#4.
本日の論文1) 雑誌 Lupus Science & Medicine Impact Factor: 4.0 (2025)
#5.
研究背景1: 既知の事実-SLEでは再燃と障害が臨床転帰を規定する • SLEは再燃と寛解を繰り返す疾患である. 30-50% SLE診断後5年以内に障害を有する割合 • 再燃は軽症から入院を要する重症まで 幅があるが, 不可逆的な臓器障害や死 亡に関連. • SLICC/ACR Damage Index (SDI)で 定義される障害は疾患活動性, 併存症, 治療毒性の総和として蓄積する. 約80% SLE患者でGCが使用される割合 EULAR2023推奨2)による臨床的含意: 再燃抑制とGC最小化は疾患活動性制御だけではなく, 不可逆的な障害を防ぐために重要な治療目標である. 領域 主要な障害項目 眼 白内障、網膜病変、視神経萎縮 神経精神 認知機能障害、精神病、けいれん、脳血管障害、神経障害、横断性脊髄炎 腎 GFR <50%、尿蛋白 ≥3.5 g/日、末期腎不全 肺 肺高血圧、肺線維症、shrinking lung、胸膜線維症、肺梗塞、肺切除 心血管 狭心症、CABG、心筋梗塞、心筋症、弁膜症、慢性心膜炎 末梢血管 跛行、組織欠損、四肢切断、静脈血栓症・静脈うっ滞性潰瘍 消化管 腸管梗塞・切除、脾/肝/胆嚢切除、腸間膜虚血、慢性腹膜炎、食道狭窄、膵外分泌不全 筋骨格 筋萎縮、変形・びらん性関節炎、骨折/椎体圧潰、無血管性骨壊死、骨髄炎、腱断裂 皮膚 瘢痕、慢性脱毛、広範な瘢痕、慢性皮膚潰瘍 その他 早発性性腺機能不全、糖尿病、悪性腫瘍 SLICC/ACR Damage Index(SDI): SLE診断後に生じた, 活動性炎症に直接起因 しない非可逆的臓器障害を評価する指標. 原則として6か月以上持続する病変を障害 と してスコア化する.
#6.
研究背景2: SLEにおける臓器障害蓄積の既知のリスク因子 患者背景 • • • • • • 男性 高齢 (診断時年齢) 非白人種・民族的少数派 低教育歴 低社会経済状態・低GDP国 喫煙 治療関連 • • 高用量GC・長期使用 免疫抑制剤使用 疾患関連 • • • • • 高疾患活動性 (高SLEDAI) 再燃の頻度・重症度 罹病期間の延長 既存の障害 抗リン脂質抗体陽性・APS合併 保護因子 • • HCQ使用 LLDAS以上の寛解達成 本研究の焦点: 「再燃(回数・重症度)」が交絡因子調整後も障害蓄積を独立して 増加させるか?→APLCコホート1556名で確認.
#7.
研究背景3: 未解明の課題-「再燃がどれだけ障害を増やすか」は定量化不足 • 再燃と障害の関連は既知であるが, 前向き縦断データで独立関連を定量化した研究 は限られる. • 特にアジア圏では障害の発生率ですら, データが不足している. • 再燃の「重症度」と「累積回数」がその後の障害に与える影響を同一枠組で評価する 必要性がある. • 障害は不可逆であるために年1回評価される(毎年繰り返し評価される)ことが多く, 解 析には時間依存性と反復イベントを扱う設計が必要. 再燃 → ? → 障害 論点: 「再燃(回数・重症度)」が交絡因子調整後も障害蓄積を独立して増加させるか? 本論文の価値: 大規模・多施設・多国籍のAPLCコホート※を用いて, 検証した. ※NCT03138941:APLCLLDAS (アジア太平洋地域におけるLLDAS妥当性検証) グラクソスミスクライン株式会社がスポンサー
#8.
