#4.
今回のまとめ ①痔瘻と肛門周囲膿瘍の病態について知る ②初期対応や専門医紹介のポイントについて知る ③その他の臀部や肛門周囲にできる感染症について知る
#5.
今回の対象 対象: 肛門疾患の診療に必要な経験や器具を有していないが、患者さんから 信頼されてお尻の相談をされることがある先生。 ※注意点 ・非専門医向けであり、肛門科の先生からみると甚だ不十分な内容であることを ご了承ください。 ・クローン病については、割愛しています。 ・痔核および裂肛については、別のスライドを参照ください。
#6.
今回のゴール ・問診と視診+触診で、ある程度の鑑別と緊急性の判断ができる。 ・適切に専門医・専門施設へつなげられる。
#7.
目次 1. 知られざる痔瘻のストーリー 2. 診察・診断・紹介のポイント 3. 紛らわしいお尻の感染症シリーズ
#8.
1.知られざる痔瘻のストーリー だって診たことないんだもん
#9.
痔瘻とは? 通常の痔瘻は、歯状線上の窪みである『肛門小窩』に細菌が侵入することが始まりと なる。 細菌は内外括約筋の間にある『肛門腺』に感染して肛門周囲膿瘍を形成し、脆弱な部 位を求めて進展する。 最終的に自然排膿や切開排膿後に『瘻管』となって残ったものが、痔瘻といわれる。 または、裂肛が原因で粘膜下~皮下に浅い瘻管を作った『裂肛痔瘻』や、クローン病 の直腸潰瘍を原因とした、深部 and/or 複雑な分岐の痔瘻もある。
#10.
えっと、つまり? もともと上皮がない肛門小窩、または直腸肛門の傷(裂肛や潰瘍)から侵入した菌が、 筋肉以外の疎な組織の中を壊しながら感染巣を広げていき、膿瘍を作った状態を 『肛門周囲膿瘍』 、一連の炎症により感染のルートが硬い瘻管となった状態を 『痔瘻』という。 内括約筋 深外括約筋 ↓ 浅外括約筋 ↓ 皮下外括約筋 直腸(Rb) 一次口 (菌の侵入口) 歯状線 肛門管 最も一般的な、 筋間膿瘍と低位筋間痔瘻 二次口(膿の出口)
#11.
非肛門科の先生に知っておいてほしいこと 本邦での痔瘻や肛門周囲膿瘍の有病率についての報告がないが、 『稀だけど、案外巷 にいる病気』と思ってもらいたい。下痢便が、発症要因のひとつ。 女性より男性に多く、30~40代に好発とされるが、その前後の年齢もけっこういる。 肛門周囲膿瘍を形成すると、急激~数日間で増悪する肛門周囲の疼痛、腫脹をきた す。自壊して皮膚から、または感染の原因となった部位(一次口)から排膿されると、 症状がある程度改善する。深部に進展した膿瘍の場合は、皮膚側の症状や発赤が乏し い代わりに、高熱をきたしたりする。 膿瘍期には、適切に切開排膿した方がよい。 膿瘍期が過ぎて痔瘻の状態になると、瘻管が皮膚に達した部位である二次口からたび たび排膿したり、痛みや腫れを訴えたりする。 適切な治療を行わずに長期経過すると、痔瘻癌となる場合もある。
#12.
2.診察・診断のポイント 実際は、けっこうむずかしい・・・
#13.
前提条件 お尻の診察は、症状や病気への不安だけではなく羞恥心の問題が大きい。 専門施設へ受診した時点では、患者さんに診察や検査を受ける意思があるとしてよいだ ろうが、 非専門施設の時点では、そうでもない可能性がある。 患者さんから相談され、一定の信頼関係ができている状況下でも、慎重な対応が必要。 必ず看護師さん(基本的には女性)の同席、リードのもとに診察する。 診察行為についても患者さんに同意を得て、所見とともにカルテ記載を。 (訴訟リスクも考慮・・・。 ) ゴールを専門施設・専門医へつなぐこととし、無理に診察・診療を完遂しようとしなく てよいでしょう。
#14.
診察の体位 膝を曲げた側臥位(シムス位)になってもらう。 左右のどちらでもよいが、自分が右利きなら左側臥位が診察しやすい。 患者さんの背中側から看護師さんにお尻を持って開いてもらい、視野を確保するととも に、看護師さんが付いてくれている保証と安心感を。 看護師 医師 シムス位
#15.
おおまかな診察の流れ ①お尻の診察を行うことについて、同意を得る。 ②自分は患者さんに背を向ける。患者さんが下着まで降ろして診察の体位を取るまで、看 護師さんにバスタオルを広げてもらい、自分から患者さんの下半身が死角になるよう隠し てもらう。 ③患者さんとコミュニケーションを取りながら、必要な診察を行う。とくに触診や直腸診 は、行う前に必ず声をかけて、同意(最低でも拒否がないか)を確認する。 ④診察が終了したら、着衣までの間は再度患者さんに背を向け、看護師さんにバスタオル で隠してもらう。
#16.
