テキスト全文
入院患者の発熱に関する基本情報
#1. 初期研修医が知っておきたい 入院患者が発熱した時のアプローチ Lemon@感染症 日本感染症学会専門医・指導医・評議員 twitter: @Dr_lemon_infect
#2. Take Home Messages 1. 入院患者の発熱の緊急性は、qSOFAで 敗血症の可能性を考える 2. 入院患者の5大感染症と院内発熱の7Dを 意識した病歴聴取・診察・検査を行う
#3. 本スライドのゴール • 初めて病棟に配属された初期研修医が入院患者の発 熱に初期対応できる • 入院患者の発熱は呼ばれる頻度が多いので、マス ターしよう! 本スライドの対象 • 入院患者の発熱の初期対応に自信をもてない全ての 初期研修医
qSOFAを用いた緊急性の判断と評価
#4. 目次 1. qSOFAを用いた緊急性の判断 2. 入院患者の5大感染症と院内発熱の7D 3. 発熱精査を意識したTop-to-bottom診察 4. 発熱精査のための基本的な検査
#5. どのような対応をしますか? 70歳男性 • 3週間前に誤嚥性肺炎で入院し改善 • 退院調整中に嚥下機能が低下し経口摂取困難 • 中心静脈栄養中 • お昼から38.0℃の発熱があり、と看護師から報告 まずは、全身状態の把握と バイタルサインの確認(呼吸数忘れない)を行い、 緊急性を判断する!
#6. まずは緊急性を判断! • 普段よりそわそわしていて意思疎通できない • 苦しそうに肩で息をしている • 末梢は温かく、橈骨動脈の拍動はしっかりと触れる • 診察を待っている間に1回嘔吐した 全身状態はやや不良 体温 38.5℃、心拍数 110回/分 血圧 120/60mmHg、SpO2 96%(room air) 呼吸数 24回/分
入院患者の5大感染症と院内発熱の7D
#7. quick SOFA(qSOFA) 収縮期血圧≦100mmHg 呼吸数≧22/分 意識の変容 点数 1 1 1 感染症疑い+qSOFA≧2点で敗血症を疑う 本症例は、呼吸数24回/分、意識変容で2点 敗血症の疑い!
#8. 敗血症を疑う所見 症状・所見 コメント 頻呼吸 最初に現れるサイン 悪寒戦慄 悪寒のみ約4倍、悪寒戦慄あり約11倍 混乱・意識障害 神経巣症状まれ もともとの神経症状が悪化する可能性もある 遷延する低血糖 鑑別:肝不全、副腎不全、敗血症 嘔気/嘔吐・下痢 交感神経優位のため生じる(胃腸炎ではない) 皮疹 点状出血 代謝性アシドーシス アニオン・ギャップ開大アシドーシス
#9. 何から評価するか? • Commonな感染症は肺炎や腎盂腎炎だけれども、 意識しないと見逃しやすい感染症や熱源がある • 入院患者の5大感染症と、院内発熱の7Dを意識した 病歴聴取・診察を行おう! • あてのない病歴聴取・診察はやめよう!
#10. 入院患者の5大感染症 • 肺:肺炎・気管支炎・副鼻腔炎 • 創:創部感染・褥瘡 • 腸:CDI • 尿:腎盂腎炎・前立腺炎 • 血:血流感染(カテーテル関連) CDI: Clostridioides difficile infection
#11. 院内発熱の7D • Device • Decubitus • Debris • Diarrhea • Drug • DVT/PE :CLABSI、CAUTI、VAP :褥瘡 :胆嚢炎 :CDI :薬剤熱 :深部静脈血栓症 • CPPD :結晶性関節炎(偽痛風) CLABSI: Central line-associated bloodstream infection, CAUTI: Catheter-associated urinary tract infection, VAP: Ventilator-associated pneumonia, CDI: Clostridioides difficile infection
発熱精査を意識した診察と基本検査
#12. 情報収集 • 肺:痰や咳の量が増えていないか? →増えていない • 創:褥瘡や創部の状態は →なし • 腸:下痢の程度は? →なし • 尿:尿の回数、見た目、尿道カテーテルは? →入院時から3週間尿道カテーテル留置 • 血:中心静脈や末梢静脈路はいつから使用? → 1週間前から中心静脈挿入
#13. 発熱精査を意識したTop-to-bottom診察 • 頭部:項部硬直、頬部叩打痛、口腔内 • 胸部:呼吸音、心雑音 • 腹部:圧痛、Murphy sign • 背部:CVA/脊椎叩打痛、褥瘡 • 四肢:皮疹、ライン刺入部 • 右CVA叩打痛陽性 • カテーテルバック内の尿が混濁 カテーテル関連尿路感染症?
