テキスト全文
糖尿病治療の歴史と進展 #1.
世界糖尿病デー2025糖尿病の糖尿病医が考えるスティグマとアドボカシー活動 #2.
世界糖尿病デー 11月14日
糖尿病と職場
2025年のテーマは Diabetes & Workplace #3.
糖尿病治療の歴史 1921年
カナダ トロント大学で外科医のバンティングと,学生のベストが犬の膵臓から血糖降下物質を抽出 (後にインスリンと命名)
1922年 トンプソン少年(14歳)に牛から抽出したインスリンを投与
当時1型糖尿病は死に至る病でインスリンは奇跡の薬といわれた
1923年 インスリン市販開始
バンティングとマクラウドにノーベル医学生理学賞が授与
1982年 ヒトインスリン市販開始 1991年 バンティングの誕生日(11月14日)が世界糖尿病デーに 糖尿病患者の職場でのスティグマ #5.
糖尿病をもつ人は就労に困難を感じている 糖尿病をもつ人の3分の1は「職場の理解と支援が不足している」と感じている。
糖尿病をもつ人の6人に1人が糖尿病を理由に「職場で差別を受けている」と回答している。
糖尿病をもつ人の7%が「職場に糖尿病であることを告げていない」と回答している。
糖尿病をもつ人の4人に1人が「治療や検査のために定期的な休養を必要としている」と回答している。
One in six people with diabetes discriminated against at work(英国糖尿病学会 2018年4月10日) #6.
スティグマ 直訳で「負の烙印(らくいん)」
もともとは古代ギリシアで「身分の低い者」や「犯罪者」に
つけられた焼き印を意味していた.
転じて,医療においては「疾病を持った方への誤った偏見・差別」
全般を指す.
Patient. 2013;6(1):1-10. 糖尿病に対する社会的偏見 #7.
スティグマ 糖尿病治療学はここ数十年で大きく進歩した・・・が,「血糖コントロールを改善させて,合併症を未然に防ぐこと」が中心で,社会的立場へのケアはほぼ無対策であった
漠然とした負のイメージのみが残存
スティグマの出どころとして多いのは,メディアや医療従事者,友人,家族,同僚など BMJ Open. 2013 Nov 18;3(11):e003384. #8.
日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024 pp.516 #9. 「普通に生活したい.」
「明るくふるまっていても,いずれ発症するであろう合併症に不安を覚え,おびえている」
「血糖だけみないで,患者は生活をしながら,病気と向き合っていることを認識してほしい」
「インスリンを打つだけで何でもできる.とよくいわれるが,インスリンを打っていても普通の生活はできません.この言葉を医療者含め世間に周知してほしい」
「発熱でかかった近所の医院で1型糖尿病,MODY,ミトコンドリア糖尿病といったら,うちでは見られませんと言われた.」
血糖が高いとき,医療者から「隠れて何か食べているんじゃないですか?」と言われた.
発症時4歳だったが,「甘いものばかり食べたか」といわれた.
「糖尿病だと妊娠できない」と言われた. 第67回日本糖尿病学会年次学術集会 「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」より https://dm-net.co.jp/calendar/2024/038314.php 医療者の理解と教育の重要性 #10.
疾患をもつひとを理解するために 医療者が慢性疾患をもつひとを理解するためには
健常者や医療者が疾病を正しく理解すること
健常者と疾患をもつ人との接触機会を増やすこと
将来の医療者(学生)への教育を行うこと
が有効というエビデンスがある Trop Med Int Health. 2006;11(4):513–27. J Pers Soc Psychol. 2006;90(5):751–83. Can J Neurol Sci. 2008;35(4):436–40 Ann Behav Med. 2010;41(3):363–72. #11.
スティグマを放置するとどうなるか 治療中断率の上昇
服薬順守率の低下
社会的に不利な立場におかれる → QOLの低下 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024 pp.516 #12.
大部分の住宅ローンや医療保険は,「インスリン治療」という項目があり,「あり」と記載すると一発NG!!!
さいきんは血糖マネジメントや合併症により個別査定するところも増えている 糖尿病をもつ人は全然住宅ローンを組めない 糖尿病患者の住宅ローン問題 #13.
演者(田中)住宅ローン申し込みの軌跡10歳発症、インスリン使用中、合併症なしと記載 A銀行住宅ローン → 事前審査OK(年齢,職業,年収など)
本審査×
B住宅ローン → 事前審査OK(年齢,職業,年収など)
本審査×
C銀行住宅ローン → → 事前審査OK(年齢,職業,年収など)
本審査×
D銀行住宅ローン → 事前審査OK(年齢,職業,年収など)
本審査×
医師会の医師信用組合 → OK
E銀行 → 事前審査OK(年齢,職業,年収など)
本審査〇
とても大変でした #14.
