#4.
死亡診断書と死体検案書の違い
#5.
今年の救急医学会でも白熱した「死亡診断書、死体検案書どっち書く」問題 院外心肺停止で来院した患者さん。蘇生かなわず、死亡確認した。
⇒記載するのは死亡診断書?死体検案書?
#6.
一般には
入院していて自分が担当医である/当直医である
外来診療している
訪問診療している
患者さんが、自分が認知していて治療中である傷病で死亡した
⇒死亡診断書
それ以外、つまり
はじめましてが死体
知っている患者さんだが、把握外の傷病で予期せず死亡した
⇒死体検案書
#7.
「心肺停止の蘇生治療を行った(蘇生できなかったけど)」は
「診療管理下にある」として良いのか? 色々な人が色々な解釈をしています。
救急搬送された院外CPAについては、グレーゾーン。
#8.
違いは、
対象が「患者」か「死体」か
「診療行為内」か「診療行為外か」
死体検案とは
死体の検案(けんあん)とは、医師または獣医師が死体に対し、死亡を確認し、死因、死亡時刻、異状死との鑑別を総合的に判断することをいう。
(Wikipediaより) 死亡診断とは
定義なし!!
(Wikipediaにも、広辞苑にも、google国語辞典にも載っていなかった)
↓
「診断」とは 医師が患者を診察して病状を判断すること。(広辞苑より) ここからは作者の解釈・・・
#9.
心肺停止で患者が搬送 蘇生治療と同時に心肺停止の原因検索を行う 疾患Aによる心肺停止と診断 蘇生できず、死亡確認 Aによる死亡として死亡診断書を作成 死因を検索し、疾患Aによる死亡と診断 Aによる死亡として死体検案書を作成 ここで心肺停止に対する診療行為は終了
#10.
蘇生治療終了後に、警察に異状死疑いとして届け出たパターン ⇒その時点で一度「診療」は終了と考える。
警察から「一緒にみて書類書いてください」と言われたときは、
そこから「検案」が始まり、「死体検案書」を作成する。
#11.
いまだに時々聞く「診療24時間以内」に対する誤解 誤解の元の文面↓ これをもとに、なぜか
「最終診察から24時間以上経過した患者の院外死亡は、
全て警察に届け出なければならない」
という誤解が生じた
#12.
想定されているパターン(例)
癌の終末期で訪問診療している患者A。担当医Bが某日15時に診療したところ、昏睡状態で血圧も低く、近々息を引き取ることが推測された。
翌日8時、Aが息を引き取ったと訪問看護師から連絡があったが、担当医Bは外来診療の開始が迫っていたため、A宅を訪問せず、診療所に居ながら死亡診断書を発行した。
⇒死亡したのが翌日の17時(24時間後以降)であれば、改めてA宅を訪問して死亡診察をすれば死亡診断書を発行できる
#13.
(警察嘱託医や解剖医という立場でない限り)
死亡診断書で書こうが死体検案書で書こうが、違いを指摘されることはありません
(たぶん理論的に指摘できる人もいない)
#14.
死亡診断書の書き方
#15.
ここからは☚に則って解説します
#16.
二重線で消すところ4か所 二重線の意味は「選択」であり、「修正」ではないので、修正印は不要
#17.
記入していない欄は斜線を引く 第三者による追記を防ぐため(書いてある病名によって保険金が高くなることがある!)
#18.
1)氏名、生年月日 戸籍に登録されている正しい漢字で記載。
少しでも違うと役所に受け付けてもらえない=埋葬許可証が出ない ので、必ず遺族に確認をしてもらう。
(常用漢字でない人は特に要注意!カルテ上の活字も違っていることがある)
#19.
外国名の方 ⇒ローマ字(ブロック文字)、漢字はそのまま記載可。その他の文字(ハングル、ロシア文字、ギリシア文字、ヘブライ文字など)は現地語の読み通りをカタカナ表記で。
帰化した方 ⇒日本語表記(漢字・カタカナ・ひらがな)の名前が戸籍に登録されている(「ラモス瑠偉」さん など)
在日韓国人・朝鮮人の方 ⇒民族名(本名)と日本名(通名)の両方を持つ。「【日本名】こと【民族名】」など併記することが多い
誰だかわからない人
通称「くまさん」、誰に聞いても本名がわからない⇒「不詳(通称『くまさん』)」
「不詳」
東日本大震災のときは、「安置所名+通し番号」だったことも 氏名の例外事項
#20.
生年月日の例外事項 外国人の方 ⇒西暦で書く
生年月日、年齢が分からない方 ⇒「○○歳(推定)」「五十歳代(推定)」「不詳」
#21.
2)死亡したところ 都道府県から記載(政令指定都市は市からでも可)。
院外心肺停止 救急隊接触時~終始Asystole ⇒死亡場所は現場
救急隊接触~病院搬送後、何らかの波形が見られた ⇒死亡場所は病院
死亡場所が不明(漂流など) ⇒「○○(発見)」
#22.
3)死亡したとき 死亡確認時刻ではなく、死亡(推定)時刻。はっきりとわからないときは「~時頃(推定)」などと書く。
⇒病院でお看取りしたときは、「確認の直前まで医療行為が行われていた」=「その患者は(社会的に)生きていた」ということなので、ご臨終を宣告した時刻でよい。
(ただし、「家族の到着を待って死亡確認する」場合は日付を跨がないように注意)
臓器移植法の規定に基づき脳死判定を行った場合は、2回目の検査終了時刻を記載する
#23.
