テキスト全文
初期研修医のための性感染症アプローチ
#1. 初期研修医が知っておきたい 性感染症の正しいアプローチ Lemon@感染症 日本感染症学会専門医・指導医・評議員 twitter: @Dr_lemon_infect
#2. Take Home Messages 1. 性感染症は、性交渉歴を正しく聴取する 2. 尿道炎は、主に淋菌性と非淋菌性に分かれ、 近年はマイコプラズマ・ジェニタリウムに注 意が必要である 3. 性感染症の治療後は、正しいフォローアップ が重要である
#3. 本スライドのゴール • 正しい性交渉歴の聴取の方法を学ぶ • 性感染症の適切なアプローチ(診断・治療・フォ ローアップ)を学ぶ 本スライドの対象 • 性感染症のアプローチに自信をもてない全ての初期 研修医
正しい性交渉歴の聴取方法
#4. 目次 1. 正しい性交渉歴の聴取の方法 2. 主な尿道炎の診断・治療 3. 性感染症の治療後の正しいフォローアップ
#5. 目次 1. 正しい性交渉歴の聴取の方法 2. 主な尿道炎の診断・治療 3. 性感染症の治療後の正しいフォローアップ
#6. 性感染症ってどんなイメージ? 性交渉歴があるヒトの感染症 感染症科や泌尿器科の感染症 性器の症状だけでしょ? • 性感染症は奥が深い • 多くの誤解が存在する • 性感染症を制する者は感染症診療を制する
性感染症の主な症状とリスク
#7. 性感染症の主な性器外の症状 結膜炎 淋菌、クラミジア、梅毒、単純ヘルペス 咽頭炎 淋菌、クラミジア、梅毒、単純ヘルペス、HIV 関節炎 淋菌、クラミジア、HBV、HCV、HIV 全身の皮疹 淋菌、梅毒、HIV 神経症状 梅毒 肝周囲炎 淋菌、クラミジア 直腸炎 淋菌、クラミジア、梅毒、単純ヘルペス、HIV、 赤痢アメーバ 感染性心内膜炎 淋菌 • 性器外の症状も多い • 非専門医でも性感染症の診療の機会がある!
#8. 性感染症の正しいアプローチ ① 患者背景を理解 性交渉歴を確認 ② 感染臓器を特定 性器外症状も確認 ③ 原因微生物 推定し検査で確認 ④ 抗菌薬の選択 原因微生物に対して ⑤ 適切な経過観察 フォローアップ診療 パートナーの治療 再発予防の教育 • 性交渉歴の確認が最も重要!
#9. 性交渉歴を聴取する時のポイント • 環境を調整して性交渉歴聴取の流れを作る – プライベートな空間、未成年者の場合は保護者は外に • 恥ずかしがらずにズバッと聞く – モジモジせずに淡々と • オープンクエスチョンよりクローズドクエスチョン • なぜこの質問をするのか、理由を説明する • 答えてくれたら、感謝の気持ちを伝える • より良い関係性を構築しよう!
