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消化器癌化学療法の基本と注意事項
#1. Dr. KI77の消化器癌化学療法シリーズ No.01 消化器癌化学療法基本の「き」 @KI77surgery 日本外科学会 専門医 日本消化器外科学会 専門医
#2. 注意事項 本スライドでは消化器癌化学療法の考え方を説明します。 KI77の個人的な見解が多数含まれますので、施設や個人の方針と 異なる場合がありますのでご注意ください。 皆様の治療方針の一助となるとうれしく思います。
化学療法効果判定と用語の理解
#3. ・化学療法効果判定について Today’s Menu ・消化器癌化学療法3つのフェーズ ・実際の治療の考え方 おまけ こんな時Dr. KI77はこう考える
#4. 化学療法を始める前に、 これだけは忘れないでほしい。 抗癌剤は人体にとって有害であり、毒物である。 正しい知識と理解をすることが患者の利益につながります。 知識も理解もなく抗癌剤を使うことは毒を盛っているのと同じ事!!
#5. 効果判定で用いられる用語 まずは基本的な用語を理解しよう。 Competitor Analysis ➢ RECIST:化学療法の客観的評価判定基準となる。 Data from our top competitors 画像と腫瘍マーカーを用いて4段階で評価する。 ・CR(complete response:完全奏功) ・PR(partial response:部分奏功) ・SD(stable disease:安定) ・PD(progressive disease:病勢進行) ➢ CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events) ・それぞれの項目にGradeが存在し、有害事象の程度を示す。 ・基本的に血液毒性はGrade2、非血液毒性はGrade3以上で化学療法の 延期、中止を考慮する必要がある。
#6. 効果判定とその後の判断 ・効果判定はRECISTによる客観的効果判定(画 像、腫瘍マーカー)に患者の状態を加えた3つ の柱で総合的に判断します。 ・医師の主観的評価も重要ですので、必ずしも PDだから化学療法変更する必要はありません。 画像所見 患者の状態 有害事象 癌による障害 血液データ 腫瘍マーカー
化学療法の3つのフェーズの概要
#7. 「ナック」と 言います ①術前(補助)化学療法 化学療法 3つのフェーズ ・化学療法は大きく分けて3つの フェーズに分けられます。 ・3つのフェーズではそれぞれ 対象や目的が異なります。 ・癌の種類によっては治療選択の ないフェーズも存在します。 Neo-Adjuvant Chemotherapy (NAC) 「アジュバント」 と言います ②術後補助化学療法 Adjuvant Chemotherapy ③切除不能・再発癌への 化学療法
#8. 癌の経時的変化からみた化学療法 3つのフェーズ ・3つのフェーズを経時的に表し、一般的な化学療法の流れを記します。 診断 ①NAC 手術 ②Adjuvant 根治 再発 緩和治療 診断時 ③切除不能・再発癌への 化学療法 切除不能
術前・術後補助化学療法の目的と特徴
#9. ①術前(補助)化学療法 手術を行う前に施行される化学療法。癌を縮小させることで 手術を含めた周術期治療効果の向上 つまり再発率減少=根治率上昇を目指す。 時に放射線療法も併用する。 ・対象:切除可能進行癌 ・治療期間:およそ2-3か月~半年 ・短期目標:根治手術 腫瘍の縮小=癌のdown-staging ・長期目標:癌の根治
#10. ②術後補助化学療法 手術後に施行される化学療法。体内に残っている可能性がある 微小な癌を破壊し、再発率減少=根治率上昇を目指す。 ・対象:治癒切除術後の癌患者 ・治療期間:半年~1年 ・短期目標:治療の完遂 ・長期目標:癌の根治
#11. ③切除不能・再発癌 への化学療法 癌を増大させないことで、生存率上昇と QOL(quality of life)の維持・上昇を目指す。 ・対象:治癒の見込みの低い癌患者 ・治療期間:続けられなくなるまで ・短期目標:腫瘍の維持・縮小 ・長期目標:長期生存(延命)、患者満足度の上昇
#12. 3つのフェーズの特徴のまとめ 患者の 根治可能性 治療期間 ①術前(補助)化学療法 ②術後補助化学療法 ③切除不能・再発癌への 化学療法 あり あり 限りなく低い 癌種によって決まっている 決まりはない 癌の根治 長期生存、 患者満足度の向上 長期目標 短期目標 根治手術 治療の完遂 癌の維持 補助化学療法と切除不能・再発癌への化学療法では 根本的に考え方を変える必要がある!!!
