テキスト全文
糖尿病救急対応の重要性と誤解
#1. “その血ガス、正常に見えて危険です” ― pH正常でも安心してはいけない理由を、臨床判断フローとともに再定義 【当直シリーズ①】糖尿病の救急対応| Dr. Ito 順天堂大学医学部附属静岡病院 糖尿病代謝内分泌内科
伊藤 直顕
#2. pH正常=安心は誤りである pHは「結果」にすぎません。代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシスが相殺されると、pHは正常範囲に収まります。内訳を確認しなければ、氷山の一角しか見えていません。
DKAの見逃しと複合異常の理解
#3. なぜDKAは見逃されるのかc pH 7.40 正常範囲内
→ 安心と判断 AG 上昇 計算されていない
→ 見落とし ΔAG / ΔHCO3 比 異常 確認されていない
→ 複合異常を見逃す 臨床の落とし穴 DKAにおける代謝性アシドーシスが、嘔吐による代謝性アルカローシスや呼吸性代償と相殺されると、pHは「正常」に見えます。 pH正常でもDKAを除外してはならない
#4. 3つの異常が重なる AG開大型アシドーシス:ケトン体蓄積による
代謝性アルカローシス:嘔吐・利尿による HCO₃ 上昇
呼吸性代償:過換気による PCO₂ 低下 3つが重なることでpHが「正常化」される DKAは複合酸塩基異常である。
当直での迅速な判断フローの必要性
#5. 当直では"速く正しく"読む必要がある ⏱ 時間がない 多数の患者対応で計算に割ける時間は限られる 🧮 計算ミスのリスク 疲弊した状態での暗算はエラーを起こしやすい ✅ だからフロー化する 標準化されたアルゴリズムで再現性と安全性を確保
#6. 判断は3ステップで完結する 治療設計 体液評価 酸塩基評価 この3ステップを順に踏むことで、pH正常DKAを含むすべての複合酸塩基異常を系統的に評価できます。
当直現場での即応性を最優先に設計されています。
Anion Gapの計算と低アルブミン血症の影響
#7. STEP 1 Anion Gap の計算 正常値:8〜12 mEq/L(アルブミン正常時) pHより先にAGを確認する。
これが診断の起点です。 pHは相殺されて正常化するが、AGは上昇したまま残る
AG上昇はケトン・乳酸の蓄積を直接反映
計算されていない症例では見逃しが多い 最初にAGを確認する ► AG開大はアシドーシスの存在を強く示唆
#8. 低アルブミン血症の影響 アルブミンが低いほど、
補正なしAGは「正常」に見える 臨床的影響 補正前 AG = 11 正常範囲 → DKA否定 補正後 AG = 16 AG開大 → DKA疑い STEP 1ー落とし穴 AGは補正なしでは過小評価 * 国試に出題されたようです。 * * Alb>4.0は補正不要。
Δ比の計算と血液ガス所見の解釈
#9. Δ比の計算 STEP 1ー複合異常 ΔAG/ΔHCO3比で複合異常を見抜く 補正AGにて計算
結果によって3パターンに分類 Δ比による病態判断 Δ比>2 AG開大+代謝性アルカローシス Δ比1~2 単純型AG開大アシドーシス Δ比<1 AG開大+AG非開大アシドーシス AG開大では酸の増加に伴いHCO3は
同程度低下するが、HCO3が想定より
低い場合、「HCO3をさらに下げる
要因=AG非開大アシドーシス」が加わっている
#10. 血液ガス所見 項目 測定値 正常範囲 pH 7.40 7.35–7.45 HCO₃ 16 mEq/L 22–26 PCO₂ 30 mmHg 35–45 Na 135 mEq/L 136–145 Cl 95 mEq/L 98–106 AG(補正前) 24
8–12 臨床的判断 pHだけ見て「正常」と判断
→ DKA否定 → 治療遅れ 補正AG確認 → 26.5(開大)→ Δ比確認
→ DKA診断 → 即治療開始 この症例では、Albが3.0 g/dLであり補正AGはさらに高値となります。 症例提示 症例:pH正常のDKA
DKA判断アプリの機能とTake Home Message
#11. 当科の実装 当科ではDKA判断・治療をアプリ化している アプリの機能 01 電解質入力 Na・Cl・HCO₃・Albを入力 02 AG・補正AG・Δ比を自動表示 計算結果と臨床判断の示唆を即時表示 03 治療プランの提示 (現在作成中、別スライドに掲載予定)
#12. Take Home Message まずAGを見る pHより先に確認。補正AGまで算出する。 Δ比で読む 複合異常の有無を判定し、病態の全体像を把握する。 ケトンで判断する 治療の終点はケトン値。血糖正常化に惑わされない。 この3ステップだけで、pH正常DKAを含むすべての見逃しを防ぐことができます。