プログラム §1 Introduction §2 Methods § §3 Results §4 Discussion
#9.
対象と方法1:研究デザイン 観察研究 2013-2020 標準治療 N=1556 前向き・多施設・多国籍コホート解析 APLCで前向きに収集されたデータ 介入はなく, 累積治療を追跡 3年以上の追跡, SDI評価2回以上 デザインの要点 • RCTではなく, APLCレジストリを用いたreal world evidenceの縦断解析. • アジア太平洋 (日本, 中国, 台湾, 韓国, タイ, シンガポール, フィリピン, マレーシア, インドネシア, オーストラリア)の施設から登録. • 3-6か月ごとの通常診療の外来で疾患活動性・薬剤・再燃を評価. • 障害は年1回SDIで評価.
#10.
対象と方法2: 包含/除外基準と患者選択 (Fig1a) 参加条件 • 成人. • 1997 ACR基準 2012 SLICC基準 のいずれかを満たす. • APLC登録にて, 前向きデータが3 年以上. • SDI評価が2回以上. 除外基準 • 追跡3年未満. • リツキシマブもしくはべリムマブ の投与歴がある (2020年までのた め, アニフロルマブ以降の記載は なし). • SDI評価が2回未満.
#11.
対象と方法3:変数と評価方法 再燃 共変量・調整因子 • • • • SELENA-SLEDAI flare index (SFI)で評価. 再燃の重症度: “軽度~中等度”/”重度”/”再 燃なし”と定義. 主要解析ではprevious visit (t-1)の再燃 を曝露と設定. • • • 年齢, 罹病期間, 性別, 民族, 喫煙の有無, 教 育, 国のGDP. GC累積量, 抗マラリア薬, 免疫抑制薬. SLEDAI-2K, PGA, 既存障害. 時不変共変量と時間依存性共変量を区別. 障害蓄積 • • • • SDIを年1回測定. 障害あり: SDI>0. 障害進行: ベースラインからの変化量が0よ り大きい (ΔSDI>0). 障害は不可逆という前提. 解析の対応関係: 再燃 (t-1)→障害蓄積 (t). 時間順序を明示し, 逆因 果を可能な限り抑える設計.
#12.
対象と方法4: 統計手法の全体像 記述・群間比較 • • • • 連続変数: 中央値 [IQR, range] 連続変数の比較: Wilcoxon rank sum test カテゴリ変数: n (%) カテゴリ変数の比較: Χ2 test モデル診断・補助解析 • • • • SDI分布をQQ plot/CDF plotで評価 比例ハザード性を確認 AIC/BICでモデル適合を比較 Kaplan-Meier曲線とlog-rank test 主解析 • • 多事象生存分析 • PWP-TT model • Cox回帰+ Cluste指定で 患者内相関を考慮. HRと95%Ciで提示. 患者がSDI=0に集中 SDIスコアが 直線から大きく外れている. SDIは歪んだ分布のため, 連続変数ではなく「新規 障害あり/なし」の二値アウトカムとして解析された.
#13.
対象と方法5: 統計手法 (詳細)-PWP-TTモデルの考え方 (1) なぜ通常のCox回帰では不十分なのか. • SLEの自然経過には「再燃が繰り返し起きる」という特徴がある. • 各評価時点毎に活動性や薬剤使用などの背景が変化する. • 同一患者内の繰り返しイベントを測定するため患者内の相関を無視すると標 準誤差が過小評価される可能性がある(差がでにくい).
#14.