#14. 発熱精査のための基本的な検査 どのような状況でも、 入院患者が発熱したら必ず行う! • 最低限行う基本の検査 血液検査、一般尿検査 血液培養、喀痰培養、尿培養、胸部X線 • フォーカス特異的培養検査(膿など) 最も重要な検査は血液培養検査 抗菌薬投与前に採取する
血液培養の重要性と抗菌薬投与のタイミング
#15. 血液培養は2セット以上採取する! 検出感度 1セット 73.2% 2セット 93.9% 3セット 96.9% しっかり消毒し2セット以上採取!
#16. 70歳、男性 • 血液検査:白血球増多、CRP上昇 • 血液培養2セット提出 • 尿検査:白血球反応+ • 尿グラム染色:グラム陰性桿菌、貪食あり • 胸部X線:浸潤影なし • 腹部エコー:両側腎盂尿管拡張なし カテーテル関連尿路感染症を強く疑う!
#17. 抗菌薬は可能な限り早く投与する! • 血圧低下が確認されてから1時間以内に有効な抗菌薬 投与を受けると、生存率は79.9%となった • ICU入室患者の重症度評価の指標であるAPACHEⅡス コアを含む多変量解析では、有効な抗菌薬治療を開始 するまでの時間が最も強力な予後予測因子であった
抗菌薬選択のポイントと治療方針
#18. 抗菌薬選択のポイント • 次の3つの軸で総合的に考える ①患者の状態 ②病原微生物 基礎疾患、重症度 過去の培養結果 感染臓器 グラム染色結果 ③抗菌薬 スペクトラム、用法・用量 臓器移行性、副作用、相互作用
#19. 抗菌薬選択に関する 感染症専門医の思考回路 ①患者の状態 基礎疾患:誤嚥性肺炎、高齢 重症度:敗血症の可能性はあるが、血圧低下もなく、そこまで重症ではない 感染臓器:尿路を第1に考える ②病原微生物 過去の培養結果:入院時の尿培養は感受性良好な大腸菌 尿のグラム染色結果:腸内細菌を疑うやや太めのグラム陰性桿菌 ③抗菌薬 スペクトラム:腸内細菌をカバーできる抗菌薬 臓器移行性:尿路移行性のよいものを考える 相互作用:現在、注意すべき併用薬はなし
#20. 70歳、男性、尿路感染症の疑い • 尿路感染症の起因菌の頻度が多い病原微生物として大腸菌やク レブシエラを想定 • 過去の培養結果からESBL(extended-spectrum βlactamase)産生の可能性は低いと判断 • 全身状態はそこまで悪くないので、もしも初期治療でカバーを 外したとしても感受性が分かってから広域抗菌薬にしても問題 はないと判断 ⇒セフトリアキソンを選択 • 尿培養と血液培養2セットから大腸菌検出 • 3日目に解熱して経過良好
よくある質問と参考文献
#21. よく聞かれるQ&A Q. 入院患者の発熱で頻度が多いものを教えてください • 入院患者の発熱で頻度が多いものは、肺炎(誤嚥性肺炎も 含む)と尿路感染症(腎盂腎炎や前立腺炎も含む)です • そのため、入院患者が発熱をした時は、血液検査と血液培 養検査に加えて、一般尿検査・尿培養、喀痰培養・胸部X 線写真の検査を行います Q. 入院患者の発熱で見逃しやすいものを教えてください • 入院患者の発熱で見逃しやすいものはカテーテル関連血流 感染症になります • そのため、入院患者が発熱をした時は、末梢静脈や中心静 脈の刺入部の診察(圧痛、熱感、発赤、腫脹など)をしっ かり行います • さらに、カテーテル関連血流感染症はカテーテル留置部の 症状に乏しいことがあるので、血液培養検査を必ず採取し ます
#22. Take Home Messages 1. 入院患者の発熱の緊急性は、qSOFAで 敗血症の可能性を考える 2. 入院患者の5大感染症と院内発熱の7Dを 意識した病歴聴取・診察・検査を行う
#23. 参考文献 • Klevens RM, et al: Estimating health care-associated infections and deaths in U.S. hospitals, 2002. Public Health Rep: 2007 • Lee A, et al: Detection of bloodstream infections in adults: how many blood cultures are needed? J Clin Microbiol: 2007 • Kumar A, et al: Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med: 2006