テキスト全文
VTEに対するDOACの出血リスク比較
#1. 1練馬光が丘病院 総合救急診療科 総合診療部門
2上野原市立病院 内科 VTEに対するDOACの出血リスクの直接比較Apixaban vs Rivaroxaban 作成:平林 秀崇1
監修:野原 翔太2/松本 朋弘2 COBRRA trial
#4. 症例:77歳女性 造影CT検査で近位深部静脈血栓症の診断
急性の症候性近位DVT患者において
アピキサバンはリバーロキサバンと比較して
臨床的に重要な出血を減らすだろうか? CQ
EBMの実践と研究デザイン
#8. Step2 論文の検索 PubMed®️で検索
(("Venous Thrombosis"[Mesh] OR "deep vein thrombosis"[tiab] OR DVT[tiab] OR "venous thromboembolism"[tiab] OR
VTE[tiab]) AND (apixaban[tiab] OR rivaroxaban[tiab] OR DOAC*[tiab] OR NOAC*[tiab]) AND (bleeding[tiab] OR hemorrhage[tiab] OR "major bleeding"[tiab] OR "clinically relevant bleeding"[tiab] OR "Hemorrhage"[Mesh]) AND (compar*[tiab] OR versus[tiab] OR vs[tiab])) 急性のVTEに対する
DOAC間比較の
出血リスクに関する
論文がヒット
#9. 今回の論文 <Study design>
研究デザイン PROBE
参加施設 カナダ・オーストラリア・アイルランドの32施設
研究期間 2017年12月13日 〜 2025年1月23日 N Engl J Med. 2026 Mar 12;394(11):1051-1060. PMID: 41812192.
VTE治療におけるDOACの位置付け
#12. 論文の背景 従来VTEに対してヘパリンとVKAの併用治療が行われていたがEINSTEIN-DVT studyではリバーロキサバンが従来治療に非劣性でAMPLIFY trialではアピキサバンが従来治療に非劣性かつ出血イベントも有意に減らした
日本のガイドラインではVTEに対してDOACによる治療が推奨されリバーロキサバンまたはアピキサバンが実臨床で使用されるが両者を直接比較したRCTは存在しなかった
COBRRA trialは、急性の症候性VTEに対してリバーロキサバン戦略とアピキサバン戦略を直接比較し、出血リスクという実臨床上の意思決定に答えたRCTである N Engl J Med. 2010 Dec 23;363(26):2499-510. N Engl J Med. 2013 Aug 29;369(9):799-808.
先行研究のEINSTEIN-DVTとAMPLIFY
#13. 先行研究① : EINSTEIN-DVT study <Study design>
Randomized, Open-label,
Event driven, Noninferiority
34カ国の多施設で実施
研究期間:2007年3月 ~ 2009年9月 リバーロキサバン経口単剤治療がヘパリンSC+VKAに非劣性の可能性出血イベントも増えなかった <Primary outcome> HR 0.68 (95%CI 0.44-1.04)
p<0.001 for noninferiority
リバーロキサバン 36/1731人(2.1%)
エノキサパリンSC+VKA 51/1718人(3.0%) <安全性> HR 0.97 (95%CI 0.76-1.22)
重篤な出血または臨床的に重要な非重篤な出血
リバーロキサバン 139/1718人(8.1%)エノキサパリンSC+VKA 138/1711人(8.1%) N Engl J Med. 2010 Dec 23;363(26):2499-510.