対象と方法5: 統計手法 (詳細)-PWP-TTモデルの考え方 (2) 多事象生存解析 (Multifailure Survival Analysis) • 同一患者に複数回のイベント (再燃, 合併症など)が起こることを扱う生存解析の総称. • 測定値が複数ある反復測定の場合の混合効果モデルとは別. • 代表的なモデルは下記の3つ. モデル 時間の扱い 特徴 Andersen-Gill (AG) 研究開始からの通算時間 最もシンプル、独立イベント仮定 PWP-TT(本研究) 研究開始からの通算時間(total time) イベント順序を考慮, 層別化 PWP-GT 直前イベントからの経過時間(gap time) 「次の再燃まで何日か」に特化 ← 研究開始から通算時間 → 0──────────200──────────450──────────700日 ①発生(200日) ②発生(450日) ③発生(700日) 層1(1回目のリスク集合): 0〜200日 → 再燃①でイベント 層2(2回目のリスク集合): 0〜450日 → 再燃②でイベント 層3(3回目のリスク集合): 0〜700日 → 再燃③でイベント 各層 (イベント番号)毎に基準ハザードが異なることを許容 (=層別化Cox)しつつ, 曝露変 数 (再燃の有無など)の係数βは共通として推定する. →「1回目の再燃とn回目の再燃では基礎リスクが違う」という状態を反映できる.
#15.
対象と方法5: 統計手法 (詳細)-PWP-TTモデルの考え方 (3) 共通の出発点: 同一患者に繰り返しイベントが起きる. 対象データ (3人の患者, それぞれに再燃が複数回) →時間 患者A 患者B 患者C 再燃 ↓同じデータを二つのモデルで違う方法で見る PWP-TTモデル 考え方: イベント番号ごとに別レーンで使う 層1 (1回目のリスク) 層2 (2回目のリスク) 層3 (3回目のリスク) 各層内でのみ競合 (層をまたがない) 各層で基準ハザードが異なることを許容 →「初回」と「n回目」は別の難しさ→β (ハザード比)は層間で共通 特徴・前提 ✓ 順序依存性を明示的に扱う ✓イベント番号による層別化で精緻 △データが少ないと高次の層が薄い (サンプルサイズを要する) 向いているとき イベント回数で難易度・性質が変わる場合 例) • 再燃 (回数が重なると障害蓄積) • 腫瘍の再発 (予後の違い) AGモデル 考え方: 全部ひとつながりのリスク期間 患者A 0日→ずっと同じリスクプール 患者B 患者C 全イベントが同一のリスクプールで競合 →1回目もn回目も「同等」として扱う →β (ハザード比)を一つ推定 特徴・前提 ✓ 全イベントは独立・等価と仮定 ✓シンプル・解釈しやすい × 「1回目」 vs 「n回目」の違いを無視 (イベント順序を見ない) 向いているとき イベント間の順序・間隔が重要でない場合 例) • 感染症の再発 (1回目もn回目も同質) • 入院・外来受診の繰り返し • イベント数が少なく順序つけが困難な場合 個人差も推定したい場合は混合効果Coxモデルでもよい
#16.
対象と方法5: 統計手法 (詳細)-PWP-TTモデルの考え方 (3) 共通の出発点: 同一患者に繰り返しイベントが起きる. 対象データ (3人の患者, それぞれに再燃が複数回) →時間 患者A 患者B 患者C 再燃 ↓同じデータを二つのモデルで違う方法で見る AGモデル 考え方: 全部ひとつながりのリスク期間 患者A 0日→ずっと同じリスクプール 患者B 患者C PWP-TTモデル 考え方: イベント番号ごとに別レーンで使う 層1 (1回目のリスク) Rでは 層2 (2回目のリスク) Package (survival)のcoxph()関数で層別Cox比例ハザードモデルを当てはめる. 層3 (3回目のリスク) 全イベントが同一のリスクプールで競合 →1回目もn回目も「同等」として扱う →β (ハザード比)を一つ推定 各層内でのみ競合 (層をまたがない) fit_pwp_tt <- coxph (Surv(start, stop, event) ~X1 + X2 + #Cox回帰 各層で基準ハザードが異なることを許容 →「初回」と「n回目」は別の難しさ→β (ハザード比)は相間と共通 strata(line_order + #層別化(治療ラインを区別) vs AG model(ではここがない) 特徴・前提 特徴・前提 cluster (patients_id), # 患者内相関の補正(同一患者の複数ラインは相間しているので ✓ 順序依存性を明示的に扱う ✓ 全イベントは独立・等価と仮定 標準誤差をRobust SEで補正) ✓イベント番号による層別化で精緻 ✓シンプル・解釈しやすい △データが少ないと高次の層が薄い (サンプルサイズを要する) × 「1回目」 vs 「n回目」の違いを無視 data=●● (イベント順序を見ない) ) 向いているとき イベント間の順序・間隔が重要でない場合 例) • 感染症の再発 (1回目もn回目も同質) • 入院・外来受診の繰り返し • イベント数が少なく順序つけが困難な場合 個人差も推定したい場合は混合効果Coxモデルでもよい 向いているとき イベント回数で難易度・性質が変わる場合 例) • 再燃 (回数が重なると障害蓄積) • 腫瘍の再発 (予後の違い)
#17.
