#4.
今回の対象とゴール 対象: 肛門科ではないけど、患者さんから信頼されてお尻の相談を されることがある先生。 ゴール: ・お尻の症状を訴える患者さんの話を、スルーしない。 ・専門診療科、専門施設へ適切につなげられるようになる。
#5.
目次 1. まずは問診で鑑別を考える 2. 肛門診察の方法と注意点 3. 初期治療と紹介の基準
#6.
1.まずは問診で鑑別を考える キーワードは、『出血』『脱出』『疼痛』 『腫脹』『排膿』 『便の性状』
#7.
問診で大事なこと 肛門疾患や排便に関わる病気は、問診である程度推定できる。 鑑別のための情報収集も重要だが、患者さんの不安や羞恥心などの心理面にも十分配慮し、 問診後に安心して診察させてもらえるように努める。 以下のような患者さんの気持ちに配慮する 鑑別や緊急性検討のために、情報収集する ・症状が強い、または長く続いているため辛い。 ・癌など、重大な病気が心配。 ・お尻や便のことで相談することに抵抗がある。 ・とくに女性の場合、男性医師による診察に抵抗 がある。 ・出血、脱出、疼痛、腫脹(しこり)、排膿の有無 や症状が出現した状況を確認する。 ・便の性状や頻度は、普段の状況と発症時の状況 を確認する。 ・複数の病態の併存や緊急性にも留意する。
#8.
ある程度の解剖を知っておく 直腸肛門とその周囲の解剖、疾患との関係性については、専門的な診療をまとまって経験 しないとかなり理解が難しい…。 診療機会の少ない状況では、まずは構造と疾患の存在部位についてだいたいのイメージを 持っておき、診療の機会ごとに学習するほかないかと思われます。 【直腸】 ・内痔核 歯状線 【肛門管~皮膚】 ・外痔核 ・裂肛 【肛門内・外括約筋間~皮膚】 ・痔瘻 ・肛門周囲膿瘍
#9.
出血(血便):肛門疾患から 出血の性状や状況、随伴症状で鑑別を考える。 便でいきんだときに、便器が赤くなるように血が出た。お腹もお尻も痛くはない。 痔核出血を疑う 排便後にお尻から軟らかいものが出ていて、拭いた紙にねっとりした血が付いた。 粘膜脱症候群を疑う 硬い便(または下痢)が出た後、お尻がズキズキ痛んで拭いた紙に血がついた。 排便時によく痔が出てくるが、今回は痛みと出血があった。 急性裂肛を疑う
#10.
出血(血便):大腸疾患から 大腸疾患からの出血も念頭に問診する。 (若年者で) 最近、排便後に粘っこい血が出る。腹痛や下痢も気になる。 潰瘍性大腸炎を疑う 急にお尻からたくさん血が出てきて、何回も繰り返す。腹痛はない。 憩室出血を疑う 急にお腹の痛みと下痢があり、出血した。下っ腹から左側が痛い。普段は便秘。 虚血性腸炎を疑う 最近、便に血が混じるようになった。大腸カメラは、一度も(長らく)受けていない。 腸癌の検索を!
#11.
脱出 最低でも肛門鏡を使って診察するか、排便時(怒責時)でないと実際の状態はわからない。 患者さんが脱出と訴えるものが、痔とは限らない。 排便時に、痔か何かが出てくる。勝手に戻るか、指で押し戻している。 痔核±粘膜脱、肛門ポリープ 等を疑う (高齢女性で)排便時に、軟らかい大きな塊が出てくる。粘液や血が付く。 直腸脱を疑う 肛門から、いつも軟らかい何かが飛び出ている。便を拭くのに邪魔になる。 皮垂(皮膚痔)を疑う
#12.
疼痛(肛門痛) 急性裂肛や血栓性外痔核では保存的治療、慢性の症状では待機的に専門医へ紹介すればよいが、 陥頓痔核や感染に伴う急性の強い症状については、早急な介入を要する場合がある。 硬い便(または下痢)が出た後、お尻がズキズキ痛んで拭いた紙に血がついた。 排便時によく痔が出てくるが、今回は痛みと出血があった。 急性裂肛を疑う 排便後に肛門が痛くなり、痛いところを触るとしこりがあった。 血栓性外痔核や 陥頓痔核を疑う 重いような、鈍い痛みがある。長時間座った後や疲れたときなどにひどくなる。 痔核や痔瘻を疑う 最近急にお尻の周りが痛くなり、どんどん悪化している。 肛門周囲膿瘍や その他の感染性疾患を疑い、 早急な対応を!
#13.
