか 「救命できたか」だけでなく 「その⼈の⽣活と⼈⽣を守れたか」まで考えられる ACPの推進の提⾔あり JJAAM. 2025; 36: 63-81
#32.
⾼齢者救急のやりがい “⼤変な領域”という認識を否定せず、その先にある価値を⽰す 01 陰性感情を否定しない 「また転倒」「情報が取れない」「既往が多い」 02 難しさを魅⼒に変える 主訴の奥にある病態を⾒抜く臨床推論 03 圧倒的なニーズを⽰す 救急搬送の6割以上が⾼齢者 04 救命の先を⽰す ADL・QOLの維持・再転倒予防・意思決定⽀援・ 社会的介⼊ ⾼齢者救急とは、命を救うだけでなく 「患者・家族のその後」を救う救急である
#33.
Take Home Message ・⾼齢者の外傷患者は内的要因を探す ・⾼齢者救急はジェネラリストとしての総合⼒が 求められる ・患者・家族の⽣活の場にも寄り添う⾼齢者救急は 今後ニーズの⾼まる領域の1つである
#34.
ご清聴ありがとうございました
#35.
飯塚病院総合診療部の宣伝(最後に少しだけ・・・)
#36.
2027年度 内科専攻医|若⼲名募集中 「将来何になるか」より、まず「どんな医師になりたいか」 飯塚病院 総合診療部・総合内科 進路がまだ決まっていなくても、構いません。 まずは、雰囲気を知ってください。 内科専⾨研修の3年間で、どの道を選んでも⾃信を持って進める 「ジェネラリストとしての⼟台」を築く。 総合内科医 病院総合医 内科サブスペ (ホスピタリスト) (感染症・膠原病等) オンライン説明会 地域医療 9/16(⽔)18:00–19:00 研修体制・専攻医の働き⽅・質疑応答 ⼀⼈の患者を、救急から地域まで診る。 救急外来 → 急性期病棟 初期対応 診断・治療 → ⾼齢者医療 複雑性への 対応 → 退院⽀援 多職種連携 → 地域・在宅 ⽣活まで ⾒据える 2026年度より 総合診療部 発⾜|3科が連携したジェネラリスト教育 総合内科 × 連携医療・緩和ケア科 × 総合診療科(家庭医@頴⽥病院) 全国から集まる仲間 × 経験豊富な指導医 × 教えあう⽂化 説明会申込 総合内科サイト 病院⾒学・個別相談も随時受付中