対象と方法5: 統計 • SDIデータは年1回しか測定されないため, 欠損値はキャリーバックワード法もしく はキャリーフォワード法(LOCF)を用いて転記した. • SLEにおける病変は不可逆的であり, SDIスコアが低下することはないと仮定.
#18.
プログラム §1 Introduction §2 Methods § §3 Results §4 Discussion
#19.
結果1: コホート特性 (Figure1, Table1) 疾患活動性が中等症以下に みえる患者群でも長期的に は障害が相当蓄積する 主要な背景 • • • • • • 解析対象患者 1556名 (生物学的製剤を使用するような重症例は除かれている) 追跡期間中央値 5.7年 罹病期間8年 診断1年以内症例は15.7%のみ (診断早期のみのinception cohortではない) 女性 93.4% • 登録時: GC 78.1%, HCQ 69.7% 免疫抑制剤 52.3% アジア系 89.1% • 登録時SLEDAI-2K中央値4 (疾患活動性はそこまで高くない), PGA中央値 0.5 登録時年齢中央値 40歳 • 観察期間中, LLDASを1回以上達成した患者は90.2%
#20.
結果2: 再燃と障害の負担(Figure1) 主な数値 • 登録時に(すでに)障害あり: 39.5% • 最終観察時に障害あり: 55.5% • 観察期間中に障害蓄積: 31.9% • 1回以上再燃を経験: 74.1% • 2回以上の反復再燃: 56.9% • 障害蓄積発生率: 58/1000PY
#21.
結果3: 障害は複数臓器領域で増加 (Suppl Fig2) • 全12領域で障害が観察され, 最終観察時には筋骨格, 眼, 腎, 神経精神領域が目立つが 障害自体は広く分布する. • 障害蓄積は特定臓器だけの現象ではなく, SLEの長期経過に伴う全身性・多臓器性の 不可逆的な負担である.
#22.
結果4:再燃時の重症度別の障害 free survival (Fig2) p<0.001 • No flare群が最も高く, 次いで軽中等度再燃, 一番下が重症度再燃 • log rank検定で群間有意差あり. • 再燃重症度に応じた用量反応的(定量的)な関係が見受けられる. • 再燃の有無だけではなく, 重症度が障害蓄積の”速度”に関係する. • ただしKM曲線は交絡調整前の提示であるため, 主な結論は多変量PWP-TTモ デルに基づく.
#23.
結果4: 障害蓄積と関連する因子~単変量解析~ (Table2) 正の相関のある薬剤は疾患活動性の適応交絡の可能性 未調整では 再燃の有無,再燃の重症度,再燃回数のすべて が 障害蓄積 と明確に関連
#24.