#10. 性交渉歴の内容の5P Partners 性交渉相手の性別・人数、パートナーの性交渉相手の人数 など Practice コンドーム装着の有無、 性交渉のスタイル(オーラル、アナルなど) Prevention of 避妊の方法(コンドーム、ピル、子宮内避妊用具など) pregnancy Protection from STD Past history of STD 性感染症の予防を実施しているか 自身とパートナーの性交渉歴、静注薬物の使用歴 性風俗産業への従事、渡航歴など CDC: Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines, 2015. MMWR Recomm Rep 64: 1-137, 2015. 一部改変
オーラルセックスとアナルセックスのリスク
#11. オーラルセックスを行う場合の 性感染症のリスク • 口 ー 性器 ・咽頭炎:淋菌、クラミジア、単純ヘルペス、梅毒、HIV ・口腔内潰瘍:梅毒、単純へルペス、HIV ・HPV感染による咽頭癌の前癌病変のリスク • 口 ー 肛門 ・A型肝炎、赤痢アメーバ、ジアルジアなど
#12. アナルセックスを行う場合の 性感染症のリスク • HIV感染 • 淋菌やクラミジアによる直腸炎 • A型肝炎、赤痢アメーバ、ジアルジア • HPV感染に伴う尖圭コンジローマ、肛門癌 • HIV感染は特に“受け側”のリスクが高い • 性交渉歴の具体的な内容も聴取しよう
尿道炎の診断と治療のポイント
#13. 目次 1. 正しい性交渉歴の聴取の方法 2. 主な尿道炎の診断・治療 3. 性感染症の治療後の正しいフォローアップ
#14. 【主訴】排尿時痛 20代 男性 【現病歴】 3日前から排尿時痛を認め、徐々に増悪したため受診 数日前に風俗店を利用し、コンドームなしでオーラルセッ クスのサービスを受けた 【身体所見】 発熱なし 尿道から膿性の分泌物を認める 他に身体診察上の異常所見はない • 病歴と身体所見から感染臓器は尿道と判明 • 次に病原微生物を考える
#15. 尿道炎の分類 淋菌性 クラミジア性 尿道炎 非淋菌性 非クラミジア性 マイコプラズマ・ジェニタリウム ウレアプラズマ・ウレアリチカム 膣トリコモナスなど • 尿道炎の病原微生物は 淋菌、クラミジア、マイコプラズマ・ジェニタリウム に注目
#16. 淋菌 クラミジア マイコプラズマ・ ジェニタリウム 潜伏期間 3~7日間 1~3週間 1~5週間 発症様式 急性 緩やか 緩やか 臨床症状 強い排尿時痛 軽い排尿時痛 尿道掻痒感・不快感 軽い排尿時痛 尿道掻痒感・不快感 尿道分泌物 中等量で膿性 の性状 少量で漿液性~粘液性 少量で漿液性~粘液性 グラム染色 グラム陰性双球菌 不可(細胞内寄生菌) 不可(細胞内寄生菌) 検査 核酸増幅検査 核酸増幅検査 核酸増幅検査 治療 • ドキシサイクリン • セフトリアキソン • アジスロマイシン 1g単回静注 1g単回内服 100mg 1日2回7日間 • ドキシサイクリン 投与後に 100mg 1日2回 7日間 シタフロキサシン 100mg 1日2回7日間 • 非典型例もあるので症状からの診断は難しい • 複数の病原体の感染例もある
#17. 尿道炎の治療のポイント① • オーラルセックスをしている場合は、尿道炎と共 に咽頭炎も併発している可能性も考える • 淋菌性尿道炎にはクラミジア性尿道炎を合併して いることが多い • そのため、淋菌の治療を行う時点でアジスロマイ シンを追加してクラミジア性尿道炎の治療を実施 することもある • 近年、クラミジア性尿道炎に対して、アジスロマ イシンよりもドキシサイクリンの方が有効という 報告もある Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021 Jun 24;384(25):2418-2427. Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021 Jul 23;70(4):1-187
#18. 尿道炎の治療のポイント② • 尿の核酸増幅検査を実施し陽性となった時点で治療をする のが最も確実だが、様々な事情で再受診してくれない患者 さんもいるので、疑いの時点で同時に治療してしまう方が 確実な場合もある • 淋菌の診断がついてもクラミジア性尿道炎を見逃さないこ とが大切 • グラム染色で菌体が見えなくても淋菌は否定できないので、 淋菌・クラミジア共に核酸増幅検査を実施して確定診断を つける必要がある • マイコプラズマ・ジェニタリウムは、商業ベースでの診断 体制が整備しつつあるのでしっかり診断して治療を行う Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021 Jun 24;384(25):2418-2427. Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021 Jul 23;70(4):1-187
#19. 目次 1. 正しい性交渉歴の聴取の方法 2. 主な尿道炎の診断・治療 3. 性感染症の治療後の正しいフォローアップ
性感染症治療後のフォローアップ
#20. 性感染症の治療後の正しいフォローアップ • 他の性感染症のスクリーニング – 複数の性感染症に感染している可能性がある • 再感染予防を教育 – 性感染症は何度も感染する可能性がある • パートナーの検査、治療を実施 – ピンポン感染を予防しよう • 性感染症ではアフターケアが大事!