実際の治療考え方とリスク管理
#13. ・実際の考え方とはただ一つ・・・ 治療の 考え方とは risk-benefitを考えればいいです。 ・癌化学療法において risk=有害事象 benefit=目標達成度(治療効果) となります。
#14. 実際にはこう考えよう!! ①術前補助化学療法編 最終目標は根治。後述する術後補助化学療法と同様ですが・・ 特に 有害事象によって手術ができなくなることは回避しよう。 化学療法の効果がない場合はすぐに外科的切除を考えなけ ればならないため、準備を怠らないようにしよう。 危機管理をしながら 『がっつり』やろう
#15. 実際にはこう考えよう!! ②術後補助化学療法編 最終目標は根治。 そのためには多少の有害事象も許容しよう。 長期生存が期待されるため、長期に残存する有害事象については管 理に気を付けよう。 なるべく相対値量強度が大きくなるようにスケジュールを調整しよう。 『がっつり』やろう。
#16. 実際にはこう考えよう!! ③切除不能・再発癌への化学療法編 最終目標は長期生存(延命)、患者満足度の上昇。 そのためには有害事象の管理に注意しよう。 積極的な減量と投与の延期を駆使して治療期間・効果の延長と有害 事象のコントロールをしよう。 時に患者の治療満足度を上げるため、治療効果の乏しい化学療法の 継続も考えよう。(「PDでも継続」は選択枝になります。) 『ほどほどに』やろう。
Dr. KI77の考え方と参考資料
#17. Take Home Message ✓ 画像、腫瘍マーカー、患者の状態をみて総合的な 効果判定をしよう。 ✓ 補助化学療法は抗腫瘍効果を重視して『がっつり』 やろう。 ✓ 切除不能・再発癌に対する化学療法は 有害事象管理を重視して『ほどほどに』やろう。
#18. おまけ こんな時Dr. KI77はこう考える 補助化学療法なら 化学療法をはじめて2か月程度。 患者から 化学療法がこんなに つらいとは思わな かった。やめたい。 治療を乗り切れば癌が 再発する可能性が低く なります。(少し減量し てでも)もう少し頑張り ませんか? 切除不能・再発癌なら との申し出があった。 減量すれば副作用は少 し楽になるかもしれま せん。それでもだめな らやめてもいい。違う 抗癌剤に変えることも できます。
#19. おまけ こんな時Dr. KI77はこう考える 補助化学療法なら 化学療法をはじめて4か月程度。 患者から 抗癌剤のしびれが少 し残るようになって きました。 しびれは治らなくなる 可能性が高いです。 減量して様子をみなが ら残りの抗癌剤を続け ましょう。 切除不能・再発癌なら との申し出があった。 しびれは治らないと思 います。つらいような ら、中止してもいいか もしれません。がんば れるようなら減量して 続けましょう。
#20. おまけ こんな時Dr. KI77はこう考える 単剤の化学療法なら 切除不能・再発癌に対して化学療法 をはじめて10か月程度。 CTでは明らかに腫瘍は増悪している。 他の抗癌剤の候補はない。 患者から 抗癌剤は効いていない というかもしれません が、やっていると調子 がいい。続けたい。 との申し出があった。 抗癌剤は続けても効くこ とはないと思います。た だ、もしかしたら腫瘍の 進行は遅らせてくれるか もしれませんね。 複数の併用化学療法なら 複数の化学療法では副 作用もひどくなってく ると思います。今の状 態なら単剤でも同じく らいの効果はあるので はないかと思います。
#21. おまけ こんな時Dr. KI77はこう考えるのまとめ 補助化学療法なら 切除不能・再発癌なら なんとかして なんとかして 化学療法を続ける道 患者の希望を叶える道 を探します。 を探します。