結果5:多変量解析-再燃は独立して障害発生を増加させるリスク因子である(Table3) 1 再燃と障害蓄積の調整後の独立関連を示す. 3 軽〜中等度の再燃でも独立したリス ク上昇を示し, 重症再燃ではリスクが さらに高い. 再燃の回数の増加も用 量反応的にリスクを上げる. 4 HCQの保護効果は多変量で消えた. 2 再燃1回ごと 重症再燃の「累積回数」は調整後に有意ではなく なったが,①重症再燃を反復する患者数が限られ ている,② 重症再燃が一度でも大きな影響を持つ, または③重症再燃後の治療介入・観察構造の影響 を受けた可能性がある. →重症再燃は発生そのものが重要で, 回数効果は 統計的に十分検出できなかった. 多変量PWP-TTモデル アウトカム: 障害蓄積→ΔSDI>0 at tn. 曝露: 前回訪問時点tn-1の再燃 共変量: 年齢, 罹病期間, GDP, 累積GC用量, IST使用, 時間調整SLEDAI, 既存障害
#25.
結果5:再燃定義を変更した5つの多変量モデル (Suppl Table3) Model2: 筆者らの最良モデル (AICの値から) 再燃の定義を変えても, 年齢, 低GDP, 累積GC 量, TAM SLEDAI, 既存障害 などの影響が比較 的一貫していた.
#26.
結果6: 主要な結果のまとめ 本研究が答えた問い 結果 臨床的解釈 再燃負担の推定 74.1%が1回以上再燃 56.9%が再燃を反復 実臨床では再燃は極めて頻回に 起きるイベントである. 障害負担の推定 31.9%が障害蓄積 約58/1000PY 約6%/年で不可逆的障害が増え る. 重症度再燃の影響 M/M HR 1.32 severe HR 1.58 軽中等度でも無視できず, 重症 ではより高リスク(回数ではなく, 1回の発生であっても) 累積回数の影響 any flare1回増加ごとHR 1.07 反復再燃予防が長期予後に重要
#27.
プログラム §1 Introduction §2 Methods § §3 Results §4 Discussion
#28.
考察1: 主要な発見 発見①再燃は障害蓄積の 独立した危険因子である. 発見②再燃の重症度が高 い程, 障害蓄積のリスクが 高いが, 軽〜中等度の再燃 であってもリスクは上昇す る. 発見③再燃の累積回数が 増える程, 障害蓄積リスク は上昇し, 再燃の予防が重 要である. 臨床的なメッセージ SLE診療では「重症再燃を避ける」のでは不十分であり, 軽〜中等度を含めた再燃 負担全体を減らすことが障害蓄積予防の治療目標になり得る.
#29.
考察2:発見1の裏付け-再燃と障害の関連 発見①再燃は障害蓄積の独立した危険因子である. • • • 本研究では, 交絡因子を調整しても再燃と障害は関連した (HR1.42). GLADEL cohort注1)でも, 再燃回数が増えるほど障害リスクが増加することが示されており, 本研究結果と整合する. 障害は死亡リスクと関連するため, 再燃の定量的リスク評価は予後改善戦略の根拠となる. 解釈: 再燃は単なる一過性の疾患活動性上昇ではなく, 不可逆的な長期アウトカムに結びつくイベントとして扱うべき. 本研究との関係 • GLADEL: 再燃数と障害リスクの増加 • EULAR2023: 再燃予防とGC最小化を治療目標として重視. • 本研究: 多国籍APLCで独立関連を定量化 • 注1)GLADEL cohort: ラテンアメリカの多民族コホート. 同一患者が自分自身の対照となる 自己対照デザイン(n=251).LRで解析. 重症度によらず, 再燃回数が多いほど障害蓄積リス クが独立して上昇することを示した3).
#30.
メモ: 先行研究との比較
#31.