院外心肺停止の「死亡したとき」
救急隊接触時~終始Asystole、なんなら死体現象出てる
⇒病歴、死体現象から死亡時刻を推定(「②死因究明と死体検案」参照)。
死亡推定時刻は幅に余裕を持っておく方が無難。3時間以上の幅で考えるなら、気象庁の時刻を表す用語が使える(☞)
救急隊接触~病院搬送後、何らかの波形が見られた
⇒臨床上CPAであっても(PEA、Vf、pulseless VT)、生活反応と考える。
死亡時刻は病院での死亡確認時刻を採用。
#24.
*同時死亡の推定 民法第32条の2
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
血縁関係にある者同士が同一の事故・事件・災害などで、短時間に複数人死亡した場合(それぞれの死亡時刻が明確でない限り)同時に死亡したものとする
⇒数分の違いで相続順が入れ替わるごたごたを避けるため(航空機事故や大火災、大災害など、発災から短時間で死亡したと推定される場合、全員の死亡時刻を発災時刻に合わせる)
#25.
4)死亡の原因 日本語の医学用語で書く。略語は使わない。なるべくICD-10に準拠した傷病名を記載する。
直接死因に「心停止」「呼吸不全」など『死んでいる状態を表す用語』は書かない。
統計の「死因」として採用されるのは、Ⅰ欄の一番下位に書かれている傷病名(=原死因)。「死亡の種類」と矛盾ないように。
#26.
5)死因の種類 移動・輸送中の事故。自動車、歩行者、バイク、自転車の他、鉄道、船舶、飛行機も含まれる 熱中症、低体温症、潜函病、感電、機械による事故、落下物による事故、落雷、地震などの天災(地震に起因する交通機関の事故、火災含む) 外因死であることは確かだが、事故か自殺か他殺かわからないもの。
死刑、戦争による死亡。 手段を問わない。「縊頚」「扼頚」であっても、6ではなく9や10。入水であっても自死目的なら4ではなく9.テロによる死亡は10。
#27.
例1) 30年来の糖尿病既往のある方。令和2年11月3日に自宅の階段で転倒し、同日右大腿骨頸部骨折で入院。
11月4日に大腿骨頭置換術を受けた。
同月6日より発熱、酸素化の低下とともに手術創の感染徴候が見られた。術後の化膿性股関節炎に対して同日中に持続洗浄ドレナージ、抗生剤投与で対処したが、同9日には出血傾向が見られ、11月10日に敗血症によるDICで死亡した。 播種性血管内凝固症候群
化膿性股関節炎
右大腿骨頚部骨折
糖尿病 1日
4日
1週間
30年 この方の統計上の死因は「右大腿骨頚部骨折」
#28.
例2) 令和元年12月25日郵便局にいたところ、放火に遭い、気道熱傷を含む全身重症熱傷を負った。
入院後、気管切開含む熱傷に対する治療などを受けた。令和2年2月12日に抜管し経口摂取を始めていたが、2月29日誤嚥性肺炎を起こし、同3月10日に死亡した。
翌3月11日に司法解剖となった。 誤嚥性肺炎
咽頭熱傷、気道熱傷
全身熱傷
11日
約2か月半
約2か月半
この方は、もとをただせば「放火による熱傷」が原因。放火殺人の被害者になるため、異状死扱いとなり、死因の種類は「10 他殺」になる
#29.
充分な死因検索を行ったが死因が特定できなかった時 死亡診断書には「不詳」と書くことができます。
「外因死ではなさそうだけど病名が特定できない」という場合でも、死因の種類は1ではなく12を選んでください。
あるいは「○○疑い」と書くこともできます
(警察への届出もしたという前提) 不詳 不詳
#30.
記載を訂正するとき 公文書なので、制度上は「二重線+訂正印」
その人にとっての最後の大切な書類で、必ずご遺族の目に触れるものなので、なるべく書き直してきれいな診断書をお渡ししてください。
#31.
死因別死亡率変化グラフに見る死亡診断書の傾向
#32.
阪神淡路大震災 東日本大震災 ① ② ③ 厚生労働省 政府統計「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
#33.
①「心疾患」の急減、対称的に脳血管疾患の急増 外観上、何も所見のない死亡に対して「心臓性突然死」「虚血性心疾患」と記載することが横行 ⇒是正するよう勧告が出た
死後CTの運用により、これまで「虚血性心疾患」としていた外観上何も所見がない人のうち一定割合が頭蓋内出血であることが判明した ①
#34.
②脳血管疾患を抜いて肺炎が第3位に!・・・と思ったら、肺炎も急落 高齢者の誤嚥性肺炎を「直接死因:肺炎」と記載して終わっているものが多かった
⇒「原死因」の考え方の周知 ② 高齢者の肺炎の7割が誤嚥性肺炎であり、その原因にまで言及すれば脳血管疾患が半数を占める ☞令和2年度版死亡診断書記入マニュアルより
#35.
③近年老衰が急上昇・・・? かつては「老衰」とされていたものに、具体的な病名がつくようになった
↓
終末期医療、在宅看取り(施設死亡含む)などの環境が整ってきた
不自然な延命治療より「自然に身を任せる」ことを選択する風潮が医師・患者ともに浸透してきた ③
#36.
まとめ 診療に連続して「死亡を診断」したのであれば、死亡診断書を記載。診療を一度終了し、改めて「死体を診て死因を検討」したのであれば、死体検案書を記載。
統計上採用される死因は「死亡の原因Ⅰ」欄の一番下位に記載された原死因。つまり、直接死因よりも(イ)以下が大事!
死亡診断書を記載する医師の心構えだけで、日本の(延いては世界の)死因統計は時に急激に変動する。 かなり真剣に死亡診断書の書き方を勉強するようになって7年、月に3~10件の死体検案書を書きますが、まだまだ迷うことが多いです。昔からほぼ変わらないA4様式1枚に、人の「死に様」を表現することの難しさは尽きません・・・