「お尻の周りが痛い、膿が出ている」患者さんを 実際に診てみよう ① 膿瘍期を疑う急な疼痛を訴えるとき 視診で、肛門周囲皮膚の発赤・腫脹・排膿などの有無や病変部位を確認する。 触診で、圧痛・熱感・硬結などの所見を確認する。 ② 肛門周囲の小さなしこり・痛み・排膿などの訴えから、痔瘻を疑ったとき 過去に肛門周囲膿瘍による急な痛みと腫れ、その後の排膿がなかったか、切れ痔を繰り 返していないかなど、よく病歴を聴取する。 どの部位が気になるのか患者に聞きつつ、視診で二次口を疑う小発赤・隆起・陥凹や排 膿がないか確認する。 二次口あたりの皮膚を肛門の外側に引っ張りながら、二次口と肛門との間をもう一方の 手指で横断するようになぞり、皮下に瘻管を疑う硬い索状物がないか確認する。
#17.
その先は・・・ 実際には、その後指診(直腸診)で一次口の検索や深部に膿瘍を疑う所見がないか確認したり、 肛門エコー、さらに必要ならCTやMRIで膿瘍や痔瘻の有無・局在や走行を診ます。 しかし、こういった内容は機材と診療経験が必要になることから、非専門施設においては 『専門施設へ紹介するための所見を取って、受診してもらうタイミングを決める』ことを 目標にしてよいのではと考えます。
#18.
つまり? 「お尻の周りが急に腫れて痛くなってきた!」 →診察(問診、視診、触診) →『どうやら、肛門周囲膿瘍のようだ。てか、めっちゃ痛そう。 』 →即日~可能な限り早期に専門施設紹介! 「お尻の周りにしこりができて、痛みや膿が出てきたりする・・・。 」 →診察(問診、視診、触診) →『これは・・・、痔瘻ってやつかな?多分。 』 →(急を要しそうな症状がなければ)後日でもよいので、専門施設紹介!
#19.
抗菌薬?いやいや、そのまま紹介でOK 痔瘻が原因の肛門周囲膿瘍、またこのあと紹介するその他の臀部の 感染性疾患については、抗菌薬投与もせずに紹介してOKです。 理由としては、切開排膿や切除しないと治らない状況も多く、また 抗菌薬投与で中途半端に長引くと病態が複雑化する可能性があるた めです。 なるべく速やかに、診断と外科的処置が可能な施設へ紹介してくだ さい。
#20.
3.紛らわしいお尻の感染症シリーズ 紹介さえしてくれれば、間違っててもいいです
#21.
肛門周囲膿瘍や痔瘻と紛らわしいお尻の疾患 ① 毛嚢炎 毛穴の奧の毛根を包んでいる部分の感染。毛のある場所なら、どこでも起きうる。 皮下からぷっくり盛り上がるような発赤と疼痛。 自然治癒や抗菌薬など保存的治療で良い場合もあるが、程度やその他との鑑別が問 題になる場合には、切開排膿ないし切除する。 ② 膿皮症(化膿性汗腺炎) 主に成人男性において、臀部皮脂腺の感染、毛嚢炎、痔瘻、外傷などから感染し、 真皮に膿が貯留する。座位による圧迫で、周囲皮膚に波及して拡大する。 両側臀部に多発し、再発・再燃を繰り返す。 原則として、病変部を完全切除する。
#22.
肛門周囲膿瘍や痔瘻と紛らわしいお尻の疾患 ③ 粉瘤(アテローム) 皮下にできた袋状の構造で、内部には角質や皮脂が溜まる。 感染を伴うと疼痛や腫脹をきたし、ときに自壊して排膿する。 袋ごと切除するか、完全にくり抜かないと再発する可能性がある。 ④ 類皮嚢胞(デルモイド) 嚢胞壁が皮膚様の組織からなる嚢胞性疾患で、臀部にも稀にみられる。 感染した場合、粉瘤などと類似の症状、所見をきたす。 嚢胞を完全切除しないと、再発する可能性がある。
#23.
肛門周囲膿瘍や痔瘻と紛らわしいお尻の疾患 ⑤ 毛巣洞 仙骨結合部やその周辺で、単発ないし多発した瘻孔を持つ皮下膿瘍を形成する。 先天的または後天的に、皮下に体毛が入り込んで形成される。 毛深い若年者に多く、当然男性の方が多い。 病変部を完全に切除し、縫合閉鎖する。 切除した組織内に、体毛がみられることが多い。 再発予防には、局所の剃毛や脱毛が重要。
#24.
恐怖の『壊疽性筋膜炎(フルニエ壊疽)』・・・ これだけは、疑ったら秒で電話! 直腸肛門や泌尿器を原発として、会陰部・陰茎・陰嚢から急速に進行する、劇症型の 感染症。 50~70代の男性に比較的多く、糖尿病など免疫低下要因を有する場合が多い。 好気性菌と嫌気性のガス産生菌などの感染により、激烈な疼痛、発赤~黒色変性、 腫脹、悪臭の強い膿汁、皮膚の握雪感を認める。 非常に急速に感染領域の拡大と全身状態の悪化をきたし、致死率が高い。 これを疑った場合は、付き合いの有無、医局の関連などは考慮せず、救命救急・形成外 科・外科(肛門科)・ICUといった診療体制のある施設へ、秒で電話してください!!
#25.
さいごに 肛門疾患は外科領域ですが非常にニッチで、優れた消化器外科や形成外科の先生で あっても、不得手な場合が往々にしてあります。 一方で、お尻のトラブルを抱えている患者さんは非常に多く、内科系でも不意に 相談されることは考えられます。 とくに今回のテーマの痔瘻や肛門・臀部の感染性疾患は、迅速かつ適切に診断して 外科的処置を行うことが重要です。 地域ですぐに頼れる肛門科の施設・専門医と、 『お知り合い』になっておくことを お勧めします。