腫脹(しこり) 腫れやしこりといった訴えは、人によってさまざま。 ほかの症状の有無を確認しつつ、診察で確かめていく必要あり。 排便時(後)に、お尻のところにしこりがあるのに気付いた。 痔核±粘膜脱、肛門ポリープ 等を疑う 肛門の近くに硬いしこりがある。膿のようなものが出る。押すと少し痛い。 痔瘻や粉瘤等を疑う 肛門の近くや外性器に、軟らかいイボができている。 コンジローマを鑑別に入れる (接触感染に注意) 最近急にお尻の周りが腫れて痛くなり、どんどん悪化している。 肛門周囲膿瘍や その他の感染性疾患を疑い、 早急な対応を!
#14.
排膿 肛門周囲や臀部の感染性疾患は、鑑別が難しい場合があり外科的処置を要する可能性が高いため、 最初から専門施設への紹介を念頭にしながら、緊急性を含め評価する。 肛門の近くに硬いしこりがある。膿のようなものが出る。押すと少し痛い。 痔瘻や粉瘤等を疑う (若年男性で)お尻の皮膚が、何か所も硬くなって膿が出てくる。 膿皮症を疑う (毛深い若年者で)尾骨のあたりに硬いしこりが触れて、痛い。膿が出てくる 毛巣洞を疑う 最近急にお尻の周りが腫れて痛くなり、どんどん悪化している。 肛門周囲膿瘍や その他の感染性疾患を疑い、 早急な対応を!
#15.
便の性状 鑑別のためには症状を発症した際の便の性状を確認するが、症状の改善や再発防止のために、普段 の状況も確認して対応を考える。 固い便または下痢便直後の、肛門の痛みや出血。 裂肛を疑う 下痢便のしばらく後の、肛門周囲の痛みや排膿。 肛門周囲膿瘍や痔瘻を疑う 便が硬くて、強くいきんで出す。または、頻回に下痢をする。 痔核の悪化要因 徐々に出現、悪化した残便感や出しにくさ。便が細くなった。 大腸癌の検索を!
#16.
2.肛門診察の方法と注意点 お尻の診察のポイントは、看護師さんとの連携!
#17.
前提条件 お尻の診察は、症状や病気への不安だけではなく羞恥心の問題が大きい。 専門施設へ受診した時点では、患者さんに診察や検査を受ける意思があるとしてよいだろうが、 非専門施設の時点では、そうでもない可能性がある。 患者さんから相談され、かつ一定の信頼関係ができている状況下でも、慎重な対応が必要。 必ず看護師さん(基本的には女性)の同席、リードのもとに診察する。 行おうとする診察行為についても、患者さんに同意を得て、所見とともにカルテ記載を。 (訴訟リスクも考慮・・・。 ) ゴールを専門施設・専門医へつなぐこととし、無理に診察・診療を完遂しようとしなくて良い。
#18.
おおまかな診察の流れ ①お尻の診察を行うことについて、同意を得る。 ②自分は患者さんに背を向ける。患者さんが下着まで降ろして診察の体位を取るまでの間、看護師 さんにバスタオルを広げてもらい、自分から患者さんの下半身が死角になるよう隠してもらう。 ③患者さんとコミュニケーションを取りながら、必要な診察を行う。とくに触診や直腸診は、 行う前に必ず声をかけて、同意(最低でも拒否がないか)を確認する。 ④診察が終了したら、着衣までの間は再度患者さんに背を向け、看護師さんにバスタオルで隠して もらう。
#19.
診察の体位 膝を曲げた側臥位(シムス位)になってもらう。 左右のどちらでもよいが、自分が右利きなら左側臥位が診察しやすい。 患者さんの背中側から看護師さんにお尻を持って開いてもらい、視野を確保するとともに、看護師 さんが付いてくれている保証と安心感を。 看護師 医師 シムス位
#20.
視診→触診→指診→・・・ 問診から想定した鑑別や状況に沿って、所見を取りに行く。 ①視診: 肛門および肛門周囲の色調変化、腫脹、排膿、痔瘻の二次口などの有無を観察する。 ②触診: 病歴や肉眼所見から、痛みや痔瘻の存在が想定される部位を、愛護的に触診する。 患者さんに、圧痛や違和感の有無を確認する。 ③指診: 通常は示指を、裂肛や肛門狭窄が想定され肛門痛の訴えが強い場合は小指を愛護的に挿入する。 肛門全周を、圧痛や硬結の有無を確かめながら触れ、付着物や便の性状も確認する。 痛みや拒否が強い場合は、無理に診察を続けない(それ自体、専門施設紹介の理由にもなる)。
#21.