#14. 先行研究② : AMPLIFY trial <Study design>
Randomized, double-blind, Noninferiority
28カ国の358施設で実施
研究期間:2008年8月 ~ 2012年8月 N Engl J Med. 2013 Aug 29;369(9):799-808. <Primary outcome> RR 0.84 (95%CI 0.60-1.18)
p<0.001 for noninferiority
アピキサバン 59/2691人(2.3%)
エノキサパリンSC+VKA 71/2704人(2.7%) アピキサバン経口単剤治療がヘパリンSC+VKAに非劣性の可能性重篤な出血イベントも有意に減らした <安全性> RR 0.31 (95%CI 0.17-0.55)
重篤な出血アピキサバン 15/2676人(0.6%)エノキサパリンSC+VKA 49/2689人(1.8%)
研究方法と評価基準の設定
#17. PROBE study PROBE studyとはProspective Randomized Open, Blinded End-pointの頭文字をとったもので、前向きランダム化オープンラベル試験でありながら、エンドポイント評価を盲検化して行う試験デザインのこと
実際の臨床現場に近い試験を実施でき、コストが低く患者募集も容易である一方、オープンラベルであるため正確な結果を得るためには、主に客観的基準で判定されるハードエンドポイントを主要評価項目にするなどバイアスが入りにくい設計にする必要がある
Blood Press. 1992 Aug;1(2):113-9. Hypertens Res. 2009 Feb;32(2):109-14.
#18. Inclusion & Exclusion criteria 活動性出血
活動性悪性腫瘍 : 以下のいずれかと定義a)過去6ヶ月以内にがんと診断されたb)再発、局所進行、または転移性疾患があるc)現在がん治療中、またはランダム化前6ヶ月以内に何らかのがん治療を受けていたd)完全寛解に至っていない血液悪性腫瘍がある
体重>120 kg
既知の肝疾患(Child–Pugh分類BまたはC)
禁忌となる薬剤の使用
CYP3A4/5およびP糖蛋白の両方に対する強力な阻害薬による全身治療およびHIVプロテアーゼ阻害薬
CYP3A4/5およびP糖蛋白の強力な誘導薬による全身治療
長期抗凝固療法の他の適応がある場合(例 : 心房細動)
妊娠中または授乳中 ※妊娠については患者の自己申告に基づく。妊娠可能年齢の女性では、担当医の判断により妊娠検査を実施する。
#19. Intervention & Comparison
試験のフォローアップは登録時/ランダム化後2週間(±1週間)/およびランダム化後3ヶ月に行われ、以下の評価を行う
出血イベントおよび症候性再発VTEの臨床症状の確認
重篤な有害事象の監視
入院またはその他の予定外の医師との対面接触に関する調査
服薬アドヒアランスの評価
#20. Outcome① <Primary Outcome> 医療従事者による医学的介入を要したもの
入院またはケアレベルの引き上げにつながったもの
医療従事者による対面の評価が必要となったもの 臨床的に重要な出血(Clinically relevant bleeding : CRB) ISTHの基準に基づく、重篤な出血または臨床的に重要な非重篤な出血(CRNMB)の複合アウトカム
サンプルサイズと統計解析の計画
#21. Outcome② <Secondary outcomes> Primary outcomeの各構成要素
出血死
症候性VTE再発 : 超音波検査もしくは造影CT検査で認められた再発性近位下肢DVTと肺換気血流シンチグラフィーもしくは造影CT検査または肺動脈造影検査で認められた区域枝以上の再発性PTEの複合アウトカム
VTE再発による死亡 : 死亡診断書または剖検所見に基づいて確認
全死亡
#22. Sample size
CRBの発生率はEINSTEIN-DVT studyでは8.1%AMPLIFY trialでは4.3%であった
血栓症専門家により3ヶ月間のCRBイベント発生率を33%低下させることが臨床的に意味があると判断された
絶対リスク差2.7%、追跡不能2%と仮定(power 80%、両側α=0.05)
⇨各群1380例、合計2760例のサンプルサイズに設定
研究の結果と主要評価項目
