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死亡診断書と死体検案書の違い
#1. ROSCなしなら検案書! 検案書なら警察届け出! ・・・で、ホントにいいの? 死亡診断書/死体検案書の書き分け 警察への届け出の適応について 整理したスライド 本資料は議論がある 内容を含んでいます 古賀総合病院 内科 松浦良樹
#2. ■ やることは2つ! ① 「死亡診断書」か「死体検案書」か判断する Point① 検案書=警察届け出ではない! ② 警察の届け出が必要か判断する Point② この判断に大きな議論がある!
#3. ① 死亡診断書か、死体検案書か 大原則 死亡診断書 自らの診療管理下にある患者が、 生前に診療していた傷病に関連して 死亡したと認める場合 死体検案書 上記以外 厚労省 令和5年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルより
主治医の役割と死因の判断
#4. 自分が主治医/担当医(救急担当も)である 自分が患者の管理を任されている(当直医など) 死亡診断書 自らの診療管理下にある患者が、 生前に診療していた傷病に関連して 死亡したと認める場合 自分が主治医/担当医で、既に診断していた傷病 「死亡確認するまでに」・検査等で診断し得た傷病 ・主治医等から引き継いだ傷病
#5. 死亡確認までに 死因が判明 しなかった 「診療継続中の傷病」 した ・自分が主治医/担当医で、 元々診断していた傷病 死因は診療継続中 の傷病で ない ある ・自分が担当し、死亡確認 までに診断出来た、または 主治医などから紹介などを 受けて引き継いだ傷病 ・自分は当直医で、主治医に 死体 検案書 死亡 診断書 すでに診断されていた傷病 など ※極論を言えば、死亡確認までに死因となる傷病を診断し、死亡確認までに何らかの診療行為が 行われていれば「生前に診療していた傷病に関連した死亡」として死亡診断書交付が可能。
#6. CPAOA患者の場合 した 蘇生処置 を実施 していない 死亡確認までに 死因が判明 しなかった した 死因は診療継続中 の傷病で 「蘇生処置を実施せず死亡した」 ということは「診療継続中では ない」と判断されるため、死因が 死亡確認時に明らかでも、死体検 ない 案書となる(次ページ参照)。 ある ※ 当該患者の主治医が死後診察し 明らかに診療中の傷病に関連 する死因と判断できる場合は、 死亡診断書の交付が可能。 死体 検案書 死亡 診断書
死体検案書の適応と警察届け出
#7. ※ 補足:蘇生処置と診療継続について ■心肺蘇生術中は蘇生する可能性を期待して実施しており、ROSCするかに関わらず、 「診療行為中」であるとみなす。 →心肺蘇生行為終了、死亡確認までに死因と考えられる傷病が判明していれば、 「診療中の傷病に関連した死亡」として死亡診断書を発行することが可能となる。 施設で窒息 しました! 突然倒れて、 心肺停止に なった! C P A O A 来院時すでに死亡していたと 判断するなら、死体検案書の 対象としても良い。 蘇生処置 死 窒息がCPAの原因だ! 亡 確 大動脈解離があった! 死亡 診断書 認 死体 検案書 原因が分からない! 検案+Ai でSAHがあった!