考察3:発見2, 3の裏付け-再燃重症度と障害の関連. 再燃予防の重要性 発見②再燃の重症度が高い程, 障害蓄積のリスクが高いが, 軽〜中等度の再燃であっ てもリスクは上昇する. 発見③再燃の累積回数が増える程, 障害蓄積リスクは上昇し, 再燃の予防が重要であ る. • 近年のSLEにおける臨床研究では「再燃」を「副次」評価項目として扱うことが多い. • 寛解達成だけでは不十分. • BLISS-NEA (べリムマブ, 2018): SFI再燃までの時間 • TULIP-1 (アニフロルマブ, 2019): 年間再燃発生率 • AURORA2 (ボクロスポリン, 2023): 腎炎再燃 診療上のポイント: 重症化してから対応するのではなく, 軽症の再燃の段階での抑制・ 再燃予防が将来の障害蓄積予防に有効な可能性がある.
#32.
考察4: limitation(1) 研究デザイン・方法的問題点 Ⅰ.論文著者が記載したlimitation ①All comer registryではない • 特定の施設におけるSLE患者全員を網羅する「全患者登録」ではない. • 特定の症状 (例: 腎炎)は他科で管理されている可能性. →重症例・特定臓器障害例が選択的に除外された可能性. →一般集団コホートで外的妥当性を検証. ②国の違いによる医療制度の差 • 10か国統合. • GC使用量・免疫抑制剤の選択・SDI評価精度に施設差. • 治療標準化が困難. →国/施設を層別化し, 感度分析を行う. ③生物学的製剤使用例を除外 • 2013-2020年のデータだが, 現在のSLE治療薬である, BEL, RTXが 除外. • 現在の治療への一般化に限界がある. →生物学的使用例を含む現代コホートで再検証. ④SDIが年1回評価+補完方法 • 障害発生の正確な時期が不明→イベント時期の推定誤差がPWPTT解析精度に影響. 【例】2022年1月SDI=0 (正常) 2023年1月SDI=1 (障害あり) • 障害はこの1年のどこかで起きたことはわかるが正確な発生日は不明. • 本研究の補完は簡易的対処: イベント時期を「前回or次回の評価時 点」に強制割り当て. →Interval Censored survival model (区間打ち切り)で不確実性を そのままモデル化・感度分析. Interval censored survival modelとは 通常のCox回帰は「イベント発生時刻が正確にわかって いる」前提. Interval censored modelは「イベントは区間のどこか で起きた」という不確実性をそのままモデルに組み込む. 手技比較 アプローチ イベント時期の扱い Carry forward (本研究) 前回評価時に強制割り当て Carry backward (本研究) 次回評価時に強制割り当て Interval-censored model (前回, 次回)の区間として不確実性を保持したまま推定 Rでの実装例: library(icenReg) # L = 障害なしの最後の訪問, R = 障害ありの最初の訪問 fit <- ic_sp(Surv(L, R, ty
#33.
考察4: limitation(2) 外的妥当性・研究デザイン上の問題 Ⅱ.発表者による追加指摘 (外的妥当性・研究デザイン) ⑥Prevalent cohort bias ⑦アジア人対象: 本邦への過度な一般化への懸念 (登録時罹病期間 中央値8年) • 真の”inception cohort (発端コホート)”ではない. 登録前にすでに 再燃を繰り返し, 障害を蓄積した患者が「ベースライン障害あり (39.5%)」として含まれる.登録前の再燃蓄積効果がベースラインSDI にすでに反映されている可能性: 観察前の影響は調整されていない. • 再燃→障害の因果の時間方向性が担保されていない部分がある(障 害→再燃) 【比較】GLADEL cohort3)は診断≦2年のinception cohort設計→本 研究より時間的方向性は明確 →inception cohort(診断≦1年)に限定した感度解析. 登録前SDIを時 間依存性変数として調整 • コホートの89%がアジア人で構成されているが, 豪州などの白人人 種も一部混在している. • GLADELなど非アジア人コホートでは非白人/アフリカ系で障害蓄積 リスクが高い傾向にある. • アジア人はHCQ使用率が高い(本邦とは異なる), GC使用量が比較 的少ないなど治療パターンの差も影響. • アジアコホートとして日本の集団に外挿できる可能性はあるが, 一部 治療パターンは本邦と異なり, 一概に外挿できない →民族別層別化解析などで民族横断的な頑健性を検証 ⑨HCQアドヒアランス・血中濃度の未評価 ⑧再燃定義がSFIのみ • SFI (SELENA-SLEDAI flare index)とBILAGでは重症度の分類基準 が異なる. • SFI: ΔSLEDAI+医師判断の複合指標 /BILAG: 臓器別重症度評価 • 定義の選択が「重症再燃」の該当患者数・HR推定値に影響する可能 性. • GLADELではSLEDAI増加量で再燃を定義→定義の差がOR vs HR の値の違いにも寄与 →複数の定義で感度解析を行い, 結論の頑健性を確認 (多変量で保護効果が消失→既報と矛盾) • 単変量 HR0.59 (p=0.003)→多変量モデルでは有意ではなくなる. • 既報では保護リスクとして一貫して有意 •
#34.