#21. 他の性感染症のスクリーニング • 梅毒:RPR、TP抗体 • HIV :HIV抗原・抗体 • B型肝炎:HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体 • C型肝炎:HCV抗体 • 性交渉スタイルによっては追加検査を実施
#22. 再感染予防の患者教育 • 特定のパートナーと性交渉をする • コンドームを適切に使用する • ワクチン接種の推奨 – A型肝炎、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス • 曝露前予防(HIV) • 曝露後予防(HIV、B型肝炎、HPV)
#23. パートナーの検査・治療 • ピンポン感染の予防 • 他のパートナーへの感染 • 生殖機能の低下を防ぐ! • 女性の淋菌性子宮頸管炎は40%が無症状 罹患者が妊娠して出産した場合に垂直感染を起こして 新生児結膜炎を発症 • クラミジア性子宮頸管炎も無症状のことがあり、放置 すると卵管炎を起こし、不妊の原因となる • 性性感染症は一人では起こり得ず、患者さんの背後に一人、も しくは複数人の感染者が存在する • パートナーの治検査・治療は性感染症の感染防止策につながる
よくある質問とその回答
#24. よく聞かれるQ&A Q. 性交渉歴を聴取する時はどんな時ですか?教えてください • 性感染症を疑った時に性交渉歴を聴取します • 具体的には以下の状況で性感染症を疑います • 繰り返す口内炎や咽頭炎 • 流行地域への渡航歴がないのにA型肝炎や赤痢アメーバの罹患歴が ある • 若年男性の尿路感染症 • 原因不明の発熱・下痢・皮疹など Q. 性交渉歴の5Pで海外渡航歴も聴取する理由を教えてください • 海外滞在中に危険な性行為を行う可能性が高いからです • 渡航者の約20%が行きずりの性交渉を行い、そのうち約50%がコ ンドームを使用しない性交渉であったと報告もあります • また、A型肝炎や赤痢アメーバなどを診断した時に、性交 渉で感染したのか、それとも流行地域へ渡航したことで感 染したのかを判断する参考になるからです
#25. よく聞かれるQ&A Q. 尿道炎の中で注意すべき病原微生物について教えてください • 淋菌、クラミジア、マイコプラズマ・ジェニタリウムです • マイコプラズマ・ジェニタリウムの検査を行うと、ウレア プラズマもセットで検査を実施されて陽性になることがあ りますが、ウレアプラズマ感染症は現時点では病的意義は ないと言われています • 薬剤耐性の視点では、淋菌とマイコプラズマ・ジェニタリ ウムが特に問題視されています Q. マイコプラズマ・ジェニタリウムの治療困難例の対応を教えて ください • ドキシサイクリンとシタフロキサシンによる治療失敗例で は薬剤耐性の関与が示唆されます • 研究機関に相談になりますが、薬剤耐性遺伝子の検査を行 います • 薬剤耐性があるようであれば適応外使用になりますが、ス ペチクノマイシン筋注も検討します
性感染症に関する重要なメッセージと参考文献
#26. Take Home Messages 1. 性感染症は、性交渉歴を正しく聴取する 2. 尿道炎は、主に淋菌性と非淋菌性に分かれ、 近年はマイコプラズマ・ジェニタリウムに注 意が必要である 3. 性感染症の治療後は、正しいフォローアップ が重要である
#27. 参考文献 • Workowski KA, et al. Centers for Disease Control and Prevention. Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2015. MMWR Recomm Rep. 2015 Jun 5;64(RR-03):1-137. • Workowski KA, et al. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021. MMWR Recomm Rep. 2021 Jul 23;70(4):1-187 • Lau A, et al. Azithromycin or Doxycycline for Asymptomatic Rectal Chlamydia trachomatis. N Engl J Med. 2021 Jun 24;384(25):2418-2427.