#8. 死体検案書の適応なら 診療中の患者が死亡した後、改めて診察し、生前に診療していた傷病 に関連する死亡であると判定できない場合には、死体の検案を行う こととなる。この場合において、死体に異状があると認められる場合 には、警察署へ届け出なければならないこと。 医師法第 20 条ただし書の適切な運用について(通知) (平成24年8月31日付け医政医発0831第1号)(抄) 検案を行う
#9. ※ 補足:検案って? 過去に議論があったが、決着している。 医師法第21条における「検案」の定義 医師が死因等を判定するために 死体の外表を検査 すること (都立広尾病院事件の最高裁判所判決から) 体表を観察することで、事件性のあるような異状(例えば、殴られたよう な痕跡、診療に関連しない注射の痕など)が ないかどうかを確認する。 医師(または獣医師)が行う! ※警察が行うのは「検視」
警察への届け出基準と法的根拠
#10. ② 警察への届け出を検討する 大原則 <医師法第二一条> 医師は、死体または妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると 認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない 「検案で異状がある」と判断できなければ、 原則として警察への届け出は必要ない? 大議論がある
#11. ①法的な届け出が必要な範囲(体表異状)です ②でも、体表に異状が なくても、犯罪性が ないとは言えないよね… 体表に異状がある ④えっ、このあたりの 事例も届け出しないと いけないの!? 法的根拠は!? 犯罪性がない ③異状死の定義を決めて、 この範囲は届け出して もらうようにしよう! 犯罪性がある
#12. 警察に届け出る基準は? ① 1.法的な大原則 <医師法第二一条> 医師は、死体または妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると 認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない 厚労省 の解釈(平成31年4月24日厚労省事務連絡より) 『 外表異状』: 検案(体表の観察)を行い、異状があると判断する場合 →基本的には「外表に異状を呈している状態」と解釈 ※ 経過や所見などの情報を考慮することもやぶさかでない ※ 最高裁判例(広尾病院事件)などからの解釈
異状死体の定義と届け出の議論
#13. 警察に届け出る基準は? ② 2.日本法医学会の「異状死ガイドライン」 異状死体の定義:『確実に診断された内因性疾患で死亡したことが 明らかである死体以外の全ての死体』 参考(日本法医学会「異状死ガイドライン」より引用、改変) 1.外因による死亡 (診療の有無、診療の 期間を問わない) (1)不慮の事故:交通事故、転倒、転落、溺水、火災・火焔などによる障害、窒息、中毒、 異常環境、その他の災害 (2)自殺 (3)他殺 (4)不慮の事故、自殺、他殺のいずれであるか死亡に至った原因が不詳の外因死 2・外因による傷害の 続発症、あるいは 後遺障害による死亡 例)頭部外傷や眠剤中毒などに続発した気管支肺炎、 パラコート中毒に続発した間質性肺炎・肺線維症 外傷、中毒、熱傷に続発した敗血症・急性腎不全・多臓器不全 など 3.上記1または2の疑いがあるもの 4.診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの 5.死因が明らかでない 死亡 (1)死体として発見された場合。 (2)一見健康に生活していたひとの予期しない急死。 (3)初診患者が、受診後ごく短時間で死因となる傷病が診断できないまま死亡した場合。 (4)医療機関への受診歴があっても、その疾病により死亡したとは診断できない場合(最終診療後 24時間以内の死亡であっても、診断されている疾病により死亡したとは診断できない場合)。 (5)その他、死因が不明な場合。
#14. ※ 補足:混乱のある議論の整理 ■ 罰則規定のある法的な「警察届け出の最低基準」は、「検案して異状がある 場合(体表異状がある)」であるということは間違いない。 ■ 「法医学会ガイドラインの異状死体の定義に当てはまる」が「警察届け出の 基準」であるかどうかは議論があり、法的な根拠は実際にはない。 ※厚労省の死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルに法医学会ガイドラインの定義が参考として 記載されていたが、議論を経て平成27年度版から削除された 「最高裁判例や厚労省の解釈からも、体表に異状がなければ届け出不要だ」 「外表異状以外でも届け出が必要なら、届け出の範囲が非常に拡大する」 「診療関連死亡などでも常に届け出るなら、萎縮医療を招く」 「外表異状のみでは、犯罪性が見過ごされる恐れがある」 「医療者自らが第三者に届け出る姿勢が患者の信頼を高める」 「医師法は古く、社会の多様化・複雑化に伴い解釈も広くするべきだ」