#23. Statistical analysis <Primary outcome>
intention-to-treat(ITT)集団で解析(事前規定のサブグループも同様)
カイ2乗検定を用いて未調整オッズ比と95%CIを算出
Kaplan–Meier法を用いて時間対イベント解析を実施
感度分析では腎機能・抗血小板薬継続の有無・年齢・性別で調整し施設差を考慮した混合効果ロジスティック回帰を使用
<Secondary outcomes>
未調整オッズ比および対応する95%CIを用いて解析
#26. Randomization & Blinding Webベースで4もしくは6人単位で、CCr 50 mL/min未満か50 mL/min以上か、試験期間中に抗血小板薬の継続使用が予定されているかどうか、および参加施設で層別化し介入群:対照群を1:1になるように割り付けた 非盲検のため、担当医と患者は割り付けを知っている
アウトカム評価は独立した委員会によって盲検下で実施 <患者の割り振りはランダム化・隠蔽化されているか?> <盲検化されているか?>
#27. Characteristics of participants 平均年齢 : 58.3歳
白人 : 2400例(88.9%)
平均BMI : 約29.0 kg/m2
誘因のないVTE : 2087例(77.3%)
ベースラインの人口統計学的および臨床的特徴は両群間で概ね均衡している <患者背景は等しいか?>
#28. Flow of patients <サンプルサイズは計算通り確保> 2760例ランダム化 1345例 : ITT解析 1355例 : ITT解析 <ITT解析が実施> 9753例がスクリーニング 6993例除外 1370例アピキサバン群に割付け
-7例はアピキサバンが投与されず 1390例リバーロキサバン群に割付け
-8例はリバーロキサバンが投与されず 1355例が試験を完了
27例は試験を完了せず 1345例が試験を完了
18例は試験を完了せず
#29. Intervention 服薬アドヒアランスを異なる観点から把握するための質問を3問行い、完全に服薬できたとされるのはアピキサバン群で65.7%、リバーロキサバン群で75.1%だった
#30. Step3 論文の批判的吟味① 患者の割り振りは分からないようにランダム化されているか?Webベースで4もしくは6人単位で、腎機能障害の有無抗血小板薬使用の有無および参加施設で層別化し介入群 : 対照群を1 : 1になるように割り付けた
患者・治療者・アウトカム評価者はブラインドされているか?非盲検試験であり、患者と治療者のブラインドはされていないがアウトカム評価は独立した委員会によって盲検下で実施された
患者背景は両群で等しいか?ベースラインの人口統計学的および臨床的特徴は両群間で概ね均衡している
結果の詳細とサブグループ解析
#31. Step3 論文の批判的吟味② 解析時に最初のランダム化は守られているか?ITT解析が実施された
サンプルサイズは十分か?計算通り確保された
追跡率や追跡期間は十分か?追跡期間は3ヶ月で、2700/2760例(97.8%)でITT解析が実施され、追跡不能例は28例(1.0%)のみだった
#33. Primary outcome RR : 0.46 (95%CI 0.33 ~ 0.65)
ARR : 3.8%、NNT : 27人 アピキサバン群の方がCRBの発生率が統計学的に有意に低い 3ヶ月間に発生したCRBの初回イベントをKaplan–Meier法で示した図
#34. Secondary outcomes① RR : 0.16 (95%CI 0.06 ~ 0.40) アピキサバン群の方が重篤な出血の発生率が統計学的に有意に低い リバーロキサバン群での重篤な出血は眼内(1例)/後腹膜(1例)/関節内(2例)で認め頻度としては膣>消化管の順で高かった
#35. Secondary outcomes② RR : 0.59 (95%CI 0.40 ~ 0.86) CRNMBの頻度としてはアピキサバン群では膣>消化管の順で、リバーロキサバン群では膣>血尿の順で高かった アピキサバン群の方がCRNMBの発生率が統計学的に有意に低い
#36. Secondary outcomes③ 3ヶ月間に発生した症候性VTE再発の初回イベントをKaplan–Meier法で示した図 Primary outcomeの各構成要素を除くその他Secondary outcomesに関して
両群間に統計学的有意差なし