糖尿病という疾患の,負のイメージ 数十年前の糖尿病治療の「ひとたび糖尿病の診断されたら10年で網膜症,20年で透析になって合併症で死ぬ」「インスリンは重症」というイメージが残存している
「食事が適切であれば(2型)糖尿病になるはずがない」
「 (2型)糖尿病の人は,不適切な生活習慣をしていたに違いない」
という誤った自己責任論 #15.
「糖尿病」67(2):106-128, 2024 図はMedical Tribune作成,2024/03/26 糖尿病をもつ人の死因は,非糖尿病の人とほぼ同等へ 遺伝子と糖尿病発症の関係 #16.
2型糖尿病の発症に関係する遺伝子
TCF7L2, SLC30A8, HHEX,
CDKAL1, CDKN2A/B, IGF2BP2, FTO
リスクアレル1個保有につき,2型糖尿病の発症リスクが1.2倍-1.5倍上昇する J Diabetes Investig. 2018;9(5):998-1015. より引用,改変 リスク遺伝子変化の数 オッズ比[95%信頼区間] 1996年以降、多数の効果の小さな遺伝子が同定されている(500以上)
2型糖尿病は
多因子遺伝の遺伝方式をとる 「生活習慣が適切であれば(2型)糖尿病になるはずがない」という迷信 #17.
「模範的な患者」強要していませんか? 糖尿病なのに・・・
きちんと通院をしない、服薬しない
間食やジュースをやめない
血糖測定しない
「治療を受けないと合併症で
早死にしますよ!」と脅す 乖離的スティグマ AI generated(ChatGPT) #18.
その患者さん、「模範的な患者」演じていませんか? セルフスティグマのサイン
皆前では甘いものを食べないようにする
一人の時に隠れ食い
血糖測定してないけど,測ったふりをしてうその値を記入
自分は早死にするから・・・
節制できなくて,すみません AI generated(ChatGPT) セルフスティグマ 糖尿病の呼称とその影響 #19.
0% 100% 糖尿病のなりやすさは,遺伝的な背景によって個人個人で多種多様.
どんなに生活習慣に注意していても,少しの環境因子(加齢など)で発症することも多々ある.
Bさん
遺伝素因は少なく,多くの環境因子が
重なると糖尿病を発症する.
糖尿病になりにくい Aさん
遺伝素因が多く,少しの
環境因子で糖尿病を発症する.
いわゆる「糖尿病家系」 「生活習慣病」は本来は「生活習慣を改善するとコントロールにつながる病気」という意味だが,「生活習慣が発症の原因の病気」という誤った理解がある 遺伝子と疾患発症に関するリテラシーが必要 遺伝因子 環境因子 加齢,肥満,高脂肪食,喫煙など MODYやミトコンドリア
糖尿病など単一遺伝子に
よる糖尿病 #20.
2023年9月22日
日本糖尿病学会,日本糖尿病協会合同声明 #21.
呼称案に求められる要件・特徴 「学術的観点」から正しい
「国際的に受け入れられる」
「呼称」「略称」にも配慮している
「診療科名」に転用された場合を想定
「新規性」のある呼称 日本糖尿病協会・学会合同アドボカシー委員会呼称検討ワーキンググループ ダイアベティス ダイアベティス、ダイアビーティス、ディアベティス、ディアべ、
糖代謝症候群、グルコース代謝症候群、DMch、DMS、DM 糖尿病患者とのコミュニケーションの重要性 #22.
呼称案に求められる要件・特徴 「学術的観点」から正しい
「国際的に受け入れられる」
「呼称」「略称」にも配慮している
「診療科名」に転用された場合を想定
「新規性」のある呼称 日本糖尿病協会・学会合同アドボカシー委員会呼称検討ワーキンググループ ダイアベティス 賛否両論 #23.
「ダイアベティス」騒動の後・・・ 「ダイアベティス」への変更提案は,様々なメディアや媒体で取り上げられ,社会全体で大きな話題となった.
様々な代替案が飛び交いながらも,糖尿病の方が誤った認識を持たれていることで不利益を被っている事実がある程度世間へ周知された.
→ 一定の効果あり? #24.
「ダイアベティス」
皆様はどう思いますか?
ご意見をお伺いしたいです!! #25.
Take home message 糖尿病をもつ人とのコミュニケーションのために・・・
健常者や医療者が疾病を正しく理解すること
健常者と疾患をもつ人との接触機会を増やすこと
将来の医療者(学生)への教育を行うこと
が大事です。