#15. 結局、届け出はどうする? 体表に異状がある 体表に異状はないが、 諸般を考慮すると 届け出が必要(義務) 届け出を強く推奨 犯罪性が懸念される 法医学会GL基準の 異状死体に該当 個別に検討 or 全例届け出 ※ 上2段に該当しなければ法的義務がある というわけではないが、 病院のルールや 地域の慣習などに従う方が無難
ケーススタディによる判断基準
#16. ※ 補足:診断書/検案書の区別と警察届け出 ■「死亡診断書」と「死体検案書」のどちらか、ということと 「警察への届け出が必要」かと言うことは基本的には関係ない 交付すべき書類が「死亡診断書」であるか「死体検案書」であるかを問わず、 異状を認める場合には、所轄警察署に届け出てください。 その際は、捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で、死亡診断書もしくは 死体検案書を交付してください。 厚労省 令和5年度版 死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルより ×「死体検案書」なら警察へ届け出が必要だ 〇「死亡診断書」で警察で届け出を行う場合もある 〇「死体検案書」で警察へ届け出を行わない場合もある 例:次スライドからのケース参照
#17. ③ ケーススタディ ■92歳男性、施設入所、誤嚥性肺炎を繰り返している。 施設で朝食時に喉に詰まらせて心肺停止になり救急要請した。 CPAOA、救急隊から引き継ぎ、蘇生処置を継続した。 心肺蘇生という診療行為を 挿管したところ気管から芋が出て、窒息と診断した。 行っており、自身の診療下にある 一度ROSCしたが再度心停止し、蘇生を継続した。 窒息と言う診断、心肺停止という ROSCせず、死亡確認を行い窒息が死因と判断した 状態に対して診療中である 死因は生前に診療していた傷病「窒息」に関連する 死亡診断書なのに、 警察届け出もあり得る 死亡診断書の適応 法医学会GLを遵守するなら窒息は 諸般を考慮して事件性がないと 異状死なので、警察届け出を行う 判断するので警察届け出しない 警察の検視を経て犯罪性なしと判断し、死亡診断書を交付する
#18. ■72歳女性、糖尿病教育入院中。 夜間当直帯で、ナースコールが鳴っており看護師が赴くと、 強い背部痛を訴えていたが、3分後に心停止し心肺蘇生処置が 開始され当直医として呼ばれた。 当直医として入院患者の管理を 心肺蘇生を継続し、一度だけROSCするも再度Asystoleに 任されており自身の診療下にある なり、30分後に死亡確認した。 死亡確認までに死因となる傷病が 判明していない 心停止は予期されておらず、死因が不明であるためAiとして 全身CTを撮像したところ、Stanford A型大動脈解離が確認され、 その他検討した上で直接死因であると判断した。 確実に診断された内因性疾患で 死亡したことが明らかである 死因は生前に診療していた傷病ではない 死体検案書の適応 検案を行い、体表異状は確認されなかった 死体検案書だが、 法医学会GLでも異状死の 諸般を考慮して事件性がないと 警察届け出はしない 定義に当てはまらない 判断するので警察届け出しない
急性薬物中毒の死亡診断書適応
#19. ■52歳男性、不眠症で近くの心療内科へ通院中。 ネットカフェで倒れているところを発見され搬送された。 大量の睡眠導入剤、インターネットで購入した海外医薬品の 空包が室内に残されていた。 主治医として自身の診療下にあり、 急性薬物中毒として入院管理が行われた。 急性薬物中毒、多臓器不全という 腎不全、呼吸不全などを合併し重症化した。 入院から10日後に多臓器不全が悪化し死亡した。 診断に対して診療中である 薬物中毒が死因に直接関連すると判断した。 死因は生前に診療していた傷病に関連する 死亡診断書の適応 検案(本来必要ないが)で 体表異状は確認されなかった 諸般を考慮し、事件性がないと 死亡診断書だが、 警察届け出を行う 判断できないので警察に届け出る 法医学会GLでも異状死の定義に 当てはまるので届け出る