肛門鏡、直腸鏡までは・・・ 肛門疾患の診察には、肛門鏡や直腸鏡による診察が重要です。 しかし、その扱いや所見の取り方には修練を要しますし、ある程度患者さんにも苦痛になります。 保険点数が意外に高く、非専門施設でも取り入れているところはあるかもしれませんが、無理には 行う必要はないと考えられます。
#22.
3.初期治療と紹介の基準 治療と紹介は、想定される診断と症状の程度で判断しよう
#23.
問診±診察で、疾患の想定と紹介の検討を 自分で初期治療を開始してよさそうな状況かを検討し、難しかったり症状が非常に強い場合、 緊急性がありそうな場合は、すぐに紹介でよいと考えられます。 想定される疾患や状況 対応 痔核や裂肛 (軽度~中等度) 保存的治療 (軟膏、内服薬、便性コントロール、生活指導) 急性の感染性疾患 (肛門周囲膿瘍など) 速やかに、または切開排膿後に専門施設へ紹介 (当日~可能な限り早期に対応) 症状が重い! 対応が難しい! 手術を要しそうだ! 専門施設へ紹介 (緊急性があれば、当日~可能な限り早期に)
#24.
痔核や裂肛に対する保存的治療 痔核や裂肛からの出血・疼痛が想定され、症状が軽度~中等度でときどき繰り返すといった程度 の場合は、非専門施設であってもまずは保存的加療を開始可能です。 痔疾患治療薬 便性コントロール 軟膏: 強力ポステリザン(ステロイド) ネリザ(ステロイド+痛み止め) 便秘と下痢のいずれも、症状悪化・ 再発の要因。 内服: ヘモナーゼ 必要なら、ブリストルスケール 4 を目標に、内服薬等で便の性状コン トロールを。 生活指導 入浴(湯船に浸かる) 排便時に強くいきまない 長時間便座に座る(スマホなど) 下半身を冷やさない 酒や香辛料を摂らない 水溶性食物繊維を多く摂る
#25.
注意してほしいこと 出血を痔と決めつけて大腸癌や潰瘍性大腸炎の診断が遅れたり、裂肛という診断は間違ってない がクローン病や裂肛による痔瘻の存在を見逃したりということは、十分起こり得ます。 患者さんの年齢や内視鏡検査歴の有無を、常に考慮してください。 (中高年であれば悪性腫瘍、若年であれば炎症性腸疾患の可能性を念頭に) 経過が長かったり違和感を覚える場合などは、ためらわずに専門施設を紹介してください。
#26.
急性の感染性疾患が想定されるとき とくに外科系の先生であれば、ひとまずの切開排膿で症状改善を図れるかもしれません。 しかし、肛門周囲の感染症については鑑別(肛門周囲膿瘍、粉瘤、毛巣洞、etc...)や、痔瘻の有無 についての評価が難しい場合があります。 またいったん切開排膿しても、ドレナージ不良や痔瘻の存在により、二期的に外科的処置を要す る場合も多いです。 このため、基本的には専門施設へ紹介する方針にしてよいと考えられます。 当日か後日かは、症状の強さ、全身状態、排膿が得られたかなどで検討してください。 この際、抗菌薬治療を開始すると状況がわかりにくくなったり、適切にドレナージすれば抗菌薬 投与が不要な場合も多いので、通常は抗菌薬を開始せずに速やかに紹介されるとよいです。
#27.
恐怖の『壊疽性筋膜炎(フルニエ壊疽)』・・・ これだけは、疑ったら秒で電話! 直腸肛門や泌尿器を原発として、会陰部・陰茎・陰嚢から急速に進行する、劇症型の感染症。 50~70代の男性に比較的多く、基礎疾患として糖尿病を有する場合が多い。 好気性菌と嫌気性のガス産生菌などの感染により、激烈な疼痛、発赤~黒色変性、腫脹、悪臭の 強い膿汁、皮膚の握雪感を認める。 非常に急速に感染領域の拡大と全身状態の悪化をきたし、致死率が高い。 これを疑った場合は、そうでない可能性や付き合いの有無、医局の関連などは考慮せず、救命救 急・形成外科・外科(肛門科)・ICUといった診療体制のある施設へ、秒で電話してください!!
#28.
さいごに 肛門疾患は外科領域ですが非常にニッチで、優れた消化器外科や形成外科の先生であっても、 不得手な場合が往々にしてあります。 一方で、お尻のトラブルを抱えている患者さんは非常に多く、また便秘などの便通異常にも、 肛門の機能異常が関与していることがあります。 地域で頼れる肛門科の施設・専門医と、 『お知り合い』になっておくことをお勧めします。