#37. サブグループ解析 事前規定のサブグループでも概ね一貫してアピキサバン群でCRBの発生率が低かった
#38. Safety 出血またはVTEに関連しない重篤な有害事象はアピキサバン群で36例(2.7%)リバーロキサバン群で30例(2.2%)に発生した
考察と著者の指摘する限界
#40. 著者らが指摘したLimitations 非盲検試験であり、確認バイアスが生じうるが本試験で定義された出血イベントは明らかな出血であり医療機関の受診を必要とするものであるため確認バイアスの可能性を最小化した。
抗凝固療法開始後最初の3ヶ月間のみデータを収集しているため長期的な出血リスクは不明である
除外された120 kgを超える患者やがん関連血栓塞栓症患者における効果は不明である
VTE再発リスクの差を検出するための検出力は有していない
#41. 読者からのLetter to the Editor アピキサバンが統計学的に安全に見えたのはリバーロキサバンより服薬遵守が低かった可能性がありper-protocol解析、またはアドヒアランスと出血イベントの時期に関する詳細なデータが必要だと思われる
リバーロキサバンのより長いローディングレジメンが21日以内の出血イベントを増やした可能性がある
CCr <30 mL/minの患者は除外されており臨床的に重要で独立した患者集団が未検討のまま残されている
#42. 私見 対象が主に白人(88.9%)で、平均BMIも約29 kg/m2であるため日本人の高齢低栄養/サルコペニア患者への一般化には注意が必要
しかしEast Asian Paradoxからも出血を減らす薬剤選択の重要性はむしろ日本で高い可能性がある
アピキサバンの用量は本邦と同じであるが、リバーロキサバンの維持用量は本邦と比べて高用量であるため、22日以降の出血イベントの差が小さくなる可能性がある
CKD(G4-5)、低体重高齢者、日本用量のリバーロキサバン群などにおける検証が求められる
結論と今後の研究の方向性
#43. Conclusions 急性の症候性VTE患者においてアピキサバン投与戦略はリバーロキサバン群と比べて3ヶ月間に生じる臨床的に重要な出血の発生率が低かった
#45. Step4 症例への適応① 論文の患者 白人88.9%、平均58歳、女性43.5%、平均BMI29.0 kg/m2 平均CCr 106 mL/min、DVTのみ52.2%
目の前の患者 日本人、77歳、女性、BMI22.5 kg/m2、CCr 74.6 mL/min 近位深部静脈血栓症のみ
Inclusion criteriaに合致Exclusion criteriaの該当項目なし背景は異なるが、IMPROVE bleeding risk score 1点
#46. Step4 症例への適応② 論文のPrimary outcome:臨床的に重要な出血代替アウトカムではなく、目の前の患者にとって重要なアウトカムである
アピキサバンの有害事象・薬価の違いについてのデータを共有し患者と協議した上で出血イベントの予防のためにアピキサバンを開始することとした リバーロキサバンではなくアピキサバンを投与すれば
27人に1人がCRBを防げる(NNT : 27人) 日本人であり出血リスクは高い
入院/施設セッティングであれば1日2回の服薬は可能
#48. Step5 Step1-4の見直し Step1 疑問の定式化(PICO)
PICOを用いて疑問を定式化した
Step2 論文の検索
PubMedを用いて定式化した疑問に合致した文献検索を行った
Step3 論文の批判的吟味
形式に沿って批判的吟味を行なった
Step4 症例への適応
症例への適応は妥当であると考える
#49. まとめ① 急性の症候性VTE患者においてアピキサバン投与戦略はリバーロキサバン群と比べて3ヶ月間に生じる臨床的に重要な出血(重篤な出血+CRNMB)の発生率が低かった
本試験はアピキサバンとリバーロキサバンのどちらも使用可能なDVT/PTE患者では出血リスクを重視する場合においてアピキサバンを優先する根拠となる
ただし活動性悪性腫瘍、CKD(G4-5)、低体重高齢者日本用量のリバーロキサバン、3ヶ月以降の長期治療群への外挿には注意が必要である
#50. まとめ② 本試験はprimary outcomeであるCRBを検出するように設計されており、VTE再発リスクの差については結論付けられない
日本でのVTE診療へ一般化するにはさらなる検証が求められる
COBRRA-AF trial進行中(Exclusion : CCr <15 ml/min)