参考: The British Isles Lupus Assessment Group (BILAG) 2004 • • • • • • • • • • 一般全身症状 皮膚口腔粘膜病変 脳神経病変 筋骨格関節病変 心臓・肺病変 血管炎病変 腎病変 血液異常 消化器病変※ 眼病変※ ※2004で追加された臓器障害 カテゴリーA: 抗炎症治療・免疫抑制(PSL 20mg/日又は免 疫抑制薬など)を必要とする重度の症状 カテゴリーB: 対症療法のみ(HCQ, NSAIDs, 又は PSL<20mg/日など)を必要とする中等度の 症状 カテゴリーC: 安定した軽度の症状 カテゴリーD: 既往あり, 症状なし (過去に認められたが, 現在はない症状) カテゴリーE: 既往および症状なし (過去も現在も認められていない症状) 重症度評価以外にも再燃の判断にも用いる
#35.
参考: 日本でのSLE治療の現状 10万人当たりのSLE患者数 10万人当たりの専門医数 系列1 系列1 101.8 74.4 47 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin 系列1 6.3 35 4.05 22.85 1.8 10.7 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin MMF併用割合 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin TAC併用割合 BEL併用割合 系列1 系列1 系列1 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin HCQ併用割合 18.5 37.2 12.55 26.2 6.6 15.2 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin 7.3 4.3 1.3 提供元: Bing © GeoNames, Microsoft, Zenrin Yokogawa N, Sakai R, Matsushita M, et al. Delayed global standardization and prefectural disparities in systemic lupus erythematosus treatment in Japan: A nationwide study using the National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan. Mod Rheumatol. 2025 Feb 21;35(2):294-299. 結果より演者作成
#36.
参考: 全世界でのHCQ治療の現状 APLCコホート コホート名 代表論文 Hopkins Lupus Cohort Petri M, et al. Arthritis Rheum 2012; Petri M, et al. 米国 ongoing 対象地域 SLICC Gladman DD, et al. J Rheumatol 2000; Urowitz MB, et al. 複数 カナダ含む多国 GLADEL 2.0 Ugarte-Gil MF, et al. Lupus 2021;30(7):1101-1111 ラテンアメリカ16カ国 EURO-LUPUS Cervera R, et al. Medicine 2003; Zen M, et al. Ann 欧州7〜10カ国 Rheum Dis 2016 CSTAR registry Wang Q, et al. Rheumatology 2014 中国 Asian Lupus Registry Mok CC, et al. Lupus 2005; Tee CA, et al. 東南アジア MyLupus Hussein H, et al. Lupus 2016 マレーシア AuSLAR Morton SJ, et al. Intern Med J 2010 オーストラリア/NZ MENA cohort Zoma A, et al.; Al-Arfaj AS, et al. 中東・北アフリカ Yokogawa et al. 2025 Yokogawa N, et al. Mod Rheumatol 2025;35(2):294-299 日本(都道府県別)
#37.
考察4: limitation(3)解析・統計上の問題点と矛盾 Ⅲ.解析・統計上の問題点と矛盾 ⑩PWP-TTモデル: 障害蓄積は本当に「反復イベント」か? • PWP-TTは反復イベントに対しての解析手法. しかしSDIは不可逆 的・累積のスコアであり「同じ臓器の障害が再発する」反復イベ ントの概念とは本質的に異なる. • 実際には「新たな領域への障害拡大」がイベント→イベント間の 独立性の過程に問題が残る (例: 腎臓に障害があれば心臓にも負担 が出現する: 心腎連関). • AIC/BICによるモデル比較のみで正当化されており, AGモデルな ど他の反復イベント解析手法での比較があるとよい. ⑫ 治療 (GC, IST)による適応交絡 (“再燃→GC増量→障害蓄積”経路の混在) • 累積GC量 HR1.02 (suppl T3参照) (p=0.005)が多変量で残存. GC 毒性と再燃自体の毒性が区別できない. • 免疫抑制剤がHR1.17-1.18でリスク因子として残存 (本来は障害 予防目的での使用)→”因果の逆転の可能性”. • SLEDAIで調整しているが「重篤な再燃だからこそGC/ISTを使用 する」という指示バイアスが残存. ⑬ 重症再燃累積回数が多変量で非有意 • Model5: 重症再燃の累積回数 HR1.05 (p=0.130). GLADELのOR 2.62と一見矛盾する. • 重症再燃は「頻度」より「発生の有無」で影響する可能性 (重症 後に治療強化→累積しにくい?), 定義差 (SFI vs SLEDAI増加量), 治療バイアス, 統計的に検出できないなどで説明可能. ⑪ 曝露とアウトカムのタイムスケールが不一致 • 再燃は3-6か月ごとに評価, SDIは年1回評価. • Carry-forward/backwardとPWP-TTの組み合わせにより, “flare at t-1”と”damage at t”の時間的近接性が過大・過小評価 される可能性. • 特に「再燃が起きたが, 次のSDI評価までの間隔が長い」場合に推 定が不安定になる. →lagged Cox 回帰 (死亡・離反などのイベントの発生までの時間を 解析するCox比例で説明変数 (リスク要因など)に一定の時間的な遅 れ (ラグ)を設けて影響を評価する
#38.
結論 本研究の最重要メッセージ SLEにおける再燃は, 軽度~中等度であっても, その後の不可逆的臓器障害の蓄積 を独立して増加させる. 重症再燃および再燃反復ではリスクがさらに高い. 臨床的意義 • SLE管理目標として「再燃予防」を明確に位置付ける根拠となる. • 重症再燃だけではなく, 軽度~中等度の再燃も長期予後上重要である. • 障害蓄積予防には疾患活動性の制御, GC最小化, 反復再燃の早期同定が必要.
#39.
参考文献 1. 2. 3. Kandane-Rathnayake R, Milea D, Louthrenoo W, Hoi A, Golder V, Morand E et al. Longitudinal associations of flare and damage accrual in patients with systemic lupus erythematosus. Lupus Sci Med. 2025 Jan 19;12(1):e001363. PMID: 39832908. Fanouriakis A, Kostopoulou M, Andersen J, Aringer M, Arnaud L, Boumpas DT et al. EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus: 2023 update. Ann Rheum Dis. 2024 Jan 2;83(1):15-29. PMID: 37827694. Ugarte-Gil MF, Acevedo-Vásquez E, Alarcón GS, Pastor-Asurza CA, Alfaro-Lozano JL,, Pons-Estel BA et al. The number of flares patients experience impacts on damage accrual in systemic lupus erythematosus: data from a multiethnic Latin American cohort. Ann